過去の想い。癒された傷。




『アスランはラクスのこと、どう思ってるの?』

アスランの脳裏に先程のキラの問いが蘇る。二年も経って聞かれるとは思っていなかった問い。今更な問い。
それは二年前に聞くべきことだろうと思いはするが、それでも二年前に聞かれていたら自分はどう答えていたのだろうか。
きっと何でもない顔をして凄い人だと思うよ、と的外れな答えを出したのではないだろうか。
だってそうするしかない。大切だったよ、なんて言えない。結婚するんだと思ってたよ、なんて言えない。
ラクスはもうアスランの婚約者ではなく、キラの恋人なのだ。その恋人の前でそんなことは言えない。
言えばキラは気にするだろう。気にしてラクスともアスランともぎくしゃくするだろう。
ラクスとアスランがお互いに対する未練を見せないからこそ、キラはラクスと笑っていられるのだから。

「自分の恋人には婚約者がいたんだって、それをちゃんと分かってないからそんな問いができるんだ」

破棄されたとはいえ、キラとラクスが恋人になるほんの数日前にはラクスには婚約者がいた。
そのことが分かっていれば言えない問いだとアスランは思う。時間が経ったからといってしていい問いとも思えない。
たとえわだかまりがないのだとしても、燻っているものはあるかもしれないのだから。
はあ、とため息。そのアスランの背がどんっと衝撃を受ける。

「ア、ス、ラン!」
「ミ、ミーア…っ」

一瞬息が詰まった、と睨みつけると、にっこりと笑顔が返される。
そしてそのままアスランの腕を抱き込んで、ほら行きましょっと引っ張られる。

「アスランが色っぽいため息ついてる間に、皆お仕事終わったわ。後は隊長さんの合図でおしまい!」
「それでミーアが呼びに?」
「お仕事の邪魔したんですもの。少しはお手伝いしないと」

そうは言うが、ミーアはせっかくきたのだから、と部下達に労いの声をかけていた。
ラクスに代わって、今プラントが歌姫と慕うミーアからの労いに部下達は表情を明るくしたし、
ラクスとキラが抱き合う姿を見て味わった複雑な感情も癒されたようだった。
確かにミーアがこの場にいることは可笑しいどころか許してはいけないことだ。
敵軍の施設なんて危ないところにいさせてはいけない。けれどアスランも部下達もそれに癒されてしまった。
ここにいてくれてよかった。そう思ってしまった。アスランなどその姿を見るなり抱きついて縋ってしまった。

「だめだな」
「何が?」
「君に甘えっぱなしだってこと。俺も部下達も」
「そ?あたしの方が甘えてるわよ?」
だから怒られもせずにここにいるんだから、とそんな言葉に思わずミーアに視線を落とすと視線が合った。
「ミーアだってちゃんと分かってるわよ?本当はここにいるの、許されないことだって」
ちゃんと反省したわ、とミーアが前を向く。
「キラ・ヤマト達がここにいるって聞いて、もう行かなくちゃってそれしか考えられなくて。
でもそれであたしが危険な目に遭ったら、アスラン自分を責めるでしょう?あたしがアスラン傷つけることになるのよ」
そんなの最悪じゃない、とミーアが足を止める。そしてアスランの腕を抱いたまま顔を上げるとふわりと笑った。

「だからもうこんな真似しないわ。アスランの帰りを待ってるから、アスランはちゃんと辛かったって言ってね。
あたし、全部聞くから。我慢しないでちゃんと言ってね」

「……ああ、ミーア」

約束ね、とミーアが踵を上げてアスランの頬に口づける。
その瞬間、泣きたいと思った。ミーアを抱きしめて、その肩に顔をうずめて泣いてしまいたいと思った。

可笑しなものだと思う。ミーアがきてくれるまでは苛立っていた。
今更あんなことを聞いてどうするつもりなんだと。二年も経ってから気にするなと。
痛くて痛くて、どうして人の傷口を抉るようなことを言うのだと苛立っていた。
二年前に聞かれていたら、なんてことを考える余裕だってなかったはずなのに。

「本当に君には」
「なあに?」
「敵わない」
「え?」

きょとんとしたミーアに微笑む。

『俺に必要なのは、ミーアだ』

キラの問いへの答え。それは今だからこそ出た答えだ。二年前には出せなかった答えだ。
二年前にはまだミーアに出会っていなかったのだから。出会って恋をして始めて出せる答えなのだから。
出会っていなかったら、恋をしていなかったら、きっとまだ答えなど出せずに誤魔化した。
だから、思う。




「君に会えてよかった」




end

リクエスト「過去の想い。開かれた傷。」で「アスミアのラブラブ」でした。
ラブ度が低いような…。アスランが色々考えてるせいでしょうか?
アスランはミーアにたくさん甘やかしてもらえばいいと思います。

リクエスト、ありがとうございました!

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