カガリが攫われた。攫ったのはフリーダム。先の大戦でカガリが共に戦ったMSだ。
そしてそのパイロットの正体は、限られた者しか知らされていないがカガリの双子の弟。カガリを傷つけることはない相手だ。
けれどそうと分かっていても不安になる。カガリの存在こそがオーブの民に安心をくれるのだ。
だからカガリの姿がない、カガリの声が聞こえない状態は酷く不安だ。

早くカガリを助けに。そう気が逸る。
けれどカガリの夫となるはずだったユウナは首を横に振った。被害状況の確認が先だ、と。

『カガリが戻ってきた時、民に何かあったらどう言う気だい。 カガリは大丈夫だよ。必ず戻ると言っていた。それまでオーブを頼むと』

そう言ったユウナがフリーダムがカガリを連れ去った空を見上げた。太陽が地上へと温かい光を送っている。
カガリはオーブの太陽そのもの。その太陽が雲に隠れている間、自分たちがしっかりしなければ。

『守るべき民を優先に。カガリがいたならきっとそう言って怒るよ』

軍人達がはっと敬礼した。


Promise


「どういうつもりでこんな馬鹿な真似をした!」

海底に沈んだAAのブリッジに、カガリの怒声が響いた。
白いウエディングドレスに身を包み、軽く化粧を施した姿のカガリは、AAに着くなり渡された軍服を苦い顔で見つめ首を振った。
着替えてから話をしよう?とキラが微笑んだのに、カガリは必要ないと切って捨てた。けれど軍服はキラ達に返さず、今の腕に抱いている。

AAに積んだ記憶はないのに、どうしてだかここにある軍服。
キラ達が身に纏っているオーブの軍服については分かっている。それはいずれ必要とあれば、と自分が作ったのだから。
AAが再び外に出る時がきたならば、AAをオーブの所属として。そう思っていたからこそのオーブの軍服。
誰の分と思って作ったわけではなく、ただ何着かを作ってAAに積んだのだ。
けれどカガリの軍服は違う。これは積んではいない。アスハ邸と官邸に置いてあるはずだ。
官邸にキラ達は入れないし、持ち出すことを許可する者もいない。とすればアスハ邸か。
アスハ邸にも早々出入りはできないが、キラはカガリの弟でラクスはカガリの友人だ。入れないこともない。
ならばやはりこの軍服が持ち出されたのはアスハ邸で間違いないだろう。
それについても苦い思いを噛みしめる。そう簡単に持ち出していいものではないのに。
その思いも合わせて、カガリは声に力を込める。

「分かっているのか!?結婚式から国家元首を攫ったんだぞ!?立派な国際手配の犯罪者だ!こんなことをしてくれと誰が頼んだ!!」

ただ結婚の報告をしただけだった。ユウナと話し合って決めたのだ、と伝えただけだった。
なのにどうしてこんな行動に出たのか、カガリには分からなかった。

「あなた方もだ!何故止めなかった!あなた方大人が諫めるべきだろう!これは許していいことではない! それとも何だ。十代の小娘にも分かることが分からないとでも言うつもりなのか!!」

烈しい光を宿した目と声に貫かれ、バルトフェルドとマリューは戸惑ったように顔を見合わせた。
こんなに怒るとは思わなかった。そんな表情だ。そしてそれは他の大人達も同様だ。
それにカガリはますます苛立ちを募らせ、拳を強く握る。

彼らは他に職を得ていたはずだ。なのに今AAに乗っている。もう軍人ではないのに軍服を着て軍艦に乗って。挙句に誘拐だ。
相手がカガリだからいいとでも思ったのだろうか。友人だから、仲間だから、身内だから。
カガリの立場を考えれば、そんな理由が通用しないことぐらい分からないはずがないだろう!

「自分達の行動がどれほど愚かか、分からなくても分かっていてもいい。私をオーブへ帰せ。 今ならばお前達のこともまだどうにかできるかもしれない」
「でもカガリさん、それは…」
「帰せと言っている!!」
マリューの言葉を遮り睨みつければ、びくっと震えた体。それを気遣わしげに支えるバルトフェルド。
その様子にどうしてだ、とカガリは思う。
マリューもバルトフェルドも軍人だった。それも人を指揮する立場にあった人間だ。
責任ある立場。多くの命を預かる立場。舞台は違えど、カガリと同じものを背負っていたのだ。ならば分かるはずだ。カガリのこの苛立ちが。
それにだ。キラとラクスのことを思えば、こんな愚かな真似はさせてはいけなかったのに。思い止まらせるのは、彼らを諭すのは彼らの先達であるマリュー達しかいなかったのに。
そんな苛立ちと悲しみに、カガリは軍服を抱く腕に力を込め、拳を握っていた手でドレスを握る。そこに静かな声が響いた。

「でも仕方ないじゃない。こんな状況の時に、カガリにまで馬鹿なことされたら、もう世界がどうしようもなくなっちゃうから」

何を言ってるんだ、と眉をしかめたカガリが、キラに視線を移した。
「馬鹿なこと?」
それはユウナとの結婚だろうか。けれどそれは両名共に納得済みの話であるのだし、元々婚約していたのだ。
それはキラも知っているはずだ。それでも今まで何も言わなかった。ならば大西洋連邦との同盟のことか。
オーブはナチュラルとコーディネーターが共存する数少ない国だ。 そのオーブが大西洋連邦と同盟を結ぶ。コーディネーターの国であるプラントと戦争をしようといき込んでいる大西洋連邦と。 それはオーブに住むコーディネーターを脅かす。

「キラ。私は考えなしに同盟を結んだわけじゃない」
「それで本当にオーブのためになると、カガリは本気で思ってるの?」
それは問いの形をとってはいるが、実際は否定だ。頭から否定された。
そう思ったカガリはキラを睨みつけ、当たり前だと返す。
「オーブは再び国を焼くわけにはいかない」
シンのようにオーブに裏切られたと泣く人を、怒る人を、傷つける人を増やすわけにはいかない。 だからカガリは決めたのだ。国を守るために、民を守るために。
キラはそんなカガリに小さく眉をしかめた。
「オーブが焼かれなければ他の国はいいの?もしもいつかオーブが他の国を焼くことになっても、それはいいの? それでもいいって、カガリは本当に言えるの?」
キラが言っていることはとっくに考えた。それを避けるための手段も考えた。

オーブは物資の援助はするが、人材は送らない。そして無駄に戦禍を広げようとする動きを制限させる。
訴え続けよう。その戦は本当に必要なのかと。その方法でしか得られないものなのかと。
オーブだからこそ。中立と知られるオーブだからこそできる、平和への訴え。それを。

それはオーブが他の国を焼くことにならないわけではない。分かっているけれど、オーブの民を、 中立だと信じてくれている民を血で汚させるわけにはいかないのだ。
だからそれを実現させるために毎日走った。カガリもユウナも他の官僚達も、結婚式の準備と並行させて走った。
キラ達に直接結婚の報告をできなかったのは、だからだ。本当に時間がなかった。

「その件については決まったことがある。結婚式の後に公表することになっていた。 オーブはいまだ復興途中だ。自国がままならないというのに戦場に出ることなどできない。 それは民も不安に思っているだろう。私はその不安を拭ってやらねばならない」
私はオーブの代表なのだから、と静かに強く言う。だからオーブに帰せ、そう言っていることに気づいたキラは、 でも、と続ける。
「それじゃウズミさんが言ったことはどうなるの。オーブの理念は」
他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。それを破ることになる。
それはカガリとて許せないことではないのか。そう言えばカガリは苦笑した。

「なあ、キラ。理念は何のためにあるんだろうな」
「え?」
「民を守るためじゃないのか?」
「そ、うだけど」
いきなり何?と初めて戸惑った顔を見せたキラに、カガリはだろう?と頷いた。
「私は私なりに民を守る。そのために理念が邪魔になるというのなら私はそれを破りもする」
「なっ!」
「だがオーブの理念は私の目指すところでもあるし、民はその理念を信じていてくれる。だから切り捨てたりはしない。 ただ、理念を大切にするあまり民を蔑ろにしたくはない。もう二度と、理念を選んで民を傷つけたりはしたくない」

何言ってるの、とキラが眉をしかめたのを目に、カガリはシンの怒りを思い出す。シンに向けられた憎しみを思い出す。
オーブの民であったというシンは、先の大戦で家族を失った。父が選んだ道、それがシンから家族を奪った。
民を守るための理念を守って、なのに肝心の民が傷ついて、そうしてオーブを憎んでいた。
その衝撃は今でも思い出せる。父は間違っていない、そう叫んで。
けれどあの赤い目が憤りに憎むその裏で、泣いているように思えて仕方なくて。
もしかしたらシンだけではないのかもしれない。同じようにオーブを憎んで今も泣いている民がいるのかもしれない。

「私は、キラ。もうシンのような民を増やしたくないんだ。シンのようにオーブを信じていた民を傷つけ奪う。 そんな国を作りたくないんだ。だから私が選んだこの道がお父様の意志に背いているとは思わない」
「…矛盾してるよ」
「してない」
「だって、理念を破ってもいいって言ってるのに、ウズミさんの意志に背いてないって」
「お父様はおっしゃった。認めぬもの同士が際限なく争うばかりの世界になっていいのかと」
キラが覚えてるよと言った。カガリが選んだのは、ウズミが危惧したことの手助けとなるのではないのかと思うのだ。
「私は確かに大西洋連邦と同盟を結んだ。けれどそれはプラントと戦うためじゃない。オーブを守るためで、そして」
カガリがキラに微笑む。それにはっと息を呑む。
強い強い意志を持った光を宿した目から、柔らかい光を宿した目に。






「そんな世界にならないために、私にできることがあるからだ」






その微笑みがきれいだと思った。

end

リクエスト「Promise続編」でした。
シンはカガリにとって絶対忘れられない存在だと思ってます。絶対のお父様、オーブの理念。それを揺らがす存在がシンだと。
なのでカガリにシンは必要不可欠じゃないでしょうか、と思ってたり。

リクエスト、ありがとうございました!

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