「骸様…っ」

走った。走って手を伸ばした。けれどいつもすぐに阻まれ、慕う人の元へは辿りつけない。
大好きな人。その人のためならば何だってする。命だって賭けられる。なのに自分達の存在がその人の枷になるなんて。
大人しく待っていなさいと骸は言う。笑って言う。千種を、犬を、クロームを安心させるように。
三人の首につけられた枷を目を細めて忌々しそうに見て。この戦いが終われば自由ですよ、と。そう言って、骸はいつも扉の向こうへ消えていく。

「ちっくしょう!」

犬が床を殴る。
千種が壁を殴る。
クロームがぐっと拳を握る。
骸を犠牲にするくらいならば自分達が犠牲になるのに。骸に対する人質である自分達など、人質としての価値がなければよかったのに。
触れる首輪。硬くて冷たいそれは、少しでも逆らえば電流が流れるようになっている。軽いものがら強いものまで様々。下手をすれば心臓が止まってしまう。
そうできればよかった。心臓が止まってしまえば人質はいなくなる。骸は自由だ。けれどできない。骸を傷つける。

「お役に、立ちたかったのに…っ」

それは三人が共通して抱く思い。


片隅の安堵は見ないふり


好きだなんてそんな馬鹿な。
気がつけば彼が好きだった。孤高の獣、雲雀恭弥。
彼にとって僕は屈辱を味わわせた相手。許せぬ存在。
それでもよかった。彼の中に僕は確かに存在する。名前一つで反応するなんてそんな相手はそういない。
満足、ではあった。会うたび戦いを仕掛けられるのだとしても、彼の目は僕を映し、彼の耳は僕の声を聞き、彼の口は僕へと言葉を発する。彼の手足すら僕と戦うために動いて、彼の頭は僕を倒すことだけを考える。
彼をその瞬間だけは手に入れられる。その瞬間だけは僕だけのものになる。だから、それでよかった。

「でもさ、獣にも伴侶がいるよね」

忌々しい男が耳元で囁くのに眉をしかめる。鬱陶しい。
男は背後から両肩に手を置いて笑う。

「ヒバリちゃんには恋人がいるよね」

そう、孤高の獣も伴侶を作る。その血を残すために。
彼も伴侶を得た。けれど彼は血を残すことに興味はない。なら何故伴侶を欲したのか。
答えはいたって簡単。愛し、惹かれたからだ。
元々気にしていた相手ではあった。彼にとって未知の生物であろう子供。彼はいつも心の片隅にその存在を置いていた。
彼はいつも子供を見ていた。時に関わっていた。彼が守護者を引き受けたのもその延長だろう。
それが恋と呼ぶものに変化したきっかけは、恐らく彼にも分かっていない。彼はある日突然自覚した。
子供が、沢田綱吉が好きなのだと。

「…追いかけて捕まえて逃げられてまた追いかけて。それが渡伊が決まるまで続きましたかね」
「ふうん?」

自嘲するように語る。
見ていた、ずっと。初めは逃げていた子供が彼に惹かれていくのも全部、見ていた。
子供も子供で恋になるための下地はあったのだ。彼を怖いと思いながらも憧れていた。尊敬してもいた。彼の心身共に備わる強さに。
彼の顔の造作も影響していただろう。どうやら子供は面食いらしく、ああいう綺麗な顔に弱い。
そんな子供は彼に口説かれ追いかけられているうちに、胸に抱いた彼への思いを徐々に変化させていった。そうしてある日、子供は完全に彼に堕ちた。

『他にどうしろって言うの。人の愛し方なんて知らない。接し方なんて知らない。手の伸ばし方だって知らないんだ。なのに君を好きだと思う。欲しいと思う。なら僕なりに君を愛するしかないんだ!!』

泣き出しそうな顔でそう言った彼に、驚いた。それは子供も同様で。
うつむいて動かなくなった彼の前で、いつものように逃げることない子供は考えた。そして手を伸ばして彼に抱きついた。

『俺だって知りません。どうやったらいいのかなんて分からない。だからヒバリさん。俺達なりのやり方を一緒に探していきませんか?俺はあなたにこうして抱きついて、その…好きって言います』

彼は驚いたように目を見開いて、怯えたように本当?と呟いて子供を抱きしめた。

『なら僕は、君をこうして抱きしめるよ。好きだって言う』

そこから始めよう、二人で。

そう二人は言って、ぎゅっと抱き合ったまま耳まで赤くしていた。

「君はさ、ずっと彼を愛していくんだ?」
「知りませんね。先のことなんて分かるものですか」
ぱしっと肩に置かれたままの手を払うが、次は腰に手が回され、引き寄せられた。本当に鬱陶しい。
「でも十年も片想いしてるんでしょ?」
ならこれからもしてる可能性は高いよね、と笑う男を睨みつける。
「まあ、そんな骸くんも好きだけどね」
「迷惑です」
「でもヒバリちゃんと綱吉くんを側で見続けるの、辛いでしょ?僕なんか慰めにちょうどいい相手だと思うよ?」
「…よく言う」
唸るように言えば、にっこりと笑みが返る。
何が慰めだ。人質を取って言うことを聞かせているだけのくせに。
落ちてくる口づけを受け止めながら思って、そうして次に脳裏に浮かんだ雲雀恭弥とボンゴレを振り払うように男の愛撫に集中する己に吐き気がした







元々持っていたボンゴレの霧の守護者を示す指輪は今手元にはない。手元にどころか、この世界のどこにもない。ドン・ボンゴレの指示の元、壊されて久しいからだ。
その代わりにとばかりにミルフィオーレのボスである白蘭に渡されたのがこの指輪、霧のマーレリング。
まだ一度も指に通したことはない指輪だが、今日は通さないわけにはいかない。そう思うとぎりっと歯が鳴る。強く強く握る手がこのまま指輪を壊してしまえばいいのに、なんて。
実際にできたとしても現状は何一つ代わらないというのに。
ふう、と息を吐いて全身から力を抜く。そして前を見れば閉じられたままの扉。あれが開けば…。

「君は、どう思うのでしょうね」

頭に浮かぶのは二人。一人は想い人。一人は恋敵。
二人は今ここに立つ自分を見て、どんな顔をするのだろうか。
目を伏せる。

今、時間が止まればいいのに。

その願いは叶うことはない。そのうち扉は開き、彼らの姿を目に映すことになるのだ。
そうすれば、と目を開く。
想い人とその恋人が共にいる姿を見るのは辛かったけれど、それ以外では意外と居心地がよかった場所へ完全に別れを告げるのだ。

end

リクエスト「未来編で白蘭と何かの取引をして裏で手を組み、ミルフィオーレの霧の守護者になる骸。黒曜組付き」でした。

骸→ヒバツナ前提白骸ですが、苦手なのあったらすみません。本当は白正も加えようと思ってた(え)。
そしてこれは取引、でしょうか?弱味につけ込んでるだけな気が…(汗)。
白蘭さんはこういういうことが普通にできる人だと思ってます。

リクエスト、ありがとうございました!

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送