Brother

「今日はここまで」

シュナイゼルのその声を合図に生徒達が騒ぎ出す。次は昼休みだ。弁当箱を机の上に取り出している。
それを前に、シュナイゼルが教室を出る。
この後の予定は職員室に戻って教材を置いて、そして生徒会室に行く。そこでシュナイゼルはいつも昼食をとっている。
けれど今日はいつも一緒に昼食をとっている相手に、職員室の前で呼び止められた。

「シュナイゼル兄上」
「ルルーシュ」

十歳年下の弟、ルルーシュが二人分の弁当箱が入った袋を持って立っている。
生徒会役員であるルルーシュは、ひっきりなしに昼食の誘いを受ける兄を気遣って、昼休みの間、生徒会室を貸し与えてくれている。
生徒会室は用がない人間は近寄らないので、そこで兄弟二人、時には他の役員も一緒に昼休みを過ごしているのだ。おかげで断るのに時間をくって昼食を食べ損ねることもないので、非常に助かっている。

「兄上。申し訳ないんですが、今日は裏庭で食べませんか?」
「それは構わないが…何かあったのかい?」
生徒会室が使えない理由を聞けば、ルルーシュが苦笑した。そしてシュナイゼルの腕を引いてかがませると、 耳元で囁く。

「今日は会長も生徒会室にこられるんです。それでシャーリーがリヴァルを二人にしてあげようって」

「ああ、なるほど」
ミレイを好きなリヴァルのために。けれどそれにはもう一つ理由があったはずだ。
辺りに目をやるがシャーリーの姿はない。それに苦笑い。
シャーリーはルルーシュが好きだ。だからリヴァルとミレイが抜けて、シュナイゼルとルルーシュの三人の昼食を狙ったのだろう。
シュナイゼルはいつも予鈴の十分前には席を立つ。残りの十分はルルーシュとシャーリーの二人きりだ。
恋する少女にはその時間があるかないかは重大な問題だろう。
なのにそれに気づいていないルルーシュは、おそらくはシャーリーを置いてきた。
シャーリーの誘いを聞く前にこちらにきたのだろう。なんと罪な子だろうか。

「兄上?」
「いや。これを置いてくるから、少し待っててくれるかい?」
「はい」

分かっていて教えず、ルルーシュとの二人の食事を楽しもうとする自分が言えたことではないが。

裏庭は少しじめっとしていた。生徒会室に比べればあまり良い場所とはいえないが、人気はない。
優先すべきはそれだ。そのためシュナイゼルにすれば良い場所であるが、巻き込んでしまっているルルーシュには悪いと思う。思うだけで口には出さないけれど。

そこに二人腰を下ろして、ルルーシュから弁当箱を受け取ると、ルルーシュが笑った。
「兄上も大変ですね」
断っても断っても女性は寄ってくる。女教師から女生徒まで幅広く。ここへくるまでも昼食の誘いを受けていた。中にはさりげなく放課後や休日の誘いまで入っていたことに、ルルーシュは目を丸くしていた。
確かにあれが毎日続けば嫌にもなるだろう。どうりで人のいないところに行きたいと愚痴をこぼすわけですね、と納得したように頷かれて、シュナイゼルはそんな愚痴を言っただろうかと忘れていた記憶に苦笑した。
「でも今日はお前が一緒にいてくれたからね、早くすんで助かったよ」
弟が待っていてくれているから。いつもそう言って断っても、もう少し粘ってくるのだ。けれど今日はその弟が隣にいた。
そのおかげか、声をかけてくる人間もいつもに比べれば少なかったし、声をかけられても断ればすぐに退いた。
悪友兼同僚のロイドが言うには、シュナイゼルとルルーシュは、ばらばらにいるより二人一緒にいる方が人は近寄り難いと思うのだという。美形の相乗効果は過ぎれば毒、らしい。

「…明日から迎えに行きましょうか?」
「いや、大丈夫。気持ちだけもらっておくよ」
場所の提供までしてもらって迎えにまでとは、さすがに受けられない。
けれど嬉しいと思ったのは本当なので、ありがとうと微笑んでルルーシュの髪を撫でた。
ルルーシュが照れくさそうに笑ってほんわかとした空気が流れた時、あ!という声が耳に届いた。それに二人同時に眉を寄せた。

「先生!見つけた!」

走ってくる女生徒にシュナイゼルは笑みを纏って、どうかしたのかと尋ねる。
女生徒はすぐ側にしゃがんで笑う。
「先生、こんなところで食べてたの?」
「気分転換にね。それで何か用があったんだろう?」
兄弟水入らずの静かな昼食を取り戻すために先を進めれば、女生徒は少し不満そうにした。けれど手に持っていた教科書を見せる。
「分からないところがあって」
シュナイゼルが昼食の誘いに乗らないことはすでに有名だ。だから他のことで話す口実を持とうとする者は多い。今のように教科書片手にやってくる生徒は少なくはないが、何も昼食の邪魔をしてまでこなくてもいいだろうと思う。
純粋に分からないからとやってくる生徒もいるのだが、最近では誰がそうなのかも分からなくなってきた。
隣でルルーシュが不憫そうな視線を向けてくるのを感じながら、教師としての義務から質問に答えるために弁当に蓋をする。そして脇に置くと、ルルーシュがタイミングよくお茶を差し出してくれた。
いつもは生徒会のお茶をもらっているが、今日は裏庭。けれど生徒会室で小さな水筒にお茶だけ入れてきたらしい。
気遣い満点のルルーシュは、女性だったらいいお嫁さんになれただろうと思いながら受け取って飲めば温かかった。

「どこが分からないんだい?」
「…え、と。副会長?」
「え?」
声をかければ、先程まで喜々としていた女生徒が、何故か固まっている。
どうやらシュナイゼルに隠れて見えていなかったらしい。ルルーシュもそれに気づいたのか、内心どうあれ小さく笑んだ。
「俺のことは気にしなくていい」
「あ、は、はい」
カクン、と糸の切れたマリオネットのように頷いて、女生徒が教科書を開いて中を指差す。
それを覗き込みながら、水筒の蓋をルルーシュに返す。それを受け取って、残ったお茶を飲みほしたルルーシュに女生徒が何故かかあっと赤くなる。シュナイゼルの説明に頷きながらも集中できていないらしいが、気にせず説明を続ける。教師の義務はどこへ行った。

しばらくしてシュナイゼルと一緒に箸を置いていたルルーシュが暇なのか、シュナイゼルの手で遊び始めた。手の平を合わせてムッとしてみたり、指を絡めてみたり。そして何故かイラッとしたらしく、指に噛みついてきた。
それまでは好きにさせていたが、それはさすがに反撃した。
片手はルルーシュに、もう片手は女生徒の教科書に指差すのにふさがっていた。なので代わりに振り向いて耳を甘噛みすれば、ひっという声と共に指が白い歯から解放された。
真っ赤な顔で睨まれたが、それににっこりと笑って女生徒の質問へと戻る、が、女生徒が真っ赤な顔で目を見開いて固まっていた。

「わ、私」
「うん?」
「何で先生と副会長に恋人いないのか、分かった」
「え?」

小さく呟いた女生徒は教科書を胸に抱いて、お邪魔しました!と叫んで走っていった。
残された兄弟はきょとんとして、お互いの顔を見合わせた。
互いに、恋人?何で?そんなことを思っているのがよく分かった。

「あのさあ、いい加減にしようよお」

養護教諭のロイドは、偶然通りがかった教室の前で項垂れた。
廊下を歩いていたら、向かいから女生徒が真っ赤な顔で走ってきて、教室の中の友人に抱きついて叫んだのだ。

「副会長がシュナイゼル先生の指噛んで、先生が副会長の耳噛んで、何かラブラブなのおお!!」

あれにどうやって勝てばいいのーーー!!!との声にどよめく生徒とああ、アレ見たのか可哀想に、という似たような経験をしたらしい生徒の憐れみの目を見て、ロイドは本当あの兄弟さあとため息一つ。

あれが兄弟のじゃれあいの一つなのだと納得して、尚且つ許容できる女性がいるものか。
あの二人に自覚はないけれど、あの二人のふれあいは兄弟ではない。世間ではあれをバカップルという。
だから兄弟は一緒にいるだけで女避けになるのだ。美形の二乗で近寄り難いよりも、そちらの方が大きな意味を占めている。

二人揃うと目の毒。

「時々、耳に毒でもあるんだよねえ」

ロイドはいい加減、兄弟らしいふれあい覚えないかなあと愚痴を呟いて、目的地へと歩いていった。

end

リクエスト「シュナルルで学園パロ(教師×生徒)」でした。
せっかくの教師×生徒なのに、あんまり生かせてない気がしますが、楽しかったです。
あんな兄弟近くにいたら、遠くで眺めるだけで精一杯です(笑)。

シュナルルの年の差は、ギアスのイラスト集の一つに兄上の年が二十八歳だとあったからです。
あれ多分、一期の年だと思うので、十一歳差で。(十歳差でした(汗))

リクエスト、ありがとうございました!

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