せ か い 。


「生きるために、殺すの。ステラもスティングもアウルも、そうやって生きてきたの」

死ぬのは怖い。死ぬのはいや。だからステラは戦うの。生きるために。

「皆さん、生きたいと願う心は同じですわ。あなたがそう願うのと同じなのです」

だから、何?ステラはステラのために戦う、殺す。他の人も同じ。戦って殺す。

「ステラさん、人は確かに生きるために戦います。それを否定するつもりはありません。人に限らず命あるものは皆、生きるために何かと戦って未来を得るのですから」

では何を?何を否定するの?何をそんなに否定するの?

「ですが戦った後に残るものをお考えになったことがありますか?」

何も。戦って勝って、そうしたら次の戦いが待ってる。それだけ。

「失われた命を悲しむ人がいます。命奪ったものを憎む人がいます。そうしてまた争いの種が生まれます。それはとても悲しいことではありませんか?とても辛いことではありませんか?」

ふわりと微笑む姿はきれい。でもきれいで、怖い。
血を浴び続けてきた手に、きれいなきれいな手が触れる。怖い。

「力で得た世界は力によって滅ぼされます。力だけで平和は得られないのです。大切なことはわたくし達一人一人が平和を想う心です。コーディネーターもナチュラルもない、人として世界を想う心なのです」

体を引こうとするのに、大丈夫ときれいな指が優しくステラの手を叩いた。
違う。怖い。このきれいなひとが怖い。

「人は誰もが生きたいと願っています。平和な世界で大切な誰かと笑って生きたいと。
わたくし達はそのお手伝いをしたいのです。今のままでは世界は間違った方向へと進み続けます。
ザフトが勝っても連合が勝っても、それは力で得た勝利です。敗者は勝者の力に支配される。そこに本当の平和はありません」

敗者はいつか勝者となるために戦いを始めるだろう。勝者はそれを押さえ込もうと戦うだろう。再び始まる争い。戦いの連鎖。

「わたくし達はそれを分かってほしいのです。それに気づいてほしいのです。ステラさん、あなたにも」

そうして初めて周りが見えてくるのだと。本当の平和が見えてくるのだと。
そんなこと、どうだっていいのに!!

「いや!!」

手を振り払う。
このひとは怖い。微笑んで、優しい声で優しいことを言うのに、怖い。

「知らない!知らない!そんなこと知らない!」
「ステラさん!」

落ち着いてください、なんて手を伸ばしてこないで。怖い。
ベッドから飛び降りて、逃げる。でも後ろにいた二人が落ち着いてと手を伸ばす。いや!

「本当の平和なんて知らない。他の人なんて知らない」

今が精一杯。今戦って生きることが精一杯。
そんな精一杯の今の中でも大切だったひと達。大切なひと達。
なくして、悲しい。辛い。苦しい。うばわれて、憎い、憎い、憎い。

「悲しいのはステラ。憎いのはステラ。他は知らない。ステラは他の誰かじゃない」

知らないひとが泣いても、知らないひとが憎んでも。
そんなことを考えて生きていけるほど、余裕なんてない。
余裕がない世界で生きているのなら、大切なのは自分の気持ち。自分が大切に思うもの。

「それで何が変わるんだ!何も変わらないじゃないか!」

そんなの、知らない。今が大事。生きることが大事。

「その今を変えなきゃだめなんだ!戦って殺してずっと生きていくの!?それじゃずっと苦しいままだ!」

戦うために生かされてる。生きるために戦う。その先なんて知らない。
その一瞬一瞬しか考えられない人もいるの。先のことを考える余裕なんてない。ただ今を生きるしかない人もいるの。

「どれだけ殺したって何も変わらない、終わらないんだ!私達は終わらせなくちゃいけない、憎しみの連鎖を!戦いの連鎖を!」

そんなことは知らないと言っている!!

手が何かに当たった。がしゃっ。
手を動かして掴んだものはハサミ。息を呑むひと。

「ステラさ…」
「お前達が何をしようと私にそれを押しつける権利はない」

ハサミを向けて睨みつければ目を見開くひと達。
やめろと声が。話を聞いてくださいと声が。ハサミを下ろしてと声が。
真剣な顔で、でも見える油断。私が軍人だと分かっていないのかもしれない。

「押しつけているのではありません。考えてほしいのです、あなたにも」
「このまま進めば、世界は君のような女の子が戦わなきゃいけない世界のままだ」
「それを変えなきゃだめなんだ。そんな世界を私達が止めないといけないんだ」

だから私にそれを言ってどうなるというのだろう。
押しつけていないというのなら退けばいい。それ以上口を開かなければいい。
分かってと言う。考えてと言う。何度も何度も何度も。頷くまでずっとずっとずっと!!
それは強制だと分かっているだろうか。脅迫だと知っているのだろうか。

「君だって嫌でしょう?戦わずに暮らしたい。そう思わないの」

それ以外の生き方なんて知らない。戦わずに?どうやって。戦わずに暮らす方法なんて知らない。

「お前達と私は違う。私は、私達は戦うために育てられた。戦って殺して、そうして今日まできた。
そうする以外の生き方など知らない。教えられたのは戦え。殺せ。それだけだ」

恐怖。このひと達は、恐怖だ。
私の知らない世界を知り、私が思いもしない世界を作るために私の知らない平和を語る。
それを誰もが望んでいるものだと信じている。未知は恐怖だ。このひと達は私に恐怖を与える。
涙が頬をつたう感覚。ああ、泣いている。冷めた部分がそう思う。

だんっ

恐怖は排除する。
踏み込んでハサミを前に差し出せば、金のお姫さまがぴんくのお姫さまを庇った。
肌をかすめる切っ先。短く切れた数本の金の髪が電灯の光でキラキラと光った。
カガリ!と叫ぶのは立ちすくんでいた男。けれど知らない。そのまま右足を軸にしてぐるりと回る。
左足が金のお姫さまに当たって、庇われていたぴんくのお姫さま共々吹っ飛んだ。
駆け寄る男。金のお姫さまの片頬に赤が一線。初めの突きでハサミがかすった後。
男が私を睨む。私は続けて攻撃を仕掛けようと体勢を立て直して、体に走った痛みに呻く。
そうだ。怪我をしていた。ふらっと揺らいだ私に男が銃を構えて、動かないでと言った。

「キラ、いけません」
「だめだよ、ラクス。彼女は本気だ」
「ですが」

ぴんくのお姫さまが男を止めようとする。甘いのか愚かなのか。
金のお姫さまは手の甲で頬の怪我を拭って、ぴんくのお姫さまを抱き寄せた。

「私達を殺して、どうする。ここは私達の仲間しかいない。お前は逃げられないんだぞ」
「他も殺せばいい」
「おやめください、ステラさん!わたくし達はあなたを傷つけるつもりはありません!」

このようなことをする必要はないはずです、とこちらを案じるような目。怖い。気持ち悪い。理解できない。

「お前達は、私を否定する」
「違います!わたくし達はただ、あなたに」
「私はお前達じゃない!!」

男が引き金に指を置いているのを確認。けれど照準がぶれている。慣れていないのか。
手を動かす。銃口が揺れた。掴むのはベッドの上のシーツ。ばっと三人に向けて投げる。驚いたのか、銃声。シーツに穴が開いて銃弾が跳ぶ。頬にかすったけれど気にせずシーツへと突っ込む。
邪魔は男より金のお姫さま。そうすれば守りはずっと薄くなる。あのお姫さまは始めの攻撃を避けたし、蹴りを受け止めた時、腕を使って衝撃を和らげた。三人の中で一番体を鍛えているのも分かる。だから邪魔。
けれどまた銃声。シーツの中から適当に撃ったのか。ちっと舌打ち、前進を諦めて後ろに飛ぶ。だめだ。傷が痛んだ。失敗。

「…っ」

床に転ぶ。違う、転ばされた。強い力が体を下に押したのだ。全身が悲鳴を上げた。
その間にシーツの中から三人が出てくる。そして息を呑む音。なに。

「ど、して。なにして」

男の声。震えている。痛みに耐えながら目をあけると、すぐ側に滴り落ちる赤。落ちる赤を視線で追うと側に血溜まり。ゆっくりと赤を視線で上っていくと、見えたのは白の軍服。もっと上がると、ああ、知っている。見たことがある。 つい最近まで私の向かいのベッドにいた。

「アスラン、お前…!」
「もう、いいだろう。彼女の言う通りだ。彼女はお前達じゃない。これ以上、追いつめるな」
「なに言って」

驚いた。目を見開いてそのひとを見る。

二人しかいない医務室で、どちらも黙っていたけれど、一度だけ、シンのことを話した。聞かれたから。シンを覚えているかって。覚えてる。覚えてた。ステラを守るって言ってくれたひと。
傷つけたんだって。たくさん傷つけて、逃げてきたんだって言って、辛そうに目を伏せたそのひとが。お姫さま達と仲良く話していたひとが、ステラを守って血を流している。

「アスラン、わたくし達はステラさんを追いつめるつもりなど」
「現に追いつめています。分かるでしょう、ラクス。彼女は怯えている。あなた方に」

ゆっくりと体を起こす。反応するのは目の前の三人。
じっと私を庇ったひとを見る。振り向いたそのひとは、もう大丈夫だ、怯えなくていいと微笑んだ。

…怖くない。ああ、この人は怖くない。

「…っ」

涙が零れる。ぼろぼろと流れて落ちる。
手を伸ばして、痛いけど必死に手を伸ばしてそのひとの怪我をした腕に触れる。

「…いた、い?」
「大丈夫だよ。君は?」
「だい、じょうぶ」

そうか、とそのひとが怪我をしてない方の手で、ぽんぽんとステラの頭を撫でた。そしてそのまま抱き寄せられた。
ぽんぽん、と背を叩く音。もう大丈夫だよ。よくがんばったな。その優しい声にほっとした。
怖かった。怖かったの。だって知らないひとがたくさん。ネオもスティングもアウルもいないの。シンもいない。なのに知らないひとがステラに言うの。ステラの知らないこと、たくさん。ステラが分からないこと、たくさん。

「アスラン、どういうこと、なの」

呆然としたような声。呆然としたような視線。その中で泣いた。声を上げてわんわん泣いた。

怖かったの。ずっとずっと怖かったの。

ここは、怖いの。

end

リクエスト「アスステでアスランがステラをかばって負傷し、それを心配するステラ」でした。
何か…違う?アスランの出番少ないですね(汗)。すいません。

ステラは精神的に幼いところがあるので、知らない人ばっかりって絶対怖いと思います。
そんな中で自分の知らない世界を語られたらもっと怖い。大人でも怖いし。
それをアスランが分かってくれてたらいいなあと。
彼もあの艦の中で異端なので、キララクカガに分からないことが分かったりしてほしいなあと。

ちなみにアスランはキララクカガがステラのところに行ったと聞いて、気になって見にきました。
でも入るに入れなくて外でうろうろしてました。そしたら争う気配がしたので入ってきました。

リクエスト、ありがとうございました!

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