今度こそ君の力に、そう願って。


「おっはー、アスラン」
「!?」

無重力に任せてぼーっと空中に寝そべっていたアスランは、突然現われた空色の目に驚いて目を見開いた。
そのまま思考停止しているアスランに、空色の目が近づく。
「アスラン?目え見開いたまま寝てる?」
相変わらずよく寝るよなあ、との声は笑っている。

「……ラスティ?」

そんな、まさかと思いながら名を呼べば、空色の目が嬉しそうに笑んだ。
「せ〜いかい。久しぶり」
「ラス…」
その顔を見ながら床に寝そべっているつもりで上半身を捻って起き上がろうとしたアスランは、 膝の下に感触がないと気づくと同時に態勢を崩した。

「うわ!?」
「アスラン!」

ラスティが腕を伸ばすのが見えたが、アスランを支えたのは別の腕で。
誰かの胸に頬が当たり、アスランはきょとんとする。見える色は緑だ。

「気をつけろよー、アスラン。お前って結構抜けてるんだからな」
ゆっくりと顔を上げると、金色が見えた。
「そうなのか?」
金色と似た声質に視線を流すとオレンジと赤。
「だからアスランなんです!」
再び思考停止している頭が考える前に視線がまた流れると、今度は緑と赤。
そしてそのままラスティに視線を移すと、ラスティが心得たように笑って頷いた。

「ミゲ、ル。ハイネに、ニコル…?」

自分でも聞こえるかどうかの声に、けれど三人はにっこりと笑った。


「しばらく見ないうちに大人の顔になったな」
「久しぶりだな」
「また会えて嬉しいです」


何で、どうして。そう思う頭より先に心が動いた。
ぎゅっと目の前の緑の軍服を握ると、ミゲルが笑って頭を撫でる。
ハイネが目を微かに見開いて、ニコルが慌てたように近づいてくる。
そしてラスティがアスランの背をぽんぽんと叩いた。




涙が溢れて止まらなくなった。




* * *




無重力空間でぷかぷか浮いているアスランを、無重力に関係なく浮ける幽霊という存在になった四人は優しい目で眺めている。
泣き疲れて眠ってしまったアスランを抱えたまま座っているのはミゲルで、空中に腹ばいになって頬杖をついているのがラスティ。ニコルは膝を抱えて、ハイネは壁にもたれて浮いている。

「泣くのに慣れてないからなあ、アスラン」
だから疲れたかな、とラスティが笑う。
「ていうか、元々疲れてたんじゃないのか?」
ハイネが顎に手をあてて首を傾げれば、ニコルが拗ねたように顔を半分膝に埋めた。
「僕だったら絶対寝てくださいってしつこく言います」
こんなに疲れてるアスランを黙って見ていられない。なのにどうしてこの艦は誰も言わないのだろう、と。
ここにはアスランの元とはいえ婚約者がいて、親友がいて、仲間がいるのに。
「あの子、ミーアだっけ?あの子のことで沈んでるんだって思ってんだろ。だから一人にした方がいいって思ってほっといてる」
ラスティの言葉にアスランの髪を撫でながらミゲルは目を細める。

確かにそれも間違ってはいない。アスランはミーアのことで自分を責めている。
けれどそれだけではない。ミネルバのことも、議長のことも色々考えて。そしてこの陣営のこともまた考えている。
アスランがこの陣営にきたのは、そうせざるを得ない事情があったからだ。この陣営の意見に全面的に賛同したからここにいるわけではない。部分的に賛同してはいるが、口に出さないだけで疑問も持っている。
それに誰も気づいていない。

「アスランがしたいことをするには都合いい場所なんだけどな」

ミゲルが苦笑すると、三人が苦い顔をした。
ここには規律がない。束縛がない。目指す道をはずれなければ、何を考えるも何をするも自由だ。だからアスランのように色々と考えてしまう人間には、軍にいるよりは楽なはずなのだ。
なのに軍にいるよりも苦しんでいるように見えるのは、この陣営が思うこととアスランの思うことの方向が微妙にずれているからだ。
そしてその違いをこの陣営は認めず、眉をひそめるだろう。だからもう行き場のないアスランは黙っている。隠している。
それが余計にアスランを疲れさせる原因となっている。

「でも、ここはよくありません」
「ニコル」
「僕はいやです。アスランが辛いのに笑ってるのはいやです」
前の戦争でアスランが辛そうにしているのに気づいていたのに、何もできなかったから。
何とか元気になってもらおうと色々話しかけたし、少しでもリラックスしてもらいたくてコンサートにもきてもらった。
純粋にアスランが好きだからというのもあるが、元気づけたいと思ったのも確かなのだ。
けれど結局は、自分がアスランを庇って死んだことでより一層傷つけた。
「もう、いやなんです」
今度こそ膝に顔を埋めたニコルに、ミゲルがその頭を引き寄せる。
「そうだな。俺も嫌だぜ?」
その言葉にラスティが目を伏せた。

ハイネは三人を見下ろしながら、ああ、こいつらはアスランのこと本当に好きなんだなあと思う。
ハイネとアスランのつき合いは実に短い。それでも放っておけない奴だと思った。あのままつき合っていければ、きっと自分も一緒に目を伏せただろう。
だがハイネにとってアスランとは多少の好意を抱いている放っておけない奴で、三人ほどの好意はまだ抱いてはいない相手だ。だから、と体を起こすとぱんぱんっと手を叩いた。
それに三人がハッと頭を上げた。
「暗くなってどうするんだって。ほら、浮上する」
三人がきょとんとした顔でハイネを見上げるのに、にっと笑う。


「お前ら、何のためにここにいるわけ?今度こそアスランの側にいるためだろ? アスランが辛いならどうする?アスランが疲れてるんならどうする?せっかくの機会、どうやって使う?」


それにしばらく黙っていた三人が笑った。




* * *




「あの〜」

ベッドで寝かせたほうがいいよなあ、でも俺達が連れてったら寝てるアスランが一人で動いてる怪奇現象。
そんなことを話しながらアスランの寝顔を眺めていると、下から女の子の声が聞こえた。
四人が視線を落とすと、戸惑ったような顔でツインテールの女の子がアスランを見ていた。

「確かメイリン、だっけ?」
「そうそう、アスランと一緒に来た子だ」
「あ〜ミネルバにいたな」
「どうしましょう。アスラン、起こしたくないんですけど」
アスランにしか見えないように霊体をいじっているように、メイリンにも見えるようにすればいいいのだろうが、 そうすれば他のクルーにも見えるようになってしまうし、メイリンを驚かせてしまう。
どうしようかと顔を見合わせれば、またメイリンが声をかけてきた。

「そこにいらっしゃるん、ですよね?え〜と、ヴェステンフルス隊長とミゲルさんと、えと、ラスティさんとニコル、さん?」
「え?」

四人の声が合わさり、同じような顔をして再びメイリンを見下ろす。

「あの、え〜と、クルーゼ隊長ご存知ですよね?さっき部屋にいらっしゃって一通りの説明はしていただいて」

「クルーゼ隊長って、あのクルーゼ隊長だよな?」
ハイネが何でだ?首を傾げれば、ニコルがそういえばと呟く。
「隊長、出かけるとおっしゃってから帰ってこられてませんよね」
「え?クルーゼ隊長もいらっしゃたのか?」
ええ、とニコルがハイネに頷く。
「ハイネが僕らの前に現われた時には、もう出かけていらしゃって。それまでは一緒にいました」
「え?俺、途中で隊長見たぜ?ほら、アスランが堕とされた時」
ラスティが言えば、ミゲルがああと頷いた。
「確かに一度戻ってらしたんだけどな、その後すぐに後は任せたぞ、ミゲルとか言ってどろん」
「…何しにどこにいらしたんだ?で、何しに戻ってこられたんだ?」
ハイネが眉をしかめて言えば、クルーゼ隊三人は何でもない顔で言った。

「まあ、クルーゼ隊長ですし」
「考えても仕方ないっしょ」
「だな」

その言葉に、クルーゼ隊ってどんなだ?とハイネが思ったのも仕方がないだろう。
そんな四人のやりとりも知らず、メイリンはいるのかいないのかも分からない不安な心のままに、どうしようと呟いた。
それにラスティが気づき、眠っているアスランの腕を掴んでひらひらと動かす。
眠っている人間の不自然な動きに、メイリンはきょとんとするが、すぐにホッとしたように笑った。
「お、かわいいじゃん」
「こんな時に何言ってるんですか、ミゲル」
ニコルがため息をつく。
「あの、私がアスランさん連れて帰りますから、ついてきてください。クルーゼ隊長も待っていらっしゃいますし」
いいでしょうか?と首を傾げたメイリンに、ラスティがアスランの手首を一振りして了承の意を示す。
メイリンはじゃあ、と言って無重力の中を跳び、アスランの体を支え、ゆっくりと泳ぐように部屋へと向かう。
「あ〜、一回寝たらアスラン、めったなことじゃ起きないから気使わなくても大丈夫だぞ〜」
ラスティが聞こえないと分かっていても、つい声をかけてしまう。
その後ろでは、そういえばさっきからよく寝てるよな、とハイネが言えば、これが戦場とかだったら早いんだよな、起きるのとミゲルが。ニコルはくすくすと笑っている。そして浮いたまま、くるっと体ごと後ろを向く。その目は暗い。

「こんな寂しいところで一人になんて、もう絶対させませんからね」

誰に対してだろうか、強く強く呟く。
そしてもう振り向くことなく、仲間達と一緒にクルーゼが待つ部屋へと向かった。

end

リクエスト「アンチオーブでアスランの死んだ仲間が幽霊として登場」でした。アスラン寝てますけど(汗)。
他の誰にも見えないのに何故アスランは別格なのかといえば、まあそれは思いの力ということで(おい)。
本当はハイネが出てくるんならミーアも、と思ったんですが、ミーアは別の話で守護霊やってるんでやめにしました。

リクエスト、ありがとうございました!

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