Una bella cosa




たくさんのものを見てほしい。
たくさんの美しいものを見てほしい。

君が生まれた理由は、もちろんご両親の愛情ゆえだけれど、『玄冬』であることが他の理由をつけさせたがる。
人が人を殺し続けた結果。
君には関係のないことだというのに、君は人間の罪を被って生まれてきた。そうしてそれを償うために死を望まれる。
人間の罪全てを君の罪と。君さえ生まれなければと。君さえ死ねばと。
そんな醜いものばかりが君を取り巻いている。
だからこそ思う。

たくさんの美しいものを見てほしい。
そうして世界は何て美しいのだろうと笑って。そうして生きていってほしい。







「うわ、きれー」
花白が目の前に広がる光景にそう声を洩らした。
歩いていた山道。不意に広がる透き通った湖。差し込む光の道に蝶が二羽舞う。
それが幻想的で、花白は目を離せない。
「すごいね、玄冬」
「そうだな」
隣で頷く玄冬に、花白はそうじゃなくってと首を振る。
なんだ?と花白に視線を落とす玄冬に、花白も視線を返して笑う。
「すごいのは玄冬だよ」
「俺が?」
そう、玄冬と花白はまた湖へと視線を移す。

「この間は夕焼けで空が色々な色に染まってて、すごくきれいだった。その前は小さな花。
一輪だけ咲いてたけど、黄色の花びらが小さくてかわいかった。そういうの、君よく見つけるから」

玄冬に言われて初めて気づく。きれいなもの、可愛いもの。花白が気づかずに通り過ぎても玄冬は気づく。
だからすごいなっていつも思うんだ、と花白が感嘆したように息を吐く。
けれど玄冬はそうか?と首を傾げ、花白から湖へと視線を移して目を細める。
ふいに気を惹かれるから振り向く。それだけだから、花白が言うほど凄いことだろうかと思う。
花白に言わせればそれが凄いのだそうで、拳を握って凄いと繰り返した。だから内心首を傾げながらもそうかと頷いた。
そこにふと蘇った声。

『ほらほら玄冬。どうだい、きれいだろう!』

出かけるたびに何かしら持って帰ってきた黒鷹。
ガラクタにしか見えなくても、君にも見せたいと思ってと笑う。
何がそんなにきれいなのか分からないものでも、黒鷹はきれいだと言った。
当時は増えていくガラクタに頭を痛めたものだが、今思えば確かにきれいだと思う。
そして一緒に出かければ、あれがきれいだ、これはいい、とよく余所見をした。
落ち着いて歩けと言っても、玄冬の腕を引いて気を惹かれた方へと向かう。
その先は、ささやかなものから目を奪われるものまで実に様々で。

「あれか?」

多分あれだ。黒鷹がいつもいつもきれいなものを探して見つけるから。そうして嬉しそうに笑って玄冬に見せるから。
だから自分もいつの間にかそれが身に染みついてしまったのだ。

『世界は美しいものに溢れている。私達が気づかないだけで、どこにでもあるのだよ』

それを見つけた時、嬉しくならないかい?と黒鷹が言っていた。

『君がきれいだと思うもの。君が好きだと思うもの。それが両手に溢れるほど見つかったなら、玄冬。
それはとても素晴らしいことだよ』

そう、いつもいつも言っていた。

ふう、と息をつく。
花白が玄冬?と不思議そうに見上げてくるのに、何でもないと笑う。
そうして光の柱に集う蝶が増えたのに気づいて、花白と二人、目を奪われた。







世界は美しいもので満ちている。ふと視線を向ければどこにでも。
それを見つけた時、とても嬉しくなる。一緒にきれいだと笑ってくれる人がいれば、とても幸せな気持ちになる。
だからね、玄冬。君にもたくさん見つけてほしい。たくさん感じてほしい。
そうして、

「黒鷹」
「うん?」
「きれいだな」


そう言って笑った君が、どうか永遠なれと願うのだ。

end

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