眺める赤い機体。父から託された正義の名を冠する機体。
ナチュラルに「正義」の鉄槌を下し、コーディネーターの真の「自由」を勝ち取る。
誰もが嘆き悲しみ憎んだろう、ナチュラルを。同じくらい誰もが願ったろう、自由を、平和を。
そんなコーディネーターの思いが込められた、大切な機体。

「世界はまた争いの中、だ。戦禍を拡大させているのはラクスとキラ」

このミネルバでも戦闘行為の停止を求めて乱入してきた彼らに撃たれて死んだものが大勢いるという。
なのに世界がロゴスという戦争を裏で操っていたという組織を討たんと集まった時、沈黙を守っていたという。
連合の兵器によってヤヌアリウス・ワンからフォーが撃たれ、その残骸でディセンベル・セブンとエイトが崩壊。 その時もラクスは姿を見せることはおろか、声すら聞かせることはなかったという。
なのに現最高評議会議長ギルバート・デュランダルの提示したプランには異を唱え、オーブ軍と共に進軍してきたのだと。

「進軍する前に取るべき手はあるだろう」

平和の歌姫と平和の国の代表が揃って武力行使。
そもそもオーブは中立の理念を大切にしている国ではあったが、プラントから見ればとうに崩れていた理念ではあった。
それがしっかりと目に見える形で現れたのが、廃棄されたはずの戦艦と核搭載のMSの所持。
もう平和の国とは口が裂けても言えない。

ラクスも同様。ロゴス憎しと戦うのは本当にいいのか。そう言ったという。それを問うのならばもっと早くに言うべきだろう。世界がヘブンスベースに集結し、攻撃を開始するより前に。
そして何よりMSを、しかも核搭載のMSを開発していたうえ、オーブを守るため以外の行動には出ない。
他は見逃すような行動に、もう平和の歌姫とは呼べない。
そんな彼女達が勝利したとして、作られる世界にアスランは不安を禁じ得ない。

「これが、未来。俺のこれからの…未来」




『そこは本当に君が求める未来だろうか』




導かれた先に見たものは


アスランが消えた。インフィニット・ジャスティスはあるのにアスランだけが消えた。
アスランだけ、というのは語弊がある。メイリンもいない。AAにもエターナルにもいないのだ。
消えたMSもMAもない。シャトルだって一機も減っていない。ただ忽然と人が二人消えたのだ。
どういうことだ。混乱の中、けれど時間は迫っていて。

気が焦る。どこに行ったの、どこにいるの。戦いながらそう思って焦る自分を叱咤して。
今は戦うことに集中して。終わったらもう一度探して。ラクスもカガリも自分達の力を駆使して探すと言っていた。
だから大丈夫。ここで戦いを後回しにした方がアスランはきっと怒るから。そう思って戦っていた…のに。

「ジャス、ティス?」

インフィニット・ジャスティスじゃない。ジャスティスだ。
二年前、アスランが乗って、ジェネシスを破壊するために自爆させた機体だ。残っているはずがない機体だ。
それを作り直したのだろうか。ならあれには核が?そう思ってカッとした。
核はユニウス条約で禁止されている。なのにプラントは核搭載のMSを作っていた。どこまで卑怯なんだ!!

キラが乗っているストライク・フリーダムにも使われているが、これはラクスの平和への願いが込められているのだ。 戦争に勝つために、ではない。世界の平和のために役立つように。そう思えばこそだ。

けれどキラは攻撃を仕掛けてくるジャスティスと交戦しながら気づいた。
この動きを知っている。けれどそんなはずはない。彼はキラ達に賛同してくれたのだから。今はどこにいるのか分からないけれど、でもそんなはずはない。
そう思いながら、それでもキラは通信を繋げずにはいられなかった。

「アス、ラン?」

返ってきた声に、キラは何で!!と悲痛な叫びを上げた。


* * *


アスラン、どうして、どうしてそんなところにいるの!いきなり消えてどれだけ心配したと思ってるの!ジャスティスも置いて、メイリンだけ連れて、いつ、どこで、どうやって、何で!!
君だって僕らに賛同してくれたじゃない!デュランダル議長のやり方じゃだめだって分かったから、 だから僕らのところにきてくれたんでしょ!?だから一緒に戦ってくれるんでしょ!?なのにどうして!!

そんなキラの声にアスランは眉を寄せる。
いきなり消えた?キラの話からオーブ陣営にいるはずの未来の自分が、どうしてだか姿を消したのだと分かる。
どういうことだろう。メイリン、というのは未来の自分と一緒に追われたミネルバの管制官を務めていたという少女だ。
ジャスティス、というのはラクスが作った新たなMS、インフィニット・ジャスティスだろう。それを置いて消えた。
いつ、どこで、どうやって、何で。それはまるで神隠しのように…そう思って気づく。
自分もそうなのではないかと。自分もこのジャスティスも、自分がいた時代から突然消えたことになるのだろう。
ならば、そう思いはするが推測に過ぎない。だから考えずに攻撃の手を緩めず、キラの問いにも答えない。
そもそも答えられるはずもない。知らないのだから。

「アスラン!」
キラが叫ぶ。
「どう、して…っ、議長の言ってることは管理されて生きていくってことだよ!?自分で選べないってことだ!選ぶことが許されない世界だ!そのルールから外れたら排除される!君だって分かってるでしょう!?議長の思うように動かないからって殺されかけた君なら!」
知らない情報がまた出てきた。ロゴスのスパイだったから追われ、撃墜された。そうミネルバで聞いた。だが真実はこれか、と思う。そう思って歯を食いしばる。

「それが、キラ。それがお前達の行動を肯定する要素にはならない!!」

分かった。どうして未来の自分がキラ達に合流したのか。一緒に戦っているのか。
他に行く場所がなかったのだ。議長に切り捨てられ、ザフトを追われ、他に行くところがなかったのだ。
少し安堵した。今の自分が納得できないキラ達の行動。未来の自分はどうして納得できたのか。
自分の知らない二年、キラ達と一緒にいたからこそ納得できたのだろうか。こんな凶行を?
そう理解に苦しんだから新たに得た情報に安堵した。そればかりではないだろうけれど、安堵。

「肯定してって言ってるんじゃない!議長はこの世界を支配しようとしてるんだよ!?何でそれが分からないの!」
「そうして議長を悪者にして自分達は正義の味方か。議長を倒せば全て終わり、お前達がやったことも全てなかったことになって?守りたいものを守って戦ってきたものを撃って!今までやったこと全ては平和のためだからと!世界のためだから許せと!?守りたいと泣いたお前はどこに行った。俺の手を取らずに守りたい友達がいると叫んだお前は!」
「僕は変わってない!変わったのは君だろう!?どうして、どうして分かってくれないの! 僕らは平和のために戦ってるんだ!人が未来を決められる、希望を抱いていける未来のために戦ってるんだ!」

ああ、変わった。キラは変わってしまった。ついさっきまでキラと戦っていたからこそよく分かる。
自分が守れる範囲を必死で守っていたキラ。そのキラが世界を守ろうというのだ。それを遮るものは全て悪だと言わんばかりに。
戦いながらも泣いていたキラは、戦いながらも傷つけることを怖れていたキラは、ああ、一体どこへ行ってしまったのだろう。
あの頃のキラならばきっとこんなことは言わない。殺したくせに、もっと早く殺していればと思ったくせにそう思う。

「ラクスもカガリも皆、皆がんばってる!平和のために、未来のために!それを邪魔するなら、アスラン!」

あの頃のキラならば。


「僕は君を撃つ覚悟だってあるんだ!!」


何かが弾ける音が頭の中でした。キラを殺したあの時と同じ感覚。
撃つ。撃つ覚悟。そう言って今までの攻撃が嘘のように鋭い攻撃を仕掛けてくるフリーダムの動きが何故かスローで見える。
撃つ覚悟なら俺にだってある。だから出てきたんだ。俺が存在してはいけない世界の戦場に。




『そこは本当に君が求める未来だろうか』




答えは、否。

end

リクエスト「種時代のアスランが運命にタイムスリップ。アンチオーブ・AA」でした。
アスランを運命時代に連れてきたのは隊長だという裏事情。それも死んだ隊長です。何者だ隊長(本当にな)。
キラが親友のアスランに否定されて撃たれたら凄く苦しむんじゃないかなあという思考からです。
アスランの心情は気にしてません。というか苦しんだ顔見るの好きだからいいや、みたいな。何て鬼畜。

運命時代のアスランは、同じ時代に同じ存在がいるのはまずいので隊長が隠してます。
二人存在したら面白そうだな、とかは思ってるとは思いますが(おい)。
メイリンは隊長の一体どこから出たのか気紛れという名の仏心からアスランと一緒です。何て摩訶不思議(…)

リクエスト、ありがとうございました!

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