It was left.

この艦は可笑しい。
ミーティングルームでこれからのことを話し合っているクルー達を眺めながら、アスランは何度も抱いた感想を再び抱く。

この艦は可笑しい。
戦艦でありながらどこにも属さない。あえていうならばオーブだが、オーブ代表カガリ・ユラ・アスハいてこそだという。
そのカガリはオーブではなく、この艦にいる。
カガリの後見人であるセイラン家がカガリを傀儡に、政権を思うまま操ろうとしているため、オーブへ帰れないと言ったのはカガリの双子の弟キラ・ヤマト。
キラはMSのパイロットであり、無意味な殺生を厭い、不殺を貫く凄腕の持ち主だという。今はわけあってMSを失くしているが、もうすぐ宇宙にいる恋人が新型のMSを持って戻ってくるらしい。

「…理解しがたいな」

ぽつりと呟けば、アスランの隣で同じようにクルー達を眺めていたメイリンが、アスランさん?と首を傾けた。
メイリンはアスランと一緒にこの艦に運ばれたのだという。ザフトに所属していたのだが、アスランが無実の罪を着せられ、殺されそうになっていたところを救ったため、一緒に殺されそうになり脱走した。
詳しいことは分からない。分かる唯一の人物が記憶を失っているからだ。つまりはアスランが。
どうやら逃げる際に乗っていたザクのコクピットで頭を強打したのが原因らしく、意識を取り戻した瞬間から、自分のことも世界情勢のことも何も覚えてはいなかった。

アスランはメイリンに顔を向けると、この艦は理解しがたいと繰り返す。
この艦の行動基準は何か。
ザフトと地球連合軍の戦闘に介入。戦闘停止を訴え、両軍の武器を奪い、戦闘続行が不可能となれば去る。
けれどそれはザフトの艦ミネルバが行う戦闘に限る。地上で行われているレジスタンスと地球連合軍や、他のザフト対地球連合軍の戦闘には介入しない。
この艦が介入した戦闘の共通点は、ミネルバとオーブ。恐らくはミネルバと地球連合軍の戦闘ではなく、オーブが戦場に出ている場合に限るのだろう。

国を離れた国家元首が、オーブ理念を蔑ろにしたと後見人に憤るのは何故か。
大西洋連邦との同盟はカガリが結んだと聞く。強制された、あの時のカガリは何も見えなくなっていた。そうキラは言っていたけれど、それは理由にはならない。
同盟を結んだからには、オーブが出兵することになったのは後見人の責任だけではなく、カガリの責任でもある。尚且つカガリは国を離れた。彼女に後見人を責める資格はない。
他にも思うことはある。


「この艦は戦闘行為をやめさせたいんだろう?なのにどうして新型のMSを開発してるんだ?」


しん、と部屋が静まり返った。
アスランはそれにきょとんとして、何か可笑しなことを言ったか?と首を傾げた。

「MSは一日二日で造れるものじゃないだろう?新型となればもっとだ。時期的に停戦中に造り始めたとしか思えない。だがそれだとこの艦の行動理念と矛盾しているだろう?」

MSは戦争の道具だ。人を殺す武器だ。なのに戦争をやめろと叫ぶこの艦は、新型MSが届くのを待っている。
不思議そうに聞くアスランに、キラが苦笑して矛盾してるわけじゃないよと言う。
「僕らは戦う武器としてMSに乗るんじゃないんだ。戦いを止めるためにラクスやカガリが平和を叫ぶ手助けをするだけなんだよ、アスラン」
「手助け?」
そう、と頷くキラに、メイリンがおそるおそるといった感じで手を挙げる。
「あの…どういうことですか?」
その言葉にはマリューが微笑んで答える。
「メイリンさんは覚えているでしょう?カガリさんが呼びかけた時のこと」
「え?」
少し考えたメイリンが、はいと頷く。
少し顔が歪んだのは仕方がない。その時、ミネルバは大きな被害を受けたのだから。
「あの時、カガリさんの声を聞いてくれた人はいなかったわ。逆にカガリさんを偽者だと言って攻撃してきた」
そりゃ悪かったな、とネオが口元を上げた。
あの時、連合を指揮していたのはネオで、戸惑うオーブに脅しをかけたのもネオだからだ。
けれどマリューはあなたのせいじゃないわ、と首を横に振った。キラもそうですよと笑って、アスランに視線を戻す。
「ね?分かるでしょ?アスラン」
「何がだ?」
「そんな時にカガリ達を守る力が必要なんだってこと」
そのためにラクスはMSを用意してくれている。想いだけでも力だけでも駄目だから。
それに対してアスランは口元に手を添えて思案顔。
言っていることに可笑しさは感じない。確かに平和を説く者に攻撃を加えられれば、守るための力は必要だ。
「だが、それなら平和と説く場所が違うんじゃないのか?」
「どうして?」
「カガリ達を守ることが優先だろう?なら戦場は危険すぎる。攻撃されることは分かりきったことだ」
「それじゃ戦闘を止められない。戦うことは無意味だと分かってもらうためには必要なことなんだ」
カガリの言葉にキラも頷く。

だから武器を奪う。手足を奪う。戦闘行為を続けられないように。
けれどそれは一時凌ぎに過ぎない。失った部分は新たに与えられるし、壊された部分は補修される。そうして上からの命令を受けて再びの出撃。
一兵士の心を動かせても、全ては動かせない。そして一兵士の心一つで変えるには、キラ達が与える問題は大きすぎる。

「永遠のループだな」

ネオが笑う。マリューがムウ?と不思議そうに首を傾げた。
「俺は命じられたし命じたよ。お前さん達が現れて去った後も、その次の戦闘を仕掛けたし、ミネルバを撃てって命じたよ」
「だが!私の声は届いた!」
失ったオーブ軍人達を思ってだろうか、痛そうな顔をしたカガリの後ろで、カガリ様の仰るとおりです、とオーブ軍人達が強く頷いた。
カガリの声に、言葉に動かされて、彼らはAAまできたのだ。想いは届く。その確かな証だ。
カガリと微笑みあう姿を見ながら、それでもアスランは納得いかないような顔をしている。

「だが、カガリとラクスは世界に必要なんだろう?」
アスランはそう説明を受けている。二人こそこの渾沌とした世界に差す光なのだと。
根拠など知らないが、記憶のないアスランにはそうなのかと納得する他ない。
メイリンの話だと、ラクスはプラントにおいて神聖な存在だと言うし。プラントを左右するほどの力を持つらしい。
キラもそうだよ、と頷いた。
「なら彼女達の命を守ることを最優先にするべきだ。彼女達を失ったら元も子もない」
「そのために僕らがいるんだよ」
「絶対に守れると?」
「守るよ。絶対」
真剣な目で言い切るキラをじっと見ていたアスランは、その背後で当然だと、命に代えても、と頷くオーブ軍人を見る。
彼らは本気だ。守れないことなどないとどこかに保障でもあるのだろうか。そんなことは有り得ないというのに。
けれどこれ以上は無駄だ。彼らは信じている。守れない事態に陥ることなどないと。

「…じゃあ、さっきの質問だが、どうして停戦中に新型MSを作ってたんだ?キラにはフリーダムがあったんだろう?」
「うん。ユニウス条約の内容なんだけど、ラクスには地球連合側がプラントとこのまま平和を維持していくかは疑わしく思えたんだって。だからもしもの時のために、新型の開発に踏み切ったって」

停戦してから二年、地球連合軍はプラントに乗り込み、セカンドシリーズのG三機を奪った。
ザフトがそれを追跡している途中で、ザフトの脱走兵がユニウス・セブンを地球へ落とすという暴挙に出た。
ユニウス・セブンが地球に落ちるまでに砕くことはできたが、地球への被害は決して無視できないもので、地球のプラントへの悪感情を更に煽る結果になった。
そうして大西洋連邦からの最後通牒が出され、受け入れなかったプラントとの間の停戦は破られ、戦争は再開された。
ラクスの疑いは正しかったのだ。

「凄いよね。僕はもう戦争は終わったって思ってた」
カガリもAAとフリーダムを修復していた。こんな日がくると分かっていたのだろう。
そう思えば、ひたすらに感嘆する。そんなキラの肩にカガリが手を置く。
「私はそれが無駄になることを願ってた。ラクスもそうだろう。世界はそんなに愚かじゃないって信じていたかった」
けれど結果は、と目を伏せるカガリに、キラがそうだよね、と同じく目を伏せた。
オーブ軍人達はカガリ様、とカガリの悲しみに心を痛める。握った拳が小刻みに震えていた。マリューもそんな彼らを痛ましそうに見ていたため、隣でネオが呆れたように息をついたことも、メイリンが目を見開いたことにも気づかなかった。
アスランは静かな目でじっとキラ達を見て、納得したように椅子の背にもたれた。


「つまり、開戦への不安を持ちながら、平和の維持ではなく戦争の準備を優先させたということか」


その言葉に部屋に流れていたゆるやかな空気が凍った。キラ達が大きく目を見開いて、何言ってるの、と声を洩らした。
何って?と首を傾げたアスランを、人外のものを見るようにカガリが叫んだ。
「今の話を聞いてなかったのか!?」
「聞いてたよ。そのうえで言ってるんだが」
なっ、とカガリが絶句すれば、キラが眉を寄せ、今の君は記憶がないから分からないんだろうけど、と前置きをする。
「ラクスもカガリも誰より平和を願ってるんだ。前の戦争の時も、戦争を止めるために戦場まで出て行ったぐらいに」
アスランが不可解と言わんばかりの顔をして、分からないんだが、と再び口元に手を置く。

「前の戦争の時に戦場に出て行ったんだろう?戦争を止めるために。なのに、今度の戦争も戦争を止めるために戦場に出るのか?そうなる前に手を打てたんじゃないのか?不安を覚えてたんだろう?世界に必要な存在なんだろう?MSを造ったり、修復してくるかどうかも分からない日を待つより、他にできることがあったんじゃないのか?」
「だからそれは、世界を信じてたから…!」
「信じてたらMSなんて造らないだろう?」
「もしものためだって…!」
「危惧してたってことは、信じてなかったってことだろう?」
「そうじゃない!必要ないに越したことはなかったんだ!」

キラとカガリが代わる代わる反論する。そうじゃないと、分かってくれと反論する。けれどアスランは眉を寄せるだけだ。

「MSを造る費用はどこから出る?修復する費用は?維持し続けるための費用は?ポケットマネーでまかなえるものでもないだろう?なら国の税金からも費用は出ているんじゃないのか?国のために国民のために使うべき税金を使って、必要ないに越したことはないものを造った。それは無駄遣いというんじゃないのか?税金の横領じゃないのか?」

アスランを信じられない、と言わんばかりの目で見てくるAAクルー達。
オーブ軍人達は憤りの表情を浮かべ、お言葉ですがとアスランを睨みつける。

「我らオーブの民は、カガリ様を信じております。カガリ様こそ我らが光。カガリ様がオーブのため、そして世界のためとお考えになられたことに否やを唱える者などおりません」
ひゅ〜とネオが口笛を吹いた。マリューがムウ!と嗜めるが、ご立派だねえと聞く耳を持たない。
「ならアンケートでも取ってみるか?さぞかし集計のし甲斐がない結果になるんだろうなあ」
「ムウ!」
ネオにオーブ軍人達とカガリの視線が集まる。刺すように鋭い視線だ。それに対してネオは肩をすくめる。
ここにいるオーブ軍人がカガリ様万歳なのは構わないが、それが全国民の意志と決めつけられる思い込みが立派だ。
そういう意味で言ったのだが、当然ながら彼らに通じたのは嘲っていたということだけ。

「アスラン。僕らは平和がほしいんだ。それは誰もが願うものでしょ」
「そうだな」
「アスランが何が気に入らないのかは分からないけど、それだけは本当なんだ。だから信じてほしい。僕らは戦争を止めたい。平和がほしい。そのために動いてるんだってこと」
お願い。切なげな目でアスランを見るキラに、アスランは首を傾げる。
「そんな話をしているわけでも、何かが気に入らないわけでもないんだが…それは分かった」
「よかった」

ほっと息をついて微笑んだキラが、ね?とカガリを見る。するとカガリも微笑んで、ああと頷いた。
話が一段落した時に感じる空気が部屋を流れる。
それを眺めながらうん?と唸ったアスランをネオが同情するように口元を上げた。

「…終わったのか?話」

アスランがメイリンを見下ろして尋ねれば、メイリンがきょとんとした目でみたいです、と頷いた。
そして二人首を傾げて、どこで?どこででしょう?と言いあった。

end

リクエスト「AAに拾われたら記憶喪失だったアスラン。無自覚にAAを滅多切り。ネオとメイリンとは仲良し」でした。
滅多切り…?でも無自覚はできたんじゃないかなあと思ってますがどうでしょう?
そして入れようと思って用意していたネタが、展開上入れられませんでした。
悔しいので、小話記録庫に投入しておきます。一緒にもらってやってください。

リクエスト、ありがとうございました!

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