隠れ鬼。
それは物陰に隠れた者を鬼が探し出すという遊び。
鬼が最初に見つけた者が次の鬼となるのだが、この場合は違う。
見つけられたら明日の我が身は無いも同然!!
そうして息を潜めて隠れている少年は、鬼が時間切れになって探すのを諦めるのを待った。


隠れ鬼


「隊長、そろそろプラントに出発される時間なのでは?」
ブリッジに入ってきたクルーゼに、アデスが首を傾げた。
クルーゼはああ、と返事を返しながらブリッジを見渡す。そしてやはりいないか、と謎の呟きを洩らして出て行く。
その場に居合わせたクルーは頭にハテナを浮かべ、己の隊長の後ろ姿を見送る。
「…艦長?」
「…隊長のなさることだ。追求しても良い事はない」
「ですが、その」
口ごもるクルーに、アデスは何だと視線を移す。
できれば知りたくないと言わんばかりの視線だが、口を開いたクルーも一人で気になったことを抱えるのが嫌だった。
「私は先程まで休憩をとっていたのですが、その際にアスラン・ザラを見まして」
アデスがアスラン・ザラ、とクルーゼ隊のエースパイロットの名を繰り返す。
嫌な予感がするのは、アスラン・ザラが優秀でありながら、実はトラブルメーカーではないのかと疑いを持っているからではない。今さっき謎の行動をして去って行ったクルーゼのお気に入りだからだ。おそらく今回のクルーゼの謎を解決する鍵を持っている。

「辺りを見回したかと思うと入り口近くの天井を見上げ、あそこでじっとしておくとか、いや見つかれば逃げ場が、 とぶつぶつと呟いてどこかへと走って行ったんです」

しん、とブリッジから音が消えた。手を動かしていたクルーも手を止めた。
アデスは遠い目をして、ああ、と呟いた。

プラントに呼ばれている当人とその護衛が、あといくらもしない時間には出発だという時に一体何をしているのだろうか。
確認するまでも無い。クルーゼ一人が可笑しな行動をしていれば特に問題はないが、あの真面目なアスラン・ザラが こんな時間に可笑しな行動をしている時点で決定だ。
あの二人はおそらくまた何かを賭けている。いや、二人というのは正しくはないだろう。 クルーゼのお遊びにアスランが巻き込まれているのだ。その際に何か条件がつけられている。時々あることだ。
そしてぐったりしたアスランを、クルーゼが愉しそうに連れて歩くのがそのお遊びの終了をクルー達に教えるのだ。
おそらくは今回もそうなるのだろう。

「かくれんぼ、ですかね」

呟いた一人のクルーに、おそらくは、とブリッジにいる者全てが心の中で頷いた。


* * *


逃げねばならなかった。なんとしても逃げねばならなかった。

アスランはヴェサリウス中を走り回っては、どこか隠れそうな場所はと頭に地図を思い浮かべるが中々ない。
途中でラスティがアスラン?と声をかけたが気づかず、ミゲルがよおと手を上げたがこれにも気づかずに走った。
後からあの二人に絶対に見つからない隠れ場所を聞けばよかったと悔やむのだが、この時のアスランはそれどころではなかった。
とにかく急いでいた。急いで隠れ場所を見つけねばならなかった。
このまま走り続け、時間オーバーを狙いたいところなのだが、隠れていないとアウトなのだ。
時間オーバーになったとしても、どこに隠れていたのかと聞かれれば答えられない。適当に答えて騙されてくれる相手ではない。
そうなれば負けた時と末路は同じ。それだけは避けたい。

大体あの人は、何だってこんな大切な時にこんなゲームを始めるんだ!!

その答えなど分かりきっている。暇つぶしだ。
プラントへ出発するまでの時間、彼は暇だと呟いた。
仕事をすればいいと思うだろうが、仕事をすればキリがないと主張するのだ。
もしも気になる事柄を発見すればどうするのだ、時間間際になっても一段落つかなければどうするのだ。
まあ確かに、と納得した。
しかしだ。だからといって彼のお遊びに自分がつき合うのはどうだろうか。
本人に言ったところで良い様に言いくるめられて終わるため、心で逆らう。何の意味もない行為だ。

こんな時、イザークやディアッカと違う艦でよかったと心底思う。
こんな自分を見たならば、きっと嘲笑を浴びせるなり罵倒するなりするだろう。
そうでなくてもアスラン自身が、こんな自分を見せるのは嫌だ。

と、視界に映った一つのドア。
アスランは思わず足を止め、考える。

「…灯台下暗し」

そんな都合の良い事が起こったらいいなあ、と期待して、アスランはドアを開いた。


* * *


毎回思うことだが、どうしてこう愉快なのだろう。

アスランを探していたクルーゼは思う。
勘で戦争をする男、と噂されるクルーゼは、ああここにいるな、と分かったのだが、すぐに見つけては面白くない。自分が。
時間ギリギリに見つけてこそ愉しいものだ。アスランの反応が。
そのため、わざと探し回ってみせた。その時間さえも愉しい。
だがそろそろ時間だ、とクルーゼは一つのドアの前で足を止める。ロックを解除してドアを開ける。気配はない。
さすがだな、と口元を上げ、ゆっくりと音を立てて部屋へと入る。
シュンッとドアが閉まる音を背景に、クルーゼはシャワールームへと向かう。 そのドアを開けて中へ入ると、振り返って天井を見上げる。

「まあ、よく考えたと褒めておこうか、アスラン」

う、と顔を歪ませたアスランは天井に張り付いていたが、クルーゼと目が合った瞬間に飛び降り、 一瞬も休むことなく地を蹴って出て行こうとする。
それを予測していたクルーゼの手によって足首を掴まれ、顔面から落ちたが。
受身を取ろうにも片足を持ち上げられているため取れず、見事な音がした。

「大丈夫かね?アスラン。綺麗な顔に傷でもついたらどうしてくれようか」

自分でしておきながら何を言うか、と痛みと戦いつつアスランは思う。
床に突っ伏したままのアスランは、顔を抑えながらクルーゼを見上げる。

「言うことはそれなんですか」
「そうだな。君の負けだ、アスラン・ザラ」
「……もういいです」

僅かに涙目のアスランにクルーゼは笑う。
そして足を離すと、起き上がろうとするアスランに覆いかぶさるように腰を曲げた。

「さて、そろそろ出発の時間だ。賞品は向こうで頂くとしよう」

そしてそのまま口づけると、愉しそうに部屋を出て行く。
うう、とプラントでの己の末路を思うと泣けてくるアスランは、早く来たまえと声をかけるクルーゼにはい、と返す。

賞品。
それはご推察の通りアスラン自身である。
しかしそれでは普段と何の変わりもないということで、ヴェサリウスでは出来ない一日中ベッドの中というオプションがつく。
一体何しにプラントに行くんだ、とアスランは思うわけだが、敗者に異議を唱えることは許されてはいない。

さよなら、俺の一日。

そうして愉しそうなクルーゼの後ろをぐったりとしたアスランが歩いていくことで、ヴェサリウス勤務のクルー達は 今日のゲームの終了と、勝者と敗者を知るのだった。

ちなみにアスランの隠れ先は、クルーゼの自室であった。


end

ということで、「ヴェサリウスでかくれんぼ」でした。
鬼ごっこな気もしますが、一応アスラン隠れたんでかくれんぼと言い張ります!
ただ自分で書いてて隊長酷いや、と思いました。アスランの顔があああ!!

リクエスト、ありがとうございました。

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