私の騎士様


「私とルルーシュの間にあるのは契約だ」
「契約、ですか?」
C.C.とルルーシュの関係は結局のところなんなのか、というナナリーにC.C.が答える。
ナナリーが首を傾げると、C.C.はナナリーが折った鶴を持ち上げ、灯りにかざす。
「そう、契約。私だけは最後まで側にいるという契約だ。もちろん代価はある」
「側に…」
「そうだ。何があろうと私はルルーシュの側にいる」
もっと詳しく言えば多少は違う。けれど簡単に言えばそいういうことなのだ。
C.C.は折鶴をもう一羽灯りにかざし、どちらもきれいな形をしていることに感心する。
そんなC.C.の前でえ〜と、と人差し指を頬に当てていたナナリーは、あ、と手を叩く。

「じゃあC.C.さんはルルーシュお兄様の騎士なんですね!」

「騎士?」
思ってもいなかったことを言われ、C.C.はきょとんとした顔をする。
「はい。ずっとお兄様の側にいてお兄様を守って下さるんですよね?」

ルルーシュは脆い。強いけれど脆い。
だからナナリーはルルーシュが心配で。けれどナナリーこそがルルーシュを支える一柱だから、ルルーシュを守ることができない。
ナナリーを守る。それがルルーシュの生きる理由で。それがルルーシュの存在意義で。
だからナナリーはルルーシュに守られるしかない。そして守るだけの力がない。
目が見えないナナリーには、ルルーシュが見ているものが見えない。隠そうとしているものが見えない。歩くことができないナナリーには、ルルーシュを追いかけることができない。待っていることしかできない。
ならば誰がルルーシュと同じものを見てくれるのだろう。誰がルルーシュを追いかけてくれるのだろう。ずっとずっとそう思っていた。

「お兄様とC.C.さんがお互いの関係にどういう名をつけていらっしゃるのか、私には分かりません。でもよく似た存在を知っています」
昔ブリタニアにいた頃、まだ母が生きていて、ナナリーが外を駆け回ることができた頃に見た。
アリエス宮を訪れる兄弟はシュナイゼルとクロヴィス、コーネリアにユーフェミアだった。その中で一番年上のシュナイゼルは既に騎士を持っていた。
流石にアリエス宮の中にまでは入ってこなかったけれど、外に出た時にシュナイゼルの側にいるのを見たことがあった。
シュナイゼルの側にいて、シュナイゼルのためを思って、シュナイゼルを守る。
そんな存在。

「なるほど。私はルルーシュの騎士か」
妙な感じだなとC.C.が笑った。




* * * 




「お前が俺の騎士?」
上着を脱ぎながら眉をしかめたルルーシュに、ベッドに寝そべって雑誌を読んでいるC.C.が頷く。
「だそうだ。お前の妹が言っていた。私とお前の関係はブリタニアの騎士との関係と似通っているらしい。まあ、その性質は正反対だがな」
別にC.C.はルルーシュに忠誠を誓っているわけではないし、ルルーシュに従っているわけでもない。
それにルルーシュが確かにな、と同意する。
「お前が俺に忠誠など誓うはずがない」
「欲しいのか」
「いらん」
くすくすとC.C.は笑い、雑誌の上に顔を落とす。
そのままルルーシュの方を向き、だが、とシーツの上に並んでいた片足を曲げる。

「ナナリーのためを思い、ナナリーの側でナナリーを守る。お前はそれをナナリーの騎士と呼ぶ。私に当て嵌まらんこともない」

「は?」
「ルルーシュのためを思い、ルルーシュの側でルルーシュを守る」
「…始めの一文は甚だしく疑問だがな」
ふんっと鼻で笑って、C.C.はぱたっと曲げた片足を下ろし、もう片足を曲げた。
「そう考えると、それもいいかと思ったよ。共犯者の響きの方が実に的確で私は好きだがな」
お前の騎士というのも面白い。
ルルーシュは椅子を引き腰かけると、机の上で頬杖をつく。
「同感だな。だがナナリーが言うんだ。そういう名をつけても可笑しくはないか」
口元を上げて笑うルルーシュに視線をやったまま、C.C.はごろっと仰向けになった。
くしゃっと雑誌が音を立てたが気にしない。愉しそうに笑い声を上げる。
「任命式でもするか?」
「まさか。もうやっただろう?俺達は」
「違いないな」
一度目の契約はともかくとして、二度目の契約はルルーシュの言葉、応じたC.C.の言葉が誓約。
差し出した手と掴んだ手。それが剣の代わり。
誰も見ていない、誰も知らない二人だけの任命式。それで十分だろうと二人は笑った。




* * *




マオは今、ランペルージ兄妹が暮らすクラブハウスに居候している。ナナリーの騎士として。
C.C.しかいらない。C.C.しか興味がない。C.C.以外は邪魔。
そんなマオをナナリーの騎士にしたルルーシュの言い分はこうだ。

『お前はC.C.の側にいたい。C.C.は俺の側にいる。俺はナナリーの側にいる。ならお前がナナリーを守る騎士となり、ナナリーの側にいるのならばC.C.の側にいるも同じ。お前がC.C.を独占したいのは分かっている。俺が邪魔なのも分かっている。だが俺はC.C.を手放す気はない。ならばお前が妥協するのが賢明だと思うが?他にお前がC.C.の側にいられる道はないのだからな』

従え、と傲慢な目が言ったのを思い出すと、マオはルルーシュとナナリーの血の繋がりを疑いたくなる。
あれ、悪役のセリフだよねと、悪役の行動をしたマオは思う。

言葉を失って思わずC.C.を見ると、C.C.がマオを見る目はいつもの無感情で。けれどどこか心配そうで。マオに向けて銃を構えていながら、撃たせないでくれと言っているようで。
だからマオは頷いた。ルルーシュの言葉に。ナナリーの騎士になる、と言葉にした。

今となればそれでよかったと思う。
C.C.しかいらなかったマオは、側にC.C.がいることだけではなく、仕える主が思いの他気に入ったのだ。
度胸のある小娘だと思っていた。ルルーシュと兄妹なだけはあると思っていた。
流れてくるナナリーの思考も毅然としていて、恐怖よりも兄を守りたいという気持ちの方が大きかった。
そのナナリーの騎士となって、こうしてナナリーと毎日を過ごして。そうして感じるのは温かさ。
C.C.は優しかった。C.C.は温かかった。それだけがマオの世界でよかった。
ナナリーは優しい。ナナリーは温かい。けれどマオは他の世界を知りたいと思う。

ナナリーが見えないものを見てナナリーに教えたい。
ナナリーが行けない所へ連れて行ってあげたい。
そのためにもっと世界を広げたい。

そう言った時、ルルーシュが驚いたように目を開いて、そして優しく笑ってマオの頭を撫でた。
それに驚いて、けれど酷く嬉しかった。




「C.C.がルルの騎士?じゃあ僕とお揃いだね」
C.C.とナナリーが交わしたという話を聞いて嬉しそうに手を叩くマオに、ナナリーも嬉しそうに笑う。
「はい。お揃いです」
「そっか。僕もC.C.も、ナナリーもルルもおんなじだね」
同じだ同じだと喜ぶマオとナナリーは両手を合わせる。
マオは感情を素直に面に出す。そこに偽りも飾りもない。だから本当に喜んでいるのがナナリーに伝わる。

マオがナナリーの騎士だと言われた時、ルルーシュは言った。マオはルルーシュの側にいるという約束の形なのだと。
家に帰ってくることが日に日に減ってきたルルーシュは、ルルーシュがどこかに行ってしまうのではというナナリーの不安に言った。
マオはC.C.の養い子だ。養い親のC.C.はマオを愛していて、だからマオがナナリーの側にいれば必ずそこに帰ってくる。
ルルーシュの側にいるC.C.が帰って来るということは、ルルーシュも一緒だということだ。だからもう不安に思わなくても大丈夫だと。
ナナリーがいるところがルルーシュの帰る場所で。マオがいる限り何が何でもC.C.はルルーシュを連れて帰って来るから、と。

けれどナナリーはその言葉のためだけにマオを受け入れたわけではなかった。
マオがナナリーの騎士になってから、ナナリーは今まで以上に毎日が楽しい。
ルルーシュがいない日も、咲世子が忙しい日もマオがいつも側にいてくれる。側にいてマオが見たものをナナリーにも教えたいからと、一生懸命伝えてくれる。ナナリーには見えないけれど、マオが言葉を尽くしてくれるからその情景が頭に浮かんでくる。
そしてマオは人の心が読めるのか、ナナリーが落ち込んでいたり不安に思っていればすぐに気づいてくれる。そしてそれを解消してくれる。時には一緒に悩んでくれる。ナナリーが喜んだ時は一緒に喜んでくれる。
誰かが一緒に感情を共有してくれるその事が、ナナリーにとってとても嬉しくて楽しい。

「マオさんはC.C.さんが本当に大好きですね」
「うん!でもね、一番大好きなのはC.C.だけど、ナナリーもルルも大好きだよ!」
「私もマオさんもC.C.さんも大好きです」
「一番はルルだけど?」
「はい」

そして二人でくすくすと笑った。


end

騎士設定話でした。
ルルCは楽しく、マオナナは可愛いなあくそう、と思いながら書いてました(笑)。

リクエストありがとうございました!

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