「六回分のわがままをなかったことにしてください」
「アスラン。それはわがままではなく、約束の反故というのだ」

必死の顔でこれがわがままですと言った部下に、上司は愉しそうに口元を上げて却下した。


縁〜sequel 〜

今ここでわがままを一つ考えたまえと、それまでは部屋から出ることは許さんと言ったせいで、頭を抱えてうんうん唸っているアスランに、一体誰の入れ知恵だろうなと笑う。
六回分のわがままをなかったことに、など真面目なアスランに考えつくはずがない。
アスランが相談できる相手。そうして裏技というべきものを考えつく相手と言えば、ミゲルかラスティ。
ここは同室者であるラスティが有力候補か。
アスランの一番の友人でありアスランの理解者たるラスティは、一見アスランとは正反対の気質を持っているように見える。
そのせいで二人が友人関係を築いていることに疑問を持つ者は多いのだが、真面目すぎるほど真面目なアスランにはラスティのような友人が側にいてちょうどいいと思う。時にこういう愉しみを与えてくれるのだから。
ようやくわがまま云々をどうにかできると思っていたアスランに却下をくだした瞬間、アスランが見せた顔を思い出して心が浮き足立つ。

「簡単なことではないかね?」
「はい?」
顔を上げたアスランが情けないほどに弱った顔をしている。普通ならばここで良心が痛むなり仏心が出るなりするところだが、クルーゼは愉しそうに仮面の下の目を細めただけだった。
「わがままだ。君は幼年期は月にいたろう?確か身分を隠して」
「はい」
「ならば一般階級の友人とていたのではないかね?」
「それは…はあ」
ならば簡単だろうとイスに背を預け、持っていたペンを指の上で回す。
「思い出してみたまえ。君の友人はわがままを言わなかったかね?」
「…それは、もう」
何を思い出したのか、げんなりした様子のアスランに、どうやら友人のわがままはアスランを相当に振り回したらしい。
その辺りの話を聞いてみたい気もするが、それは次に置いておこう。
「それを参考にすれば容易いことではないかね」
「う…」
あれを?あれを参考に?とうつむいてぶつぶつ言い出すアスランに、やはりその辺りの話が気になる。
アスランで遊ぶ次回の材料に残しておくには惜しいような気がするが、あまり多くを与えるとクルーゼを愉しませる以前に、アスランが混乱のあまり真っ白になるだろう。反応がなくなるのはいただけない。

「隊長」
「思いついたかね?」
「あいつ…じゃない、友人のわがままなんですが」
「何だね」

アスランが上目遣いで見上げてくる。これを外でやらないようにと注意するべきだろうか。
戸惑ったように揺れた目、微かに赤らめている目元。自分の容姿にそれが加えられれば相手にどういう感情を抱かせるのか。
ふむ、とペンを持ったまま肘掛に肘を立ててその上に顔を預ける。
あの?とクルーゼの様子にきょとんとした顔で小さく首を傾げる仕草も同様だ。
下手な相手にすれば襲いかかられるぞと上司として注意は必要か。そう思って、だがと思い直す。
アスランが表情を変える相手は限られる。生まれ持った立場が立場なだけに、アスランは普段は今が嘘のように冷淡な表情をしている。
それゆえに変わる表情を知る者にとってそのギャップがまた刺激となるのだが、知らぬ者は知らぬままだろうから放っておくか。
何かあった時はあった時だ。アスランの背景を考えれば手を出す愚か者もそういまい。
そしてアスランの周りの友人達がそれを許すまい。そう結論づける。

「それで?アスラン」
「は」
「友人がどうした?」
「は、あ」
突然黙り込んで自分の思考に入り込んでいた上司の突然の話の再開に、アスランは戸惑って、けれど何も言わずに口を開く。
「友人のわがままは宿題を忘れていたから手伝ってくれ、というのが多かったのですが」
嫌だと言ってもしつこくねだって、手伝ってくれないならやらないと言われたのだと言いつつ、どう参考にすればいいのでしょうか?と真剣に聞いてくるのに、それは参考にはならないなと相槌を打つ。
アスランが自分の仕事を他人に任せることはない。それが上司になどとんでもないだろう。
けれど、とクルーゼが立ち上がる。それをアスランが目で追う。
「ならばアスラン」
「は、い?」
ソファに座っているアスランの前に立ちその頬を両手で包めば、アスランの体が退くが逃げることはない。
相手が上司だからか、それとも本能で動いただけで本人は今の状態を理解していないだけか。おそらくは両方。
クルーゼがうっすらと笑う。びくっと体を震わせたアスランから、隊長?と少し擦れた声が返る。また目が揺れている。
「君もねだってみるかね?」
「な、にを、ですか?」
顔を近づけると、びくっとまた体が震えた。今度はアスランの右手がクルーゼの左腕を掴んだ。力は弱い。

「口づけを」

アスランが固まった。そして、かあああっと真っ赤になって叫んだ。
「ねだりません!それわがままじゃないじゃないですかああ!!!」
体を離してくっくっくっと笑えば、からかわれたと知ったアスランが、泣き出しそうに目を潤ませて項垂れた。
「そもそもわがままとねだるの違いってなに」
「深く考えると分からなくなるのが言葉だよ、アスラン」
笑いながら机に戻ると、アスランがもういや、わがままなんて一生言わないと呟くのが聞こえる。

「それを私が許すと思うのかね、アスラン・ザラ」

こんな愉しいことを手放すはずがないだろう。

end

リクエスト「縁の続編」でした。
結局アスランはわがままの一つも消化できませんでした(笑)。
というか隊長が消化させる気がない気がします。多分この先も消化できません。
そして普通にタイトルに後日談と書けばいいのに、英語…。何か格好良く見えませんか(殴)。

リクエスト、ありがとうございました!

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