Le jour de destin

恋人に振られた。他に好きな人ができたと言われた。でも泣いて縋るのはイヤ。笑って頷くのもイヤ。
だから怒った振りして平手打ち。それからいつもの様に授業を受けて、放課後の人のいない教室で泣いて泣いて泣いて。
そんなタイミング最悪の所に現れたのが、一つ年上の生徒会長。元恋人の幼馴染。
驚いたようにこっちを見てくる彼に、何よと睨みつけた。さっさといなくなってよ。そういう意味を込めて。
なのに彼は教室に入ってきてドアを閉じた。何よこいつ。泣いてる女の子がいたら遠慮しなさいよ。
彼はすぐ側までくるとハンカチを差し出した。

「戸締りしないといけないんだ。俺が鍵を預かってる」

だから何とハンカチを受け取らずに睨みつけたままの私に、彼はハンカチを私の机の上に置いて隣に座った。
そのまま携帯を取り出してこちらに意識を向けなくなったのに、ちょっと何なのよと口に出そうと思って気づいた。
見て見ぬ振りができない。かといって慰めることもできない。だからこそのこの行動。
馬鹿じゃないの、この男。
そう思って、けれどどうしてだか少し心が温かくなった。視線を彼から机に置かれたハンカチに移して。それを手に取って、顔をうずめた。

「ふぇ…っ」

夕日が差し込む窓際で泣いて泣いて泣いて。隣には携帯を操作する男。

そんな可笑しな光景を、今でもずっと忘れずに覚えている。


* * *

「アスラン!」
校門をくぐって昇降口に続く道を歩く生徒達の中、燃えるような赤い髪の美少女が走る。
そうして足を止めて振り向いたのは、少女と対極にある晴れた夜のような青い髪のこれまた美少年。
少女はアスランと呼んだ少年の腕に抱きつくと、朝一番の微笑みを浮かべた。
「おはよう」
「おはよう、フレイ。朝から元気だな」
笑みを返したアスランと、だってと機嫌良さそうなフレイは足を進める。
「今日は放課後デートの約束だもの。最近アスラン、生徒会の仕事で忙しくて全然デートできなかったじゃない」
だから楽しみなのと見上げてくるフレイに、アスランも嬉しそうだ。
「大きな行事も終わったし、後処理も終わったからな。しばらくは暇な日が続くよ」
「じゃあ買い物とか、またつきあってくれる?」
「ああ。つきあえなかった分、つきあうよ」
アスランがそう言えば、フレイが嬉しそうに抱いていた腕をより一層抱き込んだ。


「大好きよ、アスラン」


「カガリ」
キラが隣を歩く双子の姉を心配そうに呼ぶ。
カガリは前を歩くアスランとフレイを苦しそうな目で見ていたが、キラの声にはっと我に返る。
「何だ?キラ。辛気臭い顔して」
「う、ん」
「私は大丈夫だ。告白しなかった私が悪いんだから」
でも、とキラは思う。

カガリは幼馴染のアスランがずっと好きだった。アスランもカガリが好きだったはずだ。
直接確かめたことはないけれど、あれ、もしかしてと思うことが何度もあった。
二人はつきあってはいなかったけれど、カガリ以上にアスランが心を許している女の子はいなかった。
二人がお互いを好きだと告白していなくても、きっと自然と恋人になっていくのだろうと思っていた。
キラも、カガリも、多分アスランも。
なのに。

「…フレイ」
いつからだろうか、フレイがアスランと一緒にいる姿を見ることが多くなった。
フレイはキラの恋人だった少女で、他に好きな女の子ができてしまって別れを告げた。
それまではフレイとアスランはそれほど親しくなかったはずだ。キラという接点があるだけで、互いに交流はなかったはずだ。
別れてからは気まずくてフレイとあまり顔を合わせないようにしていたから、二人が親しくなったのがいつなのか分からない。
アスランはフレイがキラの恋人であったことを知っている。けれど何も言ってこなかった。
だから気がついたらあの二人は学校内で、美男美女のカップルだと認識されるようになっていた。

「仕方がない。私は動かなかった。あいつはもてるが、鈍感だからそれに気づかない。直接言われたってその好意を恋愛感情だと気づかなかったりで結構難関な男だ。だが私はあいつの幼馴染で、他の女子よりも近くて。あいつが私を好きでいてくれるのも気づけるくらい近くて」

それに甘えていた。甘えすぎていた。だからこういう展開もあるのだと、気づかなかった。
だから仕方がない、とカガリは笑う。その目は少し暗いけれど強い。毎日毎日強さを増していく。
カガリはきっと立ち直る。アスランへの想いに決着をつける。それが分かって、けれどキラはうつむく。

「カガリは、強いね」

「何か言ったか?キラ」
「ううん。何にも」
そっか?と不思議そうに首を傾げたカガリに、キラはそうだよと笑った。

こんな状況になって初めて分かった。
キラはそう心で呟いて、楽しそうに腕を組んで歩くアスランとフレイを見る。


僕はまだ君が好きだったんだ。

昼休みの生徒会室には生徒会長であるアスランが書類を捲り、サインする音だけが響く。
その机の端に腰かけ、ぶらぶらと両足を揺らしながら外を眺めているのはフレイだ。
アスランの仕事が終わるまでこうして待っているのはもう日常だ。

「先に食べていていいぞ」
「やーよ。一人で食べても楽しくないじゃない」
「なら後少し待っててくれ。ここにある分が終わったら、後は午後の授業に行く前に届ければいいだけだから」
「分かったわ」

がんばんなさいよ、と視線をアスランへと落とすフレイは、真面目な生徒会長は大変ねえと胸中笑う。
真面目だから教師はすぐに頼みごとをする。この書類もできるだけ早くと言われたからと、アスランは昼休みも潰して仕事。
放課後はフレイとの約束があるから今の内にしてしまうのだそうだが、フレイからしてみれば期限つきではないのだから何も今日しなくてもいいんじゃない?と思ってしまう。
それが教師がアスランをすぐに頼りにする原因の一つなのだから、たまには困らせてやればいいのよ。
フレイがそう言ってアスランが顔をしかめたのは、つい最近のことなのだけれど。

「あ」

アスランから視線を窓の外へと戻したフレイは、その先に見知った姿を見て揺らしていた足を止める。
フレイ?とアスランが顔を上げるが、フレイの視線は動かない。
首を傾げてアスランがフレイの視線の先を追うと、ああと納得する。
キラとラクス。生徒会室から見える裏庭で、アスランの幼馴染が恋人と二人で昼食をとっていたのだ。
確かラクスがお弁当を作ってくれてるんだ、とキラが嬉しそうに言っていたことがある。ならばあれは恋人の手作りか。
そう思いつつ、アスランはフレイに視線を戻す。
フレイから見れば振られた恋人とその原因となった少女だ。その心中は如何ほどだろうか。

「不思議よね」
「不思議?」
「だってキラがあの子のこと好きにならなかったら、アスランと一緒にお昼食べることもないし、デートすることもない毎日よ?キラとお昼食べてキラとデートだもの」
そしてアスランを振り返ると、フレイはそう考えると不思議ねと小さく笑った。
その笑みにアスランが目を眇め、しばらく黙ってフレイを見る。そして立ち上がってフレイの頭を胸に抱いた。
「え?ちょっ」
いきなり何なのよ、と離れようとしたフレイは、アスランが頭上で息を吐くのに止まった。

「人の縁っていうのはどこでどうなってるのか分からないな」

カガリのことが好きだった。幼馴染としてではなく、好きだった。
けれどそれは幼馴染の延長として好きなのではないかと思ってもいた。
それでもカガリといれば楽しいし、カガリが笑えば嬉しかった。泣いていれば抱きしめて慰めたいと思った。
なのに今自分が側にいて楽しいと思うのはフレイだ。抱きしめたいと思うのはフレイだ。

「キラがまだ好きか?」
「…どうかしら。もう一度恋人になりたいと思わないのは確かよ」
「そうか」

フレイの頭を抱いたまま目を閉じる。
甘い香りがする。そう思って目を開けて、フレイから手を離す。
「お昼、食べましょ」
「ああ」
最後にさっと書類にサインをして、アスランは机を降りたフレイと一緒に机のすぐ前にあるソファへと足を進めた。けれど途中、何気なく振り向いて軽く目を瞠る。
睨むようにこちらを見ているキラ。それにアスランは驚いて、もしかしてと思うと同時に笑った。
いつもキラに向ける優しい笑みではなく、挑戦的な笑み。それと自覚のないまま、浮かべた。
そうしてキラが目を見開いたのを見ることなく、アスランを呼ぶフレイの元へと向かった。

今更だろう?そう、無自覚に呟いて。

* * *

「ねえ」
泣いて泣いて泣いて、そうして泣き止んで。隣で携帯をいじっている男に声をかけた。
「何だ?」
「…お腹すいたわ」
借りたハンカチに顔をうずめたまま、目だけを彼に向けると目が合った。
きょとんとした幼い顔。それがすぐに微笑みに変わって、じゃあと立ち上がった。
「軽く食べて帰ろうか」
差し出された手を掴んで、そのまま手を引かれて教室を出る。鞄、と振り向けば見当たらない。
何でと思って前を向けば、いつの間にやら彼の手を繋いでいない方の手に見慣れた鞄。
返してと口を開こうとするが、フレイの手は塞がっている。片手は彼の手、もう片手は彼から借りたハンカチ。だからまあいいか、と違うことを口にした。
「名前、ちゃんと聞いてないわ」
そう言えば、彼が振り向いた。


「アスラン。アスラン・ザラ」
「そう。私はフレイよ。フレイ・アルスター」


それが二人が誰も間に介さず認識した始めての日だった。

end

リクエスト「アスフレシリーズでないもので、カガ→アスフレ←キラ←ラクス」でした。
ラクスが全く出てないです。それというのも「カガリ→アスフレ←キララク」だと勘違いしていたせいです(汗)。
なのでお弁当作ったりするところにキラ←ラクスを現わしてみました。…すいません!
挙句、フレイとアスランはまだ恋人じゃなかったり。お互い好きなんですが、まだ自覚してない二人です。

リクエスト、ありがとうございました!

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