Dependence

少女と少年が憎しみをぶつけあう。
少女はコーディネーターに父を殺され、愛する者を殺された。
少年はナチュラルに母を殺され幼馴染を奪われ、その幼馴染に仲間を殺された。
そうして仲間を殺していく幼馴染を取り戻すこともできず、少年自身の手で殺さねばならなくなった。

何故どうしてお前があんたがああ嫌いだ憎いコーディネーターなんてナチュラルなど

滅びてしまえばいいのに!!

二人は互いを罵り、泣き、そして叫んだ。
余裕などどこにもなく、危うい精神を抱え、二人は言葉を無くしてさえ睨みあっていた。
それがどれほど続いたろうか。突然二人は力が抜けたように床に両膝をつくと泣き出した。
元より涙を流していた二人だったが、今度は声を上げ、泣いて泣いて泣いて。
そうしてどうしてだろう。互いに手を伸ばしあって、その体を抱きしめた。
互いの体を強く強く抱きしめて、互いの首筋に顔を埋めて。

そんな二人の様子を男はただ見ていた。
常ならば口元に笑みの一つでも浮かべ、愉しそうに眺めていたろう男は、笑み一つなくただ黙って見ていた。二人が泣き疲れて眠るまで、ずっと。

男は眠った二人を己のベッドに寝かせると、寄り添って眠るその寝顔の穏やかさにぽつりと呟く。

「抱える憎しみ全てぶつければ、多少なりと和らぐのだろうか」

この憎悪、この苦しみ、この闇。
二人の穏やかな寝顔がそれを証明しているようで。
救いを求めているわけではない。それでも思う。
そんな自分に男は自嘲の笑みを口元に乗せ、二人の髪を撫でた後、背を向けた。

それからだ。アスランとフレイが共にいる姿をよく見るようになった。
笑いあうわけではない。言葉を交わしあうわけでもない。ただ同じ空間に立ち、寄り添う。

憎い憎い憎い。けれど自分の気持ちを分かってくれる、共有することができる相手。
そう互いを認識したらしい二人を、クルーゼは静かに見つめる。
初めて会った時が嘘のように激することなく、憎しみで相手を貫くこともなく、二人はただそこに在る。

「アスラン、フレイ」

呼べば二人がクルーゼを振り返った。空気が動くのを感じる。
二人で在る時は止まっているかのような空気。

世界に二人だけ。

そんな言葉が浮かぶ。
そこに入ることを、クルーゼだけが許されている。

「隊長」

側に寄ればアスランが呼び、フレイが目を揺らしてクルーゼの腕の袖を握った。
フレイの髪を撫でると、フレイが安心したように目を閉じた。

「何を見ていたんだね?」
「宇宙を、ただ見てただけよ」
「何を思って?」
「なんにも」

ぎゅっとクルーゼの腕に抱きつくフレイは、クルーゼが声をかけるまではアスランの袖を掴んでいた。
そんなフレイに気づいていただろうに、アスランは振り払うでもなくそのままでいた。

「アスラン、君は何を思っていた?」
「…ここで生き、ここで死んでいくのだと」
フレイがアスランを見た。
アスランはクルーゼを見上げたまま、表情なく静かに語る。
「この広い宇宙の中で、この深い闇の中で、私はそれらの一部となることなく死ぬのだと」
クルーゼが笑う。
「ここは地球ではないからな。死した後、大地に還りはしない。故に我らは死したら最後、宇宙の塵となる」
「はい」
アスランが頷くのに、フレイがクルーゼの腕に抱きついたまま手を伸ばした。
自分に向けて伸ばされるその手を、アスランは見下ろし、触れる。

「死ぬ時は私があんたを殺す時よ。そして私が死ぬ時よ」

フレイが触れた指を絡め取って、くいっと引っ張った。たた、と二三歩アスランが前へと出た。
フレイがじっとアスランをみ、アスランもフレイを見る。

二人の間には繋がりがある。
憎しみ、憤り、嘆き。そして同族意識があり、片方を失えば途端に己を見失う。
己の感情の行き所を相手に向けることによって保っている自己。
今の二人は二人で在るが故に存在しているのであり、一人では息の仕方も分からない。
細い細い糸の上を歩くこともせずに、ただ立っている二人。

ならば私は何なのだろう。
クルーゼはこの二人にとって、どういう位置づけがなされているのだろうか、そう思う。
互いが必要であり、他を排除している今の二人が許すクルーゼという存在。

アスランはクルーゼを上司として尊敬している。
フレイはクルーゼに縋ってここまでき、今はクルーゼに守られている。
その二人が元々持っていたクルーゼへの感情が下地となり、互いを見守っているかのように黙って罵りあう二人を見ていたその姿に、保護者という認識でも植え付けられたのだろうか。ふと思った。


* * *


「おはよう」
「おはようございます」

目を開け起き上がるとかけられた声。振り向けば赤と青の色。
寝起きの頭がはっきりとしてくると、それが少女と少年の形をしていることが分かる。

「仕事はどうした?アスラン・ザラ、フレイ・アルスター」

アスランと向かい合ってお茶を飲んでいるフレイが、仕事サボって寝てた人に言われたくないわと言った。
それにアスランが苦笑して立ち上がると、隊長もお茶をどうですかと聞くので、もらおうと返した。
「そろそろミネルバと合流するので、そのお知らせに」
カップにお湯を注ぐアスランが答える間にフレイに腕を引かれて席につく。
知らせにきたらクルーゼは眠っていて。どうしようかと考えているところにフレイがきたのだというので、フレイを見る。フレイはお茶請けをクルーゼに渡して、そうよと頷いた。
「疲れてるのに起こすのもどうなのって思って、どうせなら起きるまで待ってましょうってことになったのよ」
「君は何をしにきたんだね?」
「クルーゼ隊長のお部屋のお掃除。でも寝てるならできないでしょう?」
「起こしてくれても構わなかったのだが?」
そう息を吐けば、アスランとフレイが顔をしかめた。
二人顔を合わせて、またクルーゼを見た目がどこか憤っている。
何だね、と視線で問えば、アスランがお茶を差し出しながら隊長が、と呟いた。

「眠っていらっしゃるのでしたら、それはそっとしておくべきだと思っています」
「そうよ。仕事中にうたた寝なんてしないのにしてたってことは、相当疲れてたってことでしょう?」

だから起こすつもりはないのだと言う二人は、互いだけで形成していた世界を徐々に広げ、年相応の笑みを浮かべるようになった。
それと同時にクルーゼに縋るような目を向けるだけだったフレイも、ただ静かに見つめてくるだけだったアスランも、こうしてクルーゼの体を気遣うようになった。
けれど二人はまだ互いの手を離さず、強く強く握りあっているのだ。二年前と変わらず。
そしてキラ・ヤマトが生きていることを先の戦争で知っても、彼らはその状態から脱しようとしなかった。

負の感情から生まれた世界。
けれど二人にとってはその負の感情を共有し、理解してくれる相手との世界だ。居心地はよかろう。
そして二人の世界に口を出すわけでもなく、ただ見つめているクルーゼ。
二人がこちらの世界に帰ってきた時に、そこにいる存在。戻ったのかと一言だけ告げる存在。
それを二人は惜しんだ。それを二人は選んだ。そういうことだろう。

「隊長?」
くくっと笑ったクルーゼを、アスランとフレイが首を傾げて見る。
あまり建設的とは言えない関係だが、まあ面白かろうと思う。

二人を待つ未来は破滅だろうか。救済だろうか。それを自分は今までと同じく、ただ黙って見ているのみだ。

end

リクエスト「DESTINY設定でクルーゼ生存。アスフレ、クルーゼサイド」でした。
微妙に暗い上、訳のわからない話ですみません(汗)。
明るい未来が待っていた場合の彼らは、お父さんと可愛い子供達です。

リクエスト、ありがとうございました!

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