「いずれ騎士を持つだろうお前に、練習相手として彼なんてどうかな?」
シュナイゼルが微笑んでそう言ったのに、ルルーシュは首を傾げた。
練習相手ですか、と不思議そうな弟にそう、とシュナイゼルが頷く。
「一癖も二癖もある男だからね。この男を使いこなせれば、どんな騎士相手でも大丈夫。やっていけるよ」
片方とはいえ庶民の血を引くルルーシュは、アリエス宮を出れば悪意の視線に晒されることが多い。
故に信頼を預けあう騎士を作るつもりなどなかったし、預けてくれる騎士が現れるとも思っていなかった。
それをシュナイゼルは嗜める。信頼を作り上げるのは互いの努力だ。お前もまた努力をしなくてはいけない。だがその前に自信をつけようか。そう言ってシュナイゼルは一人の友人をルルーシュに紹介した。

それはルルーシュのためという名で飾った、ルルーシュの監視とも成り得ることを、この時のルルーシュは気づいていなかったけれど。


全ては彼らの手の上で。

「これはこれはあ」
大仰に目を見開いてみせる男にルルーシュは内心舌打ちしながら、表面は訝しそうに首を傾げてみせる。
何か?と戸惑った男子生徒を演じる。どうしてこの男が学園にいるのか。そう思う。

ロイド・アスプルンド。アッシュフォード学園理事長の孫娘、ミレイ・アッシュフォードの婚約者。
ならばミレイに会いにきたのかと思えるが、彼の隣にいるのは別の少女。ニーナだ。
どういう組み合わせだと思うが、顔には出さない。

ロイドは戸惑ったようにロイドとルルーシュを交互に見るニーナに構わず、そしてルルーシュの隣で苦い顔をしているリヴァルにも構わず、こんなところにいらっしゃったんですねえ、と間延びした口調で両手を広げて近づいてくる。
感極まったと言わんばかりの表情。けれどその目は愉しそうに歪められている。
類は友を呼ぶ。さすがあの男の友人だと、ロイドを友人と呼ぶ男を思い出し、同時に厄介なことになったと思う。できればこの先一生会いたくはなかったのだが、ロイドの愉しそうな様子からルルーシュの生存はとうに知られていたのだろうと知れる。ならばこの再会は偶然ではない。必然か。

「誰かとお間違えではありませんか?」
「いえいえそんなあ」
無駄な足掻き。分かっている。けれどせずにはいられないのだ。
ロイドが動いたということは、ロイドの友人であり上司でありパトロンでもある男が動いたということを意味する。
それは下手をすればブリタニアに連れ戻されるということ。再び政治の道具とされる可能性が高いということ。ナナリー共々。
そんなことは許せないのに。ナナリーは盲目で足が不自由で。強者が全て、弱者は切り捨てろ。そんな国にナナリーを連れて行けないのに。

ロイドの肩越しに走ってくるミレイの姿が見える。必死な顔はそう見られるものではない。
彼女は自分を責めているのだろうか。伯爵位を持つ婚約者が第十一皇子を知っているかどうかは分からない。
けれどもしかしたら知っているかもしれない。ならば接触はさせない。そう決めていただろう彼女は。
仕方がないとルルーシュは思う。彼女のせいではない。彼女は親の言う通りに見合いをして、婚約をした。
それは家のためで、それは没落したとはいえ、いいや没落したからこそより必要な貴族の娘の義務だと考える者は多い。
彼女の両親はそういった類の人間で。だからブリタニアの宰相を務める第二皇子に近い男。伯爵位を持つ男。ルルーシュとナナリーのためにも、ミレイが一番近寄らせたくない相手であるけれど、彼女の両親にとってこれほどの良縁はない。

「伯爵!」

背後から聞こえる婚約者の声に、ロイドがにぃ、と笑った。
そしてロイドはルルーシュに跪き、頭を垂れた。

「ご無事で何よりです。我が君、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下。あなたのただ一人の騎士がお迎えに上がりました。遅くなり申し訳ございません」

声が聞こえる距離まできたミレイが声鳴き悲鳴を上げ、ニーナとリヴァルが目を見開いた。偶然近くを歩いていた生徒達までがぎょっとしてルルーシュを見た。
ルルーシュは拳を握りしめ、ご冗談をと困ったように笑う。

「俺はランペルージです。あなたのおっしゃるような皇子殿下ではありません」
「僕の上司がチェックメイトを唱えました。我が君ならば意味がお分かりになりますよねえ?」
ロイドが顔を上げ言うのに、ルルーシュは眉を寄せ、はっとする。そしてミレイを見る。
「ミレイ!ナナリーは!」
ミレイを呼び捨てにするルルーシュに、驚きから抜け切れていなかった生徒達がより戸惑う。けれどミレイはその声に、おじい様のところにと返しながらロイドを見る。
確かに預けたのだ。ロイドがきていると知って、ルルーシュの元に向かっていると聞いて。念のためにと祖父にナナリーを預けて、ここまで走ってきた。けれど婚約者がミレイに笑った。

「今頃、兄妹の再会だねえ」

ルルーシュとミレイが目を見開いた。


* * *


皇位継承権を持つ兄弟の中、ルルーシュはシュナイゼルにとって脅威と成り得る存在だった。
確かに可愛がっていた。気に入っていた。愛しい弟だと思っていた。けれど同時に敵対者でもあった。
今はまだ幼いから。だからその年の差と経験の差からさほどの脅威とは成り得ないけれど、将来は分からない。
だからロイドをつけた。どういう知識を求め、吸収していくのか。どう成長していくのか。
忙しい自分が会いにこれない間、自分が見えないルルーシュの報告を得るそのために。

「でえ?僕はいまだにルルーシュ殿下の騎士ですけど、いいんですかあ?」
誰も知らない騎士。ルルーシュとシュナイゼルとロイドだけが知るルルーシュの騎士が言うのに、シュナイゼルは頷く。
人質として日本に送られ、ブリタニアの侵攻によって命を落とした悲運の皇子と皇女。
けれどシュナイゼルはいまだロイドにルルーシュの騎士の名を持たせている。

「あの子が生きてるとすれば、だ。君が必要になるからね」
「はい?」
何でと首を傾げたロイドに、シュナイゼルが笑う。
「皇子様を迎えに行くのは騎士の仕事だろう?皇子様を皇子様が迎えにいく物語なんて知らないよ?私は」
「いや、それを言うならお姫様を迎えに行く騎士の物語はあっても、皇子様はないんじゃないですかね」
「皇子様よりはあると思うよ」
ふうんとロイドがもうどうでもいいやとばかりに相槌を返す。
それにシュナイゼルはまた笑って、それにと続ける。

「皇子様はお姫様を迎えに行かないといけないだろう?」

ロイドが顔をしかめた。
ちょっとそれってさあ、と友人兼上司から後ずさる振りをする。

「皇子様は皇子様を取り戻すために人質取りにいくから、騎士は皇子様迎えに行ってきてねってこと?」
「正解。冴えてるね」
「うっわ」
どんな皇子様。

ロイドはため息をつく。
敵対者の脱落は嬉しいはずだ。なのにこの皇子様は楽しそうに、いつか手元に取り戻すと言う。
その理由も分かっている。磨かれた弟の能力を手に入れるためだ。自分のために役立てるためだ。

「ならさあ、自分でさっさと引き取ればよかったんじゃないの?」
「まさか。それじゃあの子は成長しないだろう?伏魔殿のようなこの王宮とは違う地獄がある。
それをあの子には見てきてもらいたいし、経験してきてもらいたい。その末に得る力が欲しい」
「…えげつな」
「君だって今のあの子に仕えるより楽しいと思うよ?」
「僕は平穏が好きなんですう」
「面白い冗談だね」

あなたね、と言いたげなロイドは、練習相手の騎士のはずだ。なのに取り戻した後も騎士をと言ってるも同然の言葉に、けれどロイドは問いを返さなかった。結局はどこまでも監視役は必要ということか。
僕だってあの頃より色々忙しいんだけどなあ。ランスロットとかランスロットとかランスロットとか。
そんなことは分かっているシュナイゼルは、にっこりと笑って大丈夫と言う。

「お姫様は皇子様の側に置いておくし、取り戻した皇子様は騎士と一緒にお仕事をしてもらうから。ほら安心」

「…僕さあ、今初めてルルーシュ殿下に同情しちゃったんだけど」
こんな兄は嫌だ。この先ずっと妹を人質にとっておくから、弟はロイドと一緒に作ったばかりだけれど、その内重要な部署になるだろう特派に置いて役に立ってもらう。そう言っている。
ナナリー殿下死んじゃってたらどうすんの、とは言わない。そうしたら次はユーフェミアだ。彼女にもルルーシュは弱かった。
そうなるとコーネリアが難関ではあるけれど、シュナイゼルならば上手くやるだろう。

「ところで、何か文句の一つはないのかな?ルルーシュの騎士殿」
「騎士は仕える主を守るのが役目ですからねえ。なのに守れなかった身でありながら、生きておられたらまたお側でお仕えできるなんて、身に余る光栄です」
そう言って一礼してみせれば、はははと笑い声。
白々しいねとは言わずにいるシュナイゼルに、ほんと生きてたとしてもこの人に見つからない方が幸せだよねと息をついた。


* * *


「ルルーシュ殿下あ」
「…何だ」
己の騎士の声にルルーシュが不機嫌そうに振り返る。けれどそれを意にも返さず、ロイドがひらひらと手に持った書類を揺らす。
「これこれ。新しいお仕事ですよお」
「貸せ」
ばっとひったくるように書類を受け取ると、ルルーシュが睨みつけるようにして目を落とす。

ロイドがルルーシュを迎えにアッシュフォード学園に行ってしばらく。シュナイゼルはルルーシュを特派の責任者に据えた。側にはもちろん騎士たるロイド。ナナリーはシュナイゼルに連れられて本国へと帰っていった。
ナナリーにとって本国は辛いだけの場所ではないか。目の前で母を殺された場所だ。己の足を失った場所だ。父に捨てられた場所だ。だから言うことならば聞くからそれだけはやめろと訴えた。けれどナナリーが言ったのだ。大丈夫です、と。
その笑顔に、一体シュナイゼルに何を吹き込まれたのだろうと不安になった。

「殿下殿下」
「…何だ」
目だけを上げると、ロイドが笑う。
「殿下との始まりは練習相手の騎士だったじゃないですかあ」
「今思えば断るべきだったな」
「あっはは〜」
ですよねえと声を上げて笑うシュナイゼルの共犯者に、ルルーシュは殺意を覚えるが耐える。
ナナリーがいる。ナナリーがシュナイゼルの元にいる。ナナリーを守るためには耐えるしかない。
「あれね、本当はナナリー皇女の騎士だったんですよお」
「な、に?」
思考が凍結する。ぎぎぎ、とロイドを見れば満面の笑み。
どういうことだと聞けば、ぴんっと伸びた人差し指。


「あなたの弱点ですからね。押さえておくにこしたことはないでしょう?」


よかったですねえ、お兄様が思考転換させて。
そんな言葉に、ルルーシュは過去慕った兄と、過去親しんだ騎士とのそれなりに楽しかった思い出を抹消したくなって、目を強く瞑って書類を握りしめた。

end

リクエスト「ルルの皇族バレ」+「ロイドがルルの騎士でそれが皆にばれる話」でした。
今リクエスト確認したら、何か違うような気がしてなりません(汗)。
メインは皇族バレですよね。騎士バレですよね。…やっぱりリクエストに添ってませんよね。本当すみません! でも楽しかったです(殴)。

リクエストありがとうございました。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送