陽だまりのなかで

「ああ!」
庭に響き渡る悲痛な声。
「これでまた俺の勝ちですね、兄さん」
嫌味に笑ってみせる声。
「今日はいつもより三ページ分早かったね」
本を膝に、にっこりと笑う穏やかな声。

庭に面したテラスに置いてあるチェスボードを三人の少年が囲んでいる。
この庭のある宮、アリエス宮の女主人の息子であるルルーシュと、対戦相手である異母兄のクロヴィス。そしておそらくは次の対戦相手のまたまた異母兄のシュナイゼルだ。

「次は絶対に私が勝つからな、ルルーシュ!」
兄と弟の台詞にむっとしたままびしっと指を差したクロヴィスに、ルルーシュは隣のシュナイゼルが浮かべるような笑みを見せる。
「いつまでもお待ちしています」
「〜〜〜っ、兄上!!」
きーっとなりそうなクロヴィスは、シュナイゼルの肩が震えていることに気付いて、何を笑っているんですか!と怒鳴る。
「い、いや、すまないね、他意はない。うん、お前たちは本当に可愛いね」
「はあ!?」
クロヴィスとルルーシュが仲良く声を合わせる。
シュナイゼルはにっこりと笑うと、もちろんお前達も可愛いよ、と庭からこちらの見ている妹達に言う。
ついでの言葉はいりません、と微かに照れているコーネリアと、素直に喜ぶユーフェミアとナナリーが駆けてくる。

「お兄様、頭少し下げてください」
「うん?」
言われた通り頭を下げたルルーシュに、ナナリーがはい、と花冠をのせる。
「おめでとうございます、お兄様」
きょとんとしたルルーシュは、ナナリーの笑顔に笑う。
「ありがとう、ナナリー。うれしいよ」
その向かいではユーフェミアがクロヴィスに花冠をのせていた。
「残念賞です、クロヴィスお兄様」
「あ、ありがとう、ユフィ」
嬉しいんだけど複雑だよ、とクロヴィスが引きつった笑みを浮かべる。
それを微笑ましく眺めながら、シュナイゼルがルルーシュの花冠の花弁に触れる。
「それにしても、上手に編めたね、二人共」
初めてにしては上出来だと言う兄に、ナナリーがはい、と笑う。
「コーネリア姉様が教えてくださいました」
へえ、と意外そうな兄と弟に、コーネリアが頬を赤らめる。
「マ、マリアンヌ様に、何か贈り物をしたくて…。侍女に私でも出来る事を、と教えてもらって」
それになるほど、と少年達は思う。
マリアンヌ、ルルーシュとナナリーの母親である彼女は、コーネリアの憧れだ。心酔していると言ってもいい。その憧れの人に、とそれはそれは一生懸命編んだのだろう。

「可愛いね、コーネリア」

「…っ!」
ふわりと笑って言ったシュナイゼルにコーネリアは頬を赤らめ、弟達は呆れた顔をする。
これは口説いているわけではない。素だ。
コーネリアにも分かっているが、素である方が口説いているよりも性質が悪い。毎度言葉を失う。

「さて」
シュナイゼルは読んでいた本を閉じ立ち上がると、座っていた椅子に置く。
クロヴィスが気づき、席を代わろうと腰を浮かすが、シュナイゼルは何故かルルーシュを抱き上げた。
「は?」
困惑する弟妹に応えず、ルルーシュが座っていた席に腰を下ろすと、抱き上げた弟をそのまま己の膝へと乗せる。
きょとんとしたままのルルーシュに代わって、コーネリアが兄上?と声をかける。なんだい?と振り向く兄に、それはこちらの台詞ですと返す。
「ルルーシュとチェスをされるのではないのですか?」
するよ、とシュナイゼルが頷く。
「その前にクロヴィスと打とうと思ってね。ずいぶん久しぶりだろう?」
ルルーシュを膝に乗せる意味は、と聞く前に、ルルーシュが我に返った。
「ちょっ、兄上!下ろしてください!」
向こうの椅子に座りますから!と空いている椅子に向って手を伸ばすルルーシュは真っ赤だ。しかしシュナイゼルは、その小さな体をしっかりと抱きしめ、髪に口づけを落とす。
「大人しくしていなさい、ルルーシュ。このまま私と向かい合って座りたいなら別だけどね」
「大人しくしています」
「いい子だね」
今度は柔らかい頬に口づけて、さあ始めようかとすぐ下の弟に微笑んだ。
クロヴィスは口をぱくぱくさせ、コーネリアはユーフェミアとナナリーに、兄上のような喰えない男は選ばないように、と二人の肩を掴んで言い聞かせた。

せめて兄上とルルーシュとクロヴィスを足して三で割った男に!

どんな男だ、と少年達が心の中で突っ込んだ。

「チェックメイト」

コト、と駒が音をたてた。
本気でルルーシュを膝に乗せたままクロヴィスとチェスを始めたシュナイゼルは、そう言って勝負の終わりを告げた。

勝者はシュナイゼル。
クロヴィスに勝つルルーシュが勝てない相手なのだから、当然といえば当然か。
また負けた、と落ち込むクロヴィスの向かいで、ルルーシュはシュナイゼルを見上げた。
初めはシュナイゼルの膝の上で落ち着かなかったが、次第に兄が打つ手に真剣になった。シュナイゼルが動かす駒を客観的に見るのは初めてだったから。
自分相手とはまた違った動きをする駒。見ていて楽しかったし、勉強にもなった。
ルルーシュの視線に気づいたシュナイゼルが微笑む。

「楽しかったかい?ルルーシュ」
「はい!」
「それはよかった」
そうしてルルーシュの髪を撫でるシュナイゼルに、ナナリーとユーフェミアが両脇からその腕を引いた。
「シュナイゼル兄様、少しかがんでください」
「?こうかな」
ルルーシュが落ちないように両腕でしっかりと抱き込んだままシュナイゼルがかがむと、二人が掴んだままの腕を支えにして背伸びした。
そして。


「ああ!!!」


目にした光景にコーネリアとルルーシュが声を上げ、クロヴィスが目を見開いた。

「おめでとうございます。お兄様」
「おめでとうございます、兄様」

花冠の代わりに、と兄の頬に口づけたユーフェミアとナナリーが笑って、シュナイゼルがありがとうと微笑んだ。

「あにうえええ!!!」
ルルーシュが何てことするんですかあ!とシュナイゼルの服を握りしめて叫ぶ。
「ユフィ!ナナリー!こっちにきなさい!」
コーネリアが妹二人を即座に抱き寄せ、シュナイゼルから離れる。
シュナイゼルが加害者で、ナナリーとユーフェミアが被害者に見えるのはどうしてだろうか。
そんな弟妹を気にした様子もなく、元気だねと微笑むシュナイゼルにクロヴィスは思う。

このまま成長したのなら、将来の兄はきっと一層性質が悪くなっているに違いない、と。
天然ほど性質が悪いという言葉そのままに。…時々、確信犯であるから余計か。

願わくば、どうかルルーシュがこの兄の影響を受けませんように。
幼いからこそ影響を受けやすいもの。そして取り込みやすいもの。シュナイゼルがルルーシュを可愛がっているのなら尚更に。そして今のルルーシュの目標は、シュナイゼルに勝つことであるから尚更に。
そのまま可愛く成長してほしいと願うクロヴィスの願いは、時々ルルーシュが見せる性質の悪い笑みによって半分打ち砕かれていることに気づいてはいるけれど。

はあ、っとため息をつくクロヴィスの前にはルルーシュを腕におさめたままのシュナイゼルがいて。微笑むシュナイゼルにくってかかるルルーシュがいて。その少し離れた場所ではコーネリアが可愛い妹二人を抱きしめていて。そしてナナリーとユーフェミアはきょとんとした顔で、姉の抱擁を受けていた。

それは天気のいい昼下がりの出来事。

end

リクエスト、皇族兄弟 「ルルナナ溺愛」でした。
シュナルル色がちょっと強いですが、これでも抑えました。これでも減らしました。ええ、本当に(汗)。
そしてナナリーへの溺愛が目立ってない…。一応コーネリアで現してみたんですがどうでしょう?

リクエスト、ありがとうございました!

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