父よ…と思わぬ彼も父の息子であるのだ。


「野菜に押し潰される夢を見たよ」
「へえ〜」
「野菜の祟りだな」

青白い顔をして朝食の席に座る父親の言葉に、二人の息子は冷たい。
分かっていた。分かっていたけれど切ない!黒鷹がふっと笑う。

「昨日、ありえないほどの野菜を食べた後遺症が夢として現れるとは。これはこれから先、私は野菜を食べたくても食べられないトラウマを負ったという現れなのだよ、玄冬」
だから私は泣く泣く野菜を食べることを諦めよう!と黒鷹が野菜の乗った皿を脇にどける。
だが、ありえないほど野菜を食べることになった原因は黒鷹だ。黒鷹が野菜を拒否し続けたあげく、ブロッコリーを窓の外へ投げ捨てたのが原因だ。なのに嘆く元凶。
こくろはどこの子供だと呆れ、玄冬は食事の手を止めて黒鷹を睨みつける。
「小さいのが好き嫌いせずに食べてるんだ。大人として恥ずかしいと思わないのか」
黒鷹が脇にどけた皿を玄冬が元の場所に戻す。そして野菜を掬い上げると、黒鷹の口に突っ込む。
いつもならばもう少し口論が続くため油断していたのだろう。野菜は黒鷹の口に見事に飛び込んだ。
むぐっと口を押さえる黒鷹が野菜を咀嚼するのを確認した玄冬が、今日はそれで許してやる、と残りの野菜を引き受けた。
それをこくろが目を丸くして見る。

「珍しいな、大きい俺」
「仕方がないだろう。本当に顔色が悪いからな」
だからこそ野菜を食わせたいが、今日は逆効果だろう、と黒鷹の皿に乗った野菜を平らげる。
何だかんだいって黒鷹に甘いな、とこくろは頷いて、いまだ口を押さえてもぐもぐとやっている黒鷹を見る。
飲み込みたいのに飲み込めないらしい。しばらく咀嚼して、とうとうお茶に手が伸びた。そしてお茶で口の中の野菜を流し込む。
死ぬかと思った、と馬鹿なことを言っている黒鷹に、誰も大丈夫かと聞く者もない、そんな朝が過ぎていった。




そして昼。
玄冬が畑仕事に精を出している間、こくろは山菜取りに出かけていた。
満足するだけ取って帰ってみれば、ぐでっと鷹が床に寝転んでいる。気づかずに踏むところだったこくろは、
山菜の入った籠を机の上に置くと、鷹の側にしゃがみ込む。

「黒鷹?」
「…ああ、こくろ。おかえり〜」
「ただいま。で、何してるんだ?お前」
「野菜が私を蝕むんだ…」
「は?」

意味が分からない、と眉を寄せるこくろの前で、鷹がう〜だの、あ〜だの言っている。
大丈夫だろうか?まさかまだ昨日の野菜を引きずっているのか。もう半日も経ったのに。
少し心配になったこくろは、畑にいる玄冬を呼びに外に出る。
畑に顔を出すと、できた野菜を収穫している玄冬の満足そうな顔。それにどうやらいい出来らしいとこくろも少し嬉しくなる。
けれどあれを見たら今の黒鷹はきっと気を失うな、と思う。今の状態なら泣き出すかもしれない。

「大きい俺」
「うん?」
声をかければ振り向いた玄冬が、おかえりと一言。それにただいま、と返す。
「黒鷹が死にかけてるみたいなんだが、放っておいて大丈夫か?」
そう言って家の方を見れば、玄冬もつられて家を見る。そして難しい顔をして、はあと息を吐く。
「果物の氷菓子を作ってある。それを食わせてやってくれ」
お前の分もあるから、と言う玄冬に分かったと頷く。
冷たいものを食べれば少しはすっきりするだろうと思って、こくろは再び家へと向かった。

何と世話の焼ける父親だろうか。




氷菓子のおかげだろうか。空の散歩に出かけるぐらいには元気になったらしい黒鷹を呆れ顔で見送ったこくろは、部屋で大人しく本を読んでいた。玄冬は庭で日曜大工中だ。
いつも思うが、玄冬の一日はまるっきりお父さんとお母さんだ。彩の城に住む救世主達のようになれとまでは言わないが、たまには若者らしい遊びに興じてもいいのではないだろうか。
というよりも、救世主達と玄冬を足して二で割ったなら、きっとちょうどいい人間になる。…いや、もっと大変な人間になるか?
そんな子供らしくないことを思いながら、こくろが読み終わった本を閉じる。
そしてギコギコと木材を切っている音を聞きながら、楽しそうに日曜大工に精を出しているだろう玄冬の普段を思い浮かべる。

「まあ、父親があれだからな。あれくらいがバランスが取れてちょうどいいか」

ため息をつくこくろは、だがせめて俺だけはああいう大人達にならないように肝に銘じようと頷いて、玄冬が夕食の準備を始めるまで本を読んで過ごした。

end

リクエスト「黒父子のギャグのようなほのぼの家族話」でした。
時間軸は打鶏肉の一羽のバッドEDの次の日です。
初めは黒鷹と玄冬だけのつもりだったんですが、黒父子ならこくろもかな、と三人父子で書かせていただきました。

野菜を食べさせられても文句言って騒がなかったあたり、黒鷹は一応昨日の反省はしています。
でも食べずにすむならそれに越したことはないとも思ってます(笑)。

リクエスト、ありがとうございました!

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