ラクスとミーアが造られた理由。それはあなたがどれほどの重要人物とされているかの証明。

知っているのでしょう?
あなたがどれだけプラントで慕われているのか。どれほどの影響力を持っているのか。

知らなかったでしょう?
あなたがどれだけプラントで慕われているのか。どれほどの影響力を持っているのか。

あなたは知っていた。知っていたけれど知らなかった。
知っていたからあなたはラクス・クラインの名を武器として盾として使うのだし、知らなかったからあなたはこんなにも衝撃を受けている。

ラクスとミーアはクローン。
あなたを完全に失ってしまった時のための代替品。あなたの損なわれた部分を補うための部品。
あなたのために造られ、あなたのために生まれ、あなたのために育てられた。
…いいえ、あなたのためという飾りをつけただけで、本当は自分達のためなのだろうけれど。

ああ、けれどそんなことは知らなくてもよかったのだ。ラクスもミーアもあなたに出生の理由など教えるつもりはなかったのだ。本当は。
許せない、と思わなければ。憎い、と思わなければ。
アスランを傷つけて、傷つけて、傷つけて。プラントを守るザフトも傷つけて。
そのことに受けた衝撃。悲しみ。そうしてザフトが傷つけられるたびにまたアスランが傷ついて。
それが何度も積み重なれば我慢ができなかった。一度でいい。ちゃんとその顔を見て、その目を見て言いたくなった。

「わたくし達はあなた方を決して許せないのですわ」

同じ顔で微笑んだ。同じ声が同じ言葉を紡いだ。


名も無き花が愛でるは目を伏せられた夜明けの空
〜花が咲き誇る場所〜

ソファの上でラクスの腕にミーアが抱きついて楽しそうに話をしている姿に、アスランは声をかけてもいいものかとしばし悩む。
けれど悩んでいる間に二人がアスランに気づいて笑った。

「アスラン」

嬉しそうに呼ばれるのに返事が遅れる。
二人はアスランの元婚約者のクローンだ。造られた理由に思うことは多々あれど、少女達には何の罪もない。少女達は犠牲者だ。
だから二人を厭っているわけではないし、元婚約者と重ねてみているわけではない。けれど同じ顔、同じ声だ。まだ少し慣れない時がある。
特にラクスがアスランに向けて嬉しそうに笑って名前を呼ぶ、という行為は婚約者時代以降覚えがないから殊更に。

「いつきたの?アスラン」
ミーアが走ってきてアスランの腕を引っ張る。そうしてラクスが隅に座りなおしたソファに腰かけさせられ、二人の少女に挟まれる。
「ああ、少し前だ」
「声をかけてくださればよろしかったのに」
「いや…楽しそうだったから」
邪魔しちゃ悪いと思って、と言わずとも分かったのだろう。二人が笑った。
二人はアスランの腕に抱きついて、アスランなら邪魔してもいいのだと言う。
その言葉に困惑の表情を浮かべるのは仕方がない。そんなことを言われ慣れていないのだから。そして二人がアスランに向ける無条件の好意に多少の居心地の悪さを感じてもいるのだから。

アスランはどうして自分が二人にこれほどまでに好意を持たれているのかが分からない。
昔から敵が多かった。何かをしたわけでもないのに敵意を向けられることもまた多かった。皆が皆そうだったわけではないけれど、それが当たり前のように多かった。
だから会って間もない彼女達がアスランアスランと笑って駆け寄ってくることに戸惑う。

「あー…ところで、キラ達に会ったんだよ、な」

ラクスとミーアがキラ達に会いに行ったのだと聞いた。
ミーアがラクスに置いていかれたーー!!!と怒っていたのは知っていたが、どこに行くつもりだったのかは知らなかった。
それを知って慌てて二人を訪ねてきたのだが…。
「はい、お会いましたわ」
「黙っててごめんなさい。怒ってる?」
視線を落とした二人に怒ってない、と慌てて否定する。
気になるのはラクスとミーアが傷ついていないかということ。そしてキラ達が傷ついただろうということ。
どちらも大切で、どちらも傷ついてほしくなくて。けれどそれは無理だと分かっている。どちらも必ず傷を負う。
アスランはもうキラ達についてはいけない。平和への思いは同じでも他が違いすぎる。届かぬ言葉に疲れた、というのもある。もう彼らの陣営に戻ることはない。たとえ敵対することになったとしても。
それでも彼らを想う自分は消えない。どうしようもないほどに。

「どうして、会おうと思ったんだ?」
ラクスが微笑んだ。

「アスランはきっと気にされると分かっていたのですけれど、わたくしもミーアもどうしても言わずにはいられなかったのですわ」

あなた一人がどうして傷つかなければいけないのか。
あなた一人がどうして非難されなければいけないのか。
自由を声高々に叫びながら、どうしてアスランにそれが許されないのか。

「あたし達はね、アスラン。アスランに怒られても嫌われても言いたかったの。あたし達はあなた達の敵ですって」

ラクス・クラインのための存在。
そんな自分達がオリジナルたる彼女に弓引く。そのことを告げたかった。どうしてそうするのか、その理由を突きつけたかった

「ラクス、ミーア」
そんな二人にアスランが眉を寄せる。
俺のことはいい、そう言うのだろう。傷つくことに慣れている人だ。傷つくことが当然と思っている人だ。
けれどそれをラクスもミーアも許せない。
「わたくし達がすることであなたを傷つけることも分かっておりますわ」
「でもね、アスラン。あたし達はアスランを否定するあの人達が許せないの」
ごめんなさい、と謝る二人は、けれど真剣な光を目に宿している。

大切なのだと。
あなたが大切なのだ。守りたいのだ。泣かないで。自分を責めないで。あなたは悪くなんてないの。
そう目が語る。
それに泣きそうになった。

「ちがう、違うんだ」
二人を責めているわけではない。そうではない。
分かってる、そう二人が微笑んだ。微笑んでそれぞれがアスランの手を包んだ。

「アスラン」


大好き。


告げられる言葉に、どうして自分は同じ言葉を返せないのだろうと悔しくなった。

大好きだった。
オリジナルだから、ではない。ラクス・クラインが大好きだった。
自分達はクローンで、彼女の代替品としてしか見なされていなかったけれど、不思議なくらい憎しみなんて生まれなかった。
どうしてだろう、なんて考えなくても分かっていた。ラクス・クラインが綺麗だったからだ。
彼女の周囲の空気は澄んでいるように見えた。彼女の微笑みは誰にでも等しく向けられていて、彼女の歌声は誰にでも届けられていて。それは自分達も例外ではなくて。
ラクス・クラインは自分のクローンの存在を知らないけれど。知ったならきっと彼女は傷つくだろうから、知らないままでいいとさえ思っていたけれど。それでも彼女の微笑みは声は纏う空気は自分達をも癒してくれるようで。

大好きだった。大好きだったのだ。本当に。

裏切られた、なんて勝手な感情だ。分かっている。
ラクス・クラインに幻想を抱いたものの勝手な言い分だ。分かっている。
それでももう彼女を大好きだ、なんて言えない。

傷ついた心が。
泣き叫ぶ心が。
もう大好きだなんて囁かないから。

「ラクス様がなさったことを知った時、二人で泣きました。二人で叫びました。二人でどうしてと」

二人で泣いて泣いて泣いて。叫んで叫んで叫んで。抱きしめあって。それでも傷は癒されない。
独りではなかった。それは救い。けれど傷を癒す術を知らなかった。

「ねえ、アスラン。あなたがあたし達を知って、認めてくれたあの時、あたし達は確かに癒されたの」

戸惑った顔で、難しい顔で。けれどラクスと、ミーアと呼んでくれたあの時。
驚いた。
ラクスとミーアを生きている一人一人の人間だと認めてくれたあの時。
泣きたくなった。


ああ、何て優しい人。何て愛しい。


傷が少しずつ塞がっていく。
ラクスと、ミーアと。そうアスランが呼んでくれるたびに。
嬉しくて、泣きたくて、どうしようもなくて。

「大好きですわ、アスラン」
「大好きよ、アスラン」

あなたが言葉を返せなくともいいのだ。それを気に病まなくともいいのだ。
ラクスと、ミーアと呼んでくれるだけで、いいのだ。

end

リクエスト「名も無き花が愛でるは目を伏せられた夜明けの空」でアスランを登場。でした。

アスランがラクスとミーアに同じ言葉を返せないのは、まだ二人とのつきあいが浅いのと、キラ達とのことがあったので素直に信じきれないからです。信じたいと思ってるのに、ちょっと臆病になってる、みたいな。

リクエスト、ありがとうございました!

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