「今だよ、ナナリー!」
「えい!」

バッシャアアアアアアンッッッ

ルルーシュの後ろにいたC.C.がその金の目を大きく見開いて、言葉なく共犯者の後ろ姿を見つめた。
ぽたぽたぽた、と黒髪から伝い落ちる雫が、足元に水溜りを作る。
そのすぐ近くでガランガランと音を立てて転がるのはバケツだ。取っ手についている紐はナナリーの足元まで伸びている。
成功だよ、と大喜びのマオと、きゃあと喜ぶナナリーが互いの両手を合わせたのに、C.C.がようやく我を取り戻す。

「マオ、タオルを貸せ」

C.C.はちゃんと用意していたらしいマオに手渡されたタオルで、いまだ我を取り戻せずにいるルルーシュの髪を少々乱暴に拭いてみた。




騎士を得て、増えた幸せ




「ルル、お説教長いよ」
ぐたっとしたマオとは対照的に、ナナリーはそうですねと笑った。それにマオが首を傾げる。
「嬉しそうだね、ナナリー」
「お兄様に叱られたの、久しぶりなんです」
きょとんとした顔でマオが、それが嬉しいの?と不思議そうに聞くと、はいとナナリーが頷いた。
「お母様が亡くなられてからずっと、お兄様は私を守るためにたくさん無理をされて。
なのに私にはいつも優しいばかりでした。本当はイライラすることもあったと思うんです。
周りのこと、私のこと。きっとたくさんあったはずなんです。でも私にそんな姿を見せたりしなかった」

優しくされるのが嫌なわけではない。叱られたいわけでもない。けれどそれが我がままだけれど、寂しかった。
アリエス宮にいた頃も大切にしてくれていたけれど、それでも些細なことで喧嘩をしたこともあった。
仲直りしたくてもできなくて、どうしようと泣いたこともあった。
お互いに母や仲のいい兄姉達の手を借りて謝って、そうして笑い合ったこともあった。
母はもういないけれど、兄姉達ももう遠く離れてしまったけれど、それでもルルーシュとは変わらず一緒にいるというのに、
どうしてだろう。時々、昔に比べて距離が遠くなった気がしてしまうのだ。

「だから、今日はお兄様に叱られてほっとしちゃいました」
小首を傾げて笑うと、マオが笑う気配がした。
「よかったね、ナナリー」
ナナリーの手を握ってそう言うマオに、はいとぎゅっと手を握り返す。
「いたずら、とっても楽しかったです。マオさん」
「またしようよ。そして一緒にルルに怒られて、C.C.に庇ってもらうんだ」
ごめんなさいと謝って、次は何をしようって二人で話して。
うきうきと楽しそうに言うマオに、ナナリーも楽しそうにはいと頷いた。


* * *


「私が寝られないだろうが。どけ、ルルーシュ」

C.C.がベッドに突っ伏しているルルーシュの背に足を乗せると、うるさいと返された。
それにC.C.が眉を寄せてため息をつくと、ルルーシュをまたいでベッドに乗り上げる。
そしてそのまま壁側に腰を下ろした。

「何を落ち込んでいる。可愛い子供の他愛ない悪戯だろうが」
「それは気にしていない」
「あれだけ説教しておいてか」
「叱ることは必要だろう」
叱りすぎはよくないがなとC.C.が返せば、顔だけをC.C.に向けたルルーシュと目が合う。
「お前がいる。ある程度で止めるだろう?親馬鹿だからな」
「シスコンが何を言う」
ルルーシュにふんと笑って返して、で?と首を傾げる。
「・・・・・ナナリーが嬉しそうだった」

叱られてしゅんとして、けれどどこか嬉しそうだったのに落ち込んだ。
真綿にくるむように大切に大切にしてきた。僅かな傷すら与えぬように慎重に。
それが間違っているとは思わない。けれどナナリーはどんな思いでそれに甘んじてきたのだろうか。
ふとそう思ったら、気分は落ちていった。

「優しくされるだけというのは、時に拒絶されているように感じるものだ」
「・・・・・改める」
「そうだな」
「で、お前は?」
「何がだ?」
C.C.が訝しげに問えば、ルルーシュがごろっと仰向けになる。
「お前こそ何を拗ねている?」
「拗ねる?馬鹿を」

「マオが前ほどべったりじゃないな」

C.C.はルルーシュの顔に笑みが乗っていることに気づくと、ムッとしたように顔を近づける。
「ナナリーもな」
「うるさい」
ルルーシュがムッとすると、C.C.が笑う。
「だが仕方あるまい。子供はいつか己の足で歩いていくものだ。どれほど親が手を繋いでいようとな」
ルルーシュの胸に頭を乗せ、目を閉じる。
「私は嬉しいよ、ルルーシュ。私しかいなかったマオが、他に大切なものを見つけた。
そのために自ら世界を広げようとしている」
その言葉にルルーシュも目を伏せ、息をつく。


「そうだな」


その声は複雑な響きを持っていたけれど、巣立とうとし始めた子供達を思いながら、二人は感じる寂寥感を共有した。

end

ナナリーを大切に思うマオをC.C.にべったりじゃなくなった辺りにそれを現してみたんですが、
何か分かりづらくてすいません(汗)。

子供達のためにはいいことだと思いながらも、お母さん達は複雑です。
嬉しいけど寂しい。でも子供達には言えないから部屋でちくしょうとか思ってます(それ違う)。
この家族は書いてて顔が崩れそうになります。可愛いなあ・・・、皆。

リクエスト、ありがとうございました!

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