愛しいひと、わたしはここに


戦犯。
終戦直後、その名を与えられたのはギルバート・デュランダルだった。けれどその後、ギルバート・デュランダルの下に名前が連ねられた。
ラクス・クライン。カガリ・ユラ・アスハ。キラやバルトフェルド、AAクルーやエターナルクルーの名もあったが、大きく取り上げられたのはこの二名だ。
プラントの平和の象徴と呼ばれ、慕われたラクスは、プラントから資金を横領し、ザフト統合開発局が凍結させたMSのデータを盗用した。そして先の戦争で敵軍兵士を匿い、フリーダムを強奪し、与えた。
中立の国と呼ばれる国で獅子の娘と慕われたカガリは、先の戦争で失われたはずのフリーダムとAAを修復、保持し、ユニウス条約違反である核を搭載させた。
それだけではない。彼女はオーブ代表の意思の元で大西洋連邦と条約を結び、オーブに住むコーディネーターを不安にさせながら、それを緩和させるでもなく自身は国から出奔した。なのに条約に従って出兵したオーブ軍に理念にそぐわぬから退けと訴えた。明らかなる矛盾。

それらに裏切られた、と叫ぶ声は大きかった。
プラントにおいてはラクスに。オーブにおいてはカガリに。
各々の国から慕われていた彼女達は、最悪な形で国民を裏切った。

「だが、知られなければ何も起こりはしなかった」
「アスランさん…」

表では立派なことをしていても、見えないところでは後ろ暗いことをしている人間はどれほどにもいる。知られなければ誰も気づかない。知らなければ非難もされない。結果が全てだ。その過程にどれほど非道なことをしていても、それに関わりがない人間にとっては、知らなければないも同じこと。
ラクスとカガリがしたことはそれだった。追求しなければ、知らせなければ誰も気づかなかった。彼女達は再び英雄と呼ばれたはずだ。

「それでも、アスランさん。知らないままじゃダメだったんです」
メイリンがアスランの視界を遮っている腕に手を置くと、そっと下ろさせる。
新緑の目がメイリンを見た。
「アスランさん、AAにいる間、ずっと苦しい顔してました。納得いかなかったことがあったんですよね?私は全然気づかなくって。でも何か可笑しいなって思うことはあって。それ、アスランさんはちゃんと分かってたんですよね?」
言わなかった。言えなかった。けれどアスランは気づいていた。メイリンが感じた違和感が何なのか、それを知っていた。
「私、ミネルバにいる時、AAが怖かった。だって何がしたいのか全然分からなくて。いきなり現われて、攻撃してきて、そしていきなり去っていくんですもん。凄く不気味でした」
AAに乗って、ラクス達と接していくうちにその感情を忘れてしまったけれど、こうして離れてしばらく経ってみればまた気づく。
ラクス達の行動は酷く乱暴だった。デュランダルを疑う理由は若い頃のノート一冊。アスランがデュランダルから聞かされた話がなければ、行動理由にするにはあまりに稚拙な理由。
側にいる時は気づかなかったけれど。あの優しくて甘い空間にいる間は、気づくこともしなかったけれど。今なら分かる。

「ラクス様達はとても怖いんです」

戦争は終わった。ラクス達はまた去っていく準備をしていた。けれど今度はただ去るだけではない。ラクスが議長を指名して、そうして去っていく予定だった。後はオーブで平和への活動をする予定だった。…戦艦やMSを廃棄する話は出なかった。

「また戦争になった時のために必要だと考えてらしたのかもしれません。でも、アスランさん。また戦争になったら、ラクス様達はどうするのかなって思いませんか?」
「どうする…?」
「また同じことをされるんじゃないかって、そう思いませんか?」
ラクス達は武力での争いを厭っているようであるのに、自身は大きな武力を手にしている。そうしてそれを振り下ろしている。言葉での解決を唱えながら、彼女達は言葉を出し惜しんで、邪魔するものを排除していく。
「それが怖いんです。アスランさんが前に堕とされたのも、キラさん達に同意しなかったからでしょう?言葉で解決したいなら、アスランさんの言葉だって必要なんです。お互いが思ってることを口にして、そしてそれを話し合って、そうして初めて解決できることなんじゃないんですか?」
ラクス達はそれをしない。一方的に言葉を放つだけだ。対話をしない。
最高評議会が憂いたのはそれだ。ラクス達は対話をせずに武力を行使する。こちらの言葉を聞かずに、自分達の言葉だけを聞かせる。だから彼らはラクス達を排除することにした。
「評議会がしたことが間違ってるとか、正しいとかじゃないんです。だってこれはまだ何もしてないラクス様達を、この先するかもしれないからってことでしたことだから。でも」
でも、とメイリンはアスランの手を両手で握る。
メイリン、とアスランが呼べば、真剣な顔で言った。


「私達は知らなきゃいけないんです。ラクス様がされることは全て正しいって思ってるままじゃダメだから」


ラクスは優しい。けれど怖い人だ。それを知らずにただラクスの言葉に従っていくことは危険だ。ラクスだって間違う。正しいばかりではない。それを知らなければいけない。これからのためにも。それはアスハを神聖視するオーブにだっていえることだ。

「アスランさんがラクス様達を裏切ったって責める気持ちも分かります。でも私にとってはアスランさんが選んだ道は間違った道じゃありません。私達プラント国民のためになる道です」

そう思っている。たとえそう思わない人がいても、メイリンだけはそう思っている。
辛いだろう。悲しいだろう。けれどそれも全部知ったうえで、メイリンはついていく。この手を握って、ついていく。側で支えていきたい。


「一緒に背負って、一緒にがんばらせてください」


くしゃり、とアスランの顔が歪んで。こて、とメイリンの肩に頭を預けて。そうして、ありがとう、と呟いたアスランに、メイリンも泣き出しそうな顔で笑った。

end

リクエスト「愛しいひと、どうかおねがい」の続編。
・プラントへ凱旋気分で帰還したラクスが大戦中の悪事を暴かれ、クライン派とプラント永久追放。
・芋蔓式に一次大戦中の悪事も露見。フリーダム=ストライクの図式、恋人関係露見。聖女伝説崩壊。
・市民や議会から非難され罪状を厳しく糾弾。
・その余波でオーブの核保有、AA隠匿等を世界から非難されてアスハ帝国が崩壊。
・ターミナルへの攻撃等をも糾弾されて、キララクカガ+AAが戦犯として裁かれる。
でした。

メイリンは一緒に背負って、同じ速度で並んで歩いてくれる子だと思います。アスランがぐらついたら支えてくれる子だと思います。
メイリンがいればアスランは罪悪感に押し潰されそうでも大丈夫だと思います。

リクエスト、ありがとうございました!

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