『自由』と名を持つモノ。




何度寝返りを打っても寝付けなかったキラは、目的もなく通路を歩く。
肩にはトリィを乗せ、時折話かけながらいつまでも訪れない眠りを恨む。
「整備…なんかしたらキリ、つかないよなあ」
下手をすれば整備班が起きだす時間にも気づかずにいるかもしれない。そうなれば怒られることは必至だ。
「まずマードックさんでしょ。そしてマリューさんにムウさん。ラクスにカガリにミリアリア」
指折り数えながら、あまりに多い数に眉をしかめて情けない顔をする。
「で、アスラン」
はあ、と天井を見上げながらため息をつく。
きっとアスランが一番怒る。子供の時から何度怒られたことか。
「やっぱりやめといた方がいいよね」
ね、とトリィに顔を向けると、緑のロボット鳥はトリィ、と首を傾げたそれに微笑んで、その贈り主を思う。

再び違えた道。どうして分からないんだと、分かってくれないんだと泣いた。
キラの思いなど子供の頃からなんの間違いもなく読取り、分かってくれたアスランに分からないはずがないのに、と。
けれどアスランは今ここにいる。ちゃんとキラの思いを汲み取って、戻ってきてくれた。
もしあのままアスランがザフトにいたらと思うとぞっとする。
いつかは分かってくれると信じてはいたけれど、それでも少し、不安だった。
「よかった」
アスランは強い。だからいつまで手加減して戦えるのか分からなかった。
だから、よかった。

『トリィ』

「トリィ?」
安堵の笑みを浮かべたその時、トリィがキラの肩からはばたき、先を行く。
どこ行くの、とトリィを追いかけたキラは、その先を目にして思わず立ち止まる。
そうして目を見開いたキラに構わず、トリィが鳴いた。
その声に展望室のガラスにもたれて宇宙を眺めていた人物か振り向き、片手を上げた。
その人物は手に止まったトリィを胸元まで下ろして、キラに視線を向ける。

「キラ?」

その呼びかけにはっとする。
「あ…アスラン」
アスランは首を傾げ、どうした?と尋ねてくる。それに眠れなくてと返しながら、アスランの側まで歩く。
「ねえ、一人?」
「一人だけど?」
きょとんとしたアスランの背後に目をやって、見間違いかな、と呟く。
「ラクス、いなかった?」
「はあ?」

アスランに笑いかけているラクスを、窓ガラス越しに見た気がしたのだ。
いつもラクスがアスランへと向ける微笑みではなく、好きだといわんばかりの笑顔。
けれどここにはアスランしかいない。去っていく足音もなかったし、完全に姿を隠す時間もなかった。
アスランは呆れた顔をして、顔を覗き込んできた。

「キぃラ?」
「え?」
視線をアスランに合わせると、くしゃと髪を撫でられた。
「ちょっ、なに!?」
アスランはくすくすと笑って、体を起こす。
「ほら、眠いんじゃないのか?夢現で歩いてると危ないだろ?」
「なっ、ちゃんと起きてるよ!!」
しかしいないはずのラクスを見たこと自体が自分でも寝呆けてたんじゃ、と思い、真っ赤になる。
「わかったよ」
笑ったままのアスランに違うからね、と念を押すと、頭を撫でられる。
「子供扱いしないでよ!」
拗ねてみせると、声を出して笑われる。
「アスラン!!」
「ごめん、キラ」
さ、寝ようか、と促すアスランに頷いて、二人並んで部屋へと戻る。
「じゃあ、おやすみ。キラ」
「うん。おやすみ、アスラン」

手を振ってアスランより先に部屋に入ったキラは知らなかった。
キラを見ながら辛そうに目を細めたアスランを。
そしてふわりと後ろからアスランを抱き締めたピンクの影を。

end

リクエスト「『正義』と名を持つモノ。」の続編。
キラはきっとアスランが強いことを知らないと思います。知ってるけど、知ってるつもりなんじゃないかと思います。
そしてキラにミーアは見えてません。守護霊なので、アスランにしか見えません。

リクエスト、ありがとうございました!

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