英雄の父親は戦犯であるのだと。
雑誌はそう告げる。
テレビはそう告げる。
同じザラでありながら、親子でありながら。
片やプラントを守り、片やプラントを戦禍へと導いた。
英雄である息子。
戦犯である父親。

そう、告げる。


それがどれほど鋭いナイフか、知らぬまま振り下ろす。


英雄と呼ばれる負担だけならば、自分が為した結果だ。耐え切れたかもしれないのだと知らずに。
父が自分と比較されて悪名を轟かせる結果となった。そのことにどうして耐えられるだろうか。
英雄でも息子なのだ。プラントが悪し様に騙る戦犯は英雄の父親なのだ。


「イザーク」
「ディアッカか」
「しばらく連絡断つってさ」
誰が。
そう言わずとも分かっているイザークがそうか、と頷く。
連絡を寄越した人物は、またどこかに移動するのだろう。それとも連絡手段の乏しい場所に留まるつもりなのか。
地球に降りたことは知っている。そこからどこへ行ったのかは知らない。
オーブではないだろう。オーブにはカガリ・ユラ・アスハがいる。彼女に知られればラクス・クラインにもキラ・ヤマトにも知られる。そうなればプラントに戻るよう説得されるか、カガリの目の届く場所に留まるよう説得されるか。
それではプラントから逃げ出した意味がなくなる。
それに、だ。
オーブもまたアスランを英雄と称えている。
オーブに亡命していた頃、自国の代表の側近くで支え続けていたからだろうか。オーブのためにと奔走していたことがあるからだろうか。プラントほどではないが雑誌にはアスランの特集が組まれている。
挙句にだ。以前恋人関係を築いていたことまで持ち出して、世界を救った英雄の一人と国民が慕う自国の代表の数々の障害を乗り越えた恋愛だと囃したて、婚姻が為されるのはいつだ、と勝手に騒ぎ出す始末。
そんな場所に今のアスランは行かない。オーブもまたプラント同様、アスランにとっては痛みしかもたらさない場所となっているのだ。
ならばどこに、と考えても仕方がない。アスランはオーブとプラントは必ず避ける。それだけがイザークとディアッカに分かることだ。
そう思えば、胸に重苦しいものが下りてくる。

「俺の母は生きている」
「ああ」
「初めこそ非難されたが、今はもうほとんど聞こえない」
「そうだな」
「だから気づくのが遅れた」

アスランの精神が不安定になっていることに気づきはしたが、原因に対しては思い違いをしていた。だから対処が遅れた。それはディアッカもだ。
気がついた時にはアスランは自分の中に閉じこもっていて、イザークにもディアッカにもその胸の内を語ろうとしなくなっていた。
そんな二人にアスランは逃げるから協力してくれと言ってきた。断るなり諭すなりすれば最後、アスランはさっさと姿を消して、もう二度とイザーク達に連絡はしてこないだろう。それはよくよく分かった。これがアスランと自分達を繋ぐ最後の糸なのだ。
だから協力したというわけではないが。
アスランは限界だった。逃がしてやる他に良い案が思いつかなかった。それが一番の理由だ。

「何か通じるものでもあったのかねえ」
「アスランとステラ・ルーシェか」

ステラはアスランに手を差し伸べた。その手をアスランが握った。それが何故なのかは分からない。
面識があったのは知っている。けれど会話はなかったのだということも知っている。
二人は特に友好を深めていたわけではない。ただそこに在っただけ。それでどうして手を握り合うことになったのか。その理由に思い至らない。
けれどアスランがステラの手を握った。ステラはアスランと逃げるために故郷を、友人を捨てた。

画面越しの二人は、似たような不安定な目をしていた。
ここではないどこかを見ているような目をしていた。
けれどしっかりと繋がれていた手。

それに、託した。

気づくのが遅れたイザークとディアッカでは駄目だ。そもそもプラントを捨てていくことなどできない。ミーアやメイリンも同様。
アスランが逃げ出した理由に気づいていないキラとカガリではもっと駄目だ。話を聞く前にどうして逃げるのだと、話を聞いても自分達がどうにかすると。アスランの切実な願いを叶えようとはしないだろう。アスランを思えばこそだろうが、それは傷口に塩を塗るだけだ。
ラクスは理由を知ればそっとして置くようにと双子を説得するだろうが、アスランに監視をつけるのではないだろうか。彼女の息のかかった場所に匿う、ということも考えられる。
彼女は甘くはない。アスラン・ザラという名前の危険性を無視することはないだろう。英雄としても、ザラとしても。そしてそれをアスランも承知している。
だからこそラクスに知られるということは、アスランにとって安息ではないということに繋がる。
シンは、といえばあれはまだ子供だ。アスランにとっては守るべき対象であって、助けを求める対象ではない。そして仮に求められたとしてもどうすればいいのか分からないだろう。

ああ、結局、と思う。
誰もステラ・ルーシェと同じことはできないのだ。
アスランがその手を取ることも。アスランと共に逃げることも。
アスランとつきあいが一番短いステラ・ルーシェにしかできなかった。そう思えば複雑ではあるけれど。

「ま、俺達は待ってようぜ。あいつが連絡してくるのをさ」

ディアッカの言葉に眉を寄せながら、それしかできることはないのだと。
苛立ちを紛らわすように、ふんっとディアッカから顔を逸らした。

悲劇の英雄の『悲劇』



end

リクエスト「アンチプラント・オーブで、運命死亡キャラ生存のアスステ」
・戦後アスランは悲劇の英雄として人々からの同情と期待に耐えきれず、ステラと二人みんなの前から姿を消す。
でした。

ネオ云々のことは考えてなかったんですが、書いてるうちにステラが何でアスランに気づいたのかなあ、と思ったら出てきた話です。
無理やりじゃね?と思った方は、そんなことないよ、と思い込んでくださると大変助かります(おい)。

リクエスト、ありがとうございました!

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