trio〜再会




「そんなにも気にする必要はないよ、ジュール隊長。
人間誰しも間違いや失敗というものはあるものだ。どれほど名声高き人間であろうともね。
それにここは君の艦だ。君のような優秀な指揮官がいるのだから、外へ洩れることなどありはしないだろう?
私はそれを疑ってはいないよ。たとえ思いのほかこの事実を知る人間が増えてしまったのだとしても、
逆に考えれば彼女を支えてくれる人間が増えたということだからね。だから気にしないように、ジュール隊長」

「母上も悪いのでしょう。大切なご友人に何も告げていらっしゃらなかったのですから。
ですがさすが名高きジュール隊の隊長ですね。すぐに母上が誰なのかお分かりになられたのですから。
それにあの声量。ここが艦の中でなければどこまで届いたんでしょう?知りたい気持ちからすれば残念です」

にっこりと微笑みながらの言葉は、明らかに棘に覆われていた。






「先に教えておこうとは思ったんだ」
でもタイミングが合わなかったんだと拗ねたように言うアスランに、ディアッカがあのなあ、と肩を落とす。
「怒るだろうなとは思ってたさ。だが、あんなに怒るとは思わなかったんだ」
「怒るだろうが、普通」
「う…」
悪かったと目を伏せるアスランの気持ちも分からなくはない。
親しければ親しいほど、拒絶への恐れも大きいだろう。それを恐れるだけの秘密をアスランは持っていた。
が。

「イザークが叫んでなかったら、絶対俺が叫んでたぜ?」

ううっ、とアスランが呻く。
普段は宇宙勤務のため見たことがなかった人物、現最高評議会議長夫人。
護衛のためにと選ばれたヴォルテールで初めて顔を合わせた彼女が、公式に死んだと発表された元同僚だと
前情報なしに知らされた衝撃は半端ではなかった。
会った瞬間に指を差してどもったあげくに、
『アスラン貴様何をしている―――――!!!!!』
と叫んだとしても仕方がない。イザークに罪はないとディアッカは遠い目になる。

「だからさあ、あんたの旦那と息子。ついでにうちの隊長もさ、そろそろどうにかしてやって」

「……本当にすまない」

アスランが机に懐いた。


* * *


失態だ。
イザークは己の未熟さに腹が立っていた。
ミスをしない人生などないし、長年隊長職についているからといって、完璧にこなせるものでもない。
けれどしてはいけないミスがある。今日はそれに当て嵌まるのだとイザークは思う。

「そんなに思いつめなくていいだろう」
「そんなわけにいくか!」
反射的に叫んで、はっとした後、顔を歪め、イザークは仕事の顔に戻る。
「場所がヴォルテールであったから、私の隊の者しかいなかったから。それは理由になりません。
プラントを揺るがす事柄であると考えずとも分かるものを、私の感情一つで大事にするところでした」
そう言って謝意を述べるイザークに、アスランは困ったような顔で抱きついてくる娘の髪を撫でた。
「いや、元はといえば俺が悪いんだし。話そう話そうと思って、結局今日まできて。
俺がちゃんと話してれば、お前だって怒ったりしなかっただろう?」
「そういう問題ではありません」
「分かっている」
苦虫を噛み潰したような顔のイザークに、アスランは真剣な目でだが、と続ける。
「お前ばかりが悪いわけじゃない。結果良ければ全て良しとは思わないが、今回はそれに当て嵌めてもいいだろう?
俺もイザークも二の舞を演じないための勉強だと思えばいい」
思いつめる方が何か仕出かす確率は高くなる。そう言えば、イザークがますます顔を歪めた。
「…分かっている」
「ならもういいだろう」
アスランの目を見返して、そしてイザークは頭を下げる。

「…悪かった」

「イザーク」
「けじめだ。つけさせろ」
そして顔を上げて笑ったのに、アスランもほっと息をついた。




一時間ほどだろうか、イザークと他愛ない話をしていたアスランは娘を見下ろし、名を呼ぶ。
大人しく二人の話を楽しそうに聞いていた娘が顔を上げる。
「少しここで大人しくしていてくれないか?」
その言葉に娘がこて、と首を傾け、イザークが何?とアスランを見下ろす。
アスランは娘の髪を撫でて、イザークを見上げる。
「大人しい子だからお前の仕事の邪魔はしない。悪いがここに置いてくれないか」
部屋に戻るのなら娘を連れて戻るだろう。けれど娘を置いていくということは部屋ではないのだろうか。
眉をしかめれば、娘があ、と手を叩いた。
「お父様とお兄様にお説教?」
そのために私も連れてきんですね、と娘が笑えば、アスランが頷いて笑った。
それにイザークがムッとしたような顔をする。
「アスラン。今回のことは俺が悪い。議長とご子息に説教など必要なかろう」
「そうもいかない。あの二人、楽しんでるから」
「あ?」
「お前苛めて楽しんでるんだ。ちょっと二人揃ってストレス溜めてたもんだから」
だからこっちもお前に謝らないといけないんだ、と申し訳なさそうに言うアスランに、イザークが固まった。
「この間、家族同伴のパーティがあって、そこの招待客の一人がちょっと」
二人はその時のことを今でも腹立たしく思っていて、その鬱憤晴らしも兼ねてイザークを苛めていたのだ。
そう話を締めくくろうとしたアスランの側から、娘がイザークに近づいて軍服を引っ張った。

「お母様、愛人になりませんかって言われたんです」
「何!?」

娘の衝撃的な言葉にイザークが叫ぶ。アスランが慌てて娘の口を塞ごうとするが、
イザークのどういうことだという低い低い声にびくっと肩を震わせ、あ〜と娘を抱き寄せる。
「そんな直接的なことを言われたわけじゃないんだ。ただ、一人になった時間があって。その時に声をかけられただけで」

アスランに声をかけてきた男は、アスランが人妻だと分かっていたようだったが、誰のということは知らなかったらしい。
ただパーティで夫と離れていることから、夫婦仲が上手くいっていないのだろうと思い込んだ。
アスランはコーディネーターの中でも極上の部類にはいる容姿だ。声をかけない手はない。
そんな男こそが夫婦仲が冷め切っていて、パーティ会場に入ってからは夫婦ばらばらに行動していた。
他にもそんな夫婦はいる。中には仮面夫婦とているのだから、アスランが少し夫から離れていた意味を勘違いしても仕方がなかった。

声をかけられたアスランは話しかけてきた男の視線が不快で、けれど言われた言葉を理解した瞬間思考が停止した。
何を言われたのか、どうして言われたのか。それが分からなかった。
そんなアスランの手を男が握った時、息子が母上、と側にやってきたのだ。
そして微笑んで男を見上げた。母に御用ですかと。両親の仲でしたらご心配いりません。
これ以上ないくらい円満な夫婦関係を築いていますから。そう言ってアスランの手を男から取り戻して。

「…で?」
頭が痛いと言わんばかりにイザークが額を押さえた。
こいつは本当に自分の容姿がどう思われているのか、自覚しない奴だな。パーティ会場なんて場所で旦那と離れる奴があるか。
そう言いたいが、おそらくはすでに言われているだろう。夫と息子から。
「う、その。実はその男に会う前にも何人か声をかけられてて。それを知った二人が」
「アスラン」
「え?」
何だ?と怒られるのが分かっている子供の顔をするアスランに、イザークはため息をつく。

ギルバートと息子があれほどねちねちと言ってくるわけだと思う。
ギルバートとの会話の中にはどこかしらに必ず潜む棘があった。それに気づいたものはイザークを含めればディアッカくらいだが。
もしかしたら他にもいたのかもしれないが、あの柔らかい微笑みと物言いで気づかないものの方が多い。
それは息子の方も同じで。息子の方は父親と比べれば分かりやすくはあるが、その自覚はあるらしく、
少しあからさますぎたかと気づくなり、目を伏せて申し訳ありません、と先手を打ってきた。
立場の違いから文句など言えはしないし、そもそもイザークの失態のせいだったから、不当だとは思わない。 だがしつこくはあった。
なるほどそんな出来事があったのならば、向けられなかったアスランに声をかけた男へ向ける分までイザークにきたのだろう。

「イザーク?」
「…議長とご子息の安心のためにも、貴様は自分に近づく男を警戒しろ。むしろ近寄らせるな」

やはり夫と息子からも言われていたのだろう、アスランは素直に頷いた。

end

リクエスト「イザーク達が議長家族を護衛。アスランの正体がバレ、父子でイザーク達を脅して嫌がらせする」でした。
議長と息子は口でねちねち嫌味言うタイプだと思ってます。それも笑顔で。
イザークは自分が悪いからと黙って聞いてるタイプだと思います。しかも相手は議長親子。
それを書こうと思ったんですが、嫌がらせが全く目立ってません、ね?すいません!

リクエスト、ありがとうございました!

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