「ラスティ!!」

「ミゲルーー!!」

「ニコルーーー!!!」


その叫び声を聞いたのが最後の記憶だ。三人が三人共、同じ声の記憶。
つまり、三人揃って同じ人間の前で死んだ、そういうことだ。
その彼らが再び集った時、今度は逆の状況が目の前に用意されていた。


The hand not arriving is held.

「しんっじらんねえ!」
ああ、ちくしょう!と顔をしかめながら、ラスティが舌打ちすれば、黙っててください!とニコルが声を上げる。
それでも気持ちは同じだ。どうしてよりにもよってこんな場面で。もう少し早ければ、そう思う。

いきなり眼前に飛び込んできた赤いMSと白いMS。
は?と思ったのは仕方がない。状況が判断できなかったからだ。
ラスティもニコルも、そして今ここにはいないミゲルも自分が死んだことを知っていた。なのに意識が浮上しているうえに、覚えがない状況。混乱もする。
それでも赤いMSがザフトで白いMSがアンノウンであることは確認した。
その瞬間だ。赤いMSが白いMSに細切れにされ、コクピット一つで海へと落とされた。

叫んだ。赤いMSのパイロットが誰かなんて知らないのに。
動いた。赤いMSのパイロットに届かないと分かっていて。

どうしてかなんて分からない。けれど三人は同じ行動を取ったのだ。

「アスラン!!」

赤いMSのパイロットが誰なのか知っていたかのように。


「この辺りですよね、アスランが堕ちたの」
ミラージュコロイドを展開させながら海の中をブリッツが進む。
そのコクピットで二人、画面のあちこちに視線を走らせている。落ちたコクピットを追ってきたのだが、見当たらない。そのせいで焦りが内部を侵食する。それを落ち着かせようと深呼吸したニコルの声に、ラスティがああと頷いた。

海に潜ったブリッツがミラージュコロイドを展開させたのは、連合の攻撃を懸念してのことだ。
ブリッツはザフト所属MSだ。連合から攻撃を仕掛けられて当然の立場だ。だがそれは一刻も早くアスランを引き上げなければ、という行動を邪魔するもので。だからそのための措置。

ミゲルが海の中にいないのは、海上にいるからだ。突然現れたMS二機。ブリッツとジンがいくらザフト機だとしても訝しむのが普通だろう。だから戦場にいるザフト艦への説明役に残った。
まあ、説明したとしても信じてもらえるのかも分からない。そもそも今がいつでここがどこかも知らないのだが。
けれどないよりマシだろう。そう思いたい。

ああ、それにしても。

もしかしたら自分は、アスランに酷いことをしたのかもしれない。

「ニコル!」
ニコルが唇を噛んだその時、ラスティがニコルを呼んだ。はっとして、ラスティが指差す方向にサーチライトを向ける。
揺らぐ光が岩のようなものを照らし、それに固定させる。そして二人、探し人の名を叫んだ。


* * *


セイバーのコクピットを引き上げたMSは、前の大戦で失われたはずのGだ。ストライクに撃たれたはずの。
信じられなかったが外見はそのG、ブリッツであるし、今は禁止されているミラージュコロイドを搭載している。
ブリッツがミネルバに着艦する前に着艦を許可したジンもそうだ。
オレンジにカラーリングされたジン、といえばザフトで有名だった。これももう失われたはずのMSだ。
だからもっと詳しく調べてみなければ納得できそうにないが、それよりももっと納得できないものが目の前にある。

ブリッツから出てきたのは赤のパイロットスーツを着た少年二人だ。
二人はセイバーのコクピットに駆け寄りたそうにしたが、白服のタリアがいることに気づいて降りてきた。そして敬礼。そして名乗ろうとしたのだろう、口を開けてあ、という顔をした。
それはそうだろう。ここは格納庫で彼らとタリア以外にも多くの軍人がいる。金の髪の青年の話が真実にしろ偽りにしろ、あまり多くがいる場で口にしていいことではない。だからいいわ、と頷いて、敬礼を返す。

「話は聞きました。ですがあなた方からも話を聞かせてもらいます」
「はい」
「その前に」
顔を上げてセイバーのコクピットを開けようと奮闘している整備士を見る。
綺麗にコクピットだけ切り取られている。それほどの腕を持つフリーダムのパイロットを改めて恐ろしいと思う。
そのコクピットが開かれる。そして整備士の一人が中に入ってアスランを連れて出てくる。
ぐっと拳を握ってアスランを眺める少年二人を連れてそちらへ向かう。

「艦長」
「意識は?」
「ありません。怪我の方は見当たりませんが、調べてみないことには…」
「そうね。お願い」
「はい」

待機していた医療班が頷いて担架に乗せるまでの間、アスランは身動き一つしない。それにひやりとする。
大丈夫だろうか。もしかしたら頭を打っているのかもしれない。もしそうだとしたら後遺症が心配だ。
そんなタリアの耳に、すみません、と小さな呟きが入った。振り向けば少年達が心配そうな顔でアスランを見送っていた。
一体どちらの呟きだったのか。そしてその謝罪の意味は何なのか。
タリアには分からなかったけれど、それを聞くことはせず、二人から話を聞くために二人を促して格納庫を出た。
それに対して反論なく素直についてくる二人に、これがうちの子達だったらどうだったかしら、と思ったのは タリアの胸の内にしまわれた。


* * *


クルーゼ隊所属ミゲル・アイマン。同じくラスティ・マッケンジー。同じくニコル・アマルフィー。
突然現れたMS二機のパイロット達の名乗りを、タリアはとりあえず信じることにしたようだ。
副官であるアーサーは信じるんですかあ!?と叫んでタリアに睨まれていたが、アーサーの反応は正しいと三人は思う。
まあ、軍人、しかも黒服としてどうかとは思うが。
けれどタリアも完全に信用しているわけではないらしく、三人はミネルバの滞在は許されたが自由は許されなかった。当然だ。
ただ医務室に行くことは監視つきで許されたので、大変ありがたいと思っている。

「起きないな、こいつ」
ミゲルがつんつん、とアスランの髪を引っ張った。何してるんですか、とニコルに怒られたが。
ラスティはあははと笑って、寝汚いからなあ、アスラン、とアスランの顔を覗き込む。
記憶にあるアスランより大人びた姿。ラスティ達が死んで二年経っているらしいので当然か。

タリアから先の大戦のことから今の状況までの大まかなことを聞いたが、何から何まで驚くことばかりだった。
国防長官だったアスランの父親は最高評議会議長となり、終戦後、戦争を拡大させたとして戦犯となったという。
アスランの父親が拡大させた戦争を終戦へと導いたのが、アスランの婚約者であるラクス。
オーブの姫と一緒に第三勢力を率いたのだと。その第三勢力にアスランも参加していたのだと。そして今は連合が停戦条約を破ってまた戦争を仕掛けてきたため、応戦している最中なのだと。
アスランを堕としたのは連合ではない、アンノウン。けれど誰もがよく知るMS、フリーダム。先の戦争で第三勢力として活躍したMSなのだという。それにも色々いわくがありそうな感じだったが。

「フリーダム、ねえ。フリーダムの旗艦がAAで、俺達が追ってた足つきか」
ミゲルの声に赤服二人が顔を上げる。
ラスティは二人から話を聞いただけで、AAを知らない。AAが出てくる前に死んだからだ。けれどニコルは散々煮え湯を呑まされた相手だ。眉を寄せた。
「どういうことなんでしょう。いまいちよく分からないんですが」
「俺達はまだ信用されてないからな。詳しいことは何も分からないが…面倒な相手であることは確かだな」
う〜んとミゲルが腕を組む。話してくれたタリアの顔に苦々しいものが過ぎったのを見た。
アンノウン。連合でもザフトでもない第三勢力、ということだろうか。先の戦争のように?
「考えても仕方ないっしょ」
「そうですけど…っていうか、僕らもどうなるんですかね?」
ああ、と年上二人が頷いた。
所属と名前とIDは伝えた。ドッグタグも見せたし、聞かれた問いにも答えた。後はあちらの判断次第。
そして問題はその後にもある。死んだ三人が、その時の姿のまま二年後の世界にいる、ということだ。

「まあこれも」
「考えても仕方のないことだな」
「…またそんな」

ラスティとミゲルの言葉に、はあ、とニコルがため息をついた。
成るようにしか成らない。現状ではそれ以外に方法などないのだから。
ニコルにもそれは分かっている。だからそれ以上言わずに、じっとアスランの顔を見下ろす。その目には心配、不安、そして…。


「後悔してんの?アスラン庇って死んだことさ」


バッと顔を上げてラスティを見れば、じっと空色の目がニコルを見ていた。
それに顔を歪めて、ふるふると首を横に振った。

「後悔はしていません。あのままだったらアスランが死んでいた」
「ならアスランの前で死んだこと?」
「…っ」
うつむいたニコルにラスティが小さく笑って、ニコルの髪をくしゃっと撫でた。
「だっ、て…っ、アスランが死ぬかもしれないって思った時、凄く怖かったんです。すぐ目の前にいるのに僕は助けられなくて、伸ばした手も届かなくて…!僕がアスランを庇った時、アスランはどんな思いだったんだろうって!あの時は考えもしなかった!!」

アスランを助けたかった。アスランに死んでほしくなかった。だから自分を盾にしてアスランを守れるのなら構わないと思った。
もちろん死ぬのは嫌だった。嫌だったけれど、アスランが死ぬ方がもっともっと嫌だったから。
だから今だってその行動に後悔はない。ただ…アスランに味あわせた思いは何て酷い、何て辛い。

「俺だってあいつの目の前で死んだよ。一人の部屋に帰るたびにどんな気持ちだったんだろうって。ああ、俺の遺品整理したのもアスランだよな。酷いことさせた」

ラスティの自嘲を含んだ声に、ああ、そうだったと思い出す。
アスランとラスティは同室だった。アカデミーの頃からずっと同室で、仲だって凄くよかった。
そのラスティがいなくなって、面倒を見てくれていたミゲルもいなくなって。AAを追って、ストライクと戦って。
だんだんとアスランの様子が可笑しくなっていっても、ニコルには何もできなくて。
ラスティがいたら、ミゲルがいたらどうしただろうかと何度も思った。

「俺達は軍人だからいつ死ぬか分からなかった。そんなこと分かってた。それでも残された方はしんどいよな」
俺も今回で痛いほど分かったよ。そう言って、ラスティはまたニコルの髪をくしゃっと撫でた。
顔を上げれば暗いものではない笑顔がニコルを見下ろしている。
「だから忘れないようにしようぜ。何だか分かんないけど、こうしてここに生きてるしさ」

忘れないから何ができるわけでもない。それでもアスランの痛みを知った、苦しみを知った。それはきっと大切なことだ。
そんなラスティにニコルが頷いた。頷いて、もう大丈夫ですと小さく笑った。

「かっこいいな〜、ラスティ」

笑みを交し合う後輩二人の肩にガッと腕を回したミゲルは、うつむいて泣き真似を始める。
「お前達がクルーゼ隊入ってきてからの俺の苦労が報われた気がするな」
お前達ときたら毎日毎日大騒ぎして俺の手を煩わすし。かと思えば一致団結して問題起こすし。ああ、あの頃の俺、がんばったよな。うんうん。そんなミゲルをニコル冷めた目で見る。
一致団結して問題起こした時、先頭に立ってたのは大体ミゲルだったくせに、どの口が言うのだ。
ラスティは面白い冗談だな、ミゲル、と笑って、ミゲルに首を絞められた。
そんな彼らの懐かしいともいえる雰囲気に、アスランが導かれるように目を開けるのはそれからすぐだった。

end

リクエスト「死んだはずのミゲル、ラスティ、ニコルがキラにセイバーが落とされた後の種Dの世界にタイムスリップしてアスランを助ける話」でした。
イザークとディアッカ入りませんでした、すみません(汗)。

本当は幽体でアスラン助けるはずでした、が何を思ったかMSごとタイムスリップ。
ラスティは生身の時に死んだのでMSなしです。ニコルのコクピットにお邪魔してます。
で、予定ではアスラン助けた後消えてくはずだったんですが、この後アスラン大変だし、せめて戦争終わるまで側にいてくれないかな、という我儘で残留です。
幸せにしてもらえよ、アスラン!と思いつつ書きました(笑)。

リクエスト、ありがとうございました!

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