「で、きた。できたできたできましたヒバリさん!」

魔術が使えた成功した敵に当たったやったすごい!
そうはしゃぐ綱吉を後ろに、トンファーを自在に操って雲雀が異界生物を地に沈めていく。
魔術が使えないというより、暴走させるばかりの綱吉がまともに使えたのは珍しい。褒める子は伸びる。後で褒めておこう。
そう思いつつ異界生物を全滅させた雲雀は、彼らの装備品を漁りにかかる。

「綱吉」
「あ、はい!」
まだはしゃいでいた綱吉が、雲雀に呼ばれて駆け寄ってくるのにに異界生物の所持品を渡す。失くしても諦められそうなものを。
そうでないものは自分で持つ。一日の生活がかかっているのだ。こけて落として収入ゼロは避けたい。
そうして一通り漁ると、雲雀はもういいかな、と辺りを見渡す。静かだ。この周囲にはもう異界生物はいないらしい。
「じゃあ上に戻ろうか。さっさと売って金にするよ」
「はい!」
いつもは役に立てないばかりか足を引っ張ってばかりの綱吉は、今日は役に立ったせいか上機嫌だ。
その姿は見ている雲雀にも笑みを浮かばせる。

別にドジをして異界生物を大量に引き寄せてくること自体、雲雀は迷惑どころか大歓迎だ。
戦うことは好きだ。それが思う存分できるのだから文句はない。
だから綱吉が気にする必要はないのだが、こうして喜ぶ姿が見れるのなら、たまには役立ってもらうのも悪くはないな、と思う。

そうして二人は異界生物の棲み家であるアンダーグラウンドを出て、彼らの宿があるエルデンへと戻った。




パズルのピースのように出会った僕ら




サランド無統治王国という国がある。
魔導王キング・グッダーが建国した国であるのだが、他の国と大きく違う点がある。
君臨すれども、統治せず。支配すれども、関知せず。それがサランド無統治王国の原則だ。
つまり法も秩序もなく、盗むも奪うも殺すも自由。盗んだ者が明日は奪われる。殺した者が次の瞬間殺される。 それが日常。
だからこそ人が集まる。それは犯罪者に限らず、様々な理由で行き場を失くした者の最後の寄る辺。
誰でも受け入れる国。誰でも出て行ける国。けれど何があっても文句は言えない国。

そのサランド無統治王国の首都エルデンには、クラッカーと呼ばれる者がいる。
エルデンの地下、アンダーグラウンドに潜り、そこに棲む異界生物の装備を売って収入を得る者のことだ。
中にはレアな装備を持つ異界生物もおり、収集家がクラッカーに依頼することも、収集家自身がクラッカーになることもある。
雲雀と綱吉はレアな装備に興味はないが、そうやって収入を得るクラッカーの一人だった。




「本当に機嫌いいよね、君」
換金を追え、宿に戻って食事にしようと帰り道を歩く中、鼻歌まで歌い出した綱吉を雲雀は呆れたと言わんばかりに見下ろした。
「だって!初めてですよ!?俺、初めて役に立てたんだなあって!」
「そうだね。その調子でがんばって」
ぽんぽんと興奮する綱吉の頭を叩くと、むうと頬をふくらませてきた。どうやら適当なことを言ったと思われたらしい。
まあ、別に役に立とうと立ったまいとどちらでも構わないのは確かだ。
けれど魔術が上手く使えるようになれば、アンダーグラウンドをより深く潜って行けることも確か。そうなればより強い異界生物と戦える。
だからがんばってという言葉に嘘はないし、こうして嬉しそうな綱吉を見るのは嬉しい。だから小さく微笑んで言う。

「前に言ったでしょ。君に魔術の才能があろうとなかろうと関係ないって。
魔術の才能があるなら、それが開花されるまで待っててあげる。開花しなくても僕はずっと待っててあげる」

だからゆっくりでいい。ゆっくりと歩いておいで。

それに綱吉が嬉しそうに笑って、はい!と頷いた。
その時。

びゅんっ

風を切ってこちらに飛んでくるものがあった。薔薇だ。赤い薔薇。このままだと綱吉に刺さる。
トンファーで叩き落そうかと思ったが、そうなれば綱吉が悲しむ。生花であれ造花であれ綺麗なのに、と。
だから綱吉を抱き寄せて、薔薇を手で掴み取る。

「生花か」
「え!?ヒバリさん、怪我してませんか!?」
「平気。棘、ついてないから」
あ、ほんとだ、と綱吉が雲雀が持つ薔薇の茎を覗いた。
「でも、何で薔薇が飛んできたんでしょうね?」
「誰かが飛ばしたんじゃない?」
「…いや、そりゃそうでしょうけど」
そういうことじゃなくて、と困った様子の綱吉に首を傾げれば見たくないものを見た。
眉をしかめると、気づいた綱吉が振り返ろうとする。それをとっさに止めて、帰るよと肩を抱いて振り向かせないように足を進めた、のに。

「お、恭弥。薔薇見なかったか?」

ちぃっと舌打ちする。
見たくなかったものパートワンに声をかけられた。しかも薔薇。今、手に持っている。
さっさと捨てればよかった。むしろトンファーで叩き落せばよかった。
「ヒバリさんのお知り合いですか?」
そんな後悔の中、綱吉が見上げてそう言うのに、知り合い以下だよと返してパートワンを振り返る。
そこに立っていたの金髪の男。腕には盛大に嫌がる見たくなかったものパートツーを抱き込んでいた。
「これ?下手したら刺さってたんだけど」
どうしてくれるの、と言いつつ綱吉を後ろに隠す。パートツーに会わせたくないからだ。
なのに薔薇を受け取ったパートワンが目ざとく見つけた。
「お。もしかして恭弥の連れの魔術士か?」
パートワンは話には聞いたことあったけど会うのは初めてだよな、と笑って手を差し出した。
「俺はディーノだ。よろしくな」
「は、あ。綱吉です」
よろしくお願いします?と手を差し出す綱吉の手を取って、よろしくしなくていいよと言えば、
握手しそこねたディーノがつれねえなあと苦笑した。それを睨みつけると、ディーノの腕の中のパートツーが動きを止めた。

「綱吉?」

そう呟いて、パートツーがこちらを見て、げ、と言わんばかりの顔をした。
雲雀に言わせれば、こっちがげ、だ。

「え、骸さん?何で…」
「同じエルデンにいるんですから会うこともあります。会いたくありませんでしたが」
「す、すいません」

雲雀が綱吉と出会ったのはエルデンへの道中だったのだが、エルデンまで一緒にやってきて、着くなり別れた。
そして再会して、こうして一緒に行動を共にするようになったのだが、骸とは別れてから再会するまでの間に出会ったらしい。
その際に多大の迷惑をかけたのだという。異界生物を大量に引き寄せて命の危機に陥らせたとか、
逃げる最中にドジをして異界生物に見つかって巻き添えを食らわせとか。そのせいで綱吉は骸から悪感情を持たれている。

当然といえば当然のことだ。けれど雲雀は気に食わない。好意を持たれるのも気に食わないが、骸と会えば綱吉が自分を責めて傷つく。
自業自得と言うなら言え。けれど反省して、二度とやるまいと誓ってそれでも繰り返してしまうのは綱吉のせいではない。
もしかしたら何割かは綱吉の性格のせいかもしれないが、大きな原因は綱吉の師匠のせいだ。
そんなことを骸が知らないのは当然だし、それを責めるのはお門違いではあるが、知っている雲雀としてはそんなことは関係ない。
だから綱吉のことをよく知らずに一度や二度の命の危機を根に持って、会えば嫌味ばかり言う骸を雲雀は嫌っている。
一度や二度の命の危機を根に持たない者などそういないし、雲雀のように命の危機が迫れば迫るほど相手を倒すことに
愉しみを見出すものもそういないのだが。

とにかく、雲雀はそういうわけで綱吉を骸に会わせたくなかった。
なのにそれを台無しにしてくれたディーノを射殺さんばかりに睨みつけると、

「もういいよね。僕らはもう帰るところだから」

そう言って、返事も待たずに綱吉を連れて踵を返す。
え、ちょっ、ヒバリさん!?と後ろ二人を気にする綱吉に、いいからと返して。

ああ、せっかく笑ってたのに。

少し元気を失くした綱吉に、雲雀はディーノ達への悪感情を増幅させた。




「…恭弥に何かしたのか?骸」
呆然と雲雀と綱吉を見送っていたディーノが腕の中の骸を見れば、されたのは僕ですと不機嫌そう。
「よくあのトラブルメーカーを連れていられますよね、彼」
その言葉になるほど、頷く。

聞いたことはある。雲雀の連れの綱吉は、魔術士でありながらろくに魔術を使えないのだという。
何故か杖の他に大剣を持っていて、いつも小さな体で背負って歩いてる。
ある意味魔術よりも大剣を使う方が役に立つのだが、とんでもないトラブルメーカー。一緒にいれば命がいくつあっても足りない。
その被害者の一人だったのか、骸は。

「ま、恭弥だしな」
戦闘狂の雲雀には願ってもない相手だろう。それ以上にどうやら綱吉を気に入ってるようだし、
綱吉も綱吉で雲雀に懐いているようだから、お互いにとって最良のパートナーなのではないだろうか。

「てーことで、骸。はい、これ」

何が気に障ったのか、話している最中に突然ディーノめがけて薔薇を投げた骸に、再び薔薇を差し出すと顔が歪められた。
けれどちゃんと受け取ってくれる。それに顔が緩む。

「勘違いしないでください。花に罪はないし、もったいないから受け取るだけです」
「ああ、分かってるって。愛してるよ、骸」
「僕は愛してません!むしろ嫌いです!」
「照れるなって。大丈夫、お前の気持ちはちゃんと分かってるから」
「誰が照れてますか!一度医者に見てもらいなさい。相当末期ですよ」
「恋の病は医者にも治せないんだぞ?」
「頭、湧いてるんじゃないですか!?死ね!死んでしまえ!」

ぎゃーぎゃー叫んでいる骸の顔は真っ赤で、ディーノは心が浮き足立つのを感じる。そして何より骸が腕の中にいる。
それに骸が気づけば殴って逃げ出すのだろうが、気づいていない今があるだけで十分だ。
それだけ心を許してくれているということなのだから。
ここまでくるのにどれほど頑張っただろうか。思わず涙。

「聞いてるんですか、あなた!」
「聞いてるって。お前の言葉は一文字でも聞き逃がさねえし」
「気色悪いこと言わないでください!」
「愛だって」
「いりませんよ、そんなもの!」

本人達は気づいていないが、周りに人だかり。二人は立派な見世物だ。
それにようやく気づいた骸がディーノを殴りつけ、二度と顔みせるなと叫んで走っていくまでに、五分の時間を要した。




宿で夕飯を食べて部屋で各々のことをする。いつもなら雲雀は読書、綱吉は魔術の勉強。
けれどその途中で眠るものだから、綱吉になかなか進歩は見られない。
なのに今日の綱吉は、大剣をじっと見て動かない。

「ヒバリさん」
「何?」
「俺、剣の練習しようかと思うんです」
「どうして」

確かに魔術より剣の方が使えはするけれど、魔術よりマシな程度だ。
それにただでさえきゃあきゃあ言いながら異界生物から逃げ惑っているのだ。接近戦ができると本気で思っているのだろうか。

「だって、ほら。魔術だと全然使えなかったり、暴走したりばっかりじゃないですか。時々ヒバリさん巻き込むし」
「おかげで腕が上がるから、僕に不都合はないよ」
むしろ大歓迎だ。

暴走した魔術を避けるための素早さや状況把握能力は、エルデンにくる前に比べれば格段に上がった。
暴走した魔術を利用して獲物を咬み殺す手段も覚えたし、その時その時によって攻撃手段を変えるので、
以前に比べて臨機応変も段違いにきくようになった。
はっきり言おう。魔術が上手く制御できて成功するよりも、暴走してくれたほうが嬉しい。
そんなこととは知らない綱吉は、でも、としゅんとなる。それに軽く眉を寄せる。

「あのね、他の誰が何言ったって関係ないでしょ。君は僕以外と組むつもりがあるの?」

ふるふると即座に否定されるのに気分がよくなる。肯定されても他の誰かと組むことなど許しはしないが、
ちゃんと綱吉が否定してくれるのとしてくれないのとでは大きく違う。

「ならいいじゃない。僕がいいって言ってるんだからさ」

君は魔術士。魔術を諦めて剣を磨く必要はないよ。そういえば、大きな目が潤んだ。

「ヒバリさん…」
「うん」
「俺、がんばります」
「うん」
「絶対絶対魔術ちゃんと使えるようになります」
「うん」
「だから待っててください」
「馬鹿だね。ずっとそう言ってるだろう?」

ふえ、と涙を流して始めた綱吉に、ほら、おいでと手を広げれば迷わず飛び込んでくる小さな体。
ふええ、と泣き出す綱吉を抱きしめて、いっそあの剣、売ってしまったらどうかなと少し考えた。




魔術士なのに魔術がまともに使えない。物覚えは悪いし、ぼんやりしてるし、簡単なこともすぐ失敗するし、師匠には捨てられるし。
そんな綱吉は周囲に多大な迷惑をかけて生きている。そんなつもりはないのに、一緒にいる人を危険に晒して。
魔術を使えないものだから何もできなくて。むしろ状況を悪化させて。

雲雀が初めてだった。そのままでいい。ゆっくりと自分のペースで歩けばいい。追いつくまで待っているから。
そう言ってくれて一緒にいてくれる。雲雀を怒らせることはある。呆れさせることもある。
けれど繋いだ手は握ったまま、離されることはない。

「ヒバリ、さん」

綱吉を抱きしめて眠る雲雀を呼ぶ。
雲雀は強い。色々な意味で強い。一人でも不自由のない人だ。むしろ一人の方がいいという人だ。
そんな人がどうして綱吉を側に置いてくれるのかは分からない。好意は向けてくれているのだろう。
どういう意味のものかは知らないけれど、そうでなければ雲雀は側になど置いてはくれないし、こうして抱きしめてもくれない。
けれど好意だけでもないのだろう。そんな気がする。

「それでも、いいです」

もし綱吉に何らかの利用価値があって側に置いているのだとしてもいい。そう思う。

何でもいい。雲雀の役に立てる。
何でもいい。雲雀の側にいられる。
一緒にいればいるほど、好きになるから。

「だいすき、ヒバリさん」

がんばって、強くなろう。

end

リクエスト「薔薇マリパロでヒバツナ・ディノ骸」でした。
両想いのくせにどっか可笑しくないか、なヒバツナと、バカップルにしか見えないディノ骸になった気がします。

配役は雲雀さん→レニィ、綱吉→コロナ、骸→マリアローズ、ディーノさん→アジアンでした。
本当は雲雀さんがトマトクンで綱吉がサフィニアのはずでした。ZOOのメンバーも配役決定してました。
出す予定ないのにモリーとベアトリーチェまで決まってました。が、レニィとコロナはと考えた瞬間、ヒバツナしかいねえだろと。
そしてアジマリですが、私の中ではアジアン=変態=骸でした。が、マリアローズのツンツンデレ具合をディーノさんが出せるのか。
との悩みにより配役交代。こういうディーノさんもいいなと思いました(笑)。

リクエスト、ありがとうございました!

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