このままでは駄目だと分かっていた。キラ達の行いは受け入れ難いものだった。
キラ達の思いは、言葉は誰の内にもあるものだろう。だから気持ちは分かるのだ。けれど起こした行動が問題だった。

「分かっていたのに、止められなかった。声は、届かなかった」

遅すぎたのだ。話する時間はちゃんとあったのに、なのに何もしなかった。
キラには傷を癒す時間が必要だから、なるべく傷に触る会話は避けよう。
ラクスはキラで手一杯だから。何よりザラの自分がラクスに語れる言葉はないから。
カガリは今が一番大変な時だ。他所事は避けなければ。…なんて、逃げて。
そのせいで声は届かず、言葉は交わらず。キラ達は正義が一つではないことに気づかずに進み続けた。

「…こうなる前に、どうして俺は」

自嘲して右手で顔を覆ったアスランは、左腕を拘束する何かに気づいて顔を上げる。
そこにいたのはステラ。眠っていたはずのステラがアスランの左腕をぎゅうっと抱きしめている。
じっと見る目は心配そうで。それを見ていると自然と微笑みが浮かんだ。


蒔いた種が発芽する


どうしてどうしてどうして。
キラ達は愕然とした顔でブリッジを見ていた。マリュー達はブリッジの中、端に寄って眉を寄せている。

「何、これ」

キラが呟く。
アスランとステラが厳しい顔でナイフを持って打ち合っている。
どうして。医務室で見た二人はとても仲が良さそうだった。まるで兄妹みたいだと思った。
ステラのような子に懐かれれば、元々世話焼きのアスランだ。ついつい構ってしまうのだろうと微笑ましく思っていた。
ステラは元地球連合軍の兵士でアスランは元ザフトだけれど、AAではそんなことは関係ない。だからわだかまりもなく笑いあう姿が嬉しかった。
キラ達がマリュー達と上手く意志の疎通ができなくなってからも、二人のそんな姿は癒しだったのだ。なのに。

ステラがアスランへと踏み込みナイフを突き出せば、アスランがそれをナイフで受け流す。
ちっとステラが舌打ちし、右足を軸に左足を振り上げた。ぶんっと音が聞こえてきそうなほどの速さ。 それをアスランが後ろに跳んで避ける。ステラはそれを追いかける。薙ぐナイフを受けて、アスランはくっと声を洩らす。
けれどそれを跳ね返すと、少し体勢を崩したステラの懐へ。はっとステラが目を見開いた時には アスランの蹴りが体に入り、キラ達の方へと飛ぶ。なっ、と目を見開いたキラ達にステラの体がぶつかる。
キラがステラの下敷きに、それに足を取られてラクスが倒れそうになるのをカガリが慌てて抱きとめた。

「ステラさん!」
マリューが叫び、そしてアスランを睨みつけるが、アスランはその視線を感情のない目で受け止めただけだった。
「やっぱりあなたはラクスさん達を選ぶのね?」
「やっぱり、ですか」
「あなたはラクスさんやカガリさんを大切に思っているから。でももう遅いのよ、アスランくん」
私はクルー達を守らなければいけないから、もう準備は終えたのよと告げるマリューに、何の話だとステラとキラを起こしていたカガリとラクスが眉を寄せた。キラもマリューさん?と声を洩らした。
それを聞いたのか、マリューが苦しそうにキラを見て目を伏せた。
「私達はもうあなた達とは一緒にはいけないのよ、キラくん」
「え?」

「私達はこの艦を降りるわ。そしてこの艦は廃棄する」

「な!?」
「何でだ!どうしてそんなこと…!これからじゃないか!これからこのAAが必要なんじゃないか!」
カガリが叫べば、マリューが悲しそうに三人を見た。
「私達はあなた達を信じていたわ。ずっと信じていたの。ムウから聞いた時だって、何かの間違いだって」
なのに次から次へとその言葉を裏付けるものが出てくるのだ。調べれば調べるほど否定できなくなった。
ラクスはオーブの条約違反を世界に知らせるために、マリュー達まで犠牲にした。
カガリはオーブを守るためにマリュー達を犠牲にしようとしている。
それはどれほどの衝撃だったろう。どれほどの絶望だったろう。自分達は利用されるだけされて捨てられる駒のようで。

「何言って…!そんなことラクスもカガリもしない!マリューさんだって知ってるじゃないですか!ラクスもカガリも世界のために、平和のためにがんばってるんだって!なのにどうしてそんな嘘…!」
「信じたくないのは分かるわ!私だってそうだったもの。でもね、キラくん。これは本当のことなのよ」
「マリューさん!!」
確かに最近、マリュー達との間に溝ができていた。どうしてなのか分からなかったが、まさかこんな誤解が生じていたなんて。
どうしてこんな誤解が生じたのか、キラには分からない。生じることなんて何もなかったのに。なのにラクスがキラの前に出た。

「フラガ少佐にお聞きになられた、とおっしゃいましたわね?」

はっとした。キラがラクス、と震える声で恋人の名を呼んだ。
違う。そんなはずない。だってそんなことする必要ないじゃないか。

「まさか、フラガ、が?」
カガリが目を見開いて呟いた。ムウがマリュー達に嘘を教えたのかと。
何言ってるの、カガリ!とキラが悲痛な声で叫ぶ。それにカガリも怒鳴り返す。
「私だって思いたくないさ!だがマリューはフラガに聞いたと言ったんだぞ!?現にアスランがステラと戦ってたじゃないか!ステラはフラガと同じ艦に乗ってた!フラガに懐いてる!」
「でも!」
「ならどうしてマリューはアスランに私達を選ぶのかって言ったんだ! ステラと戦った!それがマリュー達じゃない私達を選ぶことになる!どうしてだ!!」
「…っ」
キラが声を無くしてうつむいた。
分かっているのだ。ちゃんと分かっている。信じたくないだけだ。
そんなキラを気遣わしげに見て、ラクスはマリューを見据える。その視線の強さにマリューが怯えたように体を震わせた。

「そのようなことをする理由がどこにあるのですか。わたくしがプラントに言えばそれですむことです。 わざわざ世界に示す必要などありません。わたくしはラクス・クラインの名がどれほど力を持っているのかを自覚しております」

ラクスが言えばそれだけでプラントは信じる。調べる。疑ったりしない。無視したりしない。
ラクス・クラインはそうさせるだけの力を持っている。そうでなければ偽者のラクス・クラインなど作られなかった。

「カガリさんのことにしてもそうです。あなた方はオーブの民です。カガリさんにとってあなた方は守るべき民でもあるのです。 その民を犠牲にしてオーブを守ると、本当にそう思っていらっしゃるのですか」

自分で修復しておいて、都合が悪くなれば切り捨てる。そんな評価が何を守ることになるのか。
売られたクルーはオーブの国籍を得ていた。守るべき民を自己保身のために売った。そんな評価が何を。

それに初めて気づいたかのようにAAクルー達がはっと息を呑んだ。
情けない。ラクスがそう言わんばかりに首を横に振った。そして足元に座り込んでいるステラを見て…目を見開いた。

「ラクス!!」

キラとカガリの悲鳴のような声。目の前に迫る刃。思わず目を瞑ると、背に強い衝撃。息が一瞬止まった。
痛みに耐えながら目を開けば、ステラが冷たい目でラクスに馬乗りになり、首にナイフを突きつけていた。

「ラク…」
「動くな」

ステラがキラとカガリを睨みつける。その鋭い声にマリュー達まで驚いたように目を見開いている。
その近くでアスランがこちらを見ているが、その目はステラと対峙していた時と同じ、冷たい目。
それにラクスはまさか、と気づく。
やっぱりアスランがラクス達を選んだとマリューは言った。それはアスランが今まではマリュー達に賛同していたということ。
だが本当に選んだのならアスランはあんな目をしていないと思う。少しの焦りもない目。

「アス、ラン。あなたは…」


マリューさん達ではなく、フラガ少佐の賛同者なのですね。


出せなかった言葉を聞き取ったかのように、アスランがうっすらと笑った。

end

リクエスト「キラ+ラク+カガ→アスステ+ネオでアンチAA・オーブでAAを乗っ取る」
「アスランがAA内部からAAクルーのキララクカガの信用をなくす」でした。

アスステ要素少なくてすいません!!何か戦ってるし…!!(汗)
アスラン達はマリューさん達も込みでザフトに引き渡すつもりです。
一人静かなネオが今、通信いじってザフトに信号出してます。それを悟らせないための余興がアスステの対峙だったり。
…それにしてもこの話、マリューさん達が嫌な大人ですね(笑)。

リクエスト、ありがとうございました!

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