楽しい食事の時間。


ぱちぱちと火が爆ぜる音がする。
すっかり暗くなった森の中で互いの顔が見えるのは、雨が上がって雲が散ったおかげで顔を出した月の光と 燃え上がる火のおかげだ。

結局、薪を拾いに行ったのはザフトの少年とキラではなく、フラガとキラだった。
三羽の鳥を簡単に仕留めてしまう少年とキラを二人にするのは不安だったし、かといってクルーゼとキラを二人で残すのも不安だった。
ならフラガとキラが行くのが当然の結果だろう。
クルーゼに迷子だということをキラにばらされたせいで、キラが始終不安そうな目を向けてくるのは実に居心地が悪かったが。

フラガ達が集めた薪に火をおこしたのは少年。手際がいい。
思わず感心して声を出すと、アカデミーでも隊でもこういう訓練はしましたのでと返る。
ああ、サバイバル訓練と頷けば少年がええ、と遠い目をした。目が死んでいる。
何、どんな訓練とクルーゼを見れば愉しそうに笑っていた。またするとしようか、とクルーゼが言えば、 少年が泣きそうな顔をして肩を落とした。はい、と頷いた声は小さかった。何、本当どんな訓練。
キラも不思議そうな顔で少年を見ていたが、少年がその視線に小さく笑って薪に刺さっている捌かれた鳥に手を伸ばした。
そうして焼けた鳥肉をまずはクルーゼに渡し、次にフラガ。フラガはそれをキラに渡し、次の肉を少年から受け取る。
少年は自分の分を取る前に残った肉の方向を変える。そして自分の分の肉を取ってかじる。

そうして食べる四人の間に会話はない。本来は敵同士なのだから当然だが、ならば敵同士で何をしているのか、とは思う。
キラを伴っているこちらとしては助かる状況だが、どういうつもりでクルーゼが仕掛けてこないのかは気になる。
少年が動かないのも気になる。普通ならば姿を見た瞬間に仕掛けてくるものだろうに。
フラガには分からないが、気をつけておくに越したことはない。油断は敵、だ。

キラを見下ろせば不安そうに揺れた目。安心させるように笑って、くしゃくしゃっと頭を撫でてやる。
わっと声を上げて、子供扱いしないでください、と上目遣いで睨みつけてくるキラ。少し元気が出たようだ。
そのまま肉をかじるキラを眺め、そして感じる視線に振り向けば少年。ポーカーフェイスが少し崩れている。
そこから読み取れるのは複雑そうな視線だけ。それがキラに向かっている。
フラガの視線に気づいてすぐに見えた感情が隠されたせいで、その視線が意味するところは読み取れなかったが、クルーゼが嗤った。
まるで今の視線の意味が分かった、と言わんばかりに。少年が恥じ入ったように目を伏せたので余計にそう思う。

じっと見ていると少年が顔を上げ、何か?と尋ねてきた。その顔はもう感情を読み取らせないもの。
キラと同じ年頃だというのに、キラのような少年らしさが見えないのが少し可愛くないと思う。
もしも自分の部下だったならば頼りになると思う反面、もう少し子供らしくてもいいのに、と余計なお節介を焼いてしまいそうな…。
そう思いながらもじっと見続けてしまうのは、何故か躍起になっているからだ。あのポーカーフェイスから感情を読み取ってやると。

「ムウ」
「あん?」
「これは視線を受けることに慣れている。容易く表情を読み取らせはしないぞ」
つまりじっと見ていても無駄、そういうことか。
「慣れてるねえ。まあ、これだけ可愛けりゃな」
声を聞かなければ美少女だと思っていただろう。それくらい可愛らしい顔立ちをしている。
が、これはムッとしたようだ。一度ぴくっと動いただけで今は無表情だが、そんな空気が伝わった。
確かに男に可愛いはなかったか。反省するが、謝罪を口にする前にクルーゼが笑った。
「まあ、そういうことだ」
「隊長!」
「君も自覚はあるだろう?」
「ですが私は男です。あまり嬉しい言葉ではありません」
「仕方がないさ。それとも否定するかね?それはひいてはお母上の容姿の否定にも繋がるが?」
「うっ」
少年が悔しそうに俯いた。
どうやら少年は母親似らしい。息子である少年も認めるほどに。
この少年が女性的に成長した姿ならば大層美人なのだろう。一度お目にかかってみたいものだ。

にしても、だ。無表情を装う少年は、クルーゼの言葉には表情を変える。
これは上司の言葉だからか、それともクルーゼが少年の性格を把握しているがゆえか。
おそらく後者だろう。把握しているうえでからかって遊んでいる。そう見える。

「…知って、るんですか?」
「うん?」
隣でぼそりと声。見下ろせばキラが複雑そうな顔をしてクルーゼと少年を見ていた。
二人も気づいたようで、会話をやめてキラを見た。
少年が口を開く…が、クルーゼが手を挙げてそれを止める。
「知っているというのは、彼のお母上のことかね?」
「え…あ、はい」
クルーゼの問いに怯えたように頷きながら、キラはフラガに近づいた。
それでも視線はしっかりとザフトの二人に。
「幾度かお会いしたことがある」
「は?部下の母親と会うことってそうないだろ?」
そう眉を寄せて聞くが、クルーゼはあるのだから仕方がないだろうと言う。
それは相当心配性の母親、なのだろうか。息子をよろしくお願いしますと。
時々そういう母親がいる。少年の母親はそういう類の人間か。
ふうん、と頷いたフラガをどう思ったのか、クルーゼは愉しそうに口元を上げ、少年はどことなく嫌そうな顔をした。
そして聞いたキラはますます複雑そうな顔。眉間に皺を寄せている。肉をかじる様子もどことなく乱暴だ。
一体どうしたんだ、と目を丸くしていると、クルーゼの笑い声。
何だこいつは。やけに笑うな。そんな視線を意にも返さないクルーゼは、全くと声を洩らした。

「君達は幼いな」

「は?」
フラガは眉を寄せ、キラはえ?ときょとんとした顔。少年は唇を噛んだ。
一体何だ。本当に何だ。さっきからクルーゼと少年の無言の遣り取りが気になる。
二人だけの遣り取りならば警戒すればいいだけだ。けれどそれに何故かキラが関わる。
それが意味するところは何だ。そう考えようとするが、クルーゼがムウと呼ぶ。


「好奇心が滅ぼすのは何だろうな?」


* * *


日が昇ってすぐ、ザフトの二人の気配が消えるとフラガは起き上がった。
その場に残っているものは消された火とフラガとキラ。
相手が敵意を見せないとはいえ敵同士。浅い眠りを漂っていたがキラは熟睡中だ。
夜遅くまで眠れなかったようで、何度も寝返りを打っていたのを知っている。

「そういや、少年の名前呼ばなかったな、あいつ」
ずっと彼、これ、そう呼んでいた。あそこまで呼ばないのは意図的だ。
知られるとまずい、ということだろうか。フラガ達でも知っている名前だとか。
けれど知ったところでどうにかできるとは思えない。とすれば別の理由。
ちらっと眠っているキラを見る。

「好奇心が滅ぼすもの、ねえ」
好奇心は身を滅ぼすというが、クルーゼが言いたいのはそれではないのだろう。
キラと少年の間に何か関係があるのだろうか、と考えるなということだ。
考えて気づいて知ったら最後、クルーゼには何の影響もないがこちらにはある。そういうことか。
ああ、自分で考えたくなるような素振りを見せておきながら、なんて勝手な男だ。

民間人の少年。ただ巻き込まれただけの少年。軍人でもなければ戦わせてくれと志願してきたわけでもない少年。
こちらが巻き込んで、こちらが脅してMSに乗せた。そして無理やり戦わせた。
だからこそ、してやれることがあるのならばしてやりたいと思う。
なのに滅ぼすものがこちらに影響があるものだというのならば、これ以上深入りはしない。そう思う。
キラを失うわけにはいかない。失えない。キラがいてこそ自分達は生き延びているのだ。

「嫌な大人になったもんだな」

眠るキラは気づかない。フラガが自己嫌悪に顔を歪ませたことを。
まだ色が薄い青の空の下、今頃クルーゼが嗤っている気がした。

end

リクエスト「「後先考えてないSS」の続きで、食事準備とか食事中の場面」でした。
思いのほかシリアスになってしまいました(汗)。そして隊長は結局何も仕事をしませんでした。
ただ三人の反応見て愉しんでただけです。一番美味しいポジションだな…。
そういえばフラガとキラはちゃんとAAに帰れるんでしょうか…(おい)。

リクエスト、ありがとうございました!

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