「帰ろう、キラ、ラクス」

カガリの静かな声が夜の砂浜に落とされる。
キラとラクスはただ立っている。もういないアスランとフレイに向き合った状態のまま、カガリの声に振り向くこともなくじっと。
カガリは二人が動かないのを知ると、二人の手首を掴んで歩く。抵抗なく歩き出した二人を連れて、カガリは苦い顔でその場を後にした。


互いを責め合って、
そうしてあなたは何を得たのでしょう。




バタンッと車のドアを閉めた頃には、日は完全に落ちていた。
フレイが家の鍵を開け、ノブを引くと照明をつける。そしてドアを開けたまま部屋へと入る。どうせすぐにアスランが入ってくるのだ。そのままバスルームへ向かう。
そうしてべたべたする足にシャワーをかけていると、玄関のドアが閉まる音がした気がした。
「アスラン!バスタオル持ってきて!」
聞こえたかしら、と思ったが聞こえたらしい。ここに置いておくぞ、と声がかかる。そういえばコーディネーターはナチュラルに比べて聴覚がいいらしい。昔ならそれだけで化け物を見るような目で見ていただろうし、嫌悪感を隠そうとしなかっただろう。今はこういう時便利ね、と思うだけだ。
シャワーを止めてドアを開ける。ぎょっとした顔をしたアスランが、フレイが服を着ているのを見てほっとしたように息を吐いた。
「スケベ」
「なっ」
何想像したのよ、と睨んでやれば、頬を赤らめて違う、とあたふたとし始めたので、ぷっと笑う。
このルックスでその反応。アスランが女慣れしていないことがよく分かる。婚約者が、恋人がいたのに、と言うべきか、誠実だったのね、と言うべきか。
声を出して笑えば、からかわれたのだと気づいたのだろう。フレイ、と赤い顔で恨めしそうに見てきた。
「明日はどうするの?」
アスランが持ったままだったバスタオルを受け取って聞けば、帰る、と短く返ってくる。
足を拭きながらアスランを見れば、午後から仕事だからな、と顔を逸らされた。
「そ」
今日の明日でカガリと顔が合わせ辛いだろうが、そうも言ってはいられないだろう。だから大丈夫なの?とは聞かない。
足を拭き終わったバスタオルを洗濯籠に入れて、じゃあご飯食べて、ちゃっちゃと寝るわよ、とアスランの背中を押す。
「私が夕飯の用意するから、アスランはお茶ね」
「…夕飯の用意も何も、袋から買ってきたものを出すだけだろう」
「用意は用意よ」
ほら、いってらっしゃい、と背中をどんっと押せば、アスランはたたらを踏んだ後、ぶつぶつ言いながらキッチンへと向かっていった。
出会った頃はぶつぶつ言ったりしなかったわね、と思えば、ずいぶん慣れたものだと思う。お互いに。

テーブルの上に買ってきたものを並べて椅子に腰掛ける。そしてキッチンから聞こえるカチャカチャという音を耳に、そういえばと窓を見る。
あれからキラとラクスはどうしただろう。フレイの言葉に固まって動かなくなったあの二人。
何を思ったのだろう。思ってもみなかったことを言われて思考が停止しただけだろうか。それとも気づいたのだろうか。人のことを言えない自分たちの不実に。

フレイだってキラ達を責められない立場だ。サイという婚約者がいたのに、復讐のためとはいえキラと関係を持った。そしてサイを傷つけた。追い詰めた。
サイがストライクを動かそうとしたと知った時、泣きたくなった。キラしか動かせないストライクをどうして動かそうとしたのか。フレイとキラのことが関わっていたのは、考えるまでもなく明らかだ。そこまでフレイはサイを追い詰めた。
そのサイの心が嬉しくて、けれどそうさせた自分が憎くて。なのに側に駆け寄ることはできなくて。もうあの腕に帰ることは許されなくて。そうしてずっと傷つけ続けた。
そんなフレイにキラ達を責める資格がどうしてあるだろうか。

それでも。分かっていても、ラクスの言葉に堪えていたものがあふれ出したのだ。キラの視線に愉快でないものを感じたのだ。
だから突きつけた。あんた達がアスランを責める言葉は、あんた達に返るものなのよ、と。

「っていうか、私とアスラン、そんな関係じゃないのよねえ」
「何がだ?」
カップを両手に持ったアスランが不思議そうにフレイを見下ろしながら、フレイの前に右手に持ったカップを置く。
ありがと、と笑って、誤解させたままだったわねって思ったのよ、と向かいに座るアスランに言えば、ああ、と納得したような顔が返ってきた。
「そういう関係じゃないって言えば、じゃあ何だって返ってくるじゃない」
「答えられないからな」
キラ達が厭うラウ・ル・クルーゼへと抱える思慕を共有しあって、支えにしあっているもの同士。そんなことは言えない。キラ達との仲に溝ができるから、というよりも、否定されるのが嫌だからだろう。きっと分かってもらえないから。
話せばいつか分かってもらえる。
そうは思えない。今日のことがあってますますそう思った。カガリに関して言えば、もしかしたら理解はされなくても理解する努力をしてくれるのではないか、と思ったりもしたのだけれど。

「それより食べよう」
「そうね。お腹すいたわ」

では、とそれぞれ食事を始める。
会話を交わしながら、けれどもうキラ達の話題は出さずに。
今日一日何事もありませんでした、と言わんばかりの様子で残りの夜を過ごすのだ。

end

リクエスト「互いを責め合って、そうして生まれるものなどないのだ。」で「キララクカガと別れた後のアスフレのラブラブ」と「キララクが自分達がアスランを裏切ったことを自覚」を一緒にさせていただきました。
後者の詳しいリクは、
・キララクが自分達の関係はアスカガ同様、不実で許されない関係だと自覚、あるいはフレイに指摘され自分達がアスを裏切ったことを自覚。
・アスに対して不実を働いた自分達には責める資格はないことに気づくキララク。もしくは、関係を正そうとしてプラントで婚約解消を公表するが、市民の理解を得られず、不実を責められる。
でした。

相変わらずアスランがしゃべりません。そんなんだからフレイが切れてしゃべるんだよ、と思いました(笑)。
キララクの関係は本当、どこから始まったのかなあと思います。
戦後のキラは恋愛云々どころじゃなさそうだったので、やっぱり戦中だよな。でも戦中ってどこだ、と考えた結果、全然分からなかったので、気づいたらつきあってました、にしてみました。

リクエスト、ありがとうございました!

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