Friend

「久しぶり、カガリ様!」
「ああ、久しぶりだな。ミーア」
胸に飛び込んできたミーアを抱きとめたカガリは、ミーアの笑顔に笑顔で返す。
「元気そうだな。アスランとは上手くやってるか?」
「ええ、もちろんよ!カガリ様こそ旦那様とはどう?」
「心配ない。結構上手くやってる。まあ、仕事ではまだまだ追いつけなくてイライラするけどな」
「あら。でもオーブの人達、皆いい顔してるもの。大丈夫よ」
「そう言ってくれると嬉しい」

オーブの代表とプラントの第二の歌姫が抱き合い笑い合う姿は、オーブとプラントの関係が良好だということを意味する。
ここは私的な場であるのだが、二人の仲の良さはすでに民衆も知るところだ。
オーブは一時大西洋連邦と同盟を結んだ国であるが、物資の支援はしたものの決して戦場に出てくることはなく、また自国のコーディネーターを守り抜いた国である。そしてプラントの第二の歌姫がオーブの代表を友と呼ぶのだ。それ故に、プラントがオーブに根深い悪感情を抱くことはなかった。

「明日はすまないが、オーブの民のために歌ってくれるか?」
「そのために来たんですもの。がんばるわ」
「ありがとう」

プラントとオーブを繋ぐ架け橋として、プラントの平和の歌姫たるミーアが選ばれたのは戦後まもなくだ。
普段はプラント領で歌を歌うミーアに、どうかオーブでもという声が上がったのはつい最近のこと。
テレビ中継で流されるミーアにファンがついたというのもある。
一時プラントに避難していたオーブに住むコーディネーターが、戦争の最中聞いたミーアの歌をもう一度聞きたいというのもある。
その声は大きく、オーブ、プラント両政府を驚かせた。

「私も楽しみだ。一度も生で聞いたことなかったからな」
「あら、言ってくれたらいつだって歌ったのに」
カガリはミーアの体から腕をほどくと、その手をとってソファへとエスコートする。
それを気恥ずかしそうにするミーアに笑うと、ミーアが頬を膨らませてカガリを睨みつけた。
「アスランにしてもらうのも、まだ恥ずかしいんだから仕方ないじゃない!」
これでも公の時はめいいっぱい何でもない振りしてるのよ!?とのミーアにそうなのか、と普段のミーアを思い出せば、アスランの体に抱きついたりアスランの腕に抱きついたり。あれは恥ずかしくないんだろうかと首を傾げる。
カガリがアスランの恋人であった時は、腕を組んだことはない。抱きついたのも片手で数えられるほどだ。
ミーアを見ているとあまりに積極的で、凄いなあと感心するばかりなのにエスコートは恥ずかしいのか。
そう思って、はたと思い出す。

「そういえばあいつ、階段降りるのにも手貸す時あったな」

普段はそんなことしないのに、ドレスを着ている時に限って差し出された手。
きょとんとすると、きょとんとした顔が返された。
玄関を出るまではそうやって当たり前のようにされたエスコートは、結構恥ずかしかった。
「でしょでしょ!?なんかね、すっごい恥ずかしいの。しかもね、アスランそういうことするとますます王子様なのよ!」
隣同士に座るカガリの腕に抱きつくように身を乗り出すミーアに、ああ確かにと頷く。
「あいつもなあ、女性をエスコートするのが当然だと思って…」
そこでハッとする。
目を見開いて固まったカガリに、ミーアが不思議そうに首を傾ける。
「カガリ様?」
「あ、いつ」
擦れた声でそう言ったかと思うと、カガリがバッと立ち上がり、両手で拳を握る。
そして凄い勢いでミーアを見下ろす。

「あいつ、普段私のこと女だと思ってなかったんじゃないか!?」

「…え?」
「だってそうだろう!?あいつ、普段エスコートなんてしなかったんだぞ!?ドレス着た時だけだ!ドレスだぞ!?」
確かに普段、女らしい格好をしてはいなかったが、思わず手を差し出してしまったという素振りすらなかった。
エスコートが無意識の行動だとすると、それはカガリを女だと認識してなかったということではないだろうか。
今はもうアスランに対する恋愛感情はない。ないが、それとこれとは別だ。曲がりなりにも恋人だった相手に女扱いされてなかったなんて、と悔しさ以前に怒りが湧いてくる。
が、ぽかんとした顔でカガリを見上げていたミーアが、突然声を上げて笑い出した。
「ミーア!」
「ご、ごめんなさい。でもカガリ様、それ違うわよ」
「は?」
涙を拭いながらミーアが手を伸ばして、カガリの腕を引く。それに任せるように席に着くと、ミーアが顔を近づける。そして人差し指をぴんと伸ばして、あのねと笑う。

「アスランにとってカガリ様って、きっと対等に言い合える女の子だったのよ」

え?とカガリがきょとんとした顔で瞬きする。
「ほら、アスランって女の子に一歩退いた態度とるじゃない?あれって女の子は守らなきゃって意識があるからだと思うのよ。昔から男の人ってそうじゃない?」
アスランの場合、女の子の接し方が分からなくて戸惑ってる気もするけど、との言葉に思わず頷く。
「でもね、カガリ様って大人しく守らせてくれる人じゃないじゃない。逆に守られてた気がするって言ってたもの」
その時のアスランの顔がね、すっごく可愛かったのと目を輝かせるミーアに、アスラン苦労してないかといらない心配をした。
「だからね、女の子としてちゃんと見てたけどでも、他の女の子と違ってただけ。でもそれって凄いことだと思うの。他の女の子よりカガリ様はアスランに近かったってことだと思うの」
言ってることなんかめちゃくちゃよね、と言葉を探すように目を天井に向けたミーアに、カガリはいいよ、と笑う。
「ありがとう」
ミーアがそ?と首を傾げるのに、ああ、嬉しいよと返す。
そしてあ、と真剣な顔でミーアに内緒話をするように顔を近づけ、囁く。

「今のユウナには内緒にしてくれ。宥めるの大変なんだ」

カガリより年上だというのに、仕事以外では実は年下じゃあるまいかと思う時がままある。
子供の頃からカガリはユウナの姉貴分のような感じを味わっていたが、今でもそれは変わらない。
お前いい加減に大人になれ、と言いたいのだが、仕事モードからよく知るユウナに変わるとホッとするのも事実だ。
だが、だからと言ってわざわざ子供返りのネタを与える気もない。
ミーアがくすっと笑う。

「旦那様のこと大好きね、カガリ様」
「なっ、いや、違う。いや、違わない、が。そうじゃなくて!!」
「あたしもアスランのこと大好きだもの。素直に大好きだって言っちゃいましょ?」
「ミ、ミーア!!」

あははははは、とミーアが声を上げて笑う。
ソファに突っ伏して笑うミーアに、カガリはお前なあ、とミーアとは逆に倒れこむ。

アスランはいつもミーアに振り回されているが幸せそうだ、と思っていた。
確かにアスランはため息をついたり、怒っていたりといった感じでミーアに接しているが、幸せそうに微笑む姿も見ている。
が、こんなに疲れるものなんだなと思った。嫌ではないが、と笑みが洩れる。

「なあ、ミーア」
「なあに?カガリ様」
のしっと背中に重みがかかる。同時に柔らかい感触に複雑な思いになる。
何を食べたらこんなに胸が成長するんだ、と思いながら顔を上げる。
「お前がアスランと出会ってくれてよかったと思う」
ミーアがきょとんとした顔をする。

「私はオーブを選んだから、いつもアスランを選んでやれなかったから。
それでいいってあいつは言うけど、本当は寂しい思いとか辛い思いとかさせてたんじゃないかと思う。
でもお前はあいつが一番だって言う。あいつが大好きだって言う。それはあいつが本当に欲しかったものなんだと、今になって思うんだ」

自分のことで精一杯で、アスランに頼るばかりでアスランに頼らせてあげられなかった自分に気づかなかった。それはミーアと一緒にいるアスランを見て、ようやく気づいたことだった。
不甲斐ないと自分を情けなく思った。そしてミーアといるアスランを見て、よかったとも思った。




「あいつの友人として頼む。あいつのこと、よろしくな」

ミーアが花が零れるような笑みを浮かべた。


* * *


「おっそーい、アスラン!」
「本当だぞ。何してたんだ、ユウナ」

紅茶を飲みながらミーアがアスランを、スコーン片手にカガリがユウナを睨みつける。
女二人で話は弾んでいたが、それがいつまでも姿を見せない互いの相手の愚痴に変わった頃にようやくきた男性陣。

「こんな可愛い恋人と奥さん放っておくなんて、他の男にナンパされても文句言えないんだから!」
「あのな、外ならともかく何でオーブ代表の私室にナンパする男が出るっていうんだ?」
「それぐらいの気概でいなくてどうするんだ、お前達は」
「…結婚して性格変わってないか?カガリ」
「いやいや、あれは君の歌姫と付き合い始めてからだよ、アスラン」

理不尽な事を言い出す女性陣に、男性陣は顔を見合わせてため息をついた。
「何ため息ついてるの?アスラン」
「ユウナもアスランも、そんなところに突っ立ってないで早くこい」
ミーアが立ち上がり、ワゴンから二人の分のカップを取り出し、紅茶を注ぎ、カガリが二人を手招きする。
さっきまで怒っていたのはどこへ消えたんだ、と思うが、女性陣は楽しそうに会話に花咲かせている。
ミーアが紅茶を注いだカップをカガリが受け取る間に、男性陣は再び顔を見合わせ、今度は嬉しそうに笑いあった。

世界はまだまだ安定していない。明日からはまたそれぞれの国のために駆け回る日々が待っている。
しかし彼らは人からみれば小さな、けれど彼らにとっては大きな幸せを噛みしめていた。


end

リクエスト「カガリとミーアが仲良くなる話」でした。
書きながら何とも不思議な感じに襲われましたが、楽しかったです。けど、何というか友達というか恋人っぽい(おい)。
ところでカガリって、エスコートしないだろうと今になって思いました(汗)。

リクエスト、ありがとうございました!

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