Recapture it!


「私の部下を返して頂きたいのですがね、アイリーン・カナーバ議長」

休戦が為されてすぐ、クルーゼ隊は議会の命によって拘束された。
隊長であるラウ・ル・クルーゼはこれより戦犯とされるパトリック・ザラの子飼いとして有名で。
その下につくザフトレッド五人の内一人は脱走兵、一人はパトリック・ザラの片腕を母に持ち、一人はパトリック・ザラの心棒者の息子。一人は戦中、強硬派に転向した父を持ち、一人はパトリック・ザラの息子であり、脱走兵。
クライン派は優秀と名高いクルーゼ隊に、これだけのザラ派と関わりを持つ彼らを警戒した。
もちろん脱走兵たる二人はそれだけでも罪といえるのだが。

しかしアスランを除いた四人は解放され、議会の監視下に置かれることとなったというのに、アスラン一人いつまでたっても処分が下されない上、情報一つ入ってこない。
そのため、クルーゼが直接掛け合ってみれば答えは、

「アスラン・ザラはもうプラントにはいない」

仮面の下、クルーゼが眉をしかめる。
それに気づいたのかどうか、アイリーンはいないのだ、ともう一度繰り返す。
「どういう意味かお聞きしても?」
「彼はプラントに置いておくことができない。彼は火種となる」
「なるほど?クライン派にしてみればさぞかし邪魔でしょうね。それで追放されたと?」
「亡命を薦めただけだ」
眉をしかめたアイリーンに、クルーゼは同じ事だと胸の内で嘲笑う。しかし表向きは頷くに止める。
アスランならばその薦めに応じたろう。あれは自らが火種となる事を望まない。
そしてザラの名を持つ自分の危険性をも知っている故に、亡命という言葉で包んだ追放処分に感謝すらしたろう。それが彼の隊長や彼の同僚にどういう感情をもたらすか知らずに。
仕方のない子だ、とクルーゼは小さくため息をついた。


* * *


レイは他国の戦艦を歩くオーブ代表たるカガリを見つけ、眉をしかめる。どうして彼女がここにいるのだろうか。部屋は用意してある。本来ならばそこにいてもらわなければ困るのだし、当然いるものだと思っていた。
他国の戦艦を自由に動き回るとは思っていなかったから、驚きよりもまず苛立ちが先に立った。
それに護衛がいない。カガリは一人の護衛と共にミネルバにやってきたのだ。
普通、護衛が護衛対象を離れることはない。他国にいるならば尚更だ。どういうことだ、と思って気づく。カガリと距離を取った場所に隠れるようにして彼女の護衛がいた。気配も絶っている。
思わず首を傾げながら、こちらもカガリに気づかれないように気配を絶って護衛に近づく。

「すまない」

護衛がレイを見て唇だけで謝る。カガリが艦内を歩くことに対しての謝罪のようで、艦長には許可を頂いたと続く。それに頷いて、こちらも唇だけで何をなさっておいでですかと返すが、困ったような顔。
それから他国の人間には言い難いことかと理解して、前を歩くカガリを見る。歩き方が乱暴だ。もしかして彼女は怒っているのか。そう思えば推測できる。
何があったのか、カガリが怒って出て行ったのだろう。もしかしたら護衛についてくるなとでも言ったのかもしれない。もちろんそういうわけにはいかないから、こうしてこっそり影から護衛している。そういうことだろうか。
一人で納得していると、それが分かったのか護衛が少し情けない顔をした。
「しばらくしたらこちらで代表に声をかけます。ですからその間に部屋に戻ってください」
唇を動かしてそう告げると、護衛はますます情けない顔をして、すまないと謝罪する。それに首を横に振って、こちらもあまり艦内を歩かれると困りますからと小さく笑む。
そしてレイはカガリの元へと足を進めた。後ろで護衛が困ったように、けれど安堵したように息をついたのを感じる。

「アスハ代表」

振り向いたカガリがレイを睨みつける。何だ、ではないだろうとため息をつきたいのを我慢する。
今ならレイの保護者たる人が部下達を巻き込んで色々と画策する気持ちが分かるような気がする。
任務ならば仕方がない。文句は言わないが、選べるのならばこんな迷惑な護衛対象はごめんだと思った。


* * *


「今、ミネルバが軌道を地球へと変えたユニウス・セブンを止めるために動いている」
「ユニウス・セブンが?!」
イザークの問いにクルーゼがそうだと頷く。
「人為的なものだ。それゆえにユニウス・セブンを地球へ落とさんとする者達が、ミネルバへと攻撃を仕掛けている。 ミネルバが追いかけていた地球連合軍の艦もまた、ミネルバに攻撃を加えているという。 こちらはミネルバがユニウス・セブンを落とそうとしているという勘違いの行動だそうだが。 我らはミネルバの援護に向かい、ユニウス・セブンを砕けとの命令だ」
「はっ」
敬礼する部下の赤服四人に、クルーゼは口元を上げる。
「ユニウス・セブンはアスランの母親が眠る場所だ。そうでなくとも我らコーディネーターにとって大切な場所だ。 アスランのことだ。おそらくは戦場に出ているだろう」
「では」
「そう。だがユニウス・セブンを砕くことが優先だ。我らが狙うは大気圏に突入する前。退くその一瞬を狙いたまえ」

アスランがオーブへ亡命してから二年。クルーゼ隊は最高評議会監視の下、忙しい日々を送っていた。
けれどその水面下である計画が進められていたのだが、それがようやく形になった。

アスラン・ザラを取り戻す。

それは容易なことではないし、アスランの意志の確認もしていない計画だ。けれど実行することに躊躇いはなかった。
何故ならオーブに降りたアスランの状態が、必ずしも笑って見守ってやれるものではなかったからだ。
亡命した以上、名を変えるのは当然だ。それはいい。オーブ代表の護衛官となったのもいい。アスランほどの人物を外に放つのは危険と判断したのだとすれば、それは仕方のないことだといえるからだ。だからアスランを監視する意味を持っての判断なら、不快に思いはすれども文句は言えない。
では何が問題か。

まずアスランを護衛官に採用した理由だ。完全な私情。オーブ代表となったカガリ・ユラ・アスハの私情だ。
彼らは停戦間近に恋人といえる関係になったのだという。けれどカガリには婚約者がいた。にも関わらず、カガリはアスランを自分の側に置くと宣言したのだ。
アスランに職を、と思ったのだとしても、周りはそうは思わない。恋人、いや愛人を側に置くための処置だと思う者が大半だろう。
ゆえにアスランはコーディネーターであるからという理由以上に、カガリの愛人だからという理由で白眼視されている。それにカガリのみならず、幼馴染のキラ・ヤマトも元婚約者のラクス・クラインも気づいていない。
そしてアスランはそんな状況であれ、人に弱音を吐くこともせず、自分の内に溜め込む人間だ。むしろ自分が悪い、自業自得だ、そんな思考に走る人間だ。ゆえにそんな状況ですら甘受する。

そんな状況許せるか!と叫ぶのがアスランの同僚達だ。
あの馬鹿が。だから腰抜けだと言うのだと、アスランのライバルであるイザークは憤る。
本当に世話のかかる奴だよな、とディアッカはため息をつき、ニコルは悲しそうに目を伏せる。ラスティはアスランだからなあと苦笑。
そして彼らの隊長であるクルーゼは、気づかないということはあちらはそれほど彼を必要としていないということだ。ならば我らが取り戻しても構うまい、と笑った。

アスラン・ザラが危険だと言うのは、所詮は彼らの政治的なものが大きい。ならばザラ派と接触させなければいいだろう。
そういう問題ではないと最高評議会は言うだろうが、要は周りを騙しきれば勝ちなのだ。
幸いクルーゼ隊は危険視されているおかげで、影の仕事が多い。表に出ることはそうないのだ。
だから、とクルーゼ隊は動く。

我らがエースを返してもらおう、と。


* * *


「は…?」

思わず声が出たのは仕方がないと許して欲しいとアスランは思う。
ユニウスセブンを砕く作業は、ユニウスセブンの軌道を変えたテロリスト達との戦闘や、地球連合軍の勘違いによる邪魔のせいで思うように作業は進まなかった。
それでもできる限りはと動くアスラン達に大気圏突入前に撤退命令が出された。
地球の重力に捕まれば艦には戻れない。だから命令に従って他のMSが離脱する中、アスランはまだ途中の作業だけでもと残った。
だがもう限界だと判断し離脱しようとした時、何故だ。何故か攫われた。がしっと両腕を二機のMSに掴まれて、大気圏突入。
二機のMSはよく見慣れたもの。デュエルとバスターだ。大気圏でも耐えられるGと違ってアスランはザクに乗っている。耐えられるのかどうか微妙な線だ。なのに二機は迷いなく突入した。

「はあ!?」

叫ぶ。黙ってろ!と怒られた。何故だ。
背後には地球。全面には崩れたユニウスセブンの残骸。この残骸に紛れて二機はやってきた。まるで隠れるように。
何を考えて、と元同僚達に思うが、体にかかるGにぐっと歯を食いしばる。
もし無事に地球に降りられたとしてもザクは使い物にならないだろうし、自分の体も耐えられるかどうか。
両隣の元同僚達もアスランほどではなくても体にGがかかっているはずだ。なんて無茶をと思った瞬間、意識が落ちた。

次にアスランが目を覚ました時、元同僚のイザークとディアッカ、ニコルとラスティ。そして先輩のミゲルや元上司のクルーゼと顔を合わすことになる。
そのうえ何故か彼らが所有する新たな艦に乗っていることを知ることになり、新たな混乱がアスランを襲うことになる。
その混乱に乗じてのクルーゼの口車に乗せられ、気がつけばあれ?と首を捻っていることになるのだが、今のアスランは何も分からないまま、気を失うなど鍛練を怠った証拠だ!とイザークの心配の裏返しを受けているだけだった。

end

リクエスト「DESTINYでクルーゼ隊生存。クルーゼ隊再結成」でした。
出てきませんでしたが、隊長は艦の中、ミゲルは撤退を指示していて、ラスティとニコルは裏方です。
いち早く撤退してミネルバを誤魔化すためにハッキングしたりして、ザクが大気圏内で消滅したことにしようとしてます。
地球に落ちた三人は後で回収されます。アスランは熱出して大変です。以上、書けなったその後でした。

リクエスト、ありがとうございました!

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