「女の子だねえ」

「バルトフェルド隊長?」
コーヒー片手に目を細めるバルトフェルドに、隣に立っていたマリューが首を傾げる。
バルトフェルドの視線の先を辿れば、先程マリューが見ていた先と同じ。
ラクスとカガリ、そしてミリアリアが楽しそうに話している。何を話しているのかは分からないが、見ていて微笑ましい。
そう思って見ていたから、どうしてバルトフェルドが目を細めたのかが分からない。その目に少し険が混じっていたからだ。
けれど先の発言、女の子。それの意味するところに気づいて、マリューは顔を曇らせた。

「そうですね。普段は大人びているから忘れがちになってしまいますけど、あの子達はまだ十代の女の子ですもの」
本当なら今のように楽しそうに笑いあうのは戦艦の中ではない。
今でこそ笑っているが、もしかしたらすぐ後にはまた十代の若者の顔を奪うことになるかもしれない。
そんな状況に置いてしまった責任の一端が自分にあることに、マリューは顔を伏せる。

自分達大人がしっかりとしていないから、彼女達のような若者が先陣を斬ることになる。
彼女達を守るべき大人でありながら、戦場などという場所に踏み込ませてしまう。
なおかつ、彼女達の助けなくして自分は何もできない。そんな情けない状況。
けれどバルトフェルドはそうだなと頷くわけではない。一口コーヒーを飲んだ。

「厳しいことを言うようだがね、原因が何であれ、戦いを選択したのはラクス達だろう?」
「ですが!…選択せざるを得ない状況にしたのは私達ですもの」
ふう、とバルトフェルドが息を吐く。
「だがね、自分の意志で戦っていたことに変わりはないだろう?キラも、ハウ嬢も。ラクスもカガリもだ。
自分達の進んだ後に犠牲があると知っていて選んでいるはずだ」
そしてまた一口コーヒーを含む。隣に立つマリューが納得していないことを知りながら笑う。

「再び戦うことを選んだ彼らは、それを知って選んでいるはずだ」

その声が陰鬱な響きを乗せていた気がして、マリューは眉をしかめた。
目の前ではラクスがキラを見つけ、嬉しそうに笑って呼び、キラがそれに微笑み返してラクス達の輪に入った。
そして四人、楽しそうに笑い声を上げた。






理解者の皮を脱いだ虎




「どうなったらこの戦争は終わると思う?」

「え?」
AAのブリッジの中、クルー達の視線を一心に受けるバルトフェルドは、なあ、と笑う。
戸惑いながらも敵意を向けるクルー達に、彼はいつも通りに怯んだ様子なく笑う。

「戦争の勝ち負けはどうやって決める?どこで終わりにすればいい?敵である者を全て滅ぼせばいいのかね?」

その言葉にキラとカガリが、はっと目を見開いた。他のクルー達は何を、と眉をひそめた。
ラクスは厳しい声で、何をおっしゃりたいのですかとバルトフェルドを睨みつけた。

先の戦争を共に戦った。終戦後もオーブで共に過ごし、助け合ってきた。
そのバルトフェルドがAAの動向をプラントに流していた。一緒に笑いながら、一緒に戦いながら、その影で彼は裏切っていた。
信じられないと戸惑うキラ達と違って、ラクスはいち早く立ち直った。

「戦争に勝ち負けなどありません。あるのは犠牲だけですわ。ですからわたくし達は立ち上がったのではありませんか。
戦争は始まってしまいました。それを止めねばなりません。多くの犠牲を出す前に、わたくし達はこの戦争を止めねばならないのです」

そうではありませんか、とラクスが返す。苦しそうに顔を歪めて。

「人は分かり合える生き物です。そのために言葉があるのでしょう?
想いを言葉に乗せて、そうして対話を続けてゆけばいつか必ず届きます。皆、平和を望む心は同じはずです。
滅ぼすべきは誰かを敵と定める心です。己の意見を否定する相手を敵と定め、武力でもって相手を滅ぼそうとする心です」

必要なものは対話。相手を理解しようと努める心。
それが戦争を起こさないために必要なことで、この戦争を終わらせるために必要なことだ。
そう語るラクスに、だがねとバルトフェルドは続ける。

「戦う以上、犠牲は出るんだ。君が戦うことを選んだ以上、君が出す犠牲もある。
君がどういうつもりであれ、ザフトにも地球連合軍にもこの艦は敵艦として認識された。犠牲が出たからだ。
君達による犠牲が出たから、彼らは君達を敵と定めた。その理由がある。そうさせたのは君達だ」

本当は、とバルトフェルドが笑う。本当はただの様子見であったのだと。
このままラクス達が何もしなければ、そっとしておいたのだと。けれどラクスは奪ったエターナルを修復し、
Gのセカンドシリーズの開発を進めた。オーブはAAとフリーダムを修復し、地下深くに隠し持った。
逸った一部の議員によってラクスの暗殺計画が進められ、結果ラクスはAAとフリーダムと共に出国し、
ザフトと地球連合軍の戦闘に介入。両陣営に大きな被害を与えて去っていった。
そしてディオキアの基地への攻撃、再びの戦闘介入。またしても与えられた被害。

「上は判断した。これ以上君達を捨て置くことは危険だと。だから僕に命令が下ったんだよ」

ラクス・クライン。カガリ・ユラ・アスハ。キラ・ヤマト。特に彼らを捕縛せよと。
そのためにエターナルから理由をつけてラクスをつれてAAに戻ってきた。
今頃は他の部隊がエターナルを捕縛するために動いているだろう。AAももう動けない。

「バルトフェルドさん!どうしてですか!どうして、僕らは!」
「ラクスへの問いかけは、以前君達にもしたな。あの頃の君達は真っ直ぐだった。今もそうだがね」

あの問いは誰もが答えられない永遠の課題だ。人の数だけ答えがあって、誰もが納得するたった一つの答えなどない。
けれどラクス達は自分の答えを世界の答えとした。そうして己が出す犠牲を見ぬ振りして、他者が出した犠牲に憤る。嘆く。
あの頃は違った。自分にできることをと必死になって。そのことで悩んで、泣いて、怒って、苦しんで。
今は自分の答えこそ世界の答えとばかりに振舞う。あの頃とは違う意味で真っ直ぐに。ただただ真っ直ぐに、脇目も振らずに突き進む。

「僕らはただ平和な世界がほしいだけなんです!皆に分かってほしいんです、戦いは無益なんだって!」
「中立を掲げるオーブ、そして平和の歌姫の名を冠するラクス。それだけでも君達の願いの足掛けにはなったんだ。
だがキラ、彼女達は兵器を生み出し使用した。そして叫ぶ平和に一体何の説得力を見出せる?
戦うなと叫ぶ、だがその本人が戦っているんだ。誰も耳を貸しはしない」
「そうじゃない!私達は戦ってるんじゃない!止めたいだけだ!」
「その違いが見えないんだよ、カガリ。君達がそう叫んでも、周りから見れば違いなどない」
「あなたはご存知のはずです、バルトフェルド隊長」
「僕が知っていればそれでいいのかい?ラクス」
「あなたはプラントにわたくし達のことを報告していらっしゃったのでしょう?
ならばその時にわたくし達の願いを祈りを共に報告していらっしゃらなかったのですか」

ラクスの言葉に戸惑っていた視線が、はっとしたようにバルトフェルドに向けられる。
確かに、と思ったのだろう。そうであれば自分達の捕縛命令など出なかったのではないか。そう思っている目。
それにバルトフェルドは肩をすくめてみせた。

「報告書に私情は厳禁だ。見たまま聞いたままを報告したよ」
「その上での命令だと?」
「ああ」
「そんな馬鹿な!」
カガリが叫ぶ。普通に考えればそんな命令が下されるはずはないと。
ならばプラントにとって、ただ自分達が邪魔だっただけなのだろう。そう叫ぶ。
キラも頷く。バルトフェルドにきつい視線を向けて、そんなプラントにどうして従うんですかと強く。
「君達の悪い癖だな。自分達に反する意見を悪く捉える。
絶対に正しいものなんてないんだ。人にはそれぞれ自分の正義がある。だから争いが生まれる。
つまり君達が自分達の正義を世界の正義だと捉えている限り、新たに争いは生まれ、その争いは止まない」

彼女達はプラントの前に立ち塞がり続ける。彼女達の正義のために。
プラントは犠牲を強いられる。彼女達の正義を受け入れない限り。
だからプラントは捕縛命令を出した。手を組むという方法は決して取れない。そう判断したのだ。

「わたくし達は正義を訴えているのではありません。平和を」
「君達の考える平和を、だろう。同じことだよ」
「バルトフェルド隊長!」

他者に理解を求めるのならば、自分達も他者に理解を示さねばならない。
そうできない者が多いことは確かだが、広い世界にそれを求める以上は必要なことだ。

「ほら、到着だ」

それができないラクス達に世界は微笑みはしない。


* * *


「おかえりなさい、アンディ」
抱きついてきた恋人を抱き返すと、ホッと体から力が抜けた。
「アイシャ」
長い間会えなかった恋人は、そんなバルトフェルドにくすっと笑った。
「大変だったのね、おつかれさま」
「そうだな。少し君とゆっくり過ごしたいね」
そうね、とぽんぽんと背を叩く調子が眠りを誘う。
このまま眠ってしまうのは惜しい。久しぶりの恋人の体温なのだから。

キラが操るストライクに敗れて、バルトフェルドが左目、左腕、左足を失くしたように、アイシャもまた体を傷つけた。
ラゴゥ爆発時にバルトフェルドに守られるように抱きしめられていたため、バルトフェルドのように失うことはなかったが、
軍を退くことになった。
尚且つ、バルトフェルドがラクス・クラインの監視の任についたため、彼がザフトを裏切るための原因の一端として、
アイシャは公的には戦死したということになっている。
それからは元国防委員長であったパトリック・ザラが秘密裏に用意させた家に住んでおり、バルトフェルドの任が終えるのを待っていた。

「ザラ元議長が死んだ時は、僕はどうすればいいのかと思ったんだがね」
「そうね、心配したわ」

戦犯となったパトリック・ザラの命を受けていたバルトフェルドは、何故かそのまま任務継続を命じられた。
任務内容を知っていた者が現議長に伝えたのか、それとも知られたのかは分からない。
けれど命令が下ったのならば、とオーブへと降りるラクスに従って共に降りた。
そしてラクスの行動、オーブの行動はしっかりとプラントに報告し、AAが出航した後も欠かさず報告した。

長い間共にいれば情も芽生えるものだ。けれど彼女達の行動は認められるものではなかった。
その理想に心惹かれるものはある。けれどそれに行動が伴っていなければ別だ。
彼らにそれを指摘するのは年長者の務めだろうが、口出し無用との命令もある。
ただ見ているだけ、従っているだけの状況。何度命令に逆らって口を出そうとしたかしれない。
そして何度彼女達に従っている大人達に期待したかしれない。結局は誰一人諫めるものもなく、彼女達は捕らえられることになったのだが。

『選択せざるを得ない状況にしたのは私達ですもの』

諫めるのではない、己への後悔を罪悪感を口にしたマリュー。
主導権どころか、全ての決定を彼女達に任せておきながらその後悔。
その後悔を持っているのなら、彼女達を子供だと女の子だと捉えるのなら、他に言うべき言葉があったというのに。
彼女は彼らを、そして自分を甘やかしすぎたのだ。

「そろそろ夕食にしましょう、アンディ。久しぶりに会えるから腕を揮ったのよ」
「それは楽しみだ。ずっと君の手料理が恋しかったんだ」
「あら、オーブでもっと美味しいもの食べてるんだと思ってたわ」
「君がいなけりゃ美味しさも半減だよ」

頬に口づければくすくすと笑い声。そして頬に返る口づけ。
アイシャに腕を引かれ玄関から部屋の中へと入る。

温かい部屋。すぐ側には愛しい恋人。
とりあえずは平穏な二年を過ごしていたけれど、やはりこちらの方が安心するとバルトフェルドは恋人の肩を抱いた。

end

リクエスト「アイシャ生存でバルトフェルトが実はザフトのスパイでそれがAAオーブにばれる」でした。
アイシャの話し方ですが、時々カタカナつけた方がいいんだろうかと悩みました(笑)。
バルトフェルドさんも途中で話し方が分からなくなったり(汗)。可笑しな部分はスルーでお願いします。
タイトルは…すいません。タイトルから内容は分かりやすいと思います!ええ、タイトルセンスは本当すいません(汗)。

リクエスト、ありがとうございました!

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