Such ways of loving

「あ、にうえ…っ、兄上!待ってください、兄上!!」
ドレスをたくし上げ、太腿を這う手にルルーシュは焦る。
ベッドに押し倒される前の口づけから、こうなることは分かっていた。けれどいつもなら口づけに酔うはずのルルーシュは、のしかかる兄の肩を両手で押し止めながら、必死に制止の声を上げる。
けれど首筋に口づけるシュナイゼルはその力をものともしない。
年が離れているとはいえ、同じ男としてそれが悔しくもあるのだが、今の問題はそれではない。
「あっ、ん…まって、こんな、いや、です!せめて着替えを」
「することは同じだよ」
「でもっ、いやです!!」
声が泣き出す手前のように揺らいだのに、ようやくシュナイゼルが動きを止め、体を起こした。
そのままルルーシュより少し薄い紫の瞳がルルーシュを映すのに、ルルーシュは本当に泣きたくなった。
「ルルーシュ?どうして泣いているんだい?」
そんなに嫌なのかと顔を歪めるシュナイゼルに、だってとルルーシュが目を伏せる。
「母さんに、似ている、と」
「マリアンヌ様に?…ああ、お前がかい?」
ルルーシュがこくん、と頷く。

誰が考えたのか、十代の皇子全てに今夜の夜会には女装をせよ、という命令が下された。
その命令の発端は、どうやら皇妃達の息子の容姿自慢が原因らしい。つまり、うちの子が一番よ、いいえうちの子よ。そんなことないわ、うちの子が一番よ、いうあれだ。
そしてどうしてそんな話に繋がったのか。本当の美人は女装しても美人と話がまとまったらしいのだ。皇子達は完全なとばっちりだ。
ルルーシュの母はすでに亡いが、条件が当て嵌まるために参加を余儀なくされた。
そうしてやけに上機嫌のシュナイゼルが用意したドレスや装飾を身に纏い、侍女達に施された化粧で仕上がったルルーシュは、確かに在りし日のマリアンヌによく似ていた。背に届くか届かないかぐらいのつけ髪のおかげで、マリアンヌの姿により近づいてもいた。
それは男としては複雑で、息子としては嬉しい。だが。

「まあ、お前はマリアンヌ様の息子だからね。よかったじゃないか、父上に似なくて」
「それはそう、ですけど」
たった一人、シュナイゼルにだけは思われたくないし、言われたくないのだ。その言葉が嬉しいはずがない。だからそんな姿で抱かれるなど、何が何でも嫌だった。
「何が嫌なんだい?」
優しい問いに、けれど着替えたい、化粧を落としたい。そればかりを紡げば溜息。
そのままいまだ太腿に置かれた手が再び動き出した。
「…っやあ!兄上!!」
「なら言いなさい」
先程の優しい声とは違ったぴしゃりとした声に、ルルーシュは黙る。
言えない。言いたくない。言って肯定されたらどうしたらいいのだ。
そんなルルーシュに、シュナイゼルが眉を寄せる。
「お前を前に、私がいつまでも理性を保てると思わないように、ルルーシュ」
手が太腿を撫で、唇が鎖骨に口づける。そしてペロッと舐めたかと思うと、痛みが走る。ぞくっとした。
だめだ。このままだと流される。いつものように兄の背に抱きついて、その先をねだるのは目に見えていた。
だから慌てて抵抗する。
「あっ、や、いやです!いやだ!!」
けれど暴れても無駄。シュナイゼルに押さえつけられて動けない。先程より一層強い力で押さえられている。
少しも動かない自分の体に、兄上、兄上と涙声で呼べば、厳しい目をしたシュナイゼルと目が合う。
「何が嫌なんだい?私に抱かれたくない?」
「ちがっ…」
「では?」
ルルーシュは唇を噛む。言いたくない。けれどシュナイゼルの目に厳しさと苛立たしさ。そして微かに傷ついた光が見える。それを与えているのは自分。抱かれたくないと拒否することはめったになく、尚且つ理由も告げずにということは今までなかった。だからシュナイゼルにあらぬ誤解を植えつけようとしているのが分かる。
自信に溢れた兄が好きだ。実力に裏付けられた自信だからこそ憧れるし尊敬する。
そんな兄の揺らぎにルルーシュは弱かった。そしてそれを自分が与えているのならば苦しかった。だから諦めたように息をつく。そして小さく言葉を吐く。
「母さんに、似てる、から」
「それは先程も聞いたよ。もっと詳しく言いなさい」
厳しい声に、ルルーシュはやけになったように叫ぶ。


「兄上は、母さんを愛していらっしゃると聞いたんです!!」

「………………は?」

とうとう嗚咽を洩らしたルルーシュの言葉に、シュナイゼルは一瞬頭が真っ白になった。
そしてその内容を詳しく聞きだすと、眉を寄せて額を押さえた。

シュナイゼルはマリアンヌ皇妃を愛していたが、父親の妻であるためにその想いを押し殺していた。
そこに生まれた第十一皇子。皇子とはいえ、マリアンヌ皇妃とよく似た容貌の異母弟を、シュナイゼルはマリアンヌ皇妃の代わりとして愛でているのだ。

夜会で語られていた話だというそれに、シュナイゼルは頭痛を感じながら溜息をつく。

「どこからそんな…」
そう呟けば、ルルーシュが苦しそうに目を伏せた。誤解したのは明らかだ。
シュナイゼルとしては、どこからそんな話が生まれたんだ、と言ったつもりだったのだが、ルルーシュの中では、どこからそんな話が洩れたんだと続いたのだろう。
シュナイゼルはルルーシュの頬を軽く叩く。ペチッと音がした。

「そんな話を信じるくらいなら、私のお前への愛を信じてほしいね、ルルーシュ」

「あに、うえ?」
潤んだ目には、不安と戸惑いが含まれている。その姿に軽い眩暈を感じる。
可愛いうえにその色気はなんだ、と自分が引き出したのを棚に上げて思う。
「愛しているよ、ルルーシュ。お前を。マリアンヌ様は確かに素晴らしい女性だった。憧れもした。けれどね、それは決して恋愛感情ではなかったよ」
「でも、母さんはきれいで、優しくて賢くて強くて。俺は男で兄上よりもいくつも年下で。大切な人以外どうでもいいし、体力もないし!!」
普段の自信はどこへいったのか。ルルーシュにそうさせるほどシュナイゼルは愛されている。そう思うが、あまり嬉しくはない証明だ。
シュナイゼルは一つ息をつくとルルーシュから離れ、隣に腰を下ろす。

「ルルーシュ。私が本当にマリアンヌ様を愛していたとしたらね、諦めなどしないよ?」
「え…?」
シュナイゼルを見上げるルルーシュの髪を撫で、笑う。
「どうして諦める必要があるのだろうね?マリアンヌ様が幸せそうに笑っていらっしゃったのは、お前とナナリーがいたからだよ。お前達を愛していて、お前達がマリアンヌ様を愛していたからだ。そこに父上は関係ない」

多くの皇妃を持つ父。愛情があるわけではない。好色だからでもない。おそらくは待っているのだ。強い存在を。己を揺るがすほどに強い存在を。その誕生を。
マリアンヌを皇妃へと召し上げたのはその美貌ゆえだと周りは言う。だがシュナイゼルは思うのだ。マリアンヌの強さゆえだと。心身共に強くあるマリアンヌ。強さに意義を持つ父はその強さを欲し、それを受け継ぐだろう子供を期待した。

「ならば私が諦める必要などないよ。マリアンヌ様を私が欲したとて、父上は気にもなさらない。生まれる子供の強さは気にかけられるだろうけどね」
ルルーシュが眉を寄せ、体を起こす。
ルルーシュにとっては、分かってはいても好ましくは思えない話だ。若さゆえか、性格ゆえか。ルルーシュは酷く潔癖だ。
必要とあらば卑怯と呼ばれる手段も取ってみせるが、男女の仲においては子供らしい幻想を抱いている。
数え切れないほどの皇妃を持つ父を持っているというのに。腹違いとはいえ、実の兄と関係を持っているというのに。いや、愛する母が関わっているからなのかもしれない。

「分かるだろう?ルルーシュ。私がマリアンヌ様を愛しているのだとすれば、私は代わりを手に入れる必要はない。マリアンヌ様の元に通いつめて、愛を囁いて。それでも叶わなければ、お前達を人質にとればいい」
ルルーシュが目を見開いてシュナイゼルを見る。
「憎まれるだろうね。それでも私はマリアンヌ様を手に入れられる。もちろん愛には愛を返してほしいとも。
けれどそれが叶わないのなら、そうして手に入れることも厭わないよ、私はね」
にっこりと笑うシュナイゼルに、ルルーシュが困惑したような顔を返す。

叶ってよかった。そうでなければ今頃ルルーシュは、シュナイゼルが作った檻の中だ。
ナナリーを人質にとって、その事実をちらつかせて。憎しみの目で睨みつけられながら、シュナイゼルはルルーシュを閉じ込めただろう。

そっとルルーシュを引き寄せ、抱きしめる。

「もう分かるだろう?私がマリアンヌ様を愛していないことが」
ぎこちなく頷くルルーシュの髪に口づける。
「噂とは情報だ。けれどね、全てを信じるのは危険だし愚かだよ。見極める目を養いなさい」
「…はい、兄上」

他ならぬシュナイゼルのことだったから、感情が先走ったのだと分かっている。
けれどシュナイゼルにすれば、他ならぬ自分のことだからこそ見極めてほしい。
心が離れるきっかけになどならないように。
離れたとて手放しはしないが、やはり心通う方がいいのだから。

ルルーシュがじっと黙って考えているのを見つめる。
シュナイゼルに恐れをなしたのだろうか。だがその心配はシュナイゼルにはない。
現にルルーシュが顔を上げ、シュナイゼルの服を握った。

「申し訳ありませんでした、シュナイゼル兄上」
「うん。もう少し信じてほしいな」
「はい」

そっと口づけて、ではいいね?と尋ねれば、今度は抵抗なく、はいと首に腕が回された。
そうして深く深く口づけて、今度こそシーツの波へと沈んでいった。

end

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