おじゃまむくろ




「さっさと連れて帰れ」
「ちょっ、恭弥!待てっ、落ち着けって!な!?」
「大体、痴話喧嘩に人を巻き込まないでくれる」
「お前がそれ言うっ…すみませんでしたあ!!」

ディーノは実家に帰らせていただきます、という一筆書きの紙と三人の部下を置いて姿を消した骸を追いかけて日本の空港に入った。
ゲートを出てロマーリオが用意した車へと向かう途中、ずらっと並んだリーゼントと学ラン姿の男達に捕まった。
あれ?こいつらあれ?と思っている間に引きずられた。おおい!と振り向けば、ロマーリオと話している学ランの男。
あいつあれだ。恭弥の側にいる奴だ。確かロマーリオと仲良かったような。
放り込まれた車の中、ロマーリオが笑って手を振るのが見えた。え、どういうこと!?
そうして連れてこられた先に、学ランを肩に羽織ってトンファーを握った鬼がいた。




「どうもご迷惑おかけしました」

土下座するディーノはボロボロだ。え、何、何があったの。そう問うまでもなく分かる。
ディーノの後ろに素知らぬ顔でリボーンを膝に乗せて座っている人だ。あの人だ。
っていうか、今リボーンを膝に乗せる意味は何だ。そんなすっきりした顔で抑止力なんて必要ないだろう!
雲雀を気にする綱吉に、ディーノが上目遣いであー、と唸る。

「…骸、は?」
「え?ああ、母さんと買い物に」
骸は居候してから何度も奈々に荷物持ちを申し出ている。いい子ね、むっくん、と奈々は微笑んで言っていた。
そんな気を使う男には思えない。骸本人にそう言えば、気を遣う人間と遣う必要がない人間がいますのでと言われた。
ちなみに君は後者です、という言葉は余計だ。いい子はそんなことを言わない。
思い出して遠い目になった綱吉に何を思ったのか、ディーノが苦笑した。
「そっか。悪ぃな、ツナ」
「全くだよ」
いや、何でヒバリさんが答えるの。
綱吉はあははと乾いた笑い。気にしないで下さいと言えば、射殺さんばかりの視線がディーノの後ろから。
ひいっと声を洩らせば、悪ぃ、と床に視線を落として冷や汗を垂らすディーノ。

「本当はもっと早く迎えに来るつもりだったんだが、ちょっと問題が起こっちまって」
それを片付けてたらこんなに遅くなったのだ、という言葉に大変だったんですね、と同情するのは綱吉。
無能だのへなちょこだの言うのは雲雀とリボーン。すいませんでした、とますます落ち込むディーノ。
慌てて慰めれば雲雀の視線は剣呑さを増す。やばい。もしかしてリボーンは未だ抑止力を担っていたのか。
本当リボーン大好きだよなヒバリさんこんちくしょう!!そう叫んだ瞬間、ドアが開いた。
音につられて振り向けば、目を大きく見開いた骸がいた。そして我に返った瞬間、何故か三叉槍を召喚して構えた。

「何しにきたんですか跳ね馬!」
「骸。気分悪い思いさせて本っ当に悪かった。だから帰ってきてくれ。な?」
「知りません!あなたなんてさっさとイタリア女と結婚でもしてマイホームパパになればいいんです!」
「誤解だって!っていうか、俺マフィアだからマイホームパパにはなれなっ」
「死ね」

突然始まった口論についていけない綱吉に、そういうこと、と呟いた雲雀が手招きする。
それに従って側にいけば、隣に座らされる。

「跳ね馬と何かあったんだろうとは思ってたけどね」
「だが意外性がねえな」
「でもあの変態がって思ったら結構面白いよ」
「まあな。骸も人の子だったってことだな」
「認めたくないけどね」

何の話、と雲雀を見上げれば、情けねえな、とリボーンのわざとらしいため息。
雲雀は聞いてれば分かるよ、と骸とディーノを指した。

「大体何なんですかあの女!胸ばっかりでかくて頭空っぽじゃないですか!趣味悪すぎですよ!」
「俺嫌がってただろ!?ちゃんと断ってただろ!?」
「あなた顔だけはいいんですから、そんな顔で断って誰が諦めると思うんですか!」
「顔だけ!?俺顔だけなのか!?」
「他に何があるっていうんですか!このナルシスト!」
「何で!?」

「…ヒバリさん、分かりません」
「馬鹿なの?」
「ダメツナめ」
「酷っ」
恋人と家庭教師から冷たい視線を向けられた綱吉は、むうっと考える。
さっきから骸が口にしている言葉を思い出す。何言ってたっけ?と思うのは、初めは呆然として聞き流していたからだ。
そして今はディーノさんよりお前の方がナルシストだろ、と心の中で突っ込んだせいだ。

「つまり、跳ね馬にかけられてる疑惑は浮気なんだよ」

「は?」
浮気?と首を傾げて、そういえば骸は女がどうのと言っていた気がする。というか、今現在も言っている。
あんな女と天秤にかけられるなんて僕も舐められたものですね!と叫んでいる。
かけるまでもなくお前が重いに決まってるだろ!とディーノ。
「まあ、骸の思い込みなんだろうがな」
「仕方ないんじゃない?あの人本当、顔だけはいいからいくらでも害虫が寄ってくるんだろうし」
つまりだ。つまり、いくら聞いても居候の理由を口にしなかった骸は、沢田家に居候という名の家出をしてきた。
そういうことか。ディーノに言い寄ってきた女に骸がブチ切れて家出。
「ええ〜?」
骸が?あの骸が嫉妬して家出?槍でも降るの?そう言いたい。
そして雲雀の怒気を浴びせられたのも、雲雀とリボーンのいちゃいちゃを見せつけられたのもそれが原因か。
そう思えば眉間に皺が寄る。っていうか、いい加減ヒバリさんの膝から下りろ。

「迷惑なカップルだね」
「お前らも人のこと言えねえがな」

目の前では絶対別れてなんかやりませんから、覚えてなさい!と叫んで出て行く骸と、
それは大歓迎だけどどこ行くんだ骸!と追いかけるディーノがいた。


* * *


骸とディーノが仲良く追いかけっこしながら出て行って三時間。
大体君はさ、順応性が高すぎるんだよ。何であの変態受け入れてるのさ。嫌がるなら最後まで嫌がりなよ。
そんな恋人の溜まりに溜まった愚痴を聞きながら三時間。雲雀の膝の上にいたリボーンはとっくに階下でおやつタイムだ。

「だ、だってヒバリさん」
「何」
「あいつ、時々暴れるんですよ?枕バンバン叩きだしたり、僕の方が美人じゃないですか!とか叫びだしたり」
「追い出しなよ、そんな気違い」
「酷っ」

今にして思えばその可笑しな行動も納得がいく。が、その時は引いた。
触らぬ神に祟りなし。とりあえず深追いしないことにしたら、自然と受け入れ態勢になっただけだ。

「でもあれですよね、ディーノさん迎えにきてくれたし、仲直りしたって連絡もあったしよかったですよね」
「そうだね。邪魔だったしね」

でも次はないよ、と言った雲雀の笑みを作った口元とは逆に、目は少しも笑っていなかった。




ちょうどその頃、お騒がせカップルはイタリア行きの飛行機に乗るために空港にいた。
知らない人間からすれば爽やかな美形二人、仲良さそうに話をしていた。あくまで知らない人間からすれば。

「あなたの目は節穴ですか。僕とボンゴレがどうにかなるはずないでしょう!」
「それは分かってるけどさあ。お前、イタリア出て真っ先にツナんとこ行っただろ?」
「あのお人好しを利用しない手がありますか」
「ホテルに泊まるって手もあったじゃねえか。お前ツナのこと結構好きだよなあ」
「何を馬鹿なことを」

拗ねたように愚痴愚痴と言い出す恋人に、骸は呆れたようにため息をつく。
少し離れたところでロマーリオが頑張れと笑いながら手を振っている。その近くにいる黒服数人は肩を震わせて笑っている。

「だってさあ、骸。お前楽しそうだったじゃん」
「は?」
「お前迎えにこれなかった間、リボーンが嫌がらせのように手紙くれるんだよ」

今日の骸、という表紙に飾られた手紙。
そこには骸が今日は綱吉とどれだけ仲良くやっているかということが延々と書かれていたという。
それを読んでいれば、ああ随分楽しそうにやってるんだな、と思ったのだと拗ねた口調。
それにはあ?と骸が間抜けた顔をしたのは当然だ。仲良く、といっても毎日綱吉をからかって遊んでいた記憶しかない。
お前のせいでヒバリさんがリボーンと浮気したあ!!という馬鹿な台詞を、それはご愁傷様ですと微笑んでやったり。
さっきそこで雲雀恭弥を見ましたよ、可愛らしい女性と一緒に、と言って可哀想ですねと同情してみせたり。
ちなみに嘘ではない。可愛らしい女性と一緒にいるところを見たのは事実だ。奈々だが。
八つ当たり兼うさ晴らし。仕方がないではないか。ヒバリさんヒバリさんと恋人と喧嘩した自分の目の前で、惚気るわいちゃつくわ。
そんな毎日のどこに楽しそうな要素があるというのか。平時だったら大層楽しかったろうが、この時の骸は荒んでいた、つもりだ。

「アルコバレーノに遊ばれただけじゃないですか」
「でもさ、ツナ好きだろ?」
「だからどうしてそうなるんですか」
リボーンが具体的にどういうことを書いていたのかは知らないが、面白がって事実を大袈裟にして書いたに決まっている。
なのにどうして馬鹿正直に信じたりするのだろうか、この男は。
冷たい目をディーノに向けるが、ディーノはでもさ、と天井を仰いだ。

「実家に帰るってのはさ、自分にとって安らげる場所に行くってことだろ?
それがツナのとこだってことは、そこが骸にとって安心できる場所ってことだろ?」

安心できる場所は好きな相手でなければ得られないものではないだろうか。だから骸にとって綱吉は好きな相手。
恋愛感情ではないと分かっていても、自分以外に骸に安心を与えることができる場所があることを悔しいと思う。
そう聞いて骸はきょとんとする。そしてかああっと真っ赤になって視線を逸らす。

「ばっかじゃないですか?」
「骸?どうした?」
「こっち見ないで下さい!」
「ぐえっ」

顎を下から押されて無理やり上向かされたディーノは、それでも骸?と呼ぶ。ああもうこの男は!!
確かに沢田家は大層居心地がよかった。綱吉の側だって気を張らずにいられた。
リボーンがいて、雲雀がきて。そうして別に仲良く語らったわけでもないけれど、確かに安心して過ごしていた。
言われなければ気づかなかったけれど。
それに気づいていたディーノは、それを悔しいと言いながら、それでも少しホッとしたような顔をしていたディーノは。
ああ、もう本当に嫌だこの男!!

「……だから天然タラシって嫌なんですよ」
「へ?」

どれだけ自分を見ていてくれて、どれだけ自分を想ってくれているのだろうと思う自分が恥ずかしくてならなかった。

end

リクエスト「ヒバツナ・ディノムク。綱吉の家に骸が居候。何気に綱骸の仲がよくて嫉妬するヒバディノ」でした。
長くなったので前後に分けました。
砂吐きそうなディノムクになった気がします。そしてヒバツナとディノムクの甘さの差が気になります。
何でヒバツナはいちゃつかなかったのだろうか…。リボーンと雲雀さんの方がいちゃつき度が高かったような…(汗)。
タイトルはすいません。お邪魔虫+骸を合わせてみました。
頭に浮かんだ時は笑って終わらそうと思ったのに、タイトル思いつかなかったのでタイトルになりました(殴)。

リクエスト、ありがとうございました!

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