目の前がかすむな、と思ったら視界が揺れた。
おや?と言葉が洩れる前にブラック・アウト。


felice

「だから言っただろ。雨降ってるんだから外出るなって」
骸が寝るベッドの横に座る綱吉の呆れた目に、うっと骸は目を逸らす。
「なのにそれ無視して雲雀さんとの戦いに夢中になって外飛び出して風邪ひいてたら、お前ただの大馬鹿だぞ?」
はああっと大げさなため息。その後ろで入り口にもたれ腕を組んでいる雲雀が、愉しそうに口元を上げた。
あれはざまあないね、と確実に言っている。
それにむっとしながら、骸は拗ねたような目で綱吉を見上げる。
「何で雲雀くんは元気なんですか」
条件は同じなのに。
そう恨めしく言えば、綱吉があっけらかんと言った。

「俺が即行で風呂入れて、即行寝かしつけたから」

当たり前だろ、との言葉に、あーそーですかと荒んだ気持ちになる。
そう言えば戦闘に一段落ついた後、雨の中を駆け寄ってきた綱吉が雲雀の腕を引っ張って中へと入っていったなと思い出す。
次いで中に入ればもう二人はいなかったので、またどこかでいちゃついてるんだろうなこの無自覚バカップルめとか思ってたのに。
思えばあの後自分もすぐに風呂に入ればよかったのに、用意されたタオルで濡れた体を拭くだけ拭いて、結局風呂に入ったのはその一時間後だった。

「千種と犬には今日はイタリアに帰れないこと連絡しとくから」
「はあ」
「後で様子見るくるから、お前は大人しく寝てろよ?」
いいな?と立ち上がった綱吉に、骸はいいですよ、と返す。
「仕事に専念なさい、ボス」
それに綱吉が小さく微笑んで、じゃあなと手を振った。そして部屋から出ると、そのままついていくだろうと思っていた雲雀が残った。
何です?と聞けば、そのまま視線を逸らして扉のノブを掴んだ。

「決着はまだついてないって忘れないでよ」

だからさっさと治せとそう言って扉を閉めて出て行った雲雀に、きょとんとした骸はぷっと吹き出す。
どうやら多少は心配しているらしい。何と分かりにくく素直じゃないのか。
分かってますよ、と囁いて、骸は静かに眠りの世界へと入っていった。


* * *


月明かりの中、ぐっすりと眠っていた骸は、目覚めるなりベッドの近くにいるはずのない存在を見つけ目を見開く。
千種と犬だ。
二人は骸の眠るベッドの両脇に突っ伏して眠っている。その体にはそれぞれに毛布がかけられている。
ゆっくりと体を起こすと、額から何かが落ちてきた。視線を落とせばしめったタオル。それを手に取り辺りを見渡すと、ベッド脇のサイドテーブルに水の張った洗面器がある。
再び眠る千種と犬を見ると、ふっと笑う。

「まったく。こんな風邪、すぐに治るというのに」

わざわざイタリアから来日してきたのか、と少し呆れ、けれどくすぐったい気持ちになる。
そこに扉が静かに開いたのに、骸は視線を移す。
入ってきた影は片手に盆を抱えるように持っていて、ゆっくりゆっくりと部屋に入り、静かに静かに扉を閉めた。そうして盆を両手に持ちかえて、ほっと息をついた。

「クローム」

その影が誰なのか分かって名を呼べば、影がはっと顔を上げた。

「骸さま」

驚きの声。そしてすぐに駆け寄ってきた影の姿がようやくはっきりと見える。
クロームは盆を持ったまま床に膝をつく。
「骸さま」
迷子の子供のように見上げてくるクロームに、骸は微笑んで頭を撫でる。
「お前まできてくれたのですか。与えた仕事は終わりましたか?」
こくんとクロームが頷く。それにいい子ですねと褒めて、それは?と盆を見下ろす。
「あ。お粥です。たべます、か?」
「ええ、いただきます」
頷けば、クロームがほっとしたように小さく微笑んだ。
そっと骸の膝の上に盆を置くクロームは、起きるのだとしたらそろそろかと思ってと小さく告げる。
起きなければ冷めてしまうけれど、そうしたらまた新たに作りに行こうと思ったのだと。
ぽつりぽつりと骸に促されるままに語るクロームの前で、蓮華を手に取り粥を口に入れる。
クロームが不安そうに見上げてくるのに、微笑んで美味しいですよと言えばよかった、と笑顔が返る。

「千種と、犬は、私がきた時にはもういて。骸さまは大丈夫だってボスが言ったんだけど、やっぱり心配で」

三人で看病をしていたのだと。
その間にも守護者達が入れ替わり見舞いにやってきて、綱吉も仕事の合間に様子を見にきたのだと聞いて、骸は何だか自分でも判別しがたい気持ちになる。この気持ちをなんというのだろうか、と。
煩わしい、と以前の自分ならそう眉を寄せたろう。けれどそういう気にはなれない。
決して仲良くしているわけではない守護者達が見舞いにきたという。
玩具だと公言している三人が看病をしてくれたという。
それがただ骸を泣きたいような気持ちにさせる。不可思議な気持ちだ。

食べ終わった粥が乗った盆をクロームが持ち上げ、床に下ろす。そして洗面器の隣に置かれた水差しとコップを取り、水を注ぐと骸に差し出す。
受け取った骸は、その後に渡された薬を口に含み、水で嚥下する。
それをじっと見ていたクロームが手を伸ばしてコップを受け取り、再び洗面器の隣に置く間に骸はベッドに横になる。

「クローム」
「はい、骸さま」
呼べばすぐに返る声。それに微笑む。
「お前も部屋に戻って寝なさい」
けれどクロームは首を横に振る。
「私も、ここに」
「女の子が体を冷やしてはいけません。ちゃんとベッドで」
寝なさいと続ければ、クロームが床に手を伸ばしてずるずると毛布を引きずって骸に見せた。
これがあるから大丈夫。そう言っているのだ。
まったくお前は、と苦笑して。けれど千種と犬も部屋が用意されているのだろうにここにいるのだ。
二人と同じだけ骸を慕うクロームが骸の側を離れるとは思えない。

「風邪をひくんじゃありませんよ」

仕方がないと許せば、クロームが嬉しそうに頷いた。

次の朝、再び目を開けた骸の熱は下っていた。
犬はわんわん泣いて骸に抱きつき、千種はよかったですと微笑んで、クロームはほっと息をついて両手を胸の前で組んだ。
それぞれの頭を撫でて、骸はこれが幸せな一コマなのだと知らないまま、けれど穏やかな気持ちで笑った。

end

リクエスト「シリアスで突然、皆の前でぶっ倒れちゃった骸様の話」でした。
舞台は十年後の日本のボンゴレのアジトです。

骸が風邪であろうと何であろうと倒れたら、千種と犬とクロームは気が気じゃないと思います。
なので骸がもう大丈夫だと分からない限り、絶対に離れません。
そしてどうして骸とクロームが分離して、尚且つクロームが生きてるのかは世界の不思議の一つです(おい)。

リクエスト、ありがとうございました!


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