愛する人と生涯を共にしたい。そう願うことはごく当たり前のことだ。けれどその当たり前を現実とできるかはまた別の問題だ。
要因は様々。個人の事情であったり、家の事情であったり、仕事の事情であったり。プラントで暮らすコーディネーターにおいてはそれらの事情に加えて国が関わってくる。

婚姻制度。己の伴侶を遺伝子が定める制度がプラントにはある。
というのも、遺伝子操作を受けて生まれたコーディネーターはその影響でだろうか、出生率が年々低下するという事態に陥っていた。それを解決とまではいかないが、これ以上低下しないために打ち出された政策が、相性のいい遺伝子同士を伴侶とするというもの。その方が子供ができる可能性が高いことが分かったからだ。
けれどそれは強制ではない。希望するものの中から己の遺伝子にとっての最良の伴侶を見つける。
子供が欲しい。その思いからの行動が結果、愛する人と別れることに繋がることもあった。そのためそれを快く思わないものも確かにいた。けれどそれを救いとしているものも確かにいるのだ。
そんな中、婚姻制度は廃止された。歴代の議長の中で一番若い議長によって。


自由恋愛の代償


――婚姻制度廃止の理由をお聞かせいただけますか?

わたくしはずっとこの制度に疑問を感じておりました。遺伝子が定める己の伴侶。それはわたくし達個人の意志を無視したものです。そのために愛する方と別れねばならないと泣く方も、わたくしは見てきました。
何故なのでしょう?何故そうまでして別れねばならないのでしょうか。
婚姻制度は人を縛りつけるものです。人の自由を奪うもの。前議長が掲げたディステニープランと何ら変わらないものです。
人は己で己のことを決められる。そんな自由を生まれながらに持っています。それを奪うもの。
そう思うからこそ、わたくしは婚姻制度を廃止いたしました。

――ラクス様にも婚姻制度が定めた婚約者がいらっしゃいましたが、その方とは今後どうされるのですか?

アスラン・ザラですわね。彼との婚約は破棄されております。わたくしの父、シーゲル・クラインとアスランのお父様、パトリック・ザラの対立が本格的となった頃、わたくしとアスランは婚約者ではなくなりました。

――その話は初耳です。何故公表されなかったのですか?

個人的なことであるということ。そしてわたくしもアスランも訳あってブラントを離れておりましたから。

――ですがお二人はコーディネーターの未来と、プラントに住むコーディネーターからの期待を一心に受けていらっしゃいました。公表する義務はあったのではないでしょうか?

…そうですわね。わたくしにとってアスランとは親の定めた婚約者でした。そのために皆さんへの配慮に欠けておりましたわ。申し訳ありません。

――いえ。それではもうその方との復縁はないということでしょうか?

はい。わたくしもアスランも自らの意志のうえでの婚約ではありませんでしたから。わたくしはわたくし。アスランはアスランの自らが選び取った未来があります。

――お二人は仲睦まじくいらっしゃったように思いましたが、実はそうではなかったと?

そうではありません。わたくしはアスランを好ましく思っておりました。ですが彼との未来は定められたもの。その範囲内での好意であったのです。

――つまり恋ではないと?

はい。

――今回の婚姻制度廃止はそのこととも関わりがあるのでしょうか?

そういうわけではないのですが…。本当に愛する方を見つけた時、わたくしは婚姻制度に従うことによって傷ついた方々の気持ちを自分のものとして知ることができました。ですから多少関わっているのかもしれません。

――ラクス様には今恋人がいらっしゃるのですか?フリーダムのパイロットでは、という話を耳に挟んだのですが。

ふふ、そうですわね。いつか場を設けようと思っておりましたけれど。彼のおかげでわたくしはこうしてここにおります。

――ラクス様と共に戦われる以前の情報が掴めないのですが、どういった方なのでしょうか?

あの方はとても強く、けれど弱い方。そしてとてもお優しい方です。
彼はいつもわたくしを支え助けてくださいます。彼がわたくしにくださる全てをわたくしもお返ししたい。彼が守ってくださるようにわたくしも彼を守りたい。そう思っておりますわ。これ以上は申し訳ありませんがお教えできません。

――では最後に、これからのコーディネーターの出生率の低下に関して、どうしていかれるおつもりでしょうか?

我々コーディネーターは遺伝子操作を受けてこの世に生れ落ちました。出生率の低下はその後遺症といえるものでしょう。そうである以上、我々はいつか滅ぶのではなく、ナチュラルに還るのが自然です。
ナチュラルとコーディネーターは元は同じ存在、同じ人間です。その隔てをなくす。それこそがナチュラルとの融和。わたくしと父、シーゲルが目指したものなのです。そうすることができた時、コーディーネーターは出生率の低下に悩むこともなくなるのだとわたくしは思っております。

『月間プラント』最新号より

『戻れ!戻ってこい、アスラン!』
「無理だって言ってるだろう!」
『そこを何とかして戻ってこい!それでも元ザフトレッドか!』
「俺が戻ったら余計騒ぎになるだろう!」
『そんなことは分かっている!』

ああ、腹が立つ!そう叫ぶイザークに画面の中のアスランが額を押さえた。
イザークの言葉はただの八つ当たりだ。つられて声を荒らげたアスランも多少現状における八つ当たりが混じっていたが。
「こっちにもプラントから記者がきてるよ」
『だろうな』
「そっちに比べれば可愛いものだけどな。でもカガリから自宅でじっとしてろと無理やり休みを取らされた」
取材はカガリが全て断っている。だが諦めずに張り込むものもいる。そのためアスランが外に出ているのは周りにとっての迷惑。
「まいったよ。何人かメイリンに近づいた記者もいたらしくて」
イザークの眉間の皺がより深くなったのにアスランは苦笑する。
メイリンはラクスとアスランが乗っていた艦に一緒に乗っていた。二人の婚約のことも知っているし、ラクスの恋人とも面識がある。どこから嗅ぎつけたのか彼女にコメントを求めたと聞いた時は眩暈がした。
それもこれもラクスの婚姻制度廃止の宣言が始まりだ。そしてその後の雑誌のインタビューに対するラクスの回答。

『貴様は知らなかったのか?婚姻制度廃止のことを』
「知るはずないだろう?俺は今はオーブの人間だ。プラントの政策を知る立場にいない」
オーブの人間。それを聞いてイザークがムッとした顔をしたが、アスランとしても本意の結果ではないと知っているので流す。
『オーブ代表は知ってたんじゃないのか?』
「みたいだな」
アスランが肩をすくめると、イザークがため息。

プラントは今、荒れている。

「…なあ、イザーク。きっとラクスはこんなに反発があるなんて思ってなかったんだ」
『だからどうした』
「うん。彼女はシーゲル様の言葉を一番近くで聞いていた人だから、コーディネーターが滅びゆく種だってことを受け入れられるし、ナチュラルとの融和も受け入れられる。元々彼女自身にナチュラルとコーディネーターっていう隔てはないし」
『それはプラントに住むコーディネーターとしては特殊だ』
わかってる、とアスランは頷く。
一時、中立都市に留学していたことがあるアスランでもナチュラルとコーディネーターという隔たりを完全になくすことはできなかったのだ。プラントしか知らないコーディネーターに受け入れられるはずがない。
「オーブとの親交でナチュラルに慣れてきてはいたんだろう。だが受け入れるまでじゃなかった」
『時期を待っていたつもりが、全く足りていなかった。愚かで済ませられんぞ』

ラクスは様々な方面で反発を受けた。
一つは婚姻制度によって結ばれた夫婦。それは恋人と別れて夫婦になったものも含めて、だ。
簡単な気持ちで受け入れたのではないと。悩んで悩んでそうして決めたのだと。それは自分が自分の意志で決めたことで強制ではなかったのだと。辛い思いもした、苦しい思いもした。けれどそれらを乗り越えて幸せに、夫と妻と子供と幸せに暮らしているのだ。それを可哀想と言わんばかり。それは今ある幸せの否定だ。乗り越えてきた辛苦の否定だ。

二つは婚姻制度の廃止は恋人と結ばれたいがための私情ではないのか。そういう声を上げたもの達だ。
ラクスがアスランと別れたのも恋人と出会った時期と重なる。父親同士の対立のためとは建前ではないのか。

三つはナチュラル回帰というラクスの思考。
コーディネーターには未だナチュラルを嫌悪するものが大勢いる。なのにコーディネーターはナチュラルに還るのが自然。そんな発言は彼らには到底受け入れ難いものだ。

四つは子供に恵まれない夫婦。
子供が欲しいのにできない。婚姻制度に従ったもの、従わなかったもの様々だが、彼らはラクスの実質、出産率低下の悩みを放り出したような発言に憤った。これはまだ結婚していない男女にも当て嵌まる。

『問題は山積みだ』
「…ラクスの恋人がコーディネーターっていうのも原因の一つなんだろうな」
ああ、とイザークが頷く。
ナチュラルに還る。そう言いながらラクスが選んだのはコーディネーター。
ラクス自身がナチュラルを伴侶に選んだなら、まだ少しは反応が違ったはずだ。ラクス自身がナチュラル回帰への一歩を踏み出してみせたなら。
けれど彼女がしてみせたのは自由恋愛。遺伝子が選んだ伴侶ではなく、好きな人と一緒になること。
「別に悪いことじゃないんだ。当たり前のことだ」
『だが彼女が宣言したことだ。我らに残された僅かな希望である婚姻制度の廃止。そしてナチュラル回帰。それを彼女が実践せずに誰が納得する』
ラクスも一人の人間だ。けれど一国を治める立場にあるラクスに一人の少女としての振る舞いは許されない。
自由恋愛など、彼女が実践しなくともできることだ。現に婚姻制度に従わずに恋人と一緒になるものもいるのだ。けれどナチュラル回帰は別だ。
コーディネーターにとってのナチュラルは以前に比べれば多少緩和されたものの嫌悪、憎悪が先に立つ。見下しているものとているのだ。そんな状況でコーディネーター間でも出生は難しい。ならばナチュラルと、などと言われて受け入れられるはずがないことは考えずとも分かる。
それでもそれを宣言するのならば、彼女が自身でまず実践してみせなければ。そうしたならば今よりは考える人間がいたはずだ。
それをしないから今のラクスは私情で動いているようにしか見られない。婚約者でない男と一緒になるためにその立場を利用したとしか見られない。

『それとキラ・ヤマトだが』
「キラ?」
忌々しそうな顔をしていたイザークが急に表情を消したのに、アスランが眉を寄せる。
キラがどうしたというのだろうか。キラはラクスの側にいるのだから、今回の騒ぎによって直接攻撃されることはない。クライン派がラクスを守るようにキラも守るだろうから。
ではキラが何かしたのか?まさか。キラは基本的には受身な人間だ。ラクスを抱きしめて慰めているか、ラクスに慰められているか。動くことはクライン派がするだろう。では?


『生殖能力がないことが分かった』


「…は?」

イザークが言った言葉の意味が分からなかった。
目を見開いてただイザークを見ていると、イザークがこれはまだ公にはされていないが、と続ける。
『クライン議長に対する反発が酷いからな。一応奴との相性を調べてみたらしい。子供が生まれれば国民の反発も多少緩和されるだろうとな』
だが結果は最悪。相性以前の問題だった。
キラは子供を作ることができない。何をどうしてもラクスとキラの間に子供が生まれることはない。
「な…」
『コーディネーターは遺伝子操作を受けて生まれた。キラ・ヤマトもそうだが、奴は俺達と違って最高のコーディネーターを生み出すという目的のために生まれた。俺達以上に遺伝子操作を受けている。その弊害ではないかと言われている』
「弊、害」
キラが。
目の前がぐらりと揺れた気がした。それを知ったキラはどう思ったろう。ただでさえ自分が母胎から生まれたわけではないのだと、多くの犠牲の果てに造られたのだと知らされて苦しんでいるのに。そのうえ子供ができない?愛する人と一緒になってもその二人の間に子供はできない?
けれど思えば考えられない話ではなかったのだ。
コーディネーターの出生率が年々低下しているのは、遺伝子操作を受けて生まれた存在だからだといわれている。自然に生まれた存在ではないからだと。ならばコーディネーター以上に人の手がかかったキラに生殖能力がないのは当然のことなのかもしれない。

『今は公にされてはいないがそれも時間の問題だ。人の口に戸は立てられないのだからな』

その言葉にはっとする。いつのまにか伏せていた顔を上げてイザークを見れば苦々しい顔。
『緘口令が敷かれているが、それもいつまでもつか』
「…イザーク」
『貴様には知らせておけと上からのお達しだ。覚悟しろ、アスラン』
「イザーク!」
上とはラクスではないだろう。では誰か。覚悟、何を覚悟。
「まさか、イザーク」
『プラントは荒れている。だがキラ・ヤマトのことが知れれば更に荒れる』
その前に。その前に。その前に。
「ザフトは、プラントを守るのが仕事だ」
泣き笑いのような顔で言えば、頷きが返る。

『ザフトはラクス・クラインを引き摺り下ろす』

プラントのために。

end

リクエスト「ラクスがプラント議長設定で、会見で婚姻制度の廃止を宣言し、プラントの市民からアスランとはどうなったか聞かれる話」でした。
・ラクスの立場で自由恋愛は許されるのか。
・キラはスーパーコーディの代償に精神的もろさと生殖能力がないのでは?
・キララクの間に子供できないことを知ったプラントの反応はどうなのか。

ということでしたので、それは流石に許されないだろうという結論になりました。
婚姻制度は強制ではないんじゃないかな、と思ってます。
アスラクの婚約解消の時もちょっと思いましたが、タリアさんが議長じゃなくて婚約者を選んだ場面を見て、
従うもよし、従わないもよし。それが婚姻制度なんじゃないかなあと。
でもだからこそ皆いろいろ考えて苦しんで、そして決めて。それを否定する行為が婚姻制度廃止だと思います。
アスラクの婚約はプラントに婚姻制度をより浸透させるためのプロパガンダだと思ってるので、廃止でもしないかぎり国民納得しなくね?と思ったり。理由失くして解消できないだろう。…アスラク二人そろって全く気にしてませんが。
そういうのが前提にあるのに廃止した後にキラといちゃいちゃしてれば、国民はそのために廃止したんだと思うだろうなあと。

リクエスト、ありがとうございました!

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