捨てられる。捨てられる捨てられる捨てられる!!
ミーアは怯えた。もうだめだ。完全に失敗した。ラクスが現れたことに動揺して、ミーアはミーア・キャンベルに戻ってしまった。ラクス・クラインでいられなかった。
今まで考えたことはなかった。ラクス・クラインでいられなくなったミーアはどうなってしまうのだろうか。捨てられてしまうのではないか。だってもう使えない。もう必要ない。捨てられたらミーアはどうすればいいのだろうか。全部捨てたのに。家族も友人も自分さえも!!もう残っていないのだ。もうミーアに戻ってもミーアには何も残されてはいないのだ。
嫌、嫌、嫌、嫌。ラクスでいたい。ラクスでいたいの。頭を抱えて震えた。
もう何も持っていないミーアに戻りたくない。たくさんのものを持っているラクスでいたい。でももうラクスでいられない。嫌、嫌、嫌。
それにミーアに戻ったらもうアスランに会えない。ミーアって呼んでくれるたった一人の人。ミーアを隠さなくてもいいたった一人の人。
嫌、嫌、嫌。絶対嫌!!大好きな人。好きなの、好き。初めはただの憧れだったけれど。アスランがいればラクスでいられるから、なんて打算的なことも思っていたけれど、今はただ好き。大好き。会えないなんて嫌。そして今、アスランの側を離れたくなんていない。ボロボロに傷ついてるアスランの側で大好きよって言って、少しでもいい。支えになりたい。なのに、なのになのになのに!!…失敗、してしまった。
怖い、嫌、怖い、嫌。
泣いて泣いて泣いて、泣くしかできなくて。どうしよう、どうしよう。そればかり繰り返した。


アスランがきてくれるまで、ずっと。


Sacrifice

「どういう、こと?」
ミーアがラクスではない、というのは分かる。けれどアスランがザフトではないというのはどういうことだ。確かに今のアスランは軍服を着ていない。ならそれはザフトをやめたということ?帰ってきてくれたということ?
そう思うけれどふと向けたラクスへの視線があるものを捉えた。ラクスが押さえている腕。そこから流れる赤。滴り落ちる、赤。
「ラクス!」
そうだ、撃たれたのだ、誰かに。誰かに撃たれた。手当てをしなければ。それにこんなところでのんびりしている場合じゃない。撃った誰かが今もどこかにいるのだ。
なのにラクスはわたくしは大丈夫です、と動かない。そして撃った相手は分かっています、とアスランを見る。まさかまさか、アスランがそんなことするわけない。ラクスを撃つなんてそんな酷いこと。…違うよね?そうアスランを見れば、アスランは仕方がないでしょう?と嗤った。


「あなたが悪いのですよ?ラクス。ミーアに触れたのだから」


だからいつまでも触れているその手を撃った。そう言って、これでも随分我慢したんですが、と首を傾けた。
それをミーアがぎゅうっと腕を強く強く抱きしめてアスランを見上げた。

「大丈夫よ、アスラン。あたしはアスランが好きなの。あたしにはもうアスランしかいないの。だから心配しないで。不安にならないで。あたしはどこにも行かないわ。他の誰のものにもならないわ」

アスランがミーアを見下ろして。そして頷いた。ミーアが嬉しそうに笑った。
それを目の前にキラは混乱する。どういうこと、何なの。思わずラクスを抱く腕に力を込めた。ラクスがふらっとキラに寄りかかった。もしかしたら失血のせいかもしれない。なのにラクスは動かない。そして気になることがありすぎてキラも強引にラクスを連れて帰れない。
そんな二人をどう思ったのか、また嗤ってアスランが視線を向けてきた。

「俺達はザフトから、プラントから逃げてる最中なんです」
少し時間を稼ぎたくて、丁度よくコペルニクスに居合わせたあなた方を呼び出させてもらいました。その言葉の意味が分からない。
「どういうことですか」
「ここが中立都市だからと安心していたでしょう?ラクス。ですが何事も例外が存在するんですよ」
そう言うなりアスランがミーアを姫抱きして駆け出した。途端、バンッと銃声が二つ。体を硬くしたキラとラクスの脇をアスランが駆け抜ける。何、どういうことなのアスラン!と叫びながら、キラがラクスを連れて後を追う。ラクスも混乱しているのか、しばらくは黙って走っていたが、追いかけてくる足音に我に返ったようだ。
「いけません、キラ!」
「え?」
「このままアスランを追うのは危険です!」
「何言って…ラクス?」
ラクスがキラ道を変えたのにキラが慌てて追う。途中アスランを振り返るが、見えたのは口元を上げたアスランの姿。

ぞくっとした。

あれは本当にアスランなのだろうか。そんなことを思った。
けれどすぐにそんなことも思えない状態になった。突然ラクスが立ち止まり、キラも少し遅れて立ち止まって体を震わせた。目の前に銃を構えた男が三人。きた道を戻ろうにもそちらにも銃を構えた男が二人。挟まれた。
「…っ、あなた方はアスランを追っていらしたのですね」
「ええ。脱走兵アスラン・ザラとラクス様の名を騙った偽者の少女を。ですがまさかその先でラクス様にお会いできるとは」
運がいい、と前方の男が一人笑った。
キラがくっと歯を食いしばりながら銃を取り出そうと手を動かして…思い出す。持っていないのだ。持ってきた銃はミーアが持っている。応戦する術がない。さああっと真っ青になる。

「…っ、アスラン!!」

ラクスが憎々しげにアスランの名を呼んだ。
全て全てアスランの企み。ああ、何てこと!

「一体どういうことなの!」
どうしてこんなことになった、とAAの艦長席でマリューがドンッと拳を下ろした。
コペルニクスに入港し、ラクスとキラが街へと下りていった。そうして二時間経った頃、キラからラクスの名前を騙っていた少女から助けを求められたため、指定された場所に向かうと連絡がきた。危ないから戻ってくるように言ったのだが、ラクスがキラがついているから大丈夫だと言った。けれど念の為アカツキを寄越してほしいと指定された場所を教えられ、急いでフラガに出てもらった。
けれど発進直後にコペルニクスから警告が飛んだ。MSの発進は許可していないと。今すぐ戻さなければコペルニクスに対する攻撃と判断し、相応の対応をさせてもらう、と。事情を説明しても許可は下りない。マリュー達の説明が事実であると判断する材料がないこと、そして突然上空をMSが飛ぶという恐怖を住人に味合わせるつもりはないと。
このままではコペルニクスを敵に回す。けれどラクスとキラを助けなければ。苦渋の決断。フラガにそのままキラ達の元へ行ってくれと頼んだ。そうしてAAは港を離れる。キラ達はアカツキに乗せて戻ってきてもらえばいい。
その結果がコペルニクスからの攻撃。AAにアカツキに。アカツキとAAがその相手に手間取っている間に時間は過ぎ、焦りが募った。キラ達は無事だろうか。
自分達ではどうにもできなくなって、マリューはカガリに連絡を取った。すぐにカガリがコペルニクス政府に連絡を入れると言ったが、まだ攻撃は止まない。
結局アカツキも一緒に何とか宇宙に出てきたが、コペルニクスはこちらへの警戒を弱めない。近づけば砲撃される。このままではキラが、ラクスが。
そう思った時だ。索敵レーダーがザフトの艦を捉えた。前方にコペルニクス、後方にザフト。コペルニクスは一定の距離さえ保っていれば砲撃されないが、ザフトは違う。逃げようにもキラ達がまだコペルニクスにおり、ザフトの攻撃によってだとしても、少しでも距離を縮めればコペルニクスから砲撃される。
AAとアカツキだけでやり過ごせるだろうか。フリーダムが動かせないというのに。ああ、キラさえいれば。

「アレックス、そろそろ出港できそう?」
髪を一つにまとめた黒髪の青年に、黒髪を帽子の中に隠した少女が声をかけた。青年と少女は互いの姿を互いの眼鏡の硝子越しに認める。
「いや、まだかかりそうだ」
青年が苦笑して見上げている広いスクリーンにはザフトと交戦する艦、AAが映っている。先程まではコペルニクスと交戦していた。
「迷惑な話よね」
怯える人、憤る人、様々な人が出港を待っている。AAのおかげで便に大きな狂いが出た。
コペルニクスと交戦していた時は誰しも不安そうにスクリーンを見上げていた。だがザフトが現れ、AAと交戦を始めれば歓声があがった。政府が助けを求めたのだと思ったのだろうか。とにかくこれでシャトルに乗ることができるのではないか。コペルニクスにやってきた脅威は去るのではないか。恐怖と不安に苛まれた分だけ、彼らはザフトへと期待した。その艦を早くどうにかしてほしい、と。
「…大丈夫かしら?」
「うん?」
「早くシャトルに乗りたいのに…」
うつむいた少女の肩を青年が抱いて、大丈夫だよと囁く。
「彼らもこれ以上の騒ぎは起こせないだろう。それに彼女達を捕らえただけでも十分だ」
今、AAが騒ぎを起こしている。そのせいでコペルニクス政府はぴりぴりしている。その中で新たな騒ぎを起こすなど自殺行為だ。
「ねえ、どこまで台本通りになったの?」
「さあ?」
青年が綺麗に微笑んだ。
向けられた少女がぼんっと真っ赤になった。そしてうう〜と唸りながら青年の胸に顔を埋めた。

コペルニクスと交戦したAAは、以前はアンノウンであったというのに、フリーダム共々いつの間にかオーブ軍籍となっていた。そのためオーブはコペルニクスを騒がせた責任を求められることになった。
しかも、だ。オーブ代表が交戦中に、AAのしたいようにさせても大丈夫だから攻撃を中止してほしい、というようなことを政府に告げてきたのだというのだから、今回の騒ぎに代表も絡んでいたのだと世界の知るところとなった。取り戻しかけていた中立国家の名は完全に堕ちた。
そうしてザフトに捕らわれたAA。フリーダム。ラクスが捕らわれたという話は聞かないが、おそらくそのうち名前をきくことになるのだろう。罪人として。

大切だった。守りたかった。キラもラクスもカガリも皆、皆。けれど今はどうでもいい。
この先世界はどうなるのだろうか。ラクスもカガリもいない世界は。圧倒的な力を集結させていたAAもオーブもいない世界は。デュランダルの思い通りに動くのだろうか。どこかでまた止めようとする動きが出るのだろうか。それも今はどうでもいい。
隣にミーアがいる。二人どこまでも逃げ続ける毎日だけれど、ミーアがいて、笑って、一緒に生きている。もうそれだけでいい。


『僕は君を撃つ!』


耳にいつまでも残っていた声。次いで水音。それが薄れて薄れて、とうとう無くなった。
だからアスランは嗤った。

さ よ う な ら 。

end

リクエスト、「黒アス×ミア。ミーアさえいれば世界がどうなろうと構わない独占欲の強いアスランがキララクカガを見捨てる」でした。
カガリがいなくてすいません。途中までは覚えてたんですが、気がついたら終盤にさしかかっており、カガリが入る余地がなかったという(汗)。
そしてアスミアはずっとプラントから逃げ続けます。二人で生きていきます。もうお互い以外何も残ってない状態です。当初の予定から設定が大きく外れてしまいました。原因はミーアです。ミーアのある一言が流れを大きく変えてしまいました。でもこっちの方がのりのりで書けました(笑)。

リクエスト、ありがとうございました!

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