「お帰り、ナナリー、マオ」
「遅かったな。ルルーシュが鬱陶しかったぞ」
「黙れ、ピザ女。もうすぐ夕飯だというのにどうしてお前はまたピザを食べてるんだ」

家に帰るなりそんな遣り取りをする保護者二人にマオとナナリーは顔を見合わせた。ただいま、という機会を逃した。
どうしましょう?と首を傾けるナナリーに、どうしよっか、とマオも首を傾けた。
保護者二人はマオとナナリーには決して向けない嫌味を言い合っていたが、困った様子の二人に気づいてころりと態度を変える。

「夕飯の準備はできているから、二人共手を洗っておいで」
「今日はお前達の好きなメニューだからな。楽しみにしていろ」

C.C.にお前は何もしていないだろうが、という視線がルルーシュから送られたが無視。
そんな二人にマオとナナリーは嬉しそうに弾んだ声で返事をした。


君が笑うから世界は綺麗

マオとナナリーの第一印象は全くよろしくはない。
ナナリーは自分を攫ってルルーシュを陥れようとした青年にいい感情を抱いていなかったし、マオは自分からC.C.を奪ったルルーシュの妹を餌としてしか見ていなかった。
だからナナリーの騎士にマオを、と言ったルルーシュに頷きながらも、二人はお互いに対しては心から友好的にはなれなかった。

「どうなることかと思ったが」
案外上手く言っているようだな、とC.C.が口元を上げれば、ルルーシュがそうだなと頷いた。
手を洗いにいったナナリーとマオは楽しそうだ。一時期のぎこちなさが嘘のように仲がいい。
まず変わったのはナナリーだ。C.C.に懐いて無邪気に笑うマオを見て、ルルーシュに反発しながらも害なそうとしないマオを見て。そうしてナナリーは自分の中のマオの認識を変えた。
マオにされたことを忘れてはいないだろう。けれどそれだけがマオではないのだと、マオもナナリーの中のルルーシュのように譲れない大切なものがあったのだと知って、ナナリーから歩み寄った。
初めは訝しげにしていたマオは、まだ制御しきれないギアスのせいで流れてくるナナリーの心を知って戸惑い、次第に受け入れていった。

「これで一安心か?」
「ふん」
C.C.のからかうような笑みに、お前こそ安心したくせに、と言葉にせずに呟く。
ナナリーとマオに向ける視線には安堵したような光が見える。
ギアスを暴走させたマオを捨てたのはC.C.だ。そこにどんな感情があったにしろそれは事実だ。C.C.も否定はすまい。
それでもマオを大切に思う気持ちに偽りはない。マオが安心して笑える場所を手に入れたのなら、そうしてマオを受け入れてくれる誰かができたのなら、こんなに嬉しいことはない。
親馬鹿め。
言えば、兄馬鹿がよくも言う、と返る。
睨みあうように視線を交わして、そうしてふん、と二人笑って。


戻ってきた二人の愛し子に視線を戻して微笑んだ。


*


幼い頃、C.C.と一緒に見上げた空を綺麗だと思っていた。空に限らず、何でも綺麗だと思っていた。
C.C.と一緒にいて、一緒に見るもの全てが綺麗だった。何より一番綺麗だと思ったのはC.C.で。
そのC.C.がいなくなってから空を見上げることはなかったし、何かを綺麗だと思うことはなかった。C.C.がいなければ何も意味はない。綺麗なものなど何ひとつない。そう思っていた。
だからC.C.を取り戻せばまた何かを綺麗だと思えるようになるのだと、そう思っていた。

念願かなってC.C.を取り戻した…とは言い難いけれど、側にいてくれる。笑ってマオ、と呼んでくれる。抱きしめてくれる。そんな日常を取り戻した。
けれど昔のように二人っきりではないし、マオのことばかり構ってくれるわけではない。むしろルルーシュと嫌味の応酬をしていることの方が多い。

初めは優しくて安堵ばかり運んでくれるC.C.しか知らなかったマオは、それが嫌だった。嫌で嫌で堪らなかった。
C.C.のことは自分が一番知っていると信じていたのに、マオはルルーシュと会話する時のようなC.C.の姿を知らない。見たことがない。
それが悔しくて、ルルーシュが憎くて。
C.C.がいても綺麗だと思える心は取り戻せなかった。
なのに。

背中合わせに座るナナリーが、風が気持ちいいですねと笑ったのに、うん、と頷く。
夜の風は優しくはなかったけれど、ナナリーが言う通り気持ちがいい。
「今日は三日月だよ、ナナリー」
体を捻ってナナリーの手を取ると、こんな感じ、と空に浮かぶ月をナナリーの手のひらに描いてみせる。
「ずいぶん細いですね」
「これから太るんじゃないかな」
満月になったら教えてあげるね。
その言葉にはい、とナナリーが笑った。

綺麗だな、と思う。
ナナリーの笑顔は綺麗だ。ほっとする。こちらまで笑いたくなる。
不思議だ。
ルルーシュの妹なのに。ルルーシュに脅迫されて主と呼んでいただけなのに。
なのに、だ。今ではルルーシュを憎いと思わない。ナナリーを守りたいと思う。不思議。

マオにそう思わせたのはナナリーだ。ナナリーが歩み寄ってくれた。ちょっとずつ、ちょっとずつ歩み寄ってくれて。
きっと守れと言われた相手がナナリーでなければ、マオは相変わらずC.C.のことばかりだった。ルルーシュを憎んでばかりだった。
ナナリーは不思議。

聖人ではない。心を読めるマオには分かる。ナナリーは聖人ではない。
ルルーシュがいればいい。ルルーシュさえいれば何もいらない。そう思っていたことを知っている。
C.C.に好意を抱きながらも、ルルーシュを奪っていくのではないかと警戒していたことも知っている。
ルルーシュが好きだから。ずっと兄妹二人で生きてきたから。ナナリーの世界がルルーシュだったから。
だからそれを壊す存在を恐れていた。
その気持ちをマオはよくよく理解できた。マオが抱くものと対象が違うだけで同じだったからだ。

C.C.さえいればよかったのに。
C.C.以外何もいらなかったのに。
C.C.と二人、暮らしていくことだけが望みだったのに。

なのにナナリーはマオと違ってルルーシュだけの世界から出てきた。
ナナリーとルルーシュだけの世界に入ってきたマオへと足を踏み出した。
不思議。
ナナリーは不思議。

思いながら空を見上げる。
背中に感じる体温が心地いい。

「ねえ、ナナリー」
「何ですか?マオさん」

座る草の上にはマオとナナリーの二人だけだ。ルルーシュとC.C.は家の窓から洩れる明かりの先にいる。
ゼロとしての話をしているのか、それともいつものように嫌味を言い合っているのか。ただ言葉もなく静かに共に在るのか。
どれにせよ、お互いに対する態度は変わらない。どんな時もどんな話をしていても、あの二人はルルーシュとC.C.でしかない。他の何者にもなりはしない。


「いつかルルとC.C.みたいになろうね」


何でも言い合える仲に。
どんなことがあっても側にいて、支えて、守って。
他の誰が裏切っても、互いだけは裏切らない。そう疑うことのない仲に。

C.C.だけの世界の外から手を差し伸べてくれたナナリー。その手を取った自分。
ルルーシュに脅迫されたからではない。C.C.の側にいたいからでもない。自分の意思で守りたいと思うから。ナナリーの側にいたいと思うから。一緒に笑いあいたいと思うから。
だからあの二人のようになりたいと。
そう思う自分も不思議。

ナナリーがはい、と嬉しそうに笑った。

end

リクエスト「マオがナナリーの騎士」でした。
ただのマオナナ話になった気がします。騎士設定ってどう生かせばいいんだろうか…。お姫様抱っこ?(何でだ)でもお姫様抱っこも一度させたいです。

リクエスト、ありがとうございました!

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送