そんな二組

「おはよーございまーす!」
「おはよう」
「おはようございます」

『家庭教師ヒットマンREBORN』出演者様、と書かれた控え室のドアを開けたのは沢田綱吉だ。彼は家庭教師ヒットマンREBORNというドラマの主役を演じている。
その彼の挨拶に答えたのは雲雀恭弥と六道骸。雲雀は綱吉の先輩役であり、骸は綱吉の敵役だ。とはいっても、彼ら二人の役は色々と特殊で、ただの先輩、敵に終わらないのだが。

「早いですね、二人共」
「僕は元々モデルの仕事しかしないからね」
「僕の方はレコーディングが一段落しましたから」
雲雀が綱吉にお茶を淹れて差し出すのに、綱吉がありがとうございますと頭を下げる。骸は幾分冷めた湯のみに口をつけ、ほうと一息。
雲雀は本人が言う通りモデルで骸は歌手だ。綱吉は役者だが端役ばかりで今回のように大きな役は初めてだ。緊張してきてみれば、メインキャストはほとんどが役者経験のない素人ばかり。どうなるのこのドラマ、と思うより先に安堵した記憶が蘇る。
「そういう君こそ、昼のドラマにも出てるんでしょ?それは大丈夫なの?」
「俺のシーンは全部撮り終わりましたから」
「そう、お疲れさま」
ふわりと微笑む雲雀に思わず顔が赤くなる。
綺麗な顔をしている雲雀に優しく微笑まれるのは慣れない。
そんな雲雀が演じる役は綱吉の先輩ではあるが、彼らの主な舞台である並盛町住人から怖れられる支配者という設定がついてくる。
その人柄は一言で言えば理不尽。自分が秩序だと言ってのけるような性格だ。尚且つ戦闘マニア。人に気を使うことなどありえないし、柔らかい微笑みなど浮かべもしない。どちらかと言えば無表情。むっとした顔、楽しそうな顔ぐらいしか表情に変化はない。目の前の雲雀とは正反対だ。
雲雀は同年代とは思えないほど穏やかだ。いつだってふわりと微笑んでいる。

どきどきする心を誤魔化すように、綱吉は雲雀が淹れてくれたお茶で喉を潤す。美味しい。
その心のまま美味しいですと言えば雲雀が嬉しそうに笑った。…だから心臓に悪いんだって、と思いながらえへへと笑えば、骸が甘いと呟いた。
「これ緑茶だけど、甘かった?」
「雲雀くん、そんなボケはいりません。そうじゃなくて、君達です」
「ふうん?よく分からないけど」
「仲がよくて何よりです」
ああ、涙が、と涙を拭う骸に綱吉と雲雀が顔を見合わせて首を傾げた。
そんな綱吉と雲雀は実はおつきあいなるものをしている。喧嘩一つしない仲のいいカップルだ。それが嬉しいらしい骸は、何故かいつも途中で涙を流す。
分からないながらも雲雀がよしよしと頭を撫でながら、そういえばと綱吉を見る。
「君のお兄さん、今日スタジオ入りじゃないの?」
「はい。もうそろそろ着く頃だと思うんですけど…」
そう言って綱吉が携帯を取り出すが着信もメールもないらしい。まだ着いてないのかな、と首を傾げた。
一般人の綱吉の兄は歩いていたところを無理やり連れてこられてこのドラマに綱吉の兄貴分役として出演することになったのだが、芸能人向けの外見と反対に芸能人には全く向いていない性格をしている。
「俺、ちょっと見てきますね」
うーんと唸っていた綱吉が携帯片手に席を立つと、僕が行きますよ、と泣いていた骸が止める。
「骸さん以上に泣いてるかもしれませんけど…」
「いいですよ。慰めてきます」
「…それデジカメだよね。何撮る気?」
「泣き顔」
さっきまで泣いていたくせに、ではいってきまーす、と語尾に音符をつけかねない様子で骸が控え室を出て行く。
そんな骸が綱吉の兄にベタ惚れであることを知っている二人は、見送りつつも何ともいえない顔をした。
「…どんな兄さんでも記憶以外にも残しておきたいそうです」
「へえ。ベタ惚れだね」
けれど本人を前にすると乙女の如く何もできなくなるのだ。
言葉には詰まる、顔も見られない。そのせいで綱吉の兄は骸に嫌われていると思っている。
「そういえばこの間、兄さんの部屋に骸全集とか書いた本が本棚の一番上の段を占めてました」
「…何その本」
「骸の写真とか雑誌のスクラップとか」
「へえ。ベタ惚れだね」
骸に嫌われていると思っていても、何故か骸を好きになったらしい綱吉の兄は、本人と話せないためか何なのか、骸全集が愛読書になっている。
「見てて怖いんで、そろそろくっついてほしいです」
それはそれでどんなカップルになるのか分からなくて怖いけれど。

「何をしているんですか?」
耳元で囁かれてびくうっと体が跳ねた。後ろにはディーノと同じようにしゃがみ込んだ骸がきょとんとした顔をしていた。が、目が合った途端ばっと逸らされた。傷つく。思わず盾にしていた植木の葉を握ってしまい、ブチッとちぎってしまった。
「む、骸くん」
「な、なん、なんでしょう?」
泣きそうに顔を歪ませているディーノは、うつむいたまま耳を真っ赤にしている骸の指が時折デジカメを操作していることに気づかない。うつむいたままどうやって操作しているのか。いらない器用さだ。
「も、しかして、時間なのか?」
「まだ、ですけど。綱、吉君がですね。その、ええ、そうなんです」
「そ、そう、なのか?よく分からないんだけど」
何とも鬱陶しい遣り取りだが、これでも本人達は必死だ。綱吉と雲雀とすらすら話していた骸は影も形もない。
「それで、あの、何をして…?」
どうにか頑張って顔を上げてみた骸は、途端に真っ赤になったディーノに首を傾げる。
「え、と。あそ、こに」
「あそこ?」
ぎこちない動きでディーノが指差す方に顔を向ければ見たことのある女優。あの人が何だろう。そう思う骸に、何でか知らないけど、とディーノが続ける。
「やけにくっついてくる、から」
「は!?」
ブンッと今までにない力強さでディーノを振り返った骸は、先程までの鬱陶しさはどこへやら。どういうことですか、としっかりとした口調としっかりとした目でディーノに詰め寄った。
「へ!?ど、どうって」
「迫られてるんですか?いつからです?」
「え、えーと…ツナが雲雀くんとつきあい始めた頃、ぐらい?」
「そんなに前から!」
あの年増、と骸が女優を睨みつける。
ディーノは外見は極上だ。気の弱い泣き虫ではあるけれど、そこがいいという女性もいる。可愛がってあげたいのだそうだ。
ディーノに言い寄っているという女優は恋多き女で有名だ。次のターゲットはディーノか、と視線に殺気がこもる。
「隠れているということは、嫌なんですよね?」
こくん、とディーノが頷く。それに内心ほっとする。
「断りましたか?」
またこくん、と頷く。
それでもこうして隠れているということは、相手が諦めていないのだろう。さっさと諦めればいいのに。
骸はこれを預かってください、とディーノにデジカメを渡す。え?とデジカメと骸を交互に見るディーノにふわりと微笑む。普段からこれができていればいいものを。
「あの女優は僕が何とかします。ですからあなたはここで待っていてください」
自分に向けられた初めての微笑みに見惚れているディーノは無意識に頷いた。

「あれ?綱吉」
「はい?」
二人きりになった途端抱きついてきた恋人を膝に乗せていた雲雀は、首に埋められていた顔が上げられると駄目、と恋人の頭を元の位置に戻す。
「うん、やっぱり」
「ふえ?」
「シャンプー変えた?」
匂いが違う。そう言えば、あ、と綱吉が声を上げた。
「骸さんが兄さんにってくれたんですけど、自分で渡せないじゃないですか」
「うん」
「だから俺がもらったことにして、兄さんと使ってくれって」
「ふうん」
でも使いづらいんですよね、と洩らす言葉にだろうね、と笑う。他人のため、しかも想い人のために渡されたものを兼用するのは大層気が引けるだろう。
ぽんぽんと背を軽く叩いて手を上へと滑らせる。触れば柔らかい髪。顔を埋めればいい匂い。それに思いつく。
「じゃあ僕がシャンプー贈ったら使ってくれる?」
「え?」
「僕が使ってるのと同じのでよければ、だけど」
「え、え、え、ほしいです!ほしい!」
「じゃ、今度持ってくるね」
「はい!」
わーいと喜ぶ恋人の髪から自分の髪と同じ匂いがすればいいな、と思ったのだけれど、それに綱吉は気づいたろうか。
ぎゅうっと抱きしめて、今は恐らくは骸の髪と同じ匂いがするだろう髪に顔を埋めた。

「ただいま戻りました」

おう?と綱吉が声を洩らした。
ドアを開けた声の主は骸。本当に仲がいいですねえとホロリ。だからどうしていちいち泣くのだろうか。
その後ろにはディーノ。どういう経緯だ。何か進展があったのか。骸と手を繋いでいる。
「…兄さん」
ぐっと綱吉がディーノに親指を立てた。よくやった、と言いたいのだろうか。どっちが手を繋いだのかも分からないのに。
骸とディーノは手を繋いだまま雲雀の向かいに腰を下ろした。腕の位置から座って落ち着いてもまだ手は繋いだままらしい。
「あ、デジカメ」
「ああ、ありがとうございます」
互いに手を差し出して、お約束のように指が触れ合う。途端にぼんっと真っ赤になってばっと顔を逸らしあう二人。
「す、すみませ…」
「こ、こっちこそ」
「うわ、鬱陶しい」
最後の声は綱吉だ。半眼になって二人を見ている。気持ちは分かる。けれど可愛い顔が台無しだよ、と頬に口づければ、すぐに可愛らしい笑顔が返る。さっきの顔も可愛くないわけではないけれど、こっちの方が数倍可愛い。
「雲雀さん、大好きです」
「僕も大好き」
ぎゅううっと抱き合えば、向かいで骸が泣き出した。実は何かトラウマがあるのだろうか。両親が不仲だったとかいう何かが。
隣に座るディーノはおろおろするだけだったので、綱吉を抱きしめながらハンカチをディーノに差し出してやる。それを受け取ったディーノが骸の涙を拭き始めた。渡せという意味で差し出したのが、まあいいか。
綱吉があ、と声を上げて振り向いて、兄さん兄さん、とディーノを呼んだ。そして振り向いてディーノに小さな小さな声で一言。

「唇で拭うのがお約束だと思う」

抱きつかれている雲雀には十分聞こえる声だったが、ディーノまでは届かないだろう声。けれど何故か届いたらしい。きょとんとした顔をしたディーノがうえ!?と声を上げた。そして骸を見てハンカチを見て綱吉と雲雀を見た。頷く綱吉にディーノがおずおず頷いて。

「…っ」

骸が声なき声を上げた。
雲雀としてはまさか実行するとは思わなかったのだが。
嫌われているのだと思っている相手にこんな行動に出れないだろう、普通。意外と大胆だ。
真っ赤になって固まっている骸から綱吉に視線を戻したディーノが、次どうしたらいい?というような目を向けてくる。心なしか潤んでいるようだ。
抱きしめて兄さん、と声が聞こえた。それは無理だと言わんばかりにディーノが首を横に振った。グレードアップはしていない。むしろダウンしたというのに。よく分からない男だと思う。
それにしても、だ。少し綱吉とディーノの兄弟関係が気になった。

end

リクエスト「ヒバツナ・ディノ骸の芸能人パロ。リボーンというドラマに出ている俳優。役柄と性格は違う」でした。
楽しく書かせていただいたんですが、果たして違う性格で書けたのかどうか…。
本当は雲雀さんはもっと穏やかさが前面に出てる人で、綱吉に無自覚に甘い言葉吐きまくりな人のはずででした。ディーノさんは人見知り激しいうえにボロボロ泣き出す人で、綱吉は雲雀さん以外には毒舌ばりばりのはず…でした。力及ばすですみません(汗)。

そういえば雲雀さんはテレビで偶然綱吉を見てずっと気になってて、でも名前のない役だったから名前も分からなくて…という設定があります。もう一回見たいのに見れない、名前も分からない。そんなどうしようもない状態の時にリボーンの雲雀役のオファーがきて、何か引かれる役だったんで受けてみたらそこに綱吉がいてワオ、みたいな。
…雲雀さんにだけなんでそんな裏の設定があるんだろう。

リクエスト、ありがとうございました!

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送