繰り返す運命の日




何度廻っただろうか。
同じ年、同じ月、同じ日、同じ時間。何度も何度も繰り返し、その度に思い知る。

未来は変わらない。

友人が一人死んで、また一人死んで、また一人と死んでいく。その中には自分も含まれていて。
そんなのは嫌だった。だから戻る。今度は誰も失わないようにと願って。

友人が一人死んで、また一人死んで、また一人と死んでいく。その中には自分も含まれていて。
前の世界と方法が違うだけで同じ結末。だからまた新たな世界に行ってやり直す。今度は誰も失わないようにと願って。


それにもう疲れた。


なのにディーノは戻る。骸がもういいと言ったのに。もうやり直さないと言ったのに。
また何度も繰り返した年に月に日に時間に、ディーノは戻るのだ。




「まあだ怒ってんのか?骸」
「……」

聞こえない振りで本を読んでいると、ディーノがしゅんとした。
骸の意思を無視してまた繰り返すだけの世界へ戻したディーノを、骸はいないも同然に扱う。
もっとも、ディーノが見えているのは骸一人なので、そういう扱いは今に始まったことではないが。

「でもさ、少しずつ変わってるだろ?前の時もその前の時も、少しずつ少しずつ変わっていってる。
だからお前の願いはきっと叶うさ」

辛くても苦しくても目を逸らしたくても、ずっと繰り返してきた。
何度も友人の死を見てきて、何度も自分の死を味わって。それでもずっと繰り返してきた。
なのにここで諦めたら、一体何のために今まで繰り返してきたのだ。一体何のために狂って殺して死んでいく友人達を見てきたのだ。

そう言うディーノに、骸がぴくっと肩を揺らした。


「大丈夫だ、骸。皆、笑って生きてる世界はきっとくる」


な?と微笑むディーノを骸はキッと睨みつけると、本を置いて立ち上がって、骸?と呼ぶディーノの側を通って冷蔵庫を開ける。
そして中からよく冷えたカキ氷を取り出すと、一気に口の中へと流し込む。
キーーーンッと頭に痛み。思わず顔を歪めて頭を抑えると、何の心構えもしていなかったディーノがうぎゃ!と叫んだ。
そのまま頭を抱えて床に突っ伏したディーノを涙目で見下ろして、骸は鼻で笑った。

「ざまあみなさい」

そして目を閉じると、言われなくても分かってますよ、と呟いた。

ディーノの言葉は励まし。そして世界を自分勝手に戻っては捨て、戻っては捨てを何度も何度も繰り返してきた骸に、
諦めるには犠牲を出しすぎたのだとの叱咤が含まれていた。


* * *


「よし、部活の時間だ!極限にボクシングだーー!!」
「君一人でやりなよ。僕は帰る」
「やーっ、ツナさん連れてかないでくださいぃぃ!!」
「ちょっ、腕!腕もげる!」
「もう、お兄ちゃんってば。机の上に乗っちゃだめじゃない」

了平が机の上で点に向けて腕を振り上げると、恭弥が綱吉の腕を引いて教室を出ようとする。
ハルが綱吉のもう片方の腕を掴んで引き止めて、必然的に恭弥との引っ張り合いになるせいで綱吉が痛みに喚く。
それを背景に京子が了平を嗜める。

いつものことだ。いつもの平和な日常。
骸はそれを笑顔で眺めながら、内心、何度も繰り返したこの後を思い出す。

確か校庭から野球ボールが飛んできて窓ガラスを割るのだ。ボールは了平に当たって、京子がお兄ちゃんと叫んで綱吉が救急車と叫ぶ。
恭弥が呼ぶならもっと酷い怪我の方がかっこつくよ、とトンファーを持ち出して、ハルが危ないじゃないですか!と校庭へ向けて叫ぶ。
そしてその記憶の通りに、校庭から野球ボールが飛んできた。

ガッシャアアアンッッッ

窓ガラスが割れて野球ボールが教室の中へ飛び込んできた。そしてそのまま了平…ではなく、綱吉へと向かった。
気づいた恭弥がトンファーを取り出して打ち返す。野球ボールはお星様になった。
それを確認する前に恭弥が窓から校庭へと飛び出し、キャッチボールをしていた生徒を咬み殺しに行った。
いやあ!待って恭弥さん!と綱吉が慌てて止めに走って、ツナさん危ないですうう!!とハルも追いかけていった。
ツナくんに怪我がなくてよかったね、と京子がホッと息をついて、うむ、と了平が頷いた。
それを骸は目を見開いて見る。後ろでぷかぷか浮いているディーノも驚いたようで。

「…こんな早くから変わったことなかったよな?」

骸はこくん、と頷いた。







やり直してから一週間。変わったこと、変わらなかったこと、色々あった。けれどそれが骸に期待を持たせる。
今まで出一番大きく変わっているこの世界。今度こそ、今度こそ。そう思わせるには十分すぎて。
けれど期待すればするほど、ディーノが顔を曇らせる。あまり期待しすぎるなと。
それは再び失った時、期待の分だけ絶望も大きくなるから。
分かっていたけれど、それでも期待する。

今度こそ。







「骸、何してんの?お前」
「おや、綱吉くん。お出かけですか?」
いつもなら休日をいいことに寝ている時間に、綱吉が歩いているのに驚く。
綱吉も骸が朝にぶらぶらしていることに驚いているようだが、骸にとっては日常だ。綱吉と一緒にしてもらいたくはない。
そこでそういえば、と思い出すのは前の世界での翌日のことだ。綱吉が酷く上機嫌だった。ついでに恭弥もどことなく機嫌がよかった。
と、すればこれか。このお出かけが原因だったのだろうか。そんなことを思っていると、ディーノがお、と声を上げた。
「恭弥がくるぞ、骸」
ディーノの言葉になるほどと笑顔。

「恭弥くんとデートですか?」
「なっ、ち、ちがっ」

そうじゃなくて、と真っ赤になってあたふたする綱吉は、隣町に買い物に行こうと思ってたら、恭弥さんがついてきてくれるって。
だから、その、デートとかじゃなくて。そのっ、とだんだん小声になって、うう〜としゃがみ込んだ。そして上目遣い。


「…デートだったら嬉しいなって思うけどさ」


その様子は可愛らしい。小動物好きの疑いのある恭弥が落ちるわけだと思う。
この村の学校に転校してきて間もない恭弥は、分かりやすすぎるほどに変わり者だ。人間嫌いというよりは群れ嫌い。
つまりは協調性に欠けているだけでなく、目につく群れ全てに敵意を燃やす。そんな男だ。
その恭弥を懐かせた綱吉は、恭弥に想いを寄せられている。見ての通り、綱吉も恭弥に想いを寄せているのだが 本人達は全く気づいていない。

「そういや恭弥とツナがつきあってるの、見たことねえなあ」

ディーノが呟く。
いつ戻っても二人は友達以上恋人未満。そのくせ毎日毎日いちゃいちゃいちゃいちゃ。
村の人間は二人がつきあっているものだと思い込んでいる。お互いが片想いだと知っているのは、学校に通う子供達だけだ。
見ていてもどかしというか、鬱陶しいというか。それをまた経験しなければいけないのだろうか。
そう思って、ふむ、と骸は考える。

「綱吉くん」
「何だよ」
「帰り際に恭弥くんについてきてくれたお礼をするべきだと思うんですが」
「お礼?」

首を傾げる綱吉の向こうでは恭弥が骸を見つけて眉を寄せ、その足元に綱吉を見つけてムッとした顔をした。
それに笑顔で恭弥くんがきましたよと告げ、綱吉が振り返った瞬間、囁く。




「頬にキスの一つでもしてあげてくださいね」




「はああ!!!???」
真っ赤になって振り返ってくる綱吉に、明日確認しますからと脅迫の言葉を吐いて、恭弥に手を振ってから背を向けた。
さあ、家へ帰ろう。有意義な朝の散歩だった。明日が楽しみだ。
そんな骸の後ろで騒いでいた綱吉の声がぴたっと止まったのは、恭弥が声をかけたからだろう。

「骸、お前なあ…」
「さっさとくっつけばいいんですよ」
「いや、そりゃそうだけどよお」
苦笑しながら振り返ったディーノが、あ、ツナが恭弥の腕引いて走ってった。歩いて町まで行く気か?と首を傾げたのに、
馬鹿ですかと冷たい目で見る。
「恭弥くんのバイクでしょう」
この村には似合わない大型のバイク。
それにディーノがああ、と納得したように頷いて、そういやあいつ、免許持ってんのか?と今度は先程とは逆方向に首を傾げた。
当然答えは、持っているわけがないでしょう、本当に馬鹿ですね、だ。
そうやって小声で話しながら、骸はふと家路を外れる。そしてついた先にディーノが顔を歪めた。

そこは神社。骸が何度も殺された場所。

ディーノが静かに地に降り立つ。

「もうすぐです」
「綿流しの祭りか」
もうすぐ始まる。
いつもいつだってそこから始まるのだ。
「今度こそ」
ぐっと拳を握って呟けば、ディーノの視線が降りてくる。けれどそれを無視して目を閉じる。
そして叫ぶように心で祈る。




今度こそは、誰も失わない幸せな世界でありますように。




――…運命の日は、近い。

end

リクエスト「ひぐらしパロでヒバツナ・ディノ骸。ツナがレナで骸が梨花ちゃん」でした。
頂いたリクエストから、骸さんと梨花ちゃんを強く推していらっしゃるように思いましたので、
骸さんをメインにさせていただきました。こんな感じでどうでしょう?
にわか知識で大丈夫とのことでしたが、本気で色々間違っててすいません。しかも骸は偽者全開(汗)。

骸→梨花ちゃん。ディーノさん→羽生。綱吉→レナ。雲雀さん→圭一。了平→魅音。京子ちゃん→詩音。
ハル→沙都子でお送りしました。校庭でキャッチボールしてたのは山本と獄寺くんです(笑)。
こだわりは、ひぐらしキャラが皆名前で呼んでるなら、リボーンキャラもそうしよう、です。

リクエスト、ありがとうございました!

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送