「まあ!」
婚約者の声が嬉しそうに跳ねた。
ぎくり、と体を震わせ、出かけるのだと言って出て行ったミーアを見送っていたアスランは、おそるおそる隣へ顔を向けた。
「アスラン」
「は、い、ラクス」
両手を胸の前で組んでどこかきらきらした目でアスランを見上げてくるラクスに、アスランは思わず身を引いた。先ほど感じた後ろめたさが隅へ追いやられるくらい、ラクスの態度が可笑しい。
「正直に答えてくださいませ」
「何を、でしょうか?」
「いつからですの?」


ミーアに恋心を抱いたのはいつですの?


嬉しそうに聞かれたアスランは、う、あ、え、と言葉に詰まった。


好意は時に拷問だ。

生まれながらの婚約者がいた。ラクス・クライン、父の友人の娘だ。
彼女に会ったのは十三の時。何度か外で会って親睦を深めていたが、彼女に感じるのは友愛。恋愛にはならずに一緒に時間を過ごして、そうして彼女の双子の妹に会った。
初めは元気な子だな、くらいしか思わなかった。なのに気がつくとラクスではなく、その子のことを考えるようになっていた。
これはまずい、と思った。婚約者のいる身で他に気になる異性を作る、しかも相手は婚約者の妹だ。
けれどそうは思っても気持ちに修正も歯止めもきかず、ああ…好きになっていた。

「それではアスランはその時初めてミーアを好きになったことに気づかれたのですね?」
わくわくと言わんばかりのラクスに、はいと頷きながら、一体俺は婚約者に何を話しているんだろうと思う。そしてラクスの反応は婚約者としてどうなんだろうと。
そんなアスランの心情に気づかずに、ラクスが身を乗り出してきた。それに思わずのけぞる。顔が近い。

「それから何かアプローチはされましたの?」

「は!?」
「アスラン?」
どうかされまして?と首を傾げるラクスに、どうも何もとアスランは異星人を見るような目でラクスを見る。
まさかそんなことを聞かれるとは思わなかった。聞くにしてもこんなに好奇心いっぱいで聞くような内容ではない。
「あの、ラクス?」
「はい?」
「俺はあなたの婚約者ですよね?」
「もちろんですわ」
「怒らないんですか?」
「怒る?」
普通怒るだろう。こんな馬鹿にした話があるだろうか。なのにラクスは何故と言いたげな顔だ。
しばらくじーっとアスランを見て、そしてああ!と手を叩く。その顔に浮かぶのは満面の笑み。


「一夫多妻制でもわたくし、構いませんわ」


くらっと頭が揺れた。


* * *


ラクスが上機嫌で歌を歌いながら庭でハロと戯れている。けれどアスランはテラスに置いてあるテーブルの上に突っ伏していた。疲れたのだ。
外から帰ってきたミーアが、きょとんとしてアスランのすぐ側にしゃがみ込んだのに気づいて、顔だけそちらに向ける。
「アスラン、どうしたの?」
「…ミーア」
「なあに?」
「俺は君のお姉さんが別世界の住人に思えてしかたないんだ…」
「はあ?」
分からない。いや、初めて会った時から彼女の思考についていけないというか驚かされるばかりだったが、これはどうなんだ。いやいや、俺にそんなことを言う資格は…いやいやいや、だがあれは本気なのかまさかまさかまさか。
ぶつぶつと呟くアスランに、ミーアが大きく首を傾げる。
「何の話?」
「…いや、こっちの話」
気にしないでくれ、と小さく微笑む。
気にされると困る内容だ。本当ならラクスにも知られてはいけない話だったのに知られてしまった。どうして肝心なところでポーカーフェイスができなかったのだろうか。できていたらラクスに気づかれずにすんだのに。
はあ、とため息ひとつ。ミーアが心配そうに口を開いた。
「アスラ…」
「どうしましょう、アスラン!」
「どうしました?ラクス」
ミーアの声を遮るようにラクスの叫び声が聞こえた。ばっと顔を上げたアスランは、何かあったのかと一瞬目を眇めたが、次のラクスの言葉で全身に走らせた警戒を崩した。

「わたくしが本妻でよろしいのでしょうか?」

「は!?」
「本妻?」
何が、とミーアがきょとんとして、アスランは椅子から落ちそうなくらい動揺した。
本妻、本妻、本妻、本妻…本妻!?また何を言い出すんだこの人は!!
ラクスはこちらに駆け寄ってきて、心底困ったように両頬に手を当てた。
「表向きは本妻で、本来正しくは妾になるのでしょうか?」
「まだその話をしてたんですかラクス!!」
「まあ!重要なことですわ!ねえ?ミーア」
「え?何が?お姉様」
「聞くな!聞かなくていい!ミーア!!」
アスランが必死だ。ラクスには声を荒らげるということをしないのだが、内容が内容なだけに、そしてその内容に大きく関わる少女が側にいるだけに構っていられない。
「ラクス、もういいですから!」
「いけませんわ、アスラン。こういうことはちゃんと決めておきませんと」
「ラクス!」
すみません、本当にすみません。全部俺が悪いんです。ですからお願いです、もうこの話題はやめましょう。
そう泣いて縋ってしまいたい心境だ。何の拷問だ。やっぱり怒っていたのだろうか。それともこれはラクスの素なのか。
がしっとラクスの両肩を掴んだアスランに、ラクスがきょとんとした顔で顔を近づけてきた。
「アスラン?どうかなさいまして?」
どうして涙目なのだとラクスがその小さな柔らかい手でアスランの目尻を拭った。
「ラクス、お願いですから」
もう許してください、と項垂れたアスランに、ラクスは何のお話ですの?と心底不思議そうな顔。二人を驚いた顔で見ていたミーアと顔を見合わせて、二人首を傾げた。

end

リクエスト「ラクミアア双子設定で婚約者の妹であるミーアに惚れたアスランを応援するラクス」でした。
……えと、すみません(汗)。これ応援してますか?してませんか、そうですかorz
ラクスとしては二人の婚約は国が大いに関わってるので破棄できない。なら三人で幸せになっちゃえばいいじゃない!みたいな感じです。悪気はありません。前半ラクスをイメージしていただければしっくりくるかと(そうでもない)。
予定外はラクスの言動で、更に予定外はアスラン苛めになってしまったことです。ごめん、アスラン。

リクエスト、ありがとうございました!

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