ぎょふのり


ステラは眠かった。眠くて眠くてたまらなかった。
ふらふらっと歩きながら欠伸をひとつ。もう耐えられない。
そう思った時、レクリエーションルームの中にソファを見つけて、あそこで寝ようと決めた。
けれど寝転んでみると落ち着かない。枕がほしい。辺りを見回してみても枕は見当たらない。当然だが。
それでも枕がほしいな、と思ってぼーっとしていたら、偶然通りがかったレイと目が合った。
何をしているのだろうと思ったのだろうか、足を止めたレイにまくら、と呟いてみた。
しばしの沈黙の後、レイがレクリエーションルームに入ってきてソファに座ったので、ステラはその膝に頭を乗せてみた。
枕になって、と言ったわけではない。枕を取ってきて、と言ったわけでもないが。ただ今欲しいものが口から洩れただけだ。
レイがどう取ったのかは知らないが、念願の枕が手に入ったステラは、そのまますやすやと眠りの中へと入り込んでいった。

「私が行くわ。一応アイドルなんだから、あんたは艦に残りなさいよ」
「荷物持ちなんてしたら爪が割れるわよ?だからあたしが行くわ」
「私はこれでもザフト兵なの。上官に頼まれた買い物するのは当然でしょう?」
「ザフト兵だからじゃない。他にも仕事あるでしょ?買い物ならあたしでもできるもの」
「あら。お・客・様・に、そんなことさせられないわ」
「あら。皆さん、プラントのためにがんばってくださってるんですもの。これくらいさせてくださいな」

騒がしい声が意識に入り込んできた。
眠りの中にいたステラは、うるさい、と思いながら目を開ける。
パラッと頭上で聞こえた音に何だろうと目を上げる途中で見知った二人の少女を見つけた。
うふふ、と微笑みあっているのはフレイとミーアだ。数少ないナチュラルのザフト兵とプラントのアイドル。
二人の手は同じ一枚の紙を握っている。あの紙は何だろう。

「あんたね、普段アスランの迷惑も考えずにべたべたしてるんだから、これくらい譲りなさいよ!」
「あなただって人のこと言えないじゃない!」
見るたびにくっついてるくせにーっとミーアが言えば、フレイが笑う。性質の悪い笑みだ。
「あんたが一緒だったら、アスランの気が休まらないでしょ」
どうせきゃーきゃー言ってアスラン振り回すんだから。
それにうっとミーアが言葉を詰まらせた。
「で、も、でもあなただって、服だ靴だってアスラン振り回さないって言えるの!?」
今度はフレイが言葉を詰まらせた。それにミーアがほら、と笑った。そして取り合っている紙を引くが、気づいたフレイが引き戻した。
「振り回すのはお互いさまよ」
「開き直り!?」
「うるさいわね。顔知られてるあんたが一緒だと、アスランだって大変なのよ!」
「変装するもの!それにあなただってよくナンパされてるじゃない!その時間が無駄だわ!」
「見た目極上の男と一緒に歩いててナンパされるわけないじゃない!」
手、離しなさいよ、とフレイが片手でミーアの手首を掴む。
そっちが離しなさいよ、とミーアが手首を掴むフレイの手首を掴んだ。

「…おにいちゃん?」
そんな二人をぼーっと見ていたステラが呟く。
二人が出す名前、アスランはステラの兄だ。その兄と出かけるのがどちらかを言い争っているらしい。

二人はいつもアスランアスラン、とアスランの腕に抱きついている。けれど片腕はステラがすでに抱きついているので、どちらが空いている腕に抱きつくかで揉めている。
座っている時はステラがアスランの膝に乗せてもらうので、二人は喧嘩せずにアスランの腕に抱きつくのだが、ステラが一番美味しいじゃない、と二人が項垂れていることもある。
けれど今はアスランはいないし、ステラもアスランに抱きついてはいない。二人が喧嘩をする原因はない。
ステラはレイの膝に頭を置いたまま不思議そうに瞬きした。
そして二人が取り合っている紙に視線を落とす。
あの紙を持つ方がアスランと出かける権利があるということなのだろうか。どうして。さっぱり分からない。
そんなことを思っていると、アスラン、と頭上から声が聞こえた。見上げると本を読んでいたらしいレイがフレイ達とは逆の方向を見ていた。視線を辿ってみると確かに兄がいた。

「おにいちゃん」

笑って呼べば、アスランが苦笑した。
「レイに膝枕してもらってたのか」
腰を曲げてステラの髪を撫でながら、悪いな、レイとアスランがレイに言えば、いえ、と短い応えが返る。
「おにいちゃん、お出かけするの?」
「そんな予定はないが…何故だ?」
「フレイ達がそれで喧嘩してるの」
きょとん、としたアスランが、アスランに気づかずに言い争っているフレイとミーアを見る。
二人はあんなに固執していた紙から手を離して、何故か両手を握り合っている。そしてその両手を顔の横まで上げて押し合っているようだ。

「いいから引っ込んでなさいよ!」
「あなたが引っ込んでればいいじゃない!」

いつもの二人じゃない、とステラが呟く。アスランは顔を引きつらせた。ここまでの争いは見たことがない。
「どうしたんだ?あの二人は」
女の正体見たり、な気分なのだろうか。二人から視線を外してレイを見るアスランの目が怯えているように見える。
レイはいつの間にだろう、足元に落ちている紙を拾い上げるとアスランに渡す。
「補充リストです」
「みたいだな」
ステラが起き上がってアスランの腕を引けば、アスランがステラにも見えるように腕を下ろしてくれた。
覗き込めば紙にはよく使う備品がずらずらっと書かれてあった。
「副長が買出しを頼んだんです。その際に女性一人では重いだろうから、アスランを連れて行ってもいいと」
「俺?」
「最近働きすぎです」
こくん、とステラも頷く。
最近のアスランは休む時に休まず仕事をするのだ。心当たりがあるのだろう、アスランはあー、と目を彷徨わせた。
「だから副長がアスランを少しでも休ませようとそうおっしゃったんです」
その気遣いが二人の争いを呼んだ。
何も二人が一緒にいる時に頼まなくてもいいものを、とずっとレクリエーションルームにいたレイは思ったものだ。

フレイとミーアは喧嘩するほど仲がいいというやつで、決して仲が悪いわけではない。
気も合うらしく、艦を下りる許可があれば一緒に下りていく。護衛として手の空いた男連中も連れて行くが、必ず二人は一緒だ。
その二人が仲が悪いようにしか見えない、という喧嘩をする時は大概アスランが絡んでいる。二人は親友で恋敵。そんな二人にアスランと二人で出かけられる許可など与えたら取り合うのは目に見えている。
副長、アーサーの気遣いは決して無駄なものではない。ただ、空気が読めていなかった。

「どうされますか?」
「どうって…」
アスランが行くことは決定事項だ。アスラン本人が知らなくても決定事項だ。ならば誰と行くかだ。
アスランがあーっと言いながらリストに目を落とす。そしてステラを見た。

「一緒に行こうか、ステラ」
「うん!」

ステラが嬉しそうに笑った。
レイが頷いていってらっしゃい、と立ち上がった。
このままここにいては、リストを落としたことに気づいたフレイとミーアにリストはどこだと問いつめられるだろう。アスランがステラと持っていったと言えば、どうして止めなかったのだと責められるだろう。そんなことはごめんだ。
嬉しそうにアスランの腕に抱きついて歩くステラと、リスト片手にステラに微笑むアスランの後ろを歩きながら、レイは今しばらく二人がこちらに気づかないようにと願った。

end

リクエスト、 ・アスステ兄妹話でミーアとフレイでアスラン争奪戦。最終的にはアスステ
・ミーアとフレイが喧々囂々している間、ステラは何もしてないのに勝つ
でした。

レイに膝枕されてるステラが浮かんだら消えなくなったので、レイにも登場してもらいました。
レイとステラは一言も会話したことがない、という裏設定(え)。
そしてステラは本当に何もしませんでした。寝てただけで大好きなお兄ちゃんと二人でお買い物です。

リクエスト、ありがとうございました!

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