I ran out of patience




「今、なん、て?」

目を見開いて思考が停止。
今見たものは幻覚ではないのだろうか。今聞いたものは幻聴ではないだろうか。
そう思う気持ちはラクスもカガリもキラも同じだった。
何とか擦れているとはいえ声を出せたのは、アスランと一番長く一緒にいて、一番衝撃を受けたキラだ。
アスランはにっこりと笑った。けれどその目はいつもの柔らかく鮮やかな若葉のような色ではなく、
酷く冷たく硬質な宝石の色をしていた。そこに時折現れる冷たい炎のような揺らぎ。それにぞっとする。

「もう一度聞きたいのか?」

仕方がないな、と言わんばかりにアスランが言う。
駄々っ子を甘やかすような声音。なのに寒気が肌を撫でていった。カガリがキラの軍服を握った。

「セイランがジブリールを匿ったことにより、全世界を敵に回した。つまりオーブは今や世界の敵。
そしてカガリ、お前が助けに走ろうと無駄だ。お前はすでに代表ではない。お前はいくつもの失敗を犯した」

そう言って、アスランが人差し指を立てた。

一つ、オーブを出奔したこと。
二つ、にも関わらず代表を名乗り、ザフト及び同盟国である連合に甚大な被害を与えたこと。
三つ、廃棄処分となったはずの地球連合軍所属艦AAを修復、所持していたこと。
四つ、こちらも廃棄処分となったはずのザフト所属MS、ZGMF−X10Aフリーダムを修復、所持していたこと。
五つ、それらの修復、保持の費用に公金を使用したこと。
六つ、反逆者組織と手を組んだこと。

一つ一つ指を立て、最後に親指を折ったアスランが、よってと続けた。

「お前はオーブの名を汚し貶め、更にオーブを危機に陥れたとして、他の氏族の方々からオーブの代表にあらずと、
こちらの好きに処分してくれて結構との言葉をいただいている」
「なっ、ふざけるな!!」
あまりのことにカガリが先程の衝撃を忘れて、アスランに怒鳴り声を上げる。
「ふざける?お前の言動の方がふざけているだろう?そうでないというのなら、一つ一つご説明願おうか?」
「アスラン!!」
お前、とその胸倉を掴みにかかったカガリは、気がつけば何故か床に倒れて天井を見上げていた。
背中に痛みはない。代わりに腕が痛いのは、アスランに掴まれているからだ。
一体何があった。そう思うカガリの腕を捨てて、アスランは乱れた赤い軍服を直した。
AAにきてからずっと着ていたオーブの軍服はどうしたのだろう。そんなどうでもいいことが頭を過ぎったのは現実逃避。

「な、んということを。何ということをされるのですか、アスラン!!」
あまりに一瞬で、目の前で起こったことに理解するのが遅れたラクスは、呆然として床に倒れているカガリに駆け寄る。
それにキラも我に返って、カガリ!と姉の元へと走った。
アスランがそれを避けるように数歩後ろに下って、気遣う様子を冷めた目で眺める。
キッ鋭い目でアスランを見上げたラクスが、体を震わせて怯えを見せるほどに。

あんな目を知らない。ずっとあんな目で見られていたのだろうか。遠くにいた時はここまで冷たい目だとは思っていなかった。
深く冷たい海の底に引きずりこまれたような心地に、思わず抱き起こしたカガリを抱きしめた。

「一つ、ザフト所属艦エターナルの隠匿。
二つ、ユニウス条約に従って封印したはずの核搭載機、ZGMF−X20Aストライクフリーダムの
基本アッセンブリー、開発、設計データの盗用、ザフト統合開発局に保存されていたデータの無断削除。
三つ、ZGMF−X19Aインフィニットジャスティスの基本データ盗用。
四つ、それらの開発、保持の費用のための公金横領。
五つ、地球連合軍に強奪され、ミネルバによって回収されたZGMF−X88Sガイアの強奪。
六つ、テロリスト組織の立ち上げ、並びにカガリ・ユラ・アスハと手を組んだ全世界への反逆行為。
後は何があるでしょうね。プラントはどうやらこれ以前の余罪も調べているようですよ?ラクス」

見逃されていたはずの犯罪行為。それを世に出すことになったのは、あなた方の自業自得だとアスランが笑った。
それにキラがどうして、と震える声で問う。どうして、と泣き出しそうな顔で問う。

「どうしてそんなこと言うの。君だって知ってるでしょ?カガリもラクスも平和のためにがんばってるだけなんだって。
普通の女の子にだって戻れた。なのにそれを諦めて世界のためにできることをしようって。
なのにどうしてそんなこと言うの。どうして二人を責めるの!!」
そんなのは可笑しい。思わず涙が流れたキラに、アスランは変わらず冷たい目、冷たい表情。そして冷たい笑み。
「俺だって、キラ。お前達がこんな真似しなければ言わなかったさ。
お前達がどれだけ傷ついたのか、俺だって知ってる。側で見てたんだからな。だから信じたくなかった。信じられなかった!」
今まで声を荒らげなかったアスランの突然の激昂に、三人は体を震わせ、顔色を失くす。
そんな三人に構わず、アスランは一歩足を踏み出して叫ぶ。
「静かに穏やかに暮らしてると思ってたラクスが何をしていたのか!オーブの復興のために頑張ってるカガリが裏で何をしていたのか!
それを知った時の俺の衝撃が分かるか!?その絶望が分かるか!?所詮、甘やかされたお姫様か!所詮ナチュラルか!
そう思う心を止められなかった苦しみが分かるか!?」

憎かった。憎かった。憎かった。
キラがフリーダムに乗ったと知った時も酷い衝撃を受けた。
どうして。どうして。どうして。
あんなに戦うことを嫌がっていたのに。あんなに傷ついていたのに。
キラはフリーダムに乗ってAAに乗って、最終的に世界的テロリストに認定された。
それだけのことをしたのだ。いがみあっていたザフトと地球連合軍双方から敵と判断されるだけのことを。

アスランは一度言葉を切ると落ち着きを取り戻すように息を吐いた。
そして疲れたように笑った。

「考えた。お前達を弁護するようなことを色々と。なのに駄目だった。できなかった。できるはずない。
どうすればできるって言うんだ。平和のため?世界のため?それで許されるなら、誰だってそう言えば許される」
青き清浄なる世界のために、と叫んでテロを繰り返すことだって許される。
コーディネーターなど滅べ、と核を撃つことだって許される。
彼らには彼らの正義があって、そのためにコーディネーターを滅ぼそうとしているのだから。
そう言うアスランに一緒にするなと三人が睨む力を取り戻す。
けれどそれは肉食獣を前に草食動物が最後の抵抗とばかりに睨みつける姿と似ていた。
だからだろうか。アスランは憐憫にも似た光を目に宿すと、興味を失ったようにふいっと視線を外した。
それが思いの外、三人に衝撃を与えた。

「ア、スラン」
カガリが呼ぶ。縋るような声。それさえ無視して、アスランは視線をドアに向けた。同時に開くドア。
現れたのは緑を纏うザフト兵。アスランの号令でザフト兵がキラ達三人を取り囲んだ。

「アスラン」

恐れを目に宿して、またアスランを呼んだ三人に、アスランはにっこりと笑った。




「もう、お前達に付き合いきれないんだ」




その頬に涙が伝って見えたのは気のせいだったろうか。

end

リクエスト「キララクカガにアスランがマジギレ」でした。
ラクカガの罪状をあげてみたら、これって真面目にヤバイことじゃないかおいと今更思いました。
彼らの罪状をなかったことにするには、彼らが世界相手に勝利するしかないんだなあと。
そう考えると本編はある意味正しい終わり方だったのだろうか、と意地悪いことを思ったり(笑)。

リクエスト、ありがとうございました!

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