Lover's privilege


「こういうの密会っていうのよ、アスラン」
「は?」
「密会っていうことはね、秘密の恋。禁断の関係なのよ?」
「本を読んでる男と、マニキュア塗ってる女が?」
「何よ、不満なの?」

あまり使われていない倉庫の中、マニキュアを塗り終わったフレイが座る木箱にもたれて本を読んでいたアスランは、 そういうわけじゃないが、と苦笑する。
間違っているわけではない。人に隠れて会っていることは確かであるし、人に言えない関係であることも確か。
けれどそういう雰囲気を放っていない自分達は、秘密の恋、禁断の関係という言葉があまりに似合っていない。

「でも意外と気づかれないものね」
ザフトの英雄であるアスランと、ナチュラルでありながらプラントを守るザフトに属するフレイ。
二人が恋人という関係を築いて短くない時が過ぎたが、こうして薄暗い倉庫で会っていることも、 外では他人の振りをしていることも気づかれていない。それが不思議だけれど、逆に自分の演技力に自信を持ってもいいだろうかとも思う。
「あまり他人を気にしていられる状況ではないからな」
今は戦争中だ。一個人をいちいち気にしていられないのだろう、とザフトの憧れたる男が言う。
常に注目されている立場だと言うのに、どこまでも自覚がない。それに対してツッコミをいれようかと思ったが、 部下に手を焼いているアスランが、何を思い出したのか大きなため息をついたので、優しい心でやめにした。代わりに労いの意味を込めて頭を撫でることにする。
いつもご苦労様。言うことを聞かない部下達に鞭をくれてやるのも教育の一つよ。
あんた舐められてるんだから、一度びしっとやりなさいな。やっても逆恨みされるでしょうけど、 あんたの部下達は実力みせつけたら一発KOよ。がんばんなさい。
そんなフレイを驚いたように見たアスランは、フレイと呼んで空気を読まない発言をした。


「マニキュア、崩れるぞ」


まだ乾いてないんじゃないのか。その言葉にぴきっとこめかみに青筋がたった。
本当、どうしてくれようこの男。
フレイはアスランの顎に指を添えて、くいっと少し顔を上げさせると、顔を近づけてにっこりと笑う。

「アスラン。あんた、もう少し女心学びなさいよ」
「は?」

苦労を労う行動に返す言葉があれか。百年の恋も冷めるというものだ。…いや、別に冷めたわけではないが。
けれど仕方がない。そんな男を好きになったのは自分だ。
形だけとはいえ公的な婚約者がいる男だ。自分の恋人だと主張できない男。それを承知した上でつきあっている。
今更この男の性格云々で冷める気持ちではない。けれど人の優しさを台無しにしてくれた恨みは忘れない。
今読んでいる本は、前から読んでしまいたいと言っていた本だ。ならば徹底的に読書の邪魔をしてやろう。

するり、とアスランの首に両腕を回す。アスランがきょとんとして瞬きした。
そして顔を近づけるフレイが木箱から落ちないようにと、腰に手が回された。
ああ、これだけで惚れ直す。そんな自分にくすりと妖艶に笑ってみせて、囁く。


「禁断の関係らしいことでもしましょうか」


唇を寄せ、離す。それにため息で了承の意を伝える恋人。
もう一度唇を寄せれば、首元の拘束がなくなった。次いで感じる自分ではない手のぬくもりに、 どうやら禁断の関係らしい時間を過ごしてくれるらしい、と深い口づけを仕掛けた。




そんな甘い時間から数日後のことだ。キラがアスランを堕とした。
その出来事にフレイは衝撃を受けた。思わずアスランの名前を叫びそうになってしまったくらいの衝撃を。
それから少し落ち着いてから、人目を忍んで様子を見に部屋へ行けばいない。
どこに行ったのだとアスランを探していたフレイは、甲板で黄昏ている姿を見つけた。
先程シンが憤った様子ですれ違っていったから、おそらく何かやりあったのだろう。
キラに堕とされたことだけではない。それに対しても落ち込んでいる様子のアスランに、フレイは眉を寄せる。

「ほんっとどうしようもない男ね」

「フレイ?」
どうして、と言わんばかりのアスランに、フレイは近づくと腰に手をあてる。
「あんた、目が覚めてから何か食べた?」
「う…、いや、それは今関係な」
「食・べ・た・の?」
下から睨みつければ、本気の怒気を感じたらしくうつむいた。そして聞こえるか聞こえないかの声。
「たべて、ない」
「へえ?」
声がありえないくら低くなった。アスランもそう思ったのか、怯えたように肩を揺らした。
「分かった。ちゃんと食べる」
「当然よ。持っていってあげるから、あんたは部屋に戻りなさいよ」
「いや、それは…」
「あんたから頼まれたって言うから大丈夫よ」

ほら、行きなさい、と入り口を指差す。頭に昔テレビで見たハウス、と犬に向かって言っている映像が浮かんだが、 今は怒っているのだ。だから無視する。
アスランはあ、だの、う、だの言っていたが、こくんと頷いて、大人しく部屋へと向かった。
それを見送ると、フレイはアスランが見ていたように海に視線をやる。広く深い海。よくもまあ生きていたものだと感心する。
だがアスランの悪運の強さに感謝すると同時に、下手をすれば失っていたのかもしれないと思うとぞっとした。

アスランが堕とされる前、ミネルバを離れてキラ達に接触していたことは知っていた。
互いの意見は交わらず、結局喧嘩別れのようにして帰ってきたのだと言った。その結果がこれ。

「あんたは思い切りがなさすぎなのよ」
相手がキラだからといって手加減をする必要はない。手加減をすれば今回のようになるのだから。
だからこっちがキラの攻撃手段を奪うくらいの気構えでいるべきだ。
キラに甘すぎるほどに甘いアスランに、フレイはため息をつく。
だがあれはどちらかといえば、キラを信じきっていた慢心の結果なのだろうと、仕方のない恋人を思いながら食堂へと向かった。


* * *


目の前で食事をするアスランを頬杖つきながら見ていたフレイは、苛々する自分を抑えていた。
原因はアスランだ。アスランが背負う暗雲が一向に減らないせいだ。
どうせあの時ちゃんと話ができていればとか、ちゃんと話を聞いてやっていればとか、そんなどうしようもないことを思っているに違いないのだ。
そう思えば苛々は募って、抑えきれなくなったフレイは立ち上がって、べしっとアスランの頭をはたいた。

「しっかりしなさいよ、馬鹿!」
「…っ」

口に含んだものを飲み込む直前だったせいで、それを吐き出しそうになったアスランが口に手をあてることで防ぐ。
そして何とか飲み込んで一息つくと、いきなり怒り出したフレイをきょとんとした顔で見上げる。
そんなアスランにフレイは腰に手をあて、いい?と言う。

「あんたの馬鹿はね、ぜーんぶ自分一人で背負うとこなのよ。自分一人で背負って、あげく自分一人悪者にするのよ。 たまにはキラ達のせいだとか言ってみなさいよ」

思いがけないことを言われた。そんな顔のアスランが、いや、だが、と反論しようとするのに、 フレイはブチッと頭のどこかが切れる音を聞いた。そしてそのままバンッと今度は机を叩く。
「いやだが、じゃないの!あんたは怒ったっていいの!何でフリーダムとAA、修復してるんだとか! 何で言うこときいてくれないんだとか!何でキラ達に殺されなきゃいけないんだとか!」
「いや、死んでないからそれは」
「下手したら死んでたのよ、あんたは!あんたってやけに悪運強いから生きてるけど!普通はとっくに死んでるのよ!!」
またバンッと机を今度は両手で叩く。
アスランが目を丸くして、そしてしゅんとうつむいた。
「そう、だな」
普通なら死んでいる。それをしたのがキラ。そう思うと苦しい。
そんなアスランに、フレイが違うわ!とまたアスランの頭を叩いた。


「怒るとか、愚痴言うとかしなさいって言ってるのよ、私は!」


「…は?」
「辛いでしょ!?悲しいでしょ!?」
「…だが、俺が悪い」
「わけないわ!」
何であんたはそういう思考に向かうのよ、とフレイがアスランの頬を両手で包んで、無理やり顔を上げさせる。 目は完全に据わっている。
「あんたはもっと思ってることを口に出す練習しなさい!」
「は?」
「いっつも自分の中でぐるぐるやってるから、そういう不健全な思考しか生まれないのよ!
いい?今日から毎日最低一つは私に愚痴を言いなさい」
「はあ!?」
「一日でも言わなかったら、私達の関係ばらすわよ」

ばらせばどうなるか。大騒ぎだ。それも半端でないくらいの大騒ぎ。
プラントの象徴たる歌姫の婚約者と一般兵が恋仲。お互いにプラントにいられなくなるくらいには非難を浴びるだろう。
それにアスランが慌てる。その理由はフレイを傷つけることを恐れるがゆえだ。
だからこそ有効な脅迫だとフレイは知っている。本当はそれを脅迫になど使いたくはなかったけれど、 そうでもしなければ、この男は内に溜め込むことをやめはしないのだ。

「それが嫌なら頷きなさいよ。私はこれ以上辛気臭い恋人持ってたくないわ」
「…愚痴言う恋人の方が辛気臭くないか?」
「そういうのは過ぎればうっとうしいっていうのよ。あんたは逆。言わなさすぎよ」
だから一つ二つ言って調度いいのよ、とアスランの頬から手を放して座りなおすと、アスランが小さく笑った。

「難しいな」
「その内慣れるわよ」
「…難しい」

そう言ってうつむいたアスランにようやく微笑んで、その頭を撫でた。

end

リクエスト「運命設定でアスフレ」と「アスフレでフレイがミネルバクルー」でした。
新赤服のアレックス時代の実力知らない時の侮り具合と知った後の態度から、彼らは実力見せ続けたら落ちると思います。
前半と後半の雰囲気が違うのは、短すぎたので眠ってたネタを後で付け加えたせいです(汗)。
そしてフレイは結局キラ達に怒っているのではなく、愚痴を言わないアスランに怒ってます。

リクエスト、ありがとうございました!

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