溺れ続けていたかったと、それでも思う卑怯さ
「私達の責任だわ」
憔悴しきった姿を見せるマリューに、バルトフェルドは黙ったままだ。
マリューは片手で額を押さえ、目を閉じる。
「何もかも、キラ君達に押しつけたわ。判断も選択も全部、委ねたんじゃない。任せたんじゃない。押しつけたのよ」
キラ達の理想は美しかった。
キラ達の語る言葉は心地よかった。
それに溺れることは、何にも勝る優越感と安らぎを与えてくれた。
「私達は軍人よ。上から命令されることに慣れきっていた。でもキラ君達は上司じゃないのよ。
そして私達は大人よ。キラ君達に助言をするべき大人なのよ。彼らの信じるものが美しすぎると。
そんなものは存在しないと知っていたはずなのよ」
理想とは現実とイコールではない。
理想に近い現実は存在しても、理想そのものの現実は存在しない。
だから彼らの理想についていくのなら、それを教えるのが役目だった。
そうしてどれだけ彼らの理想が現実に近づけるのか、それを一緒に模索するべきだった。
なのに、現実のように醜いものがない世界に溺れていたくて。
本来ならば年若い彼らを導くべき大人が、諫めるべき大人がそんな状態で、キラ達はどうやって理想と現実を
分離できたろう。
「キラもラクスもカガリも、大人の犠牲者だ」
バルトフェルドの声に、マリューが目を開けて顔を上げる。
「俺達大人が祭り上げた」
『マリューさん達まで僕達が間違ってるって言うんですか』
キラが苦しそうに言った。
どうして、と泣き出しそうに拳を握った。
今まで肯定ばかりしてきた。
キラ達の歩く道を、ただただついて歩いた。
キラ達が右へと言えば右へ。左へと言えば左へ。
今更たしなめてももう遅いのに。
「キラ君達には、何を言っても否定にしか聞こえないわ。キラ君達を否定しているようにしか聞こえない」
そうしたのは自分達だ。
何もかも肯定して。何もかも判断させて選ばせて。
そちらの道で本当にいいの?と。こういう道もあるのよ?と声もかけず。
『争いのない世界を作るために、ナチュラルもコーディネーターも笑って生きる世界を作るために。
そのためにわたくし達は戦ってきたのです。そうではありませんか?どうしてそれが間違いだとおっしゃるのですか。
どうしてそれを為せないとおっしゃるのですか』
傷ついた目でラクスがそう言った。
間違ってなどいない。間違ってなどいないのだ。
ただ、彼女達だけではないのだ。同じ願いを抱き、けれど彼女達とは違う道を歩む人もいるのだ。
そういった人々とは互いに妥協が必要で。
どちらかが正しく、どちらかが間違っているわけではないのだと理解が必要で。
それをしない限り、理想への一歩は訪れないのだ。
「もうあの子達は、他の考えを受け入れられくなってきているわ。否定より肯定が勝る環境で生きてきたのだもの」
バルトフェルドが目を伏せた。
マリューは私達の責任よ、と再び言葉を紡ぐ。
そうだな、と今度はバルトフェルドが頷いた。
『どうして!どうしてそんなこと言うんだ!?私達は守りたいだけなんだ!なのに何で分かってくれないんだ!!』
裏切られた、とカガリの目が叫んでいた。
信じていたのに、と悲鳴が聞こえた。
他の意見を受け入れることができない彼女達は、自らの正義を絶対とする彼女達は、
いつか世界から弾かれてしまうだろう。
理想に近づかない現実。
妥協のない対話。
それらがキラ達から理解者を遠ざけている。
キラとラクスとカガリは、身を寄せ合い嘆くだろう。
どうして分かってくれないのか、と。
慰めあって、嘆くだろう。
「プラントはラクスを退陣させるそうだよ」
「・・・ならキラ君も」
「ああ。ラクスの権限で白を纏うことを許されたキラも、ラクスと同じで白を返上させることが決まったよ」
「オーブも・・・騒がしいのよ、今」
マリューが再び目を閉じる。強く、強く。
『我らに自由を!支配よりの解放を!』
高らかに叫ぶ世界に、キラ達三人はきっと何がいけなかったのかが分からないままだ。
自分達の理想を貫きすぎた果てがこれなのだと、身を持ってしても分からないのは彼らの責任か。
マリューは首を振る。
全てが彼らの責任ではないのに、彼らの側から離れた場所で呟く。
「私達の責任よ」
ラクス・クライン。
カガリ・ユラ・アスハ。
キラ・ヤマト。
三人が表舞台から去ったのは、これよりすぐのこと。
end
気づいて、けれどその責任を果たさず遠い果てで後悔する。
それさえ後悔して。でももうどうしようもないと諦めて、後悔する。
そんなマリューさん達はもうキラ達の側にいません。でも彼らの情報だけは何とか得ていました。
そして時々マリューとバルトフェルドは会って、互いの情報交換をします。
そんなある日の話でした。
リクエスト、ありがとうございました。
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