「血の匂い」

「何か言ったか?ステラ」
じーっと上を見ているステラの呟きを拾いアウルが振り向けば、ステラは視線を動かさないまま答える。
「あの人、血の匂いがした」
「ダレ?」
「さっき」
「さっき?」
「目が合ったの、綺麗な人」
「はあ?」
話が見えない。顔をしかめたアウルに構わず、ステラは続ける。
「目はわからない。けど、髪…夜の色、宇宙の色、深い海の色。綺麗…、なのに血の匂いがしたの」
むせかえるような血の匂い。
アウルがスティングを振り返るが、スティングは苦笑して肩をすくめる。

だれ?だれ?だれ?

そんな二人を意識の外に、ステラはただそれだけを思った。


白の世界は、光の夢


「きゃっ!?」
衝撃に呻く。
キッと前方の緑のザクを睨みつける。
「…っ、の…おっ!!」

つよい。つよい。つよい。だれ?だれ?だれ?

ステラの攻撃をトマホークで受け流して攻撃を仕掛けてくるザク。
ステラのMSは新型のGなのに。目の前のザクは量産型のMSなのに。
このザクのパイロットは、きっとGに乗ったらもっと強いとステラは思う。

でも、負けない。

ビームサーベルを振り下ろせば、ザクにトマホークで受け止められる。力勝負。
そこでステラは眉をしかめ、そしてはっと目を見開いた。

何故だろう。血の匂いがした。

ステラの血ではない。相手の血でもない。嗅ぎなれた匂い。体にいつまでも纏わりつく血の匂い。
殺して殺して殺して、そうして纏わりつく匂い。つい最近も嗅いだ、むせ返るような…。

「…あの、男?」


ああ、あの綺麗な人。


「ああ…っ」

綺麗な人。
血の匂いを纏わせて…。
あの男が、乗っている。







「ステラ、平気か?」
「…」

ロッカールームの中、スティングの声にも気づかず、ぼうっとしているステラの頭の中は、空港で見た男と緑のザク。

また、会える?
また、戦える?

すっと両手を天にかざす。

「私が…殺すの」

ナイフで、あの胸を切り裂いて。

「きっと…綺麗」




ああ、早く会いたい。




流れる血は、きっと何よりも綺麗な赤だろうから。


* * *


ステラはベッドの上に寝転がって、アスランの膝を枕に目を閉じる。
優しい手が髪を撫でるのが気持ちいい。







緑のザクを捕まえた。
やっぱり強かったけれど、ガーティールーを追ってきた艦の盾になって動けなくなったところを捕まえた。
コクピットを開ければ、血に染まった白い顔。手を伸ばしてヘルメットを脱がして投げ捨てた。

会ったらナイフで胸を切り裂いて、その身の内に流れる赤を見たいと思っていた。
額から流れる赤は綺麗。もっと見たい。そう思ってパイロットスーツに仕込んでいたナイフを取り出そうと触れたその時だ。
目が開いて、ぼうっとした視線がステラを捉えた。意識は朦朧としているようだ。
その目の色は一度も見たことがなかった、今初めて見る色。

緑。

こんな色の海を知っている。
静かに波打つ綺麗なエメラルドグリーンの海が地球にはある。

綺麗な人。大好きな海の色を持つ人。

そっと指で白い肌に触れれば、ゆっくりと閉じられる目。
目が離せなくて、

ほしい、な。


そう呟いていた。







「アスラン」

アスランの膝の上から顔を上げて呼べば、どうした?と優しい目が向けられる。

ステラのもの。
ネオがくれた、ステラだけのもの。

戦って、胸を切り裂いて殺すのだと思っていた。
けれどだめだ。
ステラだけを見て、ステラだけを呼んで、ステラだけを抱きしめて。
アスランの何もかもをステラのためだけに使ってほしい。

一目惚れ。

アプリリウスでアスランに一目惚れしたのだろう、とネオが言った。

手を伸ばす。
アスランがその手の静かな要求を受けて、ステラを抱き起こす。
ぎゅっとアスランに抱きついて、そのままベッドに押し倒すとシーツに広がる深い海の色。
ステラの髪と混ざれば、海底から見る踊る光だとネオが笑った。

アスランの手がステラの頬を撫でる。それに目を細めて囁く。


大好き。







衣擦れの音。
高く上がる声。
ステラと呼ぶ声。
アスランと呼ぶ声。









二人だけの、世界。

end

リクエスト「白の世界に、金の光が一筋」で「ステラがアスランと出会った時」 でした。
今思いましたが、もしかして洗脳済みのアスランがステラと会ってからのことだったりしたでしょうか…?
そうだったらすいません(汗)。ステラがアスランを見て、気になって、そしてほしがる話になりました。

リクエスト、ありがとうございました。

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