ダーダネルス海峡にて地球連合・オーブ同盟軍と交戦中にフリーダム、AAが乱入。
そしてAAから右向きの獅子が開いた口の間を通る花のパーソナルマーキングが施されたMS、ストライクルージュが出撃した。
そのストライクルージュのパイロットは、己をオーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハと名乗った。

オーブ政府は否定しているが、オーブから行方が知れなかった戦艦AAが出国した直前に、フリーダムによってカガリ・ユラ・アスハが拉致されたのはどの国も知るところだ。
そのカガリ・ユラ・アスハと名乗る声が、彼女を拉致したはずのフリーダムに守られ、AAを背景にオーブ軍へと訴えた。
訳あって国元を離れていること。それでも己がオーブ連合首長国の代表首長であることに変わりないこと。そしてカガリ・ユラ・アスハと名乗る声はその名において命じた。


理念にそぐわぬ戦闘を停止し、軍を退けと。


それに従うのが当然と言わんばかりの声に、けれど従うものがいないのは当然だ。顔を見せない声に誰が己の代表と信じられるだろうか。よしんば代表だとしても前にザフト、後ろに地球連合軍。その間でオーブ軍に退けなど、無茶でしかない。
それでも声は訴えた。戦闘を停止せよと。軍を退けと。
最後には聞き届けられなかった命令の前、止まらぬ戦闘に対してオーブ軍を守るかのように動き、ザフトと地球連合軍に多大な被害を与えて去っていった。
その後ろで黒煙が上がっていることに対して、彼女達は一体何を思っていたのだろうか。


伝えたいもの≠伝わるもの


「いやああああ!!!」

悲痛な叫びが地上から、宇宙から上がった。
ある場所では身内の名を呼んで。
ある場所では恋人の名を呼んで。
ある場所では友人の名を呼んで。
泣いて泣いて泣いて。
憤って憤って憤って。

彼らに届けられたのは訃報。
彼らの大切な誰かが命を散らしたという報せ。

敵軍と対峙して。そうあるものが今回は少なかった。
敵軍と対峙しているところに、突然武器を、腕を、足を切り落とされてなす術もなく失われた命。
起動中の主砲を撃ち抜かれたことによって内部爆発が起こり、それに巻き込まれて失われた命。
今回はそういった状況で失われた命が多かった。

そうしたのはAA。先の大戦で英雄と呼ばれた艦。
率いるのはカガリ・ユラ・アスハ。フリーダムに攫われたオーブ連合首長国の代表。
唯一、敵軍以外からの攻撃を受けず、守られた国の代表。

何故。
どうして。
あなたは同盟国の代表なのでしょう?
何故同盟国の軍人であるあの人を撃ったのですか。

何故。
どうして。
あなたは何をしたいのですか。
戦闘をやめろと叫ぶのならば、どうしてあの人を撃ったのですか。

オーブ以外を撃って。
オーブだけを守って。


私達から大切な人を奪って、満足ですか。


悲しみは憤りに代わり、憤りは憎しみに変わった。
地上で、宇宙で、憎しみがオーブに集中する。そうさせた代表が不在の国に。







「な、んだ、これは…」

カガリが大きく目を見開いて、震える唇でそう言葉を紡いだ。
見ている先にあるのはオーブを批難する人々の姿。憎憎しげにオーブを語る声。

「何なんだこれは!!」

叫ぶ。
何故オーブが批難されているのだ。
何故オーブが憎まれているのだ。
誰も答えられない。

突然のことだった。突然世界は手のひらを変えた。地上も宇宙もオーブを敵と定めた。
国を動かすものがそうしたならば、これはオーブを陥れるための策略だと言えただろう。けれど違った。そうしたのは民衆だった。

ニュースは語る。
暴動を起こした民衆が叫ぶオーブへの怨嗟。
暴動に対するインタビューに答える民衆のオーブへの怒り。
答えたくもないと、忌々しげな顔をして去っていくものもいる。

何故だ。何故民衆は突然オーブに敵意を向けるようになったのだ。オーブが何をした。オーブは何も、何も。
ただただ画面から目が離せずにいるカガリ達の耳にドアが開く音が届く。顔を向ければラクス。その表情は厳しい。

「ラクス!」
カガリが泣き出しそうな顔でラクスに駆け寄る。その後ろにはキラも続いて。
駆け寄りはしなかったが、ブリッジにいるクルー全員がラクスを縋るように見るのに、ラクスは応えるように頷いた。
「クライン派の方々に確認を取りました」
「やっぱりデュランダル議長の?」
彼の策略なのか、とキラが。
それにそうであってほしいと思うのだろうか、カガリがそうなのか?と必死だ。
けれどラクスは首を横に振った。
「議長は何もしていらっしゃいません。プラントにいらっしゃるわたくしの名と姿をしたあの方もです」
オーブへの敵意を生み出すような報道もなかった。何も、何もなかった。なのにプラントでオーブへの敵意は生まれた。
本当に?とキラが。声が震えているのは、キラにとってオーブという国は思い入れのあるものだからだろう。その国への敵意が仕組まれたことではないなどと、信じたくはなかった。自然と生まれたものであるなどと、思いたくはなかった。
「だが!だがオーブがあんなに悪し様に言われる謂れはない!!」
そうだろう!?とカガリがクルー達を見渡せば、遅れることなく返る頷き。それにほっとして、カガリは再びラクスを見る。
「わたくしもそう思います。ですから恐らくは巧妙に隠された何かが…」
そう言いかけたラクスが目を見開いた。視線の先には先程までオーブを批難する人々が映っていた画面だ。
次は何が、と怯えながら振り向いたカガリもまた目を見開いた。
「こいつ…」
画面に映っていたのはラクスと同じ顔の少女。
ああ、やっぱりこいつだったんだ。こいつがラクスの名前を使ってオーブを。
カガリが憤りそのままに少女を睨みつけるが、思いのほか強い少女の目に息を呑んだ。

『皆さん、あたしはミーア・キャンベルです。ラクス様じゃありません』

今までこの姿と名前を借りていましたと。申し訳ありませんと語る少女に、ブリッジの至るところから息を呑む音がする。
まさか少女がそんな告白をするとは思っていなかったのだ。そしてそれをデュランダルが許すとも思っていなかった。
ラクスの名前が持つ力は大きい。だからこそ少女はラクス・クラインを名乗っていたのだ。なのに戦争が始まったばかりの今、その力を手放すとは。

『あたしがラクス様のお名前をお借りすることになったのは、ラクス様がプラントにいらっしゃらなかったからです。ラクス様がお戻りになるまでの間、ラクス様の代わりに歌ってほしいと言われて、あたしは頷きました』

ラクスがプラントに帰ってきたその時に返すつもりで。
国民を騙す行為だと分かっていたけれど。それでもラクスを求める気持ちは痛いほどに分かるから。だから少しでもいい。ラクスがいるという安堵を与えたかった。

『許されないことだって分かってます。あたしだってプラントの国民です。それがどれだけ大きな罪か分かってます』

でも、と少女はうつむいた。
低い、低い声だった。肩を震わせて、でも、とまた。

『あたしはもうラクス様になれません。なりたくなんて、ない!!』

少女が叫んだ。
上げられた顔は憎しみ。涙が次から次へと流れて、それでもその憎しみははっきりとその目に映っていて。
画面越しだというのに、ぞくっとした。

『あたしはミーアであった時の全てを捨てました。でも、何も感じないわけじゃない。友達を殺されて、どうして何も感じずにいられるっていうの!?あたしは友達を殺した人になんてなりたくない!!』

何のことだ。
不快に眉をしかめる面々を知らないだろう少女は、笑った。
ぞっとするような暗い笑み。

『あたし、ミーアの友達はミネルバに乗ってました。アカデミーを出て、初めて配属されたのがミネルバで。起動中の主砲が撃たれたせいで起こった爆発で…死にました』

「…っ」

キラが体を振るわせた。
起動中の主砲。それを撃ったのはキラだ。そうしなければ多くの犠牲が出たから。なのに目の前の少女の友人は死んだという。多くの人々を助けた代わりに死んだ、命?

『だから皆さんがオーブに憤る気持ちはよく分かります。あたしだって憎い。オーブが、AAが、フリーダムが。AAにいながら止めてくださらなかったラクス様が』

オーブを守るために現われた行方不明中のオーブ代表。オーブを守るために攻撃してきたAAとフリーダム。
地球連合軍が無傷であれば、彼らもオーブ軍で、ミネルバを挟み撃ちにしてきたのだと思えた。けれど違った。彼らは戦闘をやめろと言った。言葉はオーブ軍に、ザフトと地球連合軍には攻撃で。
そうしてザフトと地球連合軍が戦えない状態になってようやく去っていった。…オーブの犠牲が一番少なかった。

『でもお願いです、抑えてください。だってオーブの人達は何も知らないんです。何も関係ないんです。あたし達と同じように生活してるだけなんです。カガリ様が何をしたかなんて知らないんです。代表が行方不明の中、明日を心配して生活してる彼らに、お願いです。その憎しみを抑えてください』

「なんて、ことを…」
マリューが言葉を洩らした。
オーブの国民を憎まないでほしい、という言葉にではない。少女の言葉は誘導だ。そう感じたからだ。
「マリューさん?」
力ない目でマリューを見るキラに視線を見返すこともできず、マリューは額を押さえてうつむいた。その様子に他のクルー達が動揺する。
マリューは彼らにとっては未だ艦長だ。マリューの指示で数々の戦闘を切り抜けてきた。そのためマリューに対する信頼は深い。そのマリューが見せる様子はクルー達に大きな影響を与える。
それはキラも例外ではなく、不安に染まった目でラクスを見た。だがラクスもまた厳しい顔をしていた。マリューと同じように眉間に皺を寄せている。それにますます不安に陥ったキラはカガリを見る。カガリはラクスやマリューのように険しい顔をしてはいなかったが、キラと同じように不安を目に乗せていた。

「どう、したんだ?」
カガリがラクスとマリューに問いかける。
少女はオーブの国民を憎まないでほしいと言った。その言葉にカガリは安堵したというのに…。
ラクスがカガリを見た。そして小さく首を横に振ると、苦しそうに言葉を紡いだ。




「あの方はこうおっしゃっているのです。憎むべきはカガリさんであり、AAであると」











震える。
控え室で一人、両手で顔を覆って震える。

言ってしまった。言ってしまった。言ってはいけなかったのに!!
メディアの力は強い。たった一言でも多くの人に届け、大なり小なり影響を与える。なのに。

デュランダルは言いたいことを言っていいと言った。友人を殺されて泣いて泣いて、そうして憎しみに震えるミーアに。
本当は言ってはいけないと分かっていた。分かっていたけれど、場を用意され、カメラの前に立って。そうして気がつけば全てが終わっていた。

これからどうなるのだろう。
ミーアは。
ラクスは。
カガリは。
世界は。
ミーアの言葉は、一体何をもたらすのだろうか。
自分のしたことの重大さに、ミーアは一人震え続けた。







一週間後、ミーアは再び舞台に立つ。
冷たいものではない視線に迎えられて。

end

リクエスト「23話後でAAの行動を公表。プラント・オーブ国民から失望され見限られる。ミーアの正体はバレるが支持」でした。

アスランが、出てこない…だ、と?

指定されてないのをいいことに、アスランが出られない展開だと分かった瞬間、名前さえ消したという所業をしました(殴)
アスラン至上サイトのくせにアスラン出さなくてすいませんでした!!
そして書いてない設定を(おい)。

一般人がAAが戦闘に介入して犠牲を出したのを知ったのは、ミリアリアみたいに情報を入手してどこかで見ていた人がいて。憤りか愉快犯かは考えてませんが、その人がネットでその時撮った動画を流したからです。
……そこらへんまで書いたら凄く嫌な感じになりそうですね。書かなくてよかったような気がしてきました。

リクエスト、ありがとうございました!

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