「勝負だ!合体野郎!」
「何だよ、その名前!」

わーわーぎゃーぎゃーやりあうシンとアウルを、ルナマリアががんばんなさいよ、シン!と応援している。
ステラが仲いい?とスティングに尋ねて、スティングがめちゃくちゃなと頷いた。
レイはと見ればアスランと二人、なにやら話ている。内容はどうやら捕らえた歌姫様達のことらしい。

「なあんかさ」
ネオが頬杖をついてそう洩らせば、向かいでアスランに渡された書類をめくっていたナタルが視線を上げた。
子供達を診てくれる病院や研究所の書類。ネオも先程読んだが、今のところ文句はない。
「なんですか?」
「ああ。なんかさ、上手くいってよかったなあと思ってな」

殺人兵器として、使い捨ての駒として役割から逃れたかった。逃がしてやりたかった。
子供達もファントムペインのクルー達も自分も。そのために取引をした。
プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルと。




それが答えだと、彼は笑った。




「AAを手土産にっつた時さ、疑ったりしなかったか?」
「何をですか?」
「俺を」
ムウに戻るつもりなんじゃないかと。ネオを捨てるつもりなんじゃないかと。
ファントムペインを捨ててAAに戻って、そうしてムウ・ラ・フラガとして生き直すつもりではないかと。
そう言えばナタルが苦笑した。よく子供達に仕方がないな、と言って浮かべる笑み。


「あなたがネオであれムウであれ、我々を捨てることなどありません」


マリュー達もあれほどにムウにこだわらなければ、ネオに切り捨てられることはなかったのだ。
ネオはずっと窺っていたのだから。ネオが彼らに受け入れられるのかどうか。
ネオである自分も大切に思ってくれるのならば、と願った。
けれどあなたはムウだ。ネオではない。ネオは植えつけられた偽りの記憶。ムウが本当のあなただ。
そう言われてネオは弾かれた。

『僕らはネオ・ロアノークだったムウさんをまだ知らないから!僕らの知ってるムウさんと違ったから!』
『時間が経てばマリューさん達もネオとして生きた日々を聞き、それを受け入れられますわ。その心の余裕もできます』

確かにムウがネオであると受け入れるのには時間がかかるだろう。けれど基本的にはどこも変わっていないのだ、この人は。
ただムウとして生まれ、ムウとして生き、そしてネオとして生きた。これからはそれら全部持って生きる男となる。
言葉にすればただそれだけのことだ。

「難しいことだけどな」
「そうですね」

そうして生きると決めたネオも、それを受け入れる周りも実践するには難しいことだ。
けれどそれを一緒に乗り越えていこうと決めたのがナタルで子供達でガーティ・ルーのクルー達だ。

「時間が足りなかったのかね」
マリュー達がネオを受け入れるには足りなかった潜入の時間。
まあ、ああいう形でAAに入り込む予定ではなかったのだが、それでも元々同じようなことをするつもりではあった。
その予定にあったよりも短い時間。けれどナタルは首を振る。
「迷う時間には十分でした」
「迷う?」
「あなたはムウでありネオである。それに気づくには確かに時間が足りなかったのでしょう。
ですがあなたがムウの記憶を見せながらネオの記憶も見せる。それがどういうことを意味するのかと、迷うには十分でした」

ムウの記憶を取り戻してくれた。自分がムウだと思い出してくれた。
けれど時折語られるネオ。ムウにはなかった変化。それに眉をしかめ、ムウばかりを求めたマリュー達。
ネオは側にいなかったその時間をどう生きたのか。どう過ごしたのか。それを受け入れてほしかった。
そうしたならばネオはAAを切り捨てたりなどしなかった。プラントにそのまま引き渡したりなどしなかった。

『私達はあなたの中のネオもあなただと受け入れるわ』

あの微笑みは慈悲深い女神のようで、けれどネオの心を斬りつける刃だった。

あなたはムウ。けれどネオとして生きた日も確かにあるのでしょう。
たとえあなたの意志の元でなくても、あなたがそうして生きてきた記憶。それもまたムウなのでしょう。

ネオは過ぎ去った記憶ではないのだ。ムウと同じくこれからも培っていく記憶なのだ。
だからネオにとってその言葉はやはり否定だった。
そして生きる過程で歩んだネオを否定されるということは、ムウにとっても否定だった。

「お前さんは?」
「はい?」
ネオが体を起こしてソファにもたれ、ナタルを見る。
「迷ったか?」
「…そうですね。あなたはフラガ少佐ではないのかと、共に過ごせば過ごすほど強く思いました。
ですがあなたはネオだと言う。少佐と同じような物言いで少佐とは違うことをする。
戸惑いましたし、正直初めの内はどうすればいいのか分かりませんでした」
ナタルが手に持っていた書類を机において、ネオを見返す。
目が優しく笑みを作るのに、ネオはそれで?と先を促す。
「ですがあなたがあまりに無茶をなされるので、それどころではなくなりました。挙句に大層な子煩悩で、子供達に甘すぎるところがありました。
そのため、あなたを叱るのと子供達を叱るのとに毎日が忙しくて。気がついたら今日まできていました」
そう、気がついたら。気がついたらナタルの中でネオは存在を確立していて。ネオをムウが同じ場所に立っていて。
ネオがムウと共に歩むと決めた時も、だからそうですかと返せたのだろう。

「もしあなたがどちらかを選び、どちらかを切り捨てていれば私は子供達を連れて側を離れたかもしれません」

へ、とネオが目を見開いた。ナタルがくすっと笑う。
「冗談です」
「へ、冗談。あ、冗談…だよな?」
「ええ。今更、私達があなたから離れられるはずがないでしょう」

その時はまた自分の中で折り合いをつけるだけだ。ただ心配なのは子供達で。
切り捨てられたのがネオだったならば、子供達は傷つく。それだけが心配だった。
けれどムウも情に厚い男だ。子供達がムウにも懐いたならばこっちのもの。子供達をネオと変わらず愛してくれるだろう。

ぽかんとしたネオが、かすかに目元を赤らめて、ナタルに口で殺される日がくるなんて思わなかったなあと机に突っ伏した。
それにナタルがそうですかと微笑むと、シンと騒いでいた子供達が驚いたような顔で見ると、走り寄ってきた。

「なになに、姐さん、ネオなんかしたのか?」
「ナタル、たのしい?」
「ナタルに何やってカウンターくらったんだよ、ネオ」
「…お前達の中の俺はなんだ」

顔を上げたネオが情けなく呟くのに、子供達は顔を見合わせて声を揃えていった。


「ネオでムウ」


だってネオが言ったんじゃん。呼び方はどっちでも好きにしていいけど、俺はネオでムウだって。
そういうことを聞いたんじゃない、とまた机に突っ伏したネオは、やべ嬉しい、と口元を緩ませた。
それを微笑んで見ていたナタルは、再び書類を手に取り、子供達に見せる。
分かるようにとこれがこれから世話になる病院で、研究所でと説明すれば、机に身を乗り出して子供達が覗き込んでくる。
それをこっそりと窺い見るネオの視界の端でシンとルナマリアが微笑ましそうにそれを眺めていて、そして二人そろって走り出し、アスランに飛びついた。
うわっ、とよろめいたアスランをレイが慌てて支えて、二人に説教を始める。

あっちもこっちも仲良くていい感じだねえと笑って。
一瞬浮かんだかつての恋人の姿に、ネオは少しだけ顔を歪めて目を閉じた。

end

予定より二話もオーバーしましたが、無事終わりました。
「運命設定アンチキララクカガマリュ(ナタル生存)でネオナタ+連合3人で家族話」
「アンチAAオーブでザフトとガーティの仲良し話」
「ザフトと連合が幸せなアンチAAオーブ」
の三つを一つにまとめさせていただきました。カガリとオーブがほとんど触れられませんでしたが。
予定ではAAについて追求するはずだったんですが(汗)。
そして初め、ナタルに膝枕させるためにネオの隣に座っててもらったんですが、まったくしてくれなかったので向かいに移動しました(泣)。

リクエスト、ありがとうございました!

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