並盛の夏祭りが近々あるらしい。それに雲雀が連れて行ってくれるのだと喜ぶ綱吉に、よかったなあと一緒に喜びつつ思う。
骸を誘ったら一緒に行ってくれるだろうか。いや、くれない。即却下される。考えるまでもない。
けれど駄目で元々という言葉がある。誘うだけ誘ってみよう。

その結果。


「行きたいですか?クローム」

骸の問いに、無表情ながらもどこかうきうきした様子でこくんと頷いたクロームのおかげで、財布係を仰せつかった。




お祭りにいきましょう!




綿菓子というものは甘い。どうやら夏祭りが初めてらしいクロームが、おそるおそると綿菓子をぱくっと口にした。
それをどこか心配そうに、おいしいですか?とこちらも初めての夏祭りらしい骸が尋ねた。
こくん、と頷くクロームに骸がホッとしたように、よかったですねと微笑んだ。
そんな二人を見ながら、ディーノは首を傾ける。
「骸はいらねえのか?綿菓子」
「いりません」
そういいつつ、クロームから差し出された綿菓子を口にする。
ああ、そう。だからいらないのか。そう納得しつつ、可愛らしい絵だなあとも思う。若干、クロームが羨ましいと思う心があるけれど。
甘いですね、と骸が呟いて、そのままクロームと手を繋いで歩き出したのを慌てて追う。
今日のクロームは裾に蓮が描かれた淡いピンクの浴衣を着ている。着慣れない浴衣にクロームが転ばないように手を繋いでいるらしい。
その配慮を、少しでもいいからこっちにもほしいとディーノは思う。せめて歩き出す前に声くらいかけてほしい。
「次は何がいいですかねえ、クローム」
「骸様、あれ」
クロームが指差す方向は、ヨーヨー釣り。ダンボール紙に百円と書かれて吊り下げられている。
それをディーノが確認した後、骸が振り向いて手を出した。金をよこせとその笑顔が告げていた。




「あ」

ぽちゃんという音がして、吊り上げられる前にゴムの輪っかが水の中へと落ちた。
クロームが残念そうに息をつく。残念だったなあお嬢ちゃんと店主が苦笑する。
そんなにほしかったのだろうか。クロームが釣り損ねたヨーヨーを見ている。
「おっちゃん、俺も一回」
「はいよ」
渡されたこよりを手に、W型のプラスティックの釣り針を水の中へ。
「これか?」
クロームに聞けば、こくん、と頷く。
確かこの輪っかに釣り針を引っかけて…えーと、引き上げる?
ゴムが水の上から顔を出し、その先のヨーヨーが浮いた。

「あ」
「あ」

ばしゃんという音をたてて水の中に戻ったヨーヨーに肩を落とす。
店主が惜しかったなあ兄ちゃん、と肩を叩いてくる。クロームがおろおろしたように骸越しにディーノの顔を覗きこんで、
骸がさっくりと切った。


「かっこ悪いですね」


ぐさっときた。

結局、骸がクロームのほしかったヨーヨーを釣り上げた。




「ありがとう、骸さま」
大事そうにヨーヨーを持つクロームに、骸がいいえと笑む。
「それより本当にその色でよかったんですか?他にも可愛らしい色はあったでしょう?」
水の中には色とりどりのヨーヨーが沈んでいた。けれどクロームがほしがったのは紫。
紫の風船に白がほうき雲のように走ったヨーヨーだ。最初から最後まで、そのヨーヨー以外見向きもしなかった。
骸に言われて、ディーノもそういえばと思ったけれど、クロームはふるふると首を横に振った。
「これがいいの」
「そうですか?」
こくんとクロームが頷く。

「骸さまの好きな色だから」

だからこれが好き。そう言って小さく微笑んだクロームに、骸がきょとんとして。
そして照れくさそうに、けれど嬉しそうに笑った。
それに思わず見惚れて、けれどクロームに感じていた羨ましいという感情がまた募って。
大体ディーノは骸の好きな色が紫だということすら知らなかった。それに加えてあの笑顔。
クロームは可愛いと思うし、骸といる姿を見るのも微笑ましくて好きだ。けれど、やっぱり羨ましい。
そんな自分を誤魔化すために視線を逸らして頬を掻く。けれど、すぐに腕を引かれて視線を戻すと、
クロームがすぐ前に立っていた。

「どうした?」
「…ありがとう」
「へ?」
何が、と目を丸くすると、クロームの肩を抱いてディーノから離した骸がため息。
「優しいですねえ、クロームは。役に立たなかったのに」
ぐさぐさっときた。
ああ、ヨーヨーか。ヨーヨーのことか。顔が引きつる。
人の傷口を抉る骸に、けれど事実なだけに何も言えない。だが好きな相手に言われれば威力も倍増なのだけれど、
その辺りは考慮してはくれないだろうか。…くれないだろう。何しろ相手は骸だから。
これは惚れた相手が悪かった。そう思って諦めるしかないだろう。




色々な屋台を冷やかし、時には買って。そうして、何故かディーノは財布係だけでなく荷物持ちまで兼任している。
生き物は飼えないということで金魚すくいはしなかったが、輪投げや射撃で手に入れた景品にお面。
りんご飴は今クロームが食べている。けれど思った以上に大きいらしく、食べるのに苦戦している様子が可愛い。
時々骸が一緒に食べているが、傍から見ればカップルだ。そう思って微妙に落ち込むディーノだが、
周りから囁かれる声は仲のいい兄妹。それだけが救いだ。

それにしても、と思う。何というか。

俺、孤独じゃねえ?

今更気づくのはどうかと思うが、周りから見れば十分に孤独だ。
前を歩く仲のいい少年少女。少し後ろを歩く青年。屋台の前で立ち止まった少年がようやく振り向けば、差し出される手。
訳、金出せ。
ここにディーノの弟分がいれば一緒に泣いてくれるのではないだろうか。そんな状況だ。

「まあ、予想してなかったわけじゃねえけど」

予想してたんですか、と弟分はツッコミつつ同情を寄せ、ディーノの弟子は馬鹿じゃないのと一刀両断するだろう。
部下達ならば男泣きをくれて、家庭教師なら…いやいや考えないようにしよう。
ふるふると頭を振って、そして空を仰ぐ。


「もうちょい、こっち見てくんねえかな」


それは贅沢な願いだろうか。


そうため息をついた時、二人を見失ったことに気づく。
やべっと慌てて辺りを見渡すが、どこもかしこも人、人、人。見知った姿は見えない。

「うわ…」
これは先程より状況は悪くなった。相手にしてもらえないとはいえ、それでも想い人と同じ空間にいた。
その想い人はディーノとはぐれたと知っても、探そうなどとは思ってはくれないだろう。
むしろ財布がいなくなったと舌打ちするだけで終わる。そして次に会えばにっこり笑顔で皮肉をくださるのだ。
気分が落ち込む。
「とりあえず、探そう。うん、探そう」
そうして足を踏み出して、見た。見てはいけないものを見た。

屋台の一つに学ランとリーゼントの男が二人立っている。見覚えのあるスタイルだ。あれは並盛中学の風紀委員ではないだろうか。
その風紀委員に店主が差し出すのは明らかに金。
そして隣の屋台は何故か破壊されつくしている。泣き喚くその屋台の店主。金を渡す店主は怯えている。
そんな様子が屋台に見られれば、普通なら人だかりができるはずだというのに、全くない。
他の屋台の店主も時々気にする素振りを見せる以外は、商売に励んでいる。

何だ、これ、と唖然とするディーノは、少し離れたところでよく見知った姿を見つける。
引きつった顔で屋台を見ているその姿に、ディーノは近づいて肩を叩く。

「ツナ」
「ひぃっ…って、あ、ディーノさん」

ディーノの顔を見てホッと息をついた弟分の綱吉に、よ、と笑う。
そしてあれ何なんだと指差すと、綱吉がうう、と呻いて集金ですと呟いた。
「集金?」
「場所代だそうです」
風紀委員が集める場所代。納めない店は徹底破壊。それが並盛の祭りなのだと綱吉が言う。
つまりそれは…。

「恭弥か…」

風紀委員のボス。並盛の支配者。並盛中学校風紀委員長の雲雀恭弥。
彼の指示の元での行いだと察しはついていたものの、本当にそうだと知れば師匠としては複雑だ。
雲雀の恋人の綱吉はもっと複雑なのだろう。止めても聞かない相手だとはいえ、そのいたたまれなさは尋常ではないらしく、
それより!と話題転換に逃げた。

「ディーノさん、どうしたんですか?ロマーリオさん達と一緒ですか?」
「…あ〜、とな?」
「はい?」
骸と一緒だと言えたらいい。けれど実際は骸とクロームの財布兼荷物持ちだ。しかもはぐれた。
可愛い弟分にそんな情けなくも悲しいことは言えない。
「ツナこそ恭弥、どうした?一緒に夏祭り行くって言ってただろ?」
だから話題転換して逃げた。実によく似た兄弟弟子だ。
今度は綱吉があ〜、とですね?と目を逸らした。

「ひ…」
「ひ?」
「ひったくりが出たので咬み殺しに」
「……ああ」

ある程度集金を終えた雲雀と合流したはいいが、そこで出たひったくり。
雲雀は近くの風紀委員に綱吉を託して追いかけていったらしい。喜々として追いかける様が目に浮かぶ。
風紀委員に託したのは、絡まれやすい綱吉のためなのだろう。愛が見えたとディーノは思う。
けれど綱吉にしてみれば、どっちもどっちな気がします、だ。
集金に回っている風紀委員に託されるということは、集金について回るということだ。
あの破壊活動をすぐ側で眺めるということだ。周りからすれば、綱吉も風紀委員の仲間に見えるだろう場所で。

「さすがにいろいろと耐えられなかったので」
着かず離れずの場所にいることにしたのだと言う綱吉に、ディーノは慰めるために頭を撫でるしかない。
お互い惚れた相手があれなのだ。一緒に諦めような、と心で呟いた。




屋台の間を歩く。人ごみを縫うように歩きながら、想い人達を探す。
あの後、しばらく綱吉と話していたディーノは、雲雀が帰ってくるまで一緒にいようか、と提案したが、
けれどどこか急いていたのに気づいたのだろう。大丈夫ですから行ってくださいと綱吉に送り出された。
綱吉が心配ではあったが、もうすぐ帰ってくると思いますからと言われて渋々背を向けたのだ。
…とはいえ、骸達は今どこにいるのだろうか。屋台を冷やかして歩いているなら、この屋台の列を進めばいつか見つかるだろう。
脇にそれていたら分からないが。…もう帰っていたらどうしようか。

そう思いつつ辺りを見渡して、見えた。それはすでに奇跡だと思いながら、骸と呼ぼうと口を開けば、どんっと何かがぶつかった。
少しよろめいてぶつかってきたものを見下ろせば、青褪めた顔でディーノを押しのけ逃げようとする男。
とっさにその腕を掴めば、ひいいっと叫び声。

「何だあ?」
「邪魔だよ」
「へ?」

聞き覚えのある声。それに振り返ると黒い影。
それを視界に映した途端、じたばたと暴れていた男が吹っ飛んだ。その腕を掴んでいたディーノも一緒に。
「つぅ…何だよ、一体」
打った頭をさすりながら体を起こすと、隣の男がしがみついてきた。何で、と見下ろせばかかる影。
顔を上げるとそこにいたのは先程の黒い影。黒髪黒瞳の少年が肩に学ランを羽織っている。手にはトンファー。
綺麗な顔は凶悪な笑みを浮かべている。

「きょ、恭弥?」

「一緒に咬み殺されたいの?」
僕は全然構わないけど、と舌なめずりした雲雀に、馬鹿言え!と慌ててしがみつく男を引き離そうとする。
けれど滂沱の涙を流しながらいやいやをされる。気持ち悪いから。それ気持ち悪いから!
そう叫ぶディーノに痺れを切らしたのだろう。雲雀がトンファーを振り下ろした。




「そいつがひったくり?」
「そうだけど。なに」
「いや、とっくに捕まえてるかと思ってたからさ」

男と一緒に殴られて痛む頭を抑えつつ、男を足蹴にしている雲雀がディーノを見下ろしてくる。
風紀委員を呼んだ携帯をしまって怪訝そうな顔をする。
「さっきツナに会ったんだよ。そん時言ってたからさ」
今頃はもうツナのとこに帰ってるもんだと思ってた。そう言えば、三人目だからとさらりと言われた。
本当いい度胸だよね、僕の町でひったくり。人ごみの中なら気づかれないとでも思ったのかな。
それとも逃げられるとでも?甘いね。そう言って笑う姿は凶悪だ。目に宿る光は悦びだ。言ってることと矛盾している。
「でもさすがにもう戻るよ。綱吉が心配だからね」
そう言って、走ってきた風紀委員に男を引き渡す。そしてこの後、ひったくりが出たら逃がすな。
一人でも逃がしたら咬み殺すと脅して、またディーノを見下ろした。

「あなた」
「ん?」
「あの変態南国植物、責任持って連れて帰ってよ」
「へ」
顎で示された場所を見れば、クロームがいつ合流したのか、千種と犬と一緒にカキ氷を食べていた。
「あれの下僕がいるってことは、あれもいるってことでしょ?」
「下僕って、お前…」
「僕の目に映らない内にどうにかしなよね」
そう言うなり颯爽と去っていく雲雀。人が綺麗に道を作った。まるでモーゼの奇跡だ。
風紀委員がご苦労様でした、と綺麗な礼をしている間に、雲雀が通った後から綺麗に人が戻っていった。

俺はあいつの将来が心配だ。つい呟いたディーノは、もう一度クローム達のいる方を見る。
そして骸がいないことに気づいて眉を寄せる。辺りを見渡してもいない。
どこに、と思いつつクローム達のところまで走っていけば、三人の視線がディーノに向いた。
その内二人はすぐに視線を外してカキ氷に戻った。クロームだけがディーノへと近づいて、あのねと言った。

「この先ずっと行って」
指差す方向は提灯の光に溢れるここと違って暗い。道を外れた森の中だ。
そこに骸がいるのだろうか。いるのだとしたらどうして。そう聞こうとしたが、クロームが首を横に振った。

「行って」

そうしてディーノの口にカキ氷を一口放り込んだ。甘い。イチゴ味だ。
そして千種と犬のところに戻って、またカキ氷を口にした。
ディーノはクロームがどうしてそんなことを言うのか、骸がどうしてそんな離れた場所にいるのか分からないまま、
示された場所へと向かって走り出した。




走って走って走って。奥へ行けば行くほど暗くなっていく気がする。
けれど少なくはあるが提灯が等間隔に置かれているため、実際は視界は薄暗いだけですむ。
その中を走ってようやく見つけた影。

「骸!」

振り向きもしない骸の肩を掴めば、しっと言われる。そして指差されて空を見上げれば打ち上げられた花火。 それに思わず魅入る。
一体いつから花火が上がっていたのだろうか。そういえば走っている間、何か体に響く音を聞いたような気もする。

「クロームが」
「うん?」
骸の声に視線を落とせば、骸は空を見上げたまま続ける。
「クロームが楽しそうなんです。本当は夏祭りに行くつもりはなかったんですが」
あんなに楽しそうなクロームを見れたなら、きてよかった。そう骸が微笑む。

忙しい両親。家庭をかえりみない両親。子供よりも自分や仕事の方が大切な両親。
そんな両親がクロームをわざわざ夏祭りになんて連れて行くはずもなく。
家族旅行すら記憶にない。ちょっとそこまでの外出すらない。
もしかしたら実父となら行ったことがあったかもしれないが、幼すぎて覚えていない。
だからクロームは隣町の夏祭りでも新鮮で。とてもとても楽しそうで。


「だから、ありがとうございます」


ようやく視線を合わせてくれたかと思えば、思いもがけない言葉。
想い人の大切な少女が喜んだからと礼を言われるのは少し複雑だけれど、それでも嬉しかった。
骸からの言葉だからだけではなく、骸の大切な少女が楽しんでくれたことも。


だから心のままに笑った。


その瞬間に上がった花火を背景にしたその笑みがどれほど美しかったか。
知っているのは、一瞬惚けたように固まった骸だけが知っていた。

end

リクエスト、
・ディーノ→→→骸+髑で夏祭り話。
・ディーノが髑髏を溺愛する骸の気をひかせようと色々と二人の邪魔をしようとするが黒曜組やヒバツナに阻まれる。
・最後には少し、ちょっとだけ、微妙にディノが報われる。
でした。…邪魔?邪魔してるか?ディーノさん(悩)。

書いてて途中で骸凪になりそうになりました。
あげくディノ凪になりそうになり、新境地を開けそうでやっぱり開かなかったりしました(笑)。
そしてクロームに食べさせられたカキ氷は、オチに使おう思ってました。
が、この雰囲気でオチをつけるのはディーノさんが可哀想なんでやめにしました。よかったかどうかは分からない(おい)。

リクエスト、ありがとうございました!

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