すれちがいの果て


何故、どうして。
今AAはザフトに囲まれている。これは一体どういうことだ。
呆然としている中、シュンッという音が艦内に響いた。振り向けばブリッジに入ってきたのは赤と緑のザフトの軍服を纏うよく見知った男女。
並ぶ姿に目を見開いて信じられない、と唇を動かす面々の前で男が女を見下ろす。無表情の男に女は妖艶に笑う。それに男が諦めたように小さく息を吐いて頷くと、女が正面に向き直る。
「状況が分からないって顔ね」
「フ、レイ」
「何で…お前達」
キラが女、フレイを呆然と見つめ、カガリがフレイと男を交互に見る。
フレイはくすくすっと笑う。笑って分からないの?と首を傾けた。
「それとも現実逃避かしら。答えなんてもう分かってるんでしょう?」
ねえ?とラクスに。
ラクスは厳しい顔でフレイを見る。隣の男、アスランにも視線をやるが全く反応しない。無表情のままだ。

冤罪をかけられザフトから逃げ出したアスランを受け入れたのは、アスランが仲間だったからというだけではない。ザフトがアスランを完全に堕とすつもりだったからだ。一足遅ければ死んでいただろう怪我を負ったアスランがそれを証明していた。だからアスランが戻ってきてくれたと喜ぶキラとカガリに微笑んだのだ。
けれどアスランを完全にこちらの味方と捉えるのは早計だったのかもしれない。
アスランはAAに戻ってくる前、カガリの側を離れてザフトに戻り、AAの行動を妨げようとした。
キラとカガリから話を聞いたうえでその行動を取ったアスランを、どうして疑わなかったのだろうか。アスランはザフトのスパイ。そういうことだったのに。
アスランはザフトのアスラン・ザラであることを選んだのだ。

「アスランは…残念ですが納得できないわけではありません。ですがフレイさん。あなたがザフトにいらっしゃる理由はなんなのですか?あなたには理由がありません。わたくし達をザフトに拘束させるその理由をあなたは持っていらっしゃいません」

ミーティングで反論することが多かったけれど、フレイはブリッジクルーではなかった。前回の戦争でしていたように艦内の備品の補充などといった雑用をしていた。だから戦場の様子がよく分からないからなのだろうと思っていた。そのフレイが何故ザフト。
フレイはナチュラルだ。ザフトとの接点など敵対していたことくらいしかない。以前に一度ザフトに捕らわれていたこともあったが、それは決してプラスの印象にはならない。なのに何故?何のために?

「あら、知らなかった?私、ザフトに籍があるのよ?」

「な…」
知らなくて当然かしら。言ったことなかったもの。そんなフレイにキラがどうして、と震える声で言った。
「ザフトに籍って…いつ?」
「前の戦争の時よ」
「前って…お前、ザフトに捕まってて…!」
「いろいろあるのよ」
その話は終わり、とフレイが片手を振った。犬を追い払う仕草に似ていたのだが、双子は気づかず終わりって、と声を上げる。
「ザフトに軍籍のある私がザフトにいても可笑しくないわよね?軍籍もないのに戦艦に乗ってるわけじゃないもの」
その言葉にAAクルーは体を強張らせた。特に大人達だ。それにフレイが目を細めた。

彼らは気づいていないふりをしていたのだろうか。もう自らが軍人でないということを知っていながら戦艦に乗っていた。何故それを許していたのか。世界のため、平和のため。そんな代議名文は理由にはならないというのに。

キラやミリアリアが戦艦に乗ることに疑問を抱かなかったのは、先の戦争のことがあるからだろう。
ただの民間人であった彼らは緊急時だからと一人はMSに乗せられ、一人はCIC席に座った。
後に民間人が戦闘行為を行うことは犯罪行為となるため、軍籍に入れられていたことを知ったのだが、彼らは除隊許可書を渡されるまでそれを知らなかった。
だから彼らは軍人としての意識がない。彼らは民間人として戦艦に乗っているのだと思っていたのだから。そんな彼らだから、今更軍人ではない人間が戦艦に乗っているということの可笑しさに気づかない。
だたミリアリアは除隊許可書をもらった時にそのことを教えられたのだから、気づいてもよさそうなものだが。

カガリは軍人ではない。けれど国でMS訓練を受けているし、武器を持って戦うことも経験している。そのため軍人でないもの、いや、元軍人であった民間人が戦艦に乗っていても気にしていない。
ラクスは…どうなのだろう。世界のためならば、平和のためならば、戦争を終わらせるためならば使える力を使っても構わない。そう思っているのだろうか。フレイにはよく分からない。

「そのようなことを言っているのではありません。あなたには理由がありません。たとえあなたがザフトの軍籍を持っていたとしても、あなたはキラとミリアリアさんのお友達でしょう?どういう経緯でザフトの軍籍を得るに至ったのか、わたくしには分かりませんが、キラ達よりプラントを大切に思っていらっしゃるとは思えません」

ラクスが言えば、それに勇気づけられたのかミリアリアが前に出てくる。その目は少し揺れているが、それでもしっかりとフレイを見ていた。

「ねえ、フレイ。私達は戦争を終わらせるために動いてるのよ。知ってるでしょう?」
「そうね。でもミリィ、ザフトと連合の戦闘を止めるなんて馬鹿なことよって言ったわ」
「どうして?被害だって少なくてすむし、戦闘を何度も止められたら、もう戦闘は無駄なことだって気づくじゃない?」
「そんなのは甘い理想よ。私ならAAが邪魔だって思うわ。AAを敵だって思うわ。それが普通じゃない」
だからプラントはAAを排除することにしたのだ。プラントがしなければ恐らくは連合がした。
戦闘に割り込んでこれ以上戦うな、と叫んで何が解決するのだ。それで全て解決するのなら戦争などしない。
「あんた達は楽な方に逃げてるのよ」
ラクスがいるからクライン派が、プラントの国民が味方だ。カガリがいるからオーブの軍人が、オーブの国民が味方だ。
それだけのものを持っているのならば他にできることがあった。それこそ戦闘に乱入するよりも被害が少ない方法を取ることだってできた。なのにそれを選ばずに大なり小なり必ず被害が出る方法を取ったのだ。戦場になど出れば必ず何らかの被害が出るというのに。

「私、間違ったこと言ってる?ミリィ」
「そ、れは…」
ミリアリアが視線を落とす。ミリアリアだって思ったはずだ。
戦場カメラマンとして世界中を回っていたミリアリアは、キラ達より戦争の爪痕を見てきている。直接、自分の目で見て、自分の耳で聞いている。ならば分かるだろう。今、AAがしていることは戦闘行為だ。どこかで必ずその爪痕が残る行為だ。
「ミリィなら知ってるでしょう?戦場で生き残った人のことも」
「…知ってるわ」
いろいろな人がいた、とミリアリアが目を伏せた。
皆、毎日を生きるのに必死で。笑って泣いて恨んで祈って。
そう思い出していると、ふと頭に浮かんだ。戦場で負った傷が元で動けずに周りの手を借りて生きている人。それが辛くて申し訳なくて苦しんでいる人。
思わず目を見開いてフレイを見た。
そう、そういう人もいた。そういう人もいたのだ。
「ねえ、ミリィ。AAは被害が少ない方法をとったのよね?連合もザフトも武器を切り落とされて、手を足を切り落とされて。発射直前の主砲だって打ち抜いたんですってね?」
「まっ、て、フレイ」
「死んだ人だっているわ。生きてる人だっている。怪我をして戦線離脱した人だっているでしょうね。それはあのまま戦闘を続けるより被害は少なかったのかもしれないわ。でもそれが何なのかしらね」
戦場で武器を振るうということは、人を殺すことを承知しているということではないか。人を傷つけることを承知しているということ。そのことを踏まえた行為に対して被害が少ない方法、戦闘が無駄だと気づいてもらうための行為。
だから何だ。していることはザフトや連合がしている戦闘と違いはないのではないか。いや、もしかしたらそういう言葉で飾ったAAの行為の方が悪質ではないか。出した犠牲を見ない振りしているのではないのか。

「ふざけるな!!」

カガリが声を荒らげる。フレイが視線を向ければ肩を怒らせてこちらへやってくる姿。キラがカガリ!と追いかけて肩に手を置くが跳ね除けられる。
「何よ」
フレイの前で止まったカガリにフレイは顔だけ向ける。
「ミリアリアはお前の友人だろう!なのにその言い様は何だ!!」
「友達だから言ってるんじゃない。友達じゃなかったらアスランの言う通りブリッジの外にいたわよ。友達だからずっと可笑しいじゃないって言ってきたの。友達だからよ!知ったふうなこといわないで!!」
初めて声を荒らげたフレイがカガリを睨みつける。
怯んだカガリの前で、アスランがフレイ、と呼んだ。その声が心配そうな響きを乗せていたのに気づいて、キラがアスランを見た。険が篭っていることに気づいているだろうか。アスランが少し目を瞠った。
「君は、フレイに何を言ったの?」
「俺がフレイに何を言ったって?」
「聞いてるのは僕だよ、アスラン。フレイがザフトに手を貸すわけないって君だって知ってるでしょ?」
知っているはずだ。知らないはずはない。そんな断定にラクスがはっとした顔をした。
「キラ!」
「だってそうでしょ。ザフトは、君は」
「おやめください、キラ!」


「フレイのお父さんを殺したんだから」


しん、とブリッジが静寂に包まれた。
アスランを睨みつけるキラにラクスは顔をしかめた。それは言うべき言葉ではなかったのに。
ラクスはアスランに視線を移す。アスランは先程の無表情から変わってはいない。けれどラクスは見た。その目が揺れ、そして凍りついたのを。
アスランは決して情がないわけではない。むしろその逆。深い情を持つがゆえに苦しむ人だ。
彼は今こちらに剣先を向けている。けれどそこに苦しみがないわけではない。彼がラクス達 大切に思っていることは知っている。だから剣先を向けながら彼の中に苦しみが渦巻いているだろうことは想像に難くない。
確かに彼が敵対するというのならこちらも全力で迎え撃つ。けれど彼の中の苦しみを否定するわけではないのだ。
そしてフレイに対しても彼は情を持っている。当時敵対していた艦を堕としたことに後悔はないだろう。けれどフレイの父親を殺したという罪悪感は持っているだろう。フレイが許しすにしろ許さないにしろ、それはアスランの中にいつまでも残るだろう。
そうして償うことなどできぬ罪を持ってフレイの側に立っているアスランに、キラの放った言葉はアスランの心を抉った。だからラクスはキラ!と声を上げた。

「キラ、それはキラが口を出していい話ではありません」
「でもラクス!フレイが僕らを裏切るはずないんだよ!?」
フレイは絶対に裏切ってない。アスランが何か言ったとしか思えない。騙されてるんだ。
そう言いたげなキラにラクスは眉を寄せる。ラクスだけではない、フレイもだ。
キラとアスランは幼馴染ではなかったか。親友と呼んだこともあったのではなかったか。なのにフレイの裏切りをアスランのせいにするのか。
カガリも同じことを思ったのだろうか、フレイからキラへと視線を移した。
「ちょっと待て、キラ!こいつは人を騙せるような奴じゃない!お前だって知ってるだろう!」
「そうだけど!でも今ザフトが僕らを囲んでるんだ!」
そうしてザフトの軍服を着てアスランが現れた。信じたくなくても疑うしかないだろう。
それに異を唱えるつもりはない。ないけれど。
「ならフレイだってアスランが…!!」


「いい加減になさってください!」


ラクスの怒声に視線が集中する。
ラクスは憤りに支配される自分を冷静に見ている自分に気づく。その自分が驚いたように目を見開いたアスランを見た。

「フレイさんがどうしてザフトにいらっしゃるのか。それをわたくしは今お聞きしているところです。キラにお聞きしているわけではありません」
「ラクス!?その言い方だとフレイが僕らを裏切ってるって言ってるように聞こえるじゃない!」
「アスランは認められてもフレイさんは認められないのですか。ザフトの軍服を着ていらっしゃるのに?」
「だってフレイは…!ラクスだってフレイには理由がないって!」
「何度も言わせないでください。今、その理由をお聞きしているのです」
「ラクス…!」

誰もがラクスとキラを驚いた顔で見ている。ラクスがキラに厳しいことを言ったことなど今までなかったからだろう。
ラクスも驚いている。どうしてこんなに憤っているのか。それもキラに。どうしていつものように優しく宥めることができないのだろう。何が自分の逆鱗に触れたのか。
集中する意識がラクスとキラから逸れたのはフレイのふうん、という納得したような声が聞こえたからだ。
そういうことなの、と呟いたフレイを隣のアスランは訝しげに見下ろすが、見上げたフレイにあんたは知らなくていいわ、と言われてますます怪訝そうになった。
どうせ知ったら気に病むに決まってるのよ、とは言わずにフレイが動き出す。納得していないながらもアスランが後を追う。ラクス達の視線が二人を追うが、フレイが開いている席に座ったのを見てざわめく。
「フレイさ」
「フレイが何故ザフトにいるのか、でしたか」
「え…?」
アスランがフレイが座った背もたれに片手を置いて振り向く。
「彼女はザフトです、ずっと。この意味がお分かりになりますか?」
怪訝そうにするのはキラとカガリとミリアリア。他の面々は一拍後に息を呑んだ。
ずっとザフト。その意味は簡単だ。


「フレイさんも、ザフトのスパイだったということですか」


ラクスの言葉にそんなの嘘だ!とキラが叫ぶ前にアスランが頷いた。
「フレイにとって大切なのは世界平和ではありません。大切な人達が平和に暮らせる日々です」
「同じことだろう?」
世界が平和であればこそ人々が平和に暮らせる日々がある。そう言うカガリに、けれどアスランではなくラクスが首を横に振った。
「つまりあなたとフレイさんは同じ、ということですわね?」
「ええ」
どういうことだ、とカガリが眉を寄せてラクスを見る。
分からない、のか。そうだろう。根本が違うのだ。ラクス達とアスラン達は。

世界の平和が皆の平和。だから世界を選んだラクス達とは違ってアスランは世界を選べなかった。
今回に限らずアスランは元々そういうところのある人だった。世界ではなくその一部分のために戦う人だった。
例えば前回の戦争。アスランは戦争を止めたくてラクス達の陣営に与したのではない。父親を止めたかった。ザフトで戦っていた理由もまた同じ。母親の敵討ち。そしてプラントを守るために。
おそらくは今回もそう。何を、誰を守りたいのかは分からないけれど。
いつでもアスランは世界の平和のためではない。コーディネーターとナチュラルの世界のためではない。彼が守りたい人のために戦うのだ。

「想いは同じだよ、カガリ。ただ俺が守りたいものはお前達が守りたいものと似ていて違う。お前達が守りたいものを守るために零れ落ちるものこそが俺が守りたいものなんだ」
「何を言ってるんだ?私達は何も零れ落としてなんて…」
「それはお前が見えてないだけだよ」
「な…っ」
カガリがカッとしたようにアスランを睨みつけた。
考えようともしないそれは酷く傲慢だ。自分達が何も零れ落としていないなんて、なんて自己過信。
ラクスは気づいているのだろう。気づいていて、それは仕方のないものと捉えている。何もかもを守ることはできない。守りたいものを守るために零れ落ちるものは仕方がない。
そうできなかったのがアスランだ。カガリのように見ないことも、ラクスのように捨て置くこともできなかった。
プラントを守りたい。イザークをディアッカをミーアをシンをミネルバの皆を。
フレイはまた違う。零れ落ちるものを守りたいのは同じだ。けれどアスランと同じものではない。
イザークやディアッカとは交流がある。だから彼らは入っているのかもしれない。けれど他は知らない。フレイが守りたいもの、それは。

「普通に笑って、怒って毎日を過ごしていた頃」
アスランが小さく笑う。
「戦争も何も知らない平和に楽しく時に退屈に暮らしていた頃」
その声にフレイもくすりと笑って立ち上がる。
「フレイが守りたいものはそれだよ」
大切な友達。戦争に関わること日がくるなんて思いもせずにただ笑っていた。そんな毎日を守りたい。

たくさんの足音が聞こえる。それにはっとしてドアを振り向く面々の中、キラは叫ぶ。
「僕らと何が違うの!僕らだってそうだ!君と何も変わらないんだよ、フレイ!」
「違うわ、キラ」
そうしてフレイがアスランの腕に抱きつく。
「フレイ!!」
キラの声が悲痛を帯びている。それにフレイが目を細めた。ああ、やはりそうなのか。フレイを見る目、アスランを責める目。それの意味。
一度目を伏せて、そしてしっかりとキラを見る。その視界に映ったラクスもまたキラと同じ顔をしている。やめて、と叫びを上げそうな顔。
「サイとカズイが今ここにいないことは凄く嬉しいのよ?あの二人はもう戦艦になんて乗らない、自分の道を歩いてる」
自分にできることを、と頑張っている。できることがあるのに武力に頼った彼らとは違う。
シュンッとドアが開いた。入ってくるのはザフト兵。先程フレイが彼らのためにハッチを開けた。


「武力は武力で返されるわ。平和を口にしながら武力で平和を求めたあんた達は気づいてくれなかったけど」


end

リクエスト「アスフレでキララクカガ断罪。キラはフレイをラクスはアスランを愛している事に気付く」でした。
…気づいて、ない?気づいたのはフレイですね(汗)。
キラは気づかないでぎゃあぎゃあ言ってて、ラクスは自分が可笑しいと思いながら気づいてません。最後で気づく予定だったのに…。

リクエスト、ありがとうございました!

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