「おかえり」




「いいか、ミーア。絶対にハロを先頭にするんだぞ?ドアを開ける時も角を曲がる時も。いいな?」
そう言い聞かせておいたミーアへ再度通信を繋ぐと、泣き声が返ってきた。
それにアスランはぎょっとする。
「ミ、ミーア?どうした!?」




『アスっ、アス、アスラ・・っ、ハロが!ハロが壁に激突したのおお!!!』




「・・・・・は?」
『あたし、ハロ抱えるの、気づかなくって・・。そしたらね、ごんって!ごんっていったのよ!」
「ごん」
『そうっ、ごん!でねっ、死にそうな声出してるの!目のチカチカも変なの!あたしのハロがああ!!!』
何となく状況が理解できたアスランは、軽く安堵のため息をつくと、ミーアを落ち着かせようと口を開く。
「ミーア。後でちゃんと見るから」
『なおる?』
「どこか壊れてても部品取り寄せれば多分大丈夫だ。ハロ、動かないか?」
通信はできるから大丈夫だと思うが、と心で呟くアスランは、次のミーアの言葉に眉をしかめた。
『飛び回ってるの』
「は?」
『あのね、飛び回ってね、ドアに体当たりするから抱きしめてるのよ』
その言葉にアスランは片手で額を押さえる。

大丈夫だろうか。
ミーアに護身術を教えはしたが、AAには元軍人も乗っている。ミーアが敵うとは到底思えないし、攻撃する術を教えたいとも思わない。
だからミーアには倒す術ではなく、それから逃げる術を中心に教えた。そしてそれを手伝う役割をハロに担わせていたのだが。

「ミーア。ドアは」
『もうハロが開けちゃったわ』
「・・・分かった。いいか、ミーア。もしハロが道を逸れても追いかけるな。ハロは後でちゃんと捕まえる。
だから君だけでも戻ってくるんだ。いいな?」
『う、ん、そうね。あたしはアスランのお出迎えするって決めてるんだもの。そうよね』
ハロを置いていくのは嫌だと言わんばかりだったミーアが、ぶつぶつと何かを呟くうちに、力強くうんと頷いた。
そんなミーアにアスランは首を傾げる。

追いつめられたAAのクルーが、ミーアを人質に取らないように。
そんな名目でミーア自身が格納庫までくることになったが、実際はそれをミーアが強く望んだのだ。
どうしてなのかアスランは知らないけれど、酷く真剣な顔で絶対に譲れないのとミーアは言った。
ミーアにとって何か意味のあることなのだろう。
だからかミーアは明るいいつもの声でアスラン、と呼んだ。

『すぐに迎えに行くから待ってってね』

それ俺のセリフじゃ、と思ったが口には出さず、アスランはああ、と返した。




* * *




外はザフトが攻撃態勢を見せたままAAを取り囲み、内もザフトの兵士がキラ達を取り囲んでいる。
もちろん、銃は四方から向けられている。
AAを沈めるつもりなのだと思っていたザフトは、AAを捕獲するつもりだったようだ。
デュランダルがラクスとラクスを騙る少女を殺し、自分の不正を隠すつもりなのだと半ば確信していたラクス達は困惑する。
そして今銃を向けているAAクルーの中にラクスがいるというのに、ザフト兵の誰一人として声を上げるものがいない。

おかしい。
もしかしたらラクスこそが偽者だと説明しているのかもしれない。
少女を捕らえ、ラクスがラクス・クラインに成り代わろうとしているのだと。
そうだとしたらこの不自然さにも納得がいく。

ラクスは自分を庇うように一歩前にいるキラの腕に手を置き、振り向いたキラに頷く。
目を見開いて、ダメだと言うように眉をよせるキラに微笑むと、ザフト兵を厳しい目でみつめながら前へ出る。

「銃を下ろしなさい。わたくしはラクス・クラインです」

視線が全てラクスに向くが、銃は下ろされない。
「この戦闘の指揮官はどなたですか?」
わたくし達はあなた方の敵ではありません、と指揮官との話し合いを望むラクスに、囲むザフト兵の一人が口を開いた。
「じきにお出でになる。黙って待っていろ」
丁寧さの欠片もない言葉に、キラが眉を寄せ、カガリが気色ばんだ。
「その言い方は何だ!」
「カガリさん」
「でも!」
カガリを止めようとその体をそっと押さえたラクスは、静かに首を振る。
「わたくし達の意志とこの状況の説明を求める機会はあるということですわ」
ですから今しばらく待ちましょう、と微笑む。
そこへカツン、という足音。

「その必要はありませんよ」

その声にラクス達は目を見開き、声の主を振り返る。
視線の先から歩いてくるのは赤を纏った青年が一人。

「アス、ラン」

キラが呟く。
アスランはにっこりと微笑む。

「あなたが、指揮官なのですね?」
「ええ、私はミネルバ所属アスラン・ザラ。今回の作戦の指揮を任されました」
「何で!何でお前が!!」
「これでもFAITHですので」
「そんなこと、言ってるんじゃない!」
カガリがアスランに掴みかかろうと駆け出すが、取り囲むザフト兵に阻まれる。
「カガリ!」
キラが慌ててカガリをザフト兵から引き離す。同時に二人に向けて銃口が向けられ、二人は息を呑む。
本気で撃つ気ではないと思いたいが、もしもということもある。
そんなひやりとした思いでラクスがそれを止めようと声を上げる。

「おやめなさい!その方々はわたくしの大切な」
「ご自分の立場を分かっていらっしゃらないのですか?」
「え?」
言葉を途中で遮ったアスランに、ラクスが眉を寄せる。

「あなた方は我がザフトの捕虜です。そのことを自覚していただけますか」

「なあ!アスラン、お前!」
キラの腕の中で身を乗り出したカガリを止めながら、キラもアスランに視線を向ける。
しかしその視線は弱く、縋りつくようなものだ。
それにアスランは気づくが、その原因を知っているため知らぬ振りを通す。
カガリはアスランが視線も向けないことに泣きそうな顔をし、次いでキッとザフト兵を見渡す。

「お前達!お前達が銃を向けている相手はラクスだぞ!?ラクス・クラインだ!議長の側にいるのは偽者だ!
本物のラクス・クラインはここにいる!それはオーブ連合首長国代表である私、カガリ・ユラ・アスハが証明する!
お前達は今何をしているのか分かっているのか!!」

その声にアスランが小さく息をつくが、ザフト兵達には何の変化もない。
それにカガリが戸惑う。仲間達を振り向けば、彼らも同じ様な顔をしている。
ただ一人、キラだけが苦い顔でうつむいた。
「キラ?」
一人反応の違うキラに助けを求めるように呼びかけるカガリに、キラが顔を上げた。
「ダメなんだ、カガリ」
「え?」
「僕らはラクスをラクスだって証明する手立てを持ってないんだ」
「何言って・・・!」
今自分は名乗った、オーブの代表だと。一国の代表が証明する。なのに何が駄目なのだ。
「向こうも一国の代表が証明してるんだよ、カガリ」
「それはそうだが・・・。だが私は、私達はラクスとは戦友だぞ?」
けれどキラは首を横に振る。
「それだけじゃ、ダメなんだ」
「キラ!?お前、何言って・・!」
どうしたんだお前、と目を見開くカガリに、キラは苦しそうな顔でアスランを見る。


「そうだよね、アスラン。君じゃないから、僕らはラクスをラクスだって証明できないんだよね?」


え、とAAクルー達が不思議そうに、けれどバルトフェルドだけははっとした顔でアスランを見た。
視線を受けてアスランは小さく首を傾げ、ふわりと笑った。




「HeyHeyHeyHeyHeyHey!」




静寂の中、突然聞こえた声にびくっとキラ達の肩が震える。ザフト兵も軽く目を見開いている。
何、と驚いて声を振り返った先に飛び込んできた赤い球体。

「・・・ハロ?」

ラクスが呟く。そして視線を落とし、自分のピンクのハロを確認すると、もう一度赤いハロを見る。
ラクスが連れているハロはピンクだけだ。他のハロはマルキオ邸にいる。
ではあれは、と思って思い出す。

くるくると表情を変え、元気に跳ねながら歌うラクスにそっくりな少女。
その側にコロコロと転がって、ぴょんぴょんとはねる赤いハロ。

「どうしてここに」

マリューが思わず、といったふうに言うと、キラがアスランを見た。
ラクスのハロにはロックを解除する機能がついている。それは製作者であるアスランが、ラクスのためにつけた機能だ。
あのハロにアスランが同じ様な機能をつけたのでは、と思った。いや、確信したからだ。
赤いハロが入り口をぴょんぴょんと跳ねながら行ったり来たりしている。
AAクルーが状況も忘れてそれを呆然と見ていると、カツカツカツという音が耳に届く。
そしてそこに飛び込んできた少女に、やっぱりとキラは思う。
ラクスにそっくりなラクス・クラインを名乗る少女は、荒い息をそのままに格納庫を見渡しぱあっと顔を輝かせた。
そして少女はザフト兵の間を抜け、AAクルーの横を抜け、そしてラクスをも通り過ぎてただ一直線に走った。

「アスラン!!」

少女はアスランの数歩前で踏み込むと、そのままアスランの胸へと飛び込んだ。
それを慣れたように抱きとめるアスランに少女は嬉しそうに笑って言った。




「おかえりなさい、アスラン!」




アスランが驚いたような顔をして、そうして泣き出しそうに笑った。




「ただいま」




ぎゅっと少女を抱きしめたアスランを、少女が同じ様にぎゅっと抱きしめた。
「お怪我は、ありませんでしたか?」
「はい。こうしてアスランをお迎えできるほどですわ」
少し体を離して、少女が微笑む。
「アスランこそ、お怪我はありませんか?」
「ええ。こうしてあなたを受け止められるほどです」
「まあ」
二人でくすくすと笑い合うのに、ほっとした顔で少女を見ていたザフト兵達が嬉しそうにする。
よかった、とその顔が言っている。
少女はアスランの腕の中でザフト兵達を見渡すと、にっこりと笑みを浮かべ頭を下げた。
「皆さんも、ご苦労様です。お怪我がないようで安心いたしましたわ」
「そんな!ラクス様こそ、ご無事で何よりです」
他のザフト兵も頷く。
よかった、よかった、よかった。
苦虫を噛み潰したような顔をするAAクルーとは対称的だ。

「アスラン!」
耐えられないと言ったようにカガリが叫ぶ。
「お前、何で・・・!そいつはラクスじゃないだろう!お前だって知ってるじゃないか!
ラクスはここにいる!オーブでずっとずっと一緒にいたじゃないか!」
「カガリ」
「キラも!お前も何で何にも言わないんだよ!ここにラクスがいて、それを私達が証明できる。
なのに何でお前はアスランじゃないからとか、訳の分からないこと言ってるんだ!?」
止めようとするキラをカガリは掴みかかるように見上げる。
キラが苦しそうに僕だって言いたいよと言えば、カガリがなら何で!と返す。
それにバルトフェルドが口を挟む。

「アスラン・ザラが否定しない限り、証明にはならない。何故なら彼がラクスの婚約者だからだ」

「え・・・?」
カガリが振り向く。
マリューが首を傾げ、あと声を上げた。
ラクスも何かに気づいたようで、信じられないといった顔でアスランを見る。
「デュランダル議長が本物だと言う。だが婚約者が偽者だと言う。どっちを信じるね?」
「・・・!」
カガリが目を見開く。
アスランとラクスの婚約はプラント中に祝福されたものだという。プラントの未来と慶ばれたものだという。
そのアスランが今腕の中にいる少女を偽者だと言えば、プラントが信じるのは当然アスランだ。
けれど、とカガリがアスランを見る。
けれど、そうだ。けれど、なのだ。

「説明してもらいたいね、アスラン・ザラ?」

バルトフェルドの剣呑な目に、アスランが説明?と首を傾げた。

「する必要はありません。彼女はラクスです。プラントが求める癒しの歌姫。プラントのために祈り、プラントのために歌う。
彼女の活動を見て下されば、それを否定しようなどとは思わないと思いますが?」

それがプラントのラクス・クラインでしょう?とアスランが言えば、バルトフェルドが顔をしかめた。
そういうことかっ、と小さく毒づくのにマリューがどういうこと?と尋ねる。
「今プラントにいるのは誰だ。この情勢、不安に駆られているプラントに歌を届けているのは誰だ。
戦場に赴くザフトを励ましているのは誰だ。その少女だろう?」
ラクスはオーブにいた。AAにいる。
例えいくらラクスがプラントのためを思っていても、プラントにいない。プラントに歌が届いていない。
そしてラクスが乗るこのAAは、戦闘停止を求めるためとはいえザフトを撃った。
プラントにおいてその差は大きい。
おそらくここにいるザフト兵達はみな知っているのだろう。どちらがラクスなのか。その上でラクス・クラインを選んでいる。

「君はオーブよりも、カガリやキラ、ラクスよりもデュランダル議長を取った。そういうことか」

プラントにより良い方を、ならばラクスほどの適任はいまい。
ラクスはプラントを愛している。世界を愛している。
そしてこの世界に住む人々をナチュラル、コーディネーターの区別なく愛している。
そのラクスを否定し、少女を肯定する。
それはデュランダルを選んだということなのだ。
ラクスの命を狙い、自分の思い通りに動くラクス・クラインを作ったデュランダルを。

「アスランはプラントを愛してますのよ?大切なものを、愛するものを守りたいだけですわ」

少女がふわっと微笑んだ。

「そしてわたくしもわたくしにできる精一杯をするのですわ。
愛するプラントのために。愛するアスランのために。わたくしもアスランも、ただそのためにこうしているのですわ」

だからデュランダルを取った取らないという話ではないのだ、と言うと少女はアスランを守るようにアスランを抱く手に力を込めた。







「わたくしはプラントのラクス・クラインですわ。
あなた方がどのようにおっしゃられようと、わたくしがそれを否定することはこれからも決してありませんわ」







アスランが少女の髪に口づけた。


end

お待たせしました。
今回はキラだけじゃなくて他のみんなもラクスをラクスだと証明するのは大変だよ?
というのが分かった話になりました・・・よね?そのつもりです(おい)。

本当は初めはシン達もいたんですが、何にもしゃべらないんでカットしました。
そしてしゃべってるのはカガリとバルトフェルドがほとんどですが、後者は完全予定外でした。
おかげでラクスがしゃべらない・・・。すいません、ショック受けてたことにしといてください!

リクエストありがとうございまいた!

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